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 さて、戻って来て早々だけども、俺たちはいま危機に瀕している。


「さあ、すぐにでも始めようじゃないか」

「ちょっと待とうよ・・・・・・」


 もの凄く楽しそうな相手の様子に、俺は思わず溜息を付きたくなる。

 獣人のレジェンドクラスであるレオシルス。ライオルのバカさ加減に匙を投げたこの人物は、世界樹の花の捜索から戻ってきた俺たちの前に突然現れたと思ったら、模擬戦をしないかと言い出したのだ。

 言うまでもないけれども、相手は当然ながら俺。

 詰まる所、レジェンドクラス同士の試合をしないかと持ち掛けられたのだ。


「まず、何をどうなったらそんな話になるのか説明をしてもらわないと・・・・・・」

「おおそうか、説明していなかったか」


 何一つ説明もないまま、いきなり勝負を挑まれましたが・・・・・・。


「なに、簡単な話でな。そのバカを手懐けたと今スピリットではアベルの事が話題になっているのだよ」

「ああ、それはそうだよね」


 クリスがものすごく納得したみたいだけど、何故に?


「そのバカ、ライオルはスピリットの頭痛の種だったからな。俺ですらどうにも出来なかった超絶バカを見事更生させるなんて奇跡をやってのけたんだ。話題にならないハズがない」


 そこまでかよ・・・・・・。


「それもヒューマンのレジェンドクラス。しかもまだ14歳の少年。みんな興味津々になるのも当然さ」

「それは判ったけど、なんでイキナリ試合をする事になる?」

「試合と言うよりは顔見せかな? アベルは私とも一緒に旅をしているし」


 顔見せね。判らなくもない。判らなくもないけど、それが何故にレオシルスとの試合になる。


「まあ、新たなレジェンドクラスの実力を見せる場所って所だな。それに、ヒューマンとの関係は2万年も閉ざされていたんだ。これから少しずつ改善されていくためのキッカケとして、オマエさんが最適なんだよ」


 そう言われると反論の余地がない。


「その舞台として、レジェンドクラス同士の試合なんて、まずありえないピックイベントは最適なのさ」


 詰まる所、俺の存在を派手に印象付ける為のステージと言う訳だ。


「そういう事ですか。それで、準備はもう万全に整っていると?」

「おう。今日これからスグにでも始められるぜ」


 俺のお披露目のためなら、試合も闘技場の様なキチンとした場所で行われるハズだし、観客だって少なくても何万人単位で入るハズ、それにテレビ放映もされるハズだ。

 それらの準備をこっちに断りも居れずに万全に終わらせている模様。


「判りました。コッチは何時でも良いですよ」

「そうかっ。それじゃあ早速、試合会場に行こう」


 何かもの凄く楽しそうなんだけども、これって、明らかにレオシルスが楽しんでないか?

 なにか、戦闘狂が理由をこじつけて戦いの場を用意しただけの気がして来た・・・・・・。

 そんな俺の思いとは関係なく、レオシルスは転移でさっさと俺たちを会場に連れていく。


「これはまたなんとも・・・・・・」


 そこは10万人は収容できる巨大なステージで、しかも、既に客席は一杯に埋め尽くされていた。後は俺たちの登場待ちと言う段階だ。


「本当に完全に準備万端だし・・・・・・。俺たちがいつ帰って来るかを事前に知っていたとしか思えないんだけど」


 そうでなければ、こんなに万全の段取りは不可能だ。


「それはそうさ。世界樹の花が何時咲いたのかが解れば、戻ってくる日にちも判るからな」


 そう言えばそうか・・・・・・。


「それよりも、早く行こう」


 何故にそこまで楽しそうと突っ込みも入れられないまま、俺はレオシルスに火屑られてステージに上がる。

 瞬間。割れんばかりの歓声が迸る。


「さあ、今ココに歴史的な瞬間が訪れようとしています。レジェンドクラスの超越者同士による戦い。その至高の試合をこの目にする事の出来る私たちは、本当に幸運です」


 大地を揺るがすような歓声の中、実況のアナウンスが響く。

 チラリと見回せばあちこちにテレビカメラがある。おそらくは世界中に同時中継されるのだろう。そうなると当然、世界各国に初めから話が言っていた事になる。

 ユグドラシルの方にも、俺たちが滞在している間に話が回っていた訳だ・・・・・・。

 ・・・・・・つまり、おもしろがって俺まで誰も話を持ってこなかったな。

 こうなるとユリィたちも微妙に怪しい。俺にだけ知らせないで、後のみんなは共犯者だった可能性もある。

 そう思って、みんなの方を半眼で見ると、揃ってとても良い笑顔をしている。


 これは確定かな・・・・・・。


 思わず溜息が出る。

 そう言うの要らないからさ。カンベンしてくれよ・・・・・・。


「それでは、試合を始める前にまず、レジェンドクラスの超越者たるお二人に結界を張っていただきます」


 ココは普通意気ごみのインタビューだろうって所だけども、確かに俺たち二人が此処で戦う以上、先に結界を張っておかないと個の会場どころか、周りにある全てが一瞬で消え去ってしまう。

 犠牲者数は数百万じゃ済まなくなるのも判りきっているし、まずは全力で俺たちが試合をする舞台の周りの結界を張っておかないといけない。

 そんな訳で結界を展開。俺とレオシルスがそれぞれ結界を張り、二重結界が完成。

 流石にこんな狭い舞台の上で全力で戦うつもりは無いし、かなり本気で結界を張ったので破れる心配も無い。


「それでは続きまして、戦いを前にしたお二人の今の心境をお聞きしたいと思います」


 ココで試合前のインタビューと、だけど、どうでも良いけど既に結界を張ってあるから俺たちの傍までは誰も近付けないよ?


「我らレジェンドクラスは今この世界で最高の力を持つ。しかし、かつてはジエンドクラスの力を持った超越者たちも存在した。我らは決して至高の存在ではないのだ。故に、我らは更なる高みを目指す。遥かなる頂に至る事を目指し、更なる鍛錬を続けるつもりだ。その一戦は、その一端である。我らの決意と力を此処に示そう」


 そんな事を思っていると、レオシルスがマイクを取り出して高々と宣言する。

 と言うかなにそれ?

 そんな仰々しい宣言を先にされたら、俺も適当に済ます訳にはいかなくなるよ。

 そんな俺の思いを知らずに平然と宣言を終えると俺にマイクを投げ渡して来るのだから腹が立つ。だけどそんな事を言っている場合でもない。腹を決めてマイクを持つ。


「知っていると思うが、新たにレジェンドクラスとなったヒューマンのアベル・ユーリア・レイベストだ。俺もまた更なる高みを目指している。かつて、10万年以上前にはジエンドクラスの魔物の脅威に世界は晒されていて、それに対抗する力を持った超越者たちもまた多数存在していた。今、ジエンドクラスの魔物の脅威に晒されていない中で、更なる高みを目指すのは無駄だと思われるかも知れない。しかし、俺たちは万が一の時に備え、そして必ずこの世界を護るために、絶えず自らを鍛え、万全を尽くす事を決意している。この挑戦はその俺たちの想いの表れだ。この戦いを見て、俺たちの決意を感じ取って欲しい」


 話を合わせて俺も同様に宣言する。

 俺の場合、実際に目指さない訳にはいかないんだけどね。

 カグヤの封印が破られるかも知れないタイミングで転生してきた俺は、再びこの世界を護る封印を成す為に戦い続けないといけない使命にある可能性が高い。そうなると、なんとしても強くならなければ途中でアッサリと魔物に殺されて終わりなのも確実。

 生き延びるためには強くなるしか他に道はない。

 それは、この世界自体も同じなんだけどね・・・・・・。


「素晴らしい。お二人の清廉なる決意に胸を撃たれます」


 アナウンスと共にまた割れんばかりの歓声が響く。


「それでは、お二人の想いと力を見せていただきましょう。はじめっ」


 轟くばかりの声援が止んだ所で試合の開始が宣言される。

 瞬間。俺とレオシルスは力を開放する。

 レジェンドクラスの超越者、その圧倒的な魔力と闘気を全開で解放する。

 その強大な力の奔流は、結界によって閉ざされていてもなお、観客へとプレッシャーとして襲い掛かる。それは、ただそれだけで命を刈り取るほどの圧倒的な暴力。

 もしも、対策がなにもされていなかったなら、此処に集まった観客の半数は俺たち二人の放ったプレッシャーの余波だけで命を失っていただろう。

 勿論、俺たちも問題ないと判っているからこそ力を、プレッシャーを開放した。

 そして動く。アイテムボックスから同時に剣を取り出し、構えると同時に舞台の中央で激突する。

 戦いの場となる舞台は、一辺500メートルの広さを持つ。しかし、その程度の広さでは俺たちにとってはほぼゼロ距離と同じ。

 互いな剣を交し合った余波だけで、風速400メートルを超える衝撃波が辺りに撒き散らされる。

 その余波に乗るようにして互いに距離を取りながら、魔法を放ち合う。次々と放たれる魔法。ほんの一瞬で数千の魔法を展開し放つが、尽く迎撃されていく。つまりは、相手も同じ数の魔法を放っているのだ。

 一発でも多く放っていれば、その1発が此方に届くし、相手の方が魔法の天回数が多ければ、相手の魔法が此方に届く。そのどちらもないと言う事は、魔法の撃ち合いは全くの互角と言う事。

 相殺された魔法の余波だけで結界に覆われた舞台の逃げ場のない空間が悲鳴を上げている。

 だけども、勝負はまだこれからだ。

 所詮は見世物、単なるパフォーマンスの一環としての試合だとしても、負けるつもりはない。

 長い時を、1000年を超える時を戦い続けて来たレジェンドクラスの超越者、その力を存分に見せてもらう。


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