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「あった。見付けたよ」
捜索開始から10日目、そろそろ諦めかけて来たところに、ユリィから見付けたとの連絡が入る。
早速行ってみると、そこは巨大な世界樹の幹のすぐ傍、生い茂る枝と葉にそえぎられて、外からは絶対に見付けられない場所にひっそりと咲いていた。
「何でこんな所に咲くかな・・・・・・」
「確かに、誰でもそう思うよね」
花を見付けること自体が試練でもあるようだ。まったく。
「これで蜜も手に入るし、見付けたのがユリィだから実も大丈夫だよね?」
「うん。世界樹の実も私がもらえるよ」
「それは楽しみ」
「私たちも食べた事ない物」
「ユリィ愛してる」
「スゴイ。スゴイ」
「これは楽しみだよ」
「こんな幸運まずないよ」
「本当に凄いですわ」
「嬉しいな。こんなに楽しい事が続くなんて」
「何時なるんだろう、今から楽しみで仕方ないよ」
「あのジエンドクラスの果実も本当に美味しかったけど、どちらがより美味しいのかな」
「食べ比べてみるのが楽しみ」
「ホント幸せだよね私たち」
何かユリィたちが本気で喜んでいるんだけども、それより、何か聞き逃せないモノがあったよな?
世界樹の実?
いや、それは花が咲くんだから実もなるのだろうけど・・・・・・。
いや、一輪しか咲かないんだから受粉も無理に気もしないでもないけど・・・・・・。
「そま世界樹の実と言うのは?」
「うん? 花が咲いた後になる実の事だよ。直径100メートルくらいの大きさになるの」
それはまた、随分と巨大な果実な事で・・・・・・・。
「それで、ユリィがもらえると言うのは?」
「世界樹の実所有権は、花を見付け出した人物のものになるの、だから、この場合は私。因みに、花を見付け出せなかった場合は、基本的には大地に埋めて、世界樹の子樹とする事になっているの。例外もあるけどね」
世界樹の子樹ね。そんなモノがあったのか・・・・・・。
いやそれより。
「それなら、去年の実の所有権は俺にあるハズでは?」
そう、問題はソッチだ。俺は世界樹の実を手に入れていない。
「去年の実は、アベルが世界樹の使徒に選ばれたから、なる前に世界樹の中の還元されたよ」
なにそれ?
「巫女や使徒の誕生の際の祝福は、世界所の実がなる事で成り立つの。だから、去年の実はアベルとミランダさんを祝福した時点で、実る事がなくなっていたの」
正直良く判らん。
良く判らんが、俺が使徒に選ばれたかわりに、世界樹の実も無くなったらしい。
「まあ良いや、それより、話を聞いていると世界樹の実は美味しいらしいけど?」
「美味しいよ。この前のジエンドクラスの果実に勝るとも劣らない。それに、繊維呪の蜜で蜜漬けにして物はもう本当に天上の味だし」
成程。それは本当に楽しみだ。
それにしても、ユリィ以外は食べた事がないらしい。王族であっても食べられない程の希少食材か。
「でも今は、まずは花を見付けた事を報告しないと」
そうだな。まずは蜜の採取が先だ。
それから1週間。蜜の採取は順調に行われ、世界樹の蜜は去年に引き続きシッカリと確保できた。
当然だけども、俺たちも自分の分をシッカリと確保してある。これだけあれば1000年は持つと思う。
・・・・・・いや、微妙に怪しいかも知れないけどね。
「去年に引き続き、今年も蜜を手に入れられるとはな」
レイル王子はご機嫌そうだ。戴冠も近い時期に好事が続くのは嬉しい限りの模様。
「それもユリィが花を見付けるとは、これでユリィは聖花の巫女になった訳だ」
「そうですね」
聖花の巫女? また知らない単語が出て来たんだけど。この場合は役職か?
「その聖花の巫女と言うのは?」
「ああ、聖花の巫女とは世界樹の花を見付けた王族に授けられる称号だ。世界樹の実を手にし、その種子をその身に宿す物を意味する」
レイル王子が説明するけど、その説明じゃあ理解しきれないって・・・・・・。
て言うか、世界樹の種子?
実の中にある種の事か?
しかし、その身に宿すとはどういう意味だ?
「エルフの王族、それも世界樹に認められ巫女や使徒となった者は、世界樹の花を見付け出し、世界樹の実をその手にする事で、その身に世界樹の種子を宿し、真の巫女となるの。世界樹の眷族となるとも言われているの」
「世界樹の子樹。世界樹を支え、世界樹からその叡智と力を授かる眷族。それと同じ役割をその身に宿すと言われている」
続けて説明される内容は想像を絶するモノだ。
世界樹の眷族?
あの絶対の生命と繋がったと言う事か、それは、人の身で耐えられるものなのだろうか?
「これで、ユリィがレジェンドクラスに至る事も確定した」
「そうね。既に世界樹の力が私の中に漲り始めているのを感じるもの」
世界樹の使徒に選ばれて、俺が力を増しレジェンドクラスに至った様に、既にユリィの中でも変化が起き始めているようだ。
「それじゃあ、ユリィもいずれ、俺と同じ試練を体験する事になるのか」
「アレは勘弁して欲しいんだけど、そうもいかないんだよね」
試練とは言うまでもなく、レジェンドクラスの力を完全に自らのものとするまで続くレジェンドクラスの魔物の襲撃。
「だけど、食材以外の素材としては最高だし、出来る限り倒したいんじゃない」
「どれだけ頑張っても、10万前の遺跡から発見される物より強力な物はつくれないけどね」
食材としては、遺跡からジエンドクラスの物が見付かったので、最高のモノではなくなったけれども、それ以外は素材として最高峰の物ばかりだ。
装機竜人などの素材として、魔剣や聖剣の材料としてこれ以上の物はない。
ただ、それらの最高の素材から、最高の技術を惜しみなく注ぎ込んで造りえる最高の一品を造り出しても、その性能は10万年前の遺跡から発掘される物に遠く及ばないのも事実。
「まあ、今は及ばないのなら、いずれはその高みに至れるように努力し続ければいいだけだ」
「そうね。10万年前の人たちが、いずれ来る危機に備えて力を残してくれたと言っても、それだけに頼って脅威に対抗し得るとも思えないし」
現実に、もしもカグヤの封印が破られる様な事態に陥ったのなら、いくら10万年前の超越者たちが残した兵器があるからと言って、それだけでは絶対に対抗しきれない。
少なくても、俺たち自身がその圧倒的な力を持つ兵器を使いこなせるだけの実力を身に付けられなければ、そもそも話にならない。
要するに、俺たち自身が10万年前の超越者たちと同じ頂に到達できなければ話にならないのだ。
むしろ、それは最低条件。それなら、更なる高みを目指せばいい。
これまで幾度となく繰り返されてきた世界の危機を振り払ってきた者たち、その過去の転生者たちすらも到達できなかった頂を目指す。
或いはあるのかも知れない、ジエンドクラス、Ωランクを超える更なる上を。
出来るかどうかなんて判らない。
それどころか、もしも本当にカグヤの封印破られ、繰り返される滅びの危機に世界が晒されようとしていたとして、俺がその脅威に対抗しうる力を持ちうるか、ジエンドクラスにまで至れるかどうかすらも定かじゃない。
それでも、どこまで行けるか挑戦してみるのは悪くはないだろう。
「まあそれはさて置き、コッチでの用事は無事に終わった訳だけど、このままスピリットに戻って良いのか? それとも、世界樹の実がなるまで待っていた方が良いのか?」
勿論、そんな事はおくびにも出さないけど。
「ああ、もう戻っても大丈夫。実が熟す時期は私が判るみたいだから」
どうやら、世界樹と繋がった事で実が熟すタイミングも判るらしい。後で1人で取りに来るから大丈夫との事。
「それに、実がなって熟すまでには3ヶ月くらいはかかるから、流石に待ってられないよ」
「それは確かに」
花の方は何の前触れもなく1日で咲くのに、実の方は生って熟すまでにシッカリと時間がかかるみたいだ。まあ100メートルを超える巨大な果実なのだから当然か。
「それじゃあ早速スピリットに戻るか」
「ああ、今回はありがとう。本当に助かったよ。それと、来年もよろしく頼むよ」
どうやら、来年も世界樹の花の探索に強制参加の様だ。まあ、2年続けて見付けた実績があるのだから当然だろう。
そんな訳で、来年もまたとの確約をしてスピリットに戻って来たのだけども、一つ気になった事がある。
「そう言えばユリィ、聖花の巫女になって世界樹と繋がったんなら、来年の花の咲く時期とか場所とかも判るんじゃないか?」
「それはムリね。聖花の巫女になった者は、世界樹の花の捜索には参加出来ないの」
疑問に思って尋ねてみたら、そんなに単純な事じゃないらしい。聖花の巫女となった者は、良く年以降は世界樹の花の捜索には参加してはいけないそうだ。どこにあるかを教えるのも禁止。ただし、花が咲いた事を伝えるのだけは良いらしい。
後は、咲いた後の1週間で花を見付けられるかどうかと言う事になるそうだ。
「成程。そんな制約があったから、200年以上も花を見付けられなかったりしたのか」
と言うか、聖花の巫女が誕生するのは実に400年ぶりらしい。
先代は100年前に亡くなっているので、実に100年ぶりに新たな巫女が誕生した事になるそうだ。
「何と言うか、本当に試練みたいだな」
「多分、その通りだと思う」
世界樹の花を見付けるのは、本当に世界樹が課した試練のようだ。
自らの加護を与えるに相応しい資格を示せと求められていると言う事だろう。
まあ良いや、世界樹の思惑はどうあれ、とりあえずは無事に終わったし、もうスピリットに戻ったのだ。
「世界樹の花の捜索のおかげですぐに離れたから、ライオルのバカの剣以外には特に問題なかったけど、元って来たからには絶対に何か起こるよね・・・・・・」
クリスが何か悲壮な感じで失礼な事を言っている気がするけど、まあ、何か起きるだろうと言うのには俺も賛成。
絶対に、ライオルの事なんて前座に過ぎない様な何かが起きるんだろうな・・・・・・。
まあ良いけど、いい加減そろそろ慣れたよ、トラブルとか厄介事にも・・・・・・・。




