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「自称よ。確かに、強さだけなら申し分ないから、私の婚約者にって話が上がった事もあったけど・・・・・・」
その時の事を思い出したのか、それはそれは深い溜息を付く。
成程と言うか、何を考えているんだかと言うか・・・・・・・。
「コレとの縁談を候補としてでもあげるとか、正気か?」
「誰でもそう思うわよね・・・・・・」
だってなあ、ほんの少し話しただけでコレはないと思うぞ。
て言うか、レジェンドクラスを僭称するって何だよ?
まさかと思うが、俺の実力も判らないのか?
正直言って、ライオルは確かにES+ランクの実力はあるが、ミランダと比べればはるかに劣る程度のものだ。詰まる所、2年前の旅に出た当初の俺よりも弱い。
その程度の実力で、まさかとは思うが俺に勝てるとでも、つまりは、自分の方が俺より強いと思っているのだろうか?
それ以前に、相手の実力も正確に計れないのか?
「それ以前に、さっきの発言だけで救いようのないバカなのが判るのがスゴイ」
「うん。確かにこんなのが国の守りの要だなんて思われたりしたら、堪らないよね」
「正直、ここまで真っ直ぐに救いようのないバカな方がいるとは思わなかったよ」
ザッシュにサナにレベリアが聞こえない様に小さく驚き合ってるけど、多分聞こえているぞ。身体能力だけは以上に良い訳だし、聴覚もそれこそ人の何十倍もあるんじゃないかな。
「ソコ、其方らの様な脆弱にして愚かなヒューマンの子供にバカにされる謂れなどないわ」
脆弱ねえ、確かにオマエさんよりは弱いけど、さんにんともSクラスなんだけど。
「そう言うアナタも、大して強い訳じゃなさそうだけど」
「何だと? キサマ、我を愚弄するか!!!」
「愚弄じゃなくて事実でしょ。アナタ、明らかに私より弱いし」
確かにその通りなんだけど、ここでイキナリミランダが挑発するとは思わなかった。
「はっ、何を言い出すかと思えば、確かにキサマもSクラスの力はあるようだが、その程度では我の足元にも及ばぬわ」
「はあっ・・・・・・あのね。私も貴方と同じES+ランク。それも力は私の方が上よ。その程度の事も判らないの?」
どうやら、この無駄に暑苦しい周りが見れないバカが相当お気にいらない様だ。
いや気持ちは判るよ。俺も、なんていうか声を聴いているだけでイライラしてきて、問答無用で殴り倒したくなるし。
「ああ、そう言えば別にフルボッコにしても問題ないんだっけ」
「何だとキサマ?!!!」
なにか、こちらの発言が気に入らなそうに喚いているけど問題ない。
「なに、そんなにこちらの実力が信じられないなら、実際に見せてあげるってだけだよ。場所を変えようか、全力で相手をしてやるよ」
俺はストレス解消も含めて、このバカをフルボッコの刑に処す事を決めた。
「あの、王様に挨拶に行かないでこんな事してて良いんですか?」
「良いんだよ。このバカを叩きのめして鼻をへし折るのは、この国の為になるし」
場所を王都から離れた草原に移して、さあフルボッコにしてやろうと思っていると、ザッシュが無粋な事を尋ねてくるので問題ないと答える。
「ふん。貴様の様な自称レジェンドクラスの僭称者にこの我が負けるハズがなかろう」
「あら、アナタの相手は私よ。言ったはずよね。アナタは私よりも弱いって、今ココで証明してあげるわ」
どうやらこのバカをフルボッコにするのは、ミランダに譲るしかなさそうだ。・・・・・・ここで譲らないと後が怖そう。
「何だとキサマ。良いだろう。その思い上がりを打ち砕いてくれる」
向こうもどうやらミランダと戦いたそうだ。
それにしても、同じES+ランク同士、ココで負ければ自分にレジェンドクラスの実力がないとハッキリする事は理解しているのだろうか?
「大丈夫なんですかね? 俺には2人の実力はそれほど変わらないと思うんですけど、実力が伯仲しているからこそ、互いに手加減も出来ないし危険だと思うんですけど」
「ああ、問題ないよ。確かに純粋に力の面ではそう違いはないけど、実力の面じゃあミランダが圧倒しているから」
ザッシュの懸念も最もだけども、この場合は何の問題もない。実際、ミランダと比べてライオルの実力はお大きく劣る。
確かに闘気の総量では確かにミランダをはるかに上回ってはいるけれども、逆に魔力においてはミランダの足元にも及ばず、明らかに戦闘の技術においても稚拙で、むしろ、相手にならない程に弱い。
「それじゃあアベル。結界をよろしくね」
はいはいと、言われなくてもちゃんと結界は張ってありますよ。
戦闘空間となる10キロ四方には、一応は念のためにレジェンドクラスの力にも耐えられる結界を張ってある。なのでどれだけ激しくぶつかり合っても周りに被害が出る事はない。
「それじゃあかかってきなさい。自分の力も、相手の実力も判らないおバカさん」
「キサマァァァァァ」
真実そのままのミランダの挑発に激高して、そのまま突っ込んでいくライオル。
判っていた事だけどもアイツの戦闘スタイルは基本、闘気を纏っての近接格闘型。まずお目にかかれないタイプの珍しい戦闘スタイルだ。
そして、どうしようもなく無駄か多くて、実戦ではほとんど役立たないスタイルでもある。
確かに、レジェンドクラスに匹敵する闘気を全身に纏ったライオルの身体能力は計り知れない。ミランダへ向けて突っ込むその速度も、音速の100倍をゆうに超えているだろう。そして、闘気を集中させたその拳は当りさえすれば、確かに、レジェンドクラスの魔物にすら有効だろう。
だけども、当たらなければ意味がない。
イノシシの様に真っ直ぐに向かって来るライオルの攻撃をミランダはアッサリと避ける。
関心の一撃を躱されたライオルは、ミランダを通り過ぎた後、1キロ近く過ぎた所でようやく停止する。
そしてまた、ミランダに向かって突撃するけれども、当然だけどもアッサリと躱される。
「確かに勝負になってませんね。なんだっけ? スペインの闘牛? そんな感じですね」
それは言い得て妙だな。
猛牛を華麗に躱していなす闘牛士。まさにそんな感じだ。
「おのれっ、ちょこまかと」
「私を捉えられないのはアナタが弱いからよ。私より強いのなら、そもそも攻撃を避けられるハズもないでしょう」
一向にミランダを捉えられないライオルが激高するが、実際、簡単にいなされている時点で実力差は明らかだ。
「ほざくなっ」
ようやくライオルが攻撃の手を変える、ひたすらのように特攻を仕掛けるのではなくて、特攻に見せかけて距離を詰めて一気に減速。ミランダの前で止まる共に攻撃を嵐の様にしかける。
1秒に100を超えるパンチが繰り出されるけれども、そのひとつたりともミランダには届かない。
「それにしても、ミランダもワザワザ相手に合わせて戦うとは、本気で心を折るつもりかな」
「どういう事ですか?」
「簡単な事だよ。ミランダは相手の近接格闘スタイルに合わせて、魔法を使わずに魔力と闘気を体纏うだけで対応しているだろう。相手と同じスタイルで圧倒するつもりなんだよ」
実際、魔法を使えばとっくに決着はついている。
例えば、突っ込んで来るのだから次元断層を自分の周りに展開しておけば、それだけで相手を確実に仕留められるし、避けた後に魔法で追撃してしまえばアッサリ倒せる。今も距離を詰められているけれども、転移魔法を使えば簡単に距離を取れるし、距離を取らなくても、後呂に転移して、がら空きの背中に強烈な一撃を叩き込む事だって簡単だ。
実際、ミランダは倒そうと思えばいつでも倒せるのだ。
「そもそもあのバカ、Sクラスの、それも最高峰ES+ランクにありながら、魔力がショボすぎて転移魔法を使えないし。どれだけ救いようのない、空前絶後の愚者なんだって話だよ」
しかも、格闘タイプの戦闘スタイルの癖に、その格闘技術もミランダに劣ってるし、あれじゃあ、単に力任せに暴れているのと同じだ。
現に、ライオルの攻撃はミランダに一撃たりとも掠りもしないのに、ミランダの攻撃は既に百発百中だ。
強力な闘気で守られているから、まだ何とか立っていられるけれども、そろそろシャレにならないダメージが蓄積されているだろう。
「そもそも、攻撃は回避するか相殺する。或いは防御障壁で防ぐの三択しかないのに、そのどれも取らずに、纏った闘気でダメージの軽減なんて方法を取るのが理解不能」
実際問題として、万が一にも防御障壁が破られた時の保険としては有効ではあるけれども、それだけに頼るのはどうかしている。
「えっ? 防御障壁も展開してないんですか?」
「ありえないですよね・・・・・・・」
「と言うか、あの人どうしてして生きているんですか?」
ザッシュ、サナ、レベリアの当然の疑問。
ある意味、俺も不思議でならないんだけども、身体能力に特化した鍛え方を何百年と続けて来たからじゃないのとしか言いようがない。
まあ、それも限界がある訳で、ちょうど1000発目のミランダの攻撃。見事の真空とび膝蹴りを顔面に受けたライオルは、そのまま吹っ飛んでピクリとも動かなくなる。
「それにしても、俺もフルボッコにするつもりだったけど、アレはやり過ぎじゃないか・・・・・・」
まるでストレス解消のために、サンドバックをタコ殴りにしているかのような惨状に、実感、引いてしまっのは内緒だ。
「まあ良いか、それより、流石に此処までやられれば、鼻もへし折れるだろ」
「そうね。むしろ、再起不能になりそうな気もするけど、それならそれで問題ないし」
本当に、どうにかなってくれれば、本人がどうなろうと関係ないとばかりにクリス。
むしろ、長年の厄介事が片付いたと嬉しそうだ。
まあ良いけどね。とりあえず、見る影もない程に全身ボコボコになってるバカを回復させるとするか、あのままだと本気で死にそうだし。
問題は回復した後、意識を取り戻したあとなんだけどね。果たしてどうなる事やら?




