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さて、聖域の事はひとまず置いておいて、アストラル魔法の習得訓練と一緒に遺跡の調査も進めないといけない。
既に3分の1くらいは調査が終わったけれども、まだまだ先は長い。
後、できればこれ以上不穏に遺跡が出てこないでくれると助かるんだけども、それについては望み薄だろうともう諦めているよ・・・・・・。
「さてと、次は此処にするかな」
「うん? どこの遺跡に行くの?」
端末の地図に入力してある調査予定の遺跡の中から、次に行く所を決めると、興味深そうにケイが効いてくる。
「ああ、次はこの遺跡に行くつもりだよ」
そう言って示したのは海中に沈んだ遺跡。どうやら地殻変動か何かで、島ごと海の底に沈んだらしい。
またかと思う程、海底や湖底に沈んだ遺跡が多いのはどうしてだろう?
それと、海底に沈んだ遺跡と言うと、選定の儀の時に行った遺跡を思い出す。あそことはかなり離れているけどね。
「海底遺跡ね。位置的に見て最前線の防衛拠点跡か、イヤな予感がするね」
「同感」
何か非常に危険な物が眠っている可能性が高いだろう。だからと言っていかない訳にはいかないんだから何とも億劫な気持ちになってしまう。
「まあ頑張ってね、余りに非常識なモノがあった時は封印よろしく」
気軽に応援してくるケイに苦笑してから、気を取り直して早速下調べに行く事にする。
なんだかんだで気が付けば年をまたいで、冬も終わろうとする季節になっているし、そう言えばしばらくすれば俺の誕生日だ。あと少しで14歳。旅を始めて2年になる。
それから、急がないと春を迎えて世界樹の花をも付けてから1年が過ぎて、再び花を咲かせる季節が訪れてしまう。その時には確実にユグドラシルに来るように確約されているので、今の内に幼児を出来る限り済ませてスケジュールを開けておかないといけない。
このレイザラムでの遺跡調査が終わったら、あの30万年の遺跡関連の事で一度ヒューマンのレザリア大陸に戻らないといけないし、しかもそこでどれくらい時間を取られるかも判らないのだから、実は結構時間的に厳しい状況。
まあ、世界樹の蜜を欲しがる人は星の数ほどいるので、それを見付けるために一週間くらい開けても文句を言われないだろうけど・・・・・・。
とりあえず、実は去年の誕生日は何かと忙しくて祝っている暇もなかったし、今年は出来ればゆっくりと過ごしたいところだ。状況的に厳しいのは判ってるけど。
なんて事を考えている内に、目的地上空に到着。早速遺跡のある海底まで潜って行く。
選定の儀の時の遺跡は魔域の中だったけれども、この遺跡は魔域の浸食されていない。なので、魔物が掃いて捨てる程に湧いてでてきたりはしないけれども、当然だけどもそれなりの数の魔物が襲って来る。
その中に、アダマンタイト・ホエールなんて珍しいのまでいた。
その名の通り、アダマンタイトと同じ硬度のシャレにならない固さのクジラで、全長は凡そ300メートル。しかもその巨体で海中を自在に、100ノットの速度で泳ぎまわるのだから、その脅威は実は本気で高い。
まあ、難なく仕留めて美味しくいただくけど、思わぬ収穫だった。刺身で食べても美味しいし、鍋にも良い。ステーキもまた格別に美味だそうだ。
それにしても、地球のクジラとは比較にならない大きさだよな。魔物なだから、普通の動物と比べる方が間違っているんだろうけど。
その後も何匹か襲い掛かって来る魔物を返り討ちにしている間に海底に到着。水深凡そ1万メートルくらいかな?
目の前には巨大な都市、これは10万年前の防衛都市と見ていいのかな?
そう言えば、要塞とかはあったけれども、防衛都市そのものが遺跡として残されているのは初めてかも知れない。
しかし、この場合何処から探せばいいんだろう?
いや、本命は間違いなく司令本部とか、防衛本部とかなんだろうけど、都市が丸ごとそのまま残っているので、何処に何が残っているか判らない怖さがあるんだけど・・・・・・。
まあとりあえずは、魔域に近い都市の端にある防衛本部に行きますか。
ココはまあ、要するにこの防衛都市に配備された軍や騎士、竜騎士たちの拠点であり基地なので、一番怪しいのが此処なのだ。
と思って早速向かおうとしたら入れない。
なにかと思ったら、この都市全体を覆っている結界に阻まれている。
まあ、この防衛都市全体が遺跡なのだから当然なのだけども、そうなると、都市全体に危険物が山のように転がっている可能性が思いっきり高くなってくる。
勘弁して欲しい。流石に都市一つを隈なく調べ周るなんて1人じゃ無理だ。それこそ、いくら時間があっても足りない。流石に、重要な物は防衛拠点とかの施設に保管されていると思うけど、思いもよらない重要な何かが、ひょんな所に隠されていたりしそうな気がしてならない。
まあ良い、とりあえずは中に入ってみるのが先決だ。魔域とは反対側の正面ゲート前に向かうと、例によってロック解除の為のモニターがある。
さて、今回のお題は?
カメを助けてウラシマが連れていかれた場所は?
なんだそれは・・・・・・。
と言うか、このお題の時点で、ココって地殻変動で海底に沈んだんじゃなくて、放棄された時に島ごと沈められたとみて良さそうだ。
しかし、ココが竜宮城だとでもいうのだろうか?
中に入ると、遺跡である防衛都市を覆う結界が海水の侵入も防いでいて、普通に空気がある。
それと、流石に10万年前から植えられていたモノじゃないだろうけれども、都市のいたる所に、幹の直系が10メートルをを超え、高さも100メートルを優に超える巨木がある。
何か非常に気になるんだけども、まずは防衛本部に向かうとしよう。
ココに何が残されているのかハッキリすると良いんだけど、入って来た場所からちょうど反対側にある防衛本部に飛ぶ。
かなりの大きさなので、ココを調べ尽そうとしたらそれだけで相当な時間がかかる。
勿論、そんなに時間をかけるつもりは無いので、基本的には指令室と格納庫を調べるくらいにするつもりだ。個人の資質に何か重要な物が残されていないかなんていちいち確認していられない。
まあ、司令官の、この防衛都市のトップの私室ならば話は別だけど。
まずは格納庫から見ていく。当然だけども、相当数の装機竜人が並んでいる。更に地下ドックには潜水艦などの艦艇も収められていた。
ここまではまあ想定ない。特に問題ない。
さてと、次は指令室。この防衛都市についての詳細が残されているだろうけど、ココは本当に単なる防衛都市としての役割しか担っていないのか?
そこが非常に不安だ。どうにも気になる巨木の数々、アレがこの遺跡の本命じゃないかと、そんな気がしてならない。
「さてと、一体何が出て来るかな? ・・・・・・いや、何も出てこない方が嬉しいんだけどな」
何も自分から厄介事のフラグを立てる理由も必要もない。
さて、司令部のメインコンピューターを起動して記憶されている情報を引き出していく。
結果、アッサリとこの防衛都市のもう一つの役割が判明する。
「魔除けの聖樹とは・・・・・・」
これまたとんでもない爆弾が出てきたものだ。
この防衛都市は、魔除けの聖樹の実験場でもあったらしい。
魔除けの聖樹とは、その名の通り魔物を祓う力を宿した樹の事。この聖樹の力によって、この防衛都市の周囲100キロにはレジェンドクラスの魔物すら近付けないそうだ。
因みに、今はその力は遺跡を封印する結界によって同じく封じられているそうだ。
ただし、その封印は簡単に解けるので、この遺跡周辺を魔物の千一家内安全地帯にする事も可能。
ついでに、この遺跡と言うか、島自体を元に戻す事も、或いはこのまま地底に沈んだままにするも自由で、どちらでも100万人は居住可能。
ユグドラシルで見つかったジオフロント同様に、中々に扱いに困らせてくれる。
「まあ、その辺りを決めるのは俺の仕事じゃないけど」
どうするかは勿論、この国の王が決める事だ。
そんな訳で早速、転移して戻る。
「あっお帰り。今回は早かったね」
「それで、遺跡には何があったのかな?」
「俺一人で決めて良いものじゃなかったから、レギン王の判断してもらう必要があるモノがあったな」
帰って来たのに気が付いて挨拶と質問をしてくるユリィとケイにそう返して、早速王の執務室に向かう。
二人も何が見付かったのか気になるのだろう。当然後をついて来る。
それと、レギン王が今は執務室で仕事をしているのは確認して向かっているので、行ったは良いけどいなかったなんてマヌケな事にはならない。
執務室の前には、当然だけども警備兵がいるけれども、俺は彼らを無視してドアをノックして返事も待たずにそのまま入る。
王に対して無礼だとかそんなのはそもそも問題にならない。
警備兵も俺の行動を気にも留めないし止めようともしない。要するにこれが普通なのだ。
「アベル殿にケイとユリィか、一体どうしたのかな?」
「遺跡で見つかったモノについて相談に来た」
「成程、それで一体どのようなモノが見付かったのかな?」
「魔除けの聖樹と言う、周辺100キロの範囲を、魔物の侵入を阻む結界を張る聖樹だ。その効果はレジェンドクラスの魔物にまで有効だ」
俺の説明に、聞いていた全員が完全に凍り付いた。
まあそうなるよな。戦いの在り方を根本から変え鳴か寝ない超戦略級のとんでもない代物だ。
はてさて、一体どうすればいいのか俺一人じゃあ決められない。




