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レイザラムに来てもう1ヶ月を超えた訳だけれども、着いて早々の国の存亡に係わる1件以外は、特に厄介事に巻き込まれる事も無く、遺跡の調査とアストラル魔法の習得訓練を続けられている。
極めて順調なのだけども、アストラル魔法はまだ誰も習得できてない。
ミランダはそろそろ覚えてもよさそうだと思うんだけども、本人に言わせると。
「こんな凶悪な複合魔法、1カ月程度で覚えられる訳ないでしょ」
との事。
確かに、俺もアストラル魔法は最後に覚えた。全ての属性に適応があったので、属性魔法を全て覚えて、そこから複合魔法を覚えて行って、最後の最後の集大成として覚えたのがアストラル魔法だった。
因みに、そうやってすべての魔法を覚えきったのは12歳になる直前。旅立つ前に魔法を覚えきれたのは本当に幸いだった。
5歳から初めて、7年もかかるなんて時間かけ過ぎとか思うかも知れないけど、明確なイメージをもって発動するこの世界の魔法だけども、だからこそ、逆に習得にはかなりの時間を必要とするのだ。
事象の詳細な情報を知識として知っている必要もあるので、魔法習得のためには相応の知識も必要になって来るし、前世の知識があっても、その程度じゃ通用しない属性だって山ほどあって、本気でシャレにならない程に苦労して勉強したのは良い思い出と言う事にしておこう・・・・・・。
そして、知識を得て明確なイメージを掴めても、習得までには果てしない時間と労力を必要とするのだ。
「流石は超級複合魔法。こんなに習得に苦労したのははじめて」
「効果が明らかに異常だし、そう簡単に使える魔法じゃない事は判っていたけど」
「ここまで苦労するとは思わなかったよ」
「だけど、良い修行になっているし、使えるようになるのが楽しみ」
「確かにね。集中力と精神力が飛躍的に増してるのがハッキリ判るし」
シャクティたちがはどうやら、普通に会話を交わしながらも集中力を維持できるようになったようだ。
それでもまだ成功していないのは、要するに感覚を掴めていないから。
「あと少しで感覚が掴めそうな気がするんだけど、どうすれば良いのかが全然判らないんだよね」
「知識として判っていても、万全としていて正確に理解しきれていないからかな?」
とはユリィとケイの2人。
成程、アストラル魔法の詳細について伝えてはいるけれども、まだ知識として知っているだけで、完全に理解できていないと。
ただ、ココで更につまりはこういう事だと説明するのも難しい。俺も伝えられるだけの事は伝えたので、これ以上説明しようにもできないのだ。
正直、後は頑張って自分で知識を自分のモノにして理解してもらうしかない。
因みに、当然だけどもアストラル魔法の習得訓練ばかりしている訳じゃない。
遺跡の探索もシッカリと進めているし、魔域で魔物の討伐もしている。それと、アストラル魔法を覚えるのに必要な属性魔法を使えないから、習得訓練に参加していないメンバーの為に、別の訓練もやっていてソチラもかなりの効果を発揮している。
・・・・・・後、定期的に襲撃してくる鍛冶職人の相手もしている。
彼らについては、本気でどうにかならないモノだろうか・・・・・・。
スミス殿からレイザラムを手に入れたくば、それに見合うだけの力量を示さなければならないと通達があったハズなんだけども、どう言う訳か、ひっきりなしに俺の所に突撃してくる鍛冶師が後を断たない。
この国で最高の鍛冶師であるスミス殿でも、まだレイザラムを鍛えるには力が及ばないと断言しているのに、何故に自分ならばできると思うんだろうか?
まあ、そんな根拠のない自信の元に意気揚々と乗り込んでくる鍛冶師たちには、尽く自信とプライドを粉々に粉砕させてもらっているけど、何故か、何時の間にか彼らから師匠と崇められ始めているのが気になるんだけど・・・・・・。
「どうじゃなアベル殿、まだ貴殿の鍛えし宝剣には及ばぬが、我も此処までの魔剣を打てるようになったぞ」
で、その元凶になったご老人が、当然の様に鍛えた剣を見せに来ている。
「確かに見事な魔剣ですね。ふむ。今度は聖剣を打ってみたらいかがですか? 聖剣は魔剣とは鍛え方も異なりますけど、だからこそ政権のこのレベルで鍛えられたのなら、おそらくは次のステップに到達できますよ」
「成程聖剣を、確かに言われてみればその通りですな」
そして何故か、何時の間にか普通に師匠として弟子に助言するような事をしている俺。
それと、どうしてかこの人に対してだけは口調を砕く気になれない。まあ、そっちの方は別にどうでも良いんだけど。
しかし、俺は飽くまで魔力にモノを言わせて魔法と言うより、錬金術で剣やマジックアイテムを作っているだけなので、本職の鍛冶師とは違うんだが、そんな俺が適当にアドバイスとかしてて良いのか?
「そう言えば、結局聖域の管理者たちはどうなったんです?」
「うん? そうか、アベル殿もアヤツらとは関わりがあったのだな」
関わりと言うか、国の膿になっていたのを排除するのに使われたっていうか、それに、今回の件でも救いようのないバカをやらかした後始末をする羽目になった訳だし、一応、どうなったかだけは知っておきたいところだ。
「アヤツらは最早言い逃れも出来ぬ罪を犯したからの、一族郎党揃って犯罪者奴隷として、死ぬまで国の為に戦い続けることが決まったわ」
成程。まあ妥当な判決だろうな。
実際問題、彼らの犯した罪は死刑なんかでは生温い程の重罪だ。死ぬまでその罪を償い続けるのは当然だろう。
本人たちがもう死にたいと自ら魔物に殺されるか、勝ち目のない魔物との戦いに挑んで死ぬか、どうなるかは判らないけれども、彼にはこれから先の一生を犯した罪を償って生きて行くのだ。
ただ、国を護るためだけの存在として・・・・・・。
「そうですか、もう二度とあんな事が起きないで済むならなによりです」
「うむ。長くこの国の膿となっておった者たちを一掃できたしの、見せしめにも出来たのでしばらくはバカな事をする者も出まい」
どんなに文明が発達して、人が精神的に成熟しようが、バカはどうしても一定数居るものだ。それをふまえて国を切り盛りしていかなければならなく、その為にはみせしめも必要と、やっぱり、俺は政治とは関わりを持ちたくないな。どう考えて面倒過ぎる。
「聖域も王家の直轄地と出来たしの。ただ、残念な事に調査を進めているのだが、かの地に封じられておる瘴気については何一つ判っておらぬ」
「それは此方も同じですね。何度か調べてみているんですが、結局何も判らないままです」
聖域の調査は、それこそ念入りに余す事無くしたのだけども、何一つ判らなかった。
そんな訳で、かつてこの地を覆っていた瘴気の正体も以前として謎のままだ。
いったいこの地で何が起きたのか?
どうして瘴気に覆われる様になってしまったのか?
疑問は尽きないんだけども、残念ながらそれを知る術がない。流石に、何十万年前かも判らないで事の過去を遡って調べる魔法はない。
「まあ、幸いにして神器が戻った事で、瘴気が溢れ出す最悪の事態は避けられたし、何か起こる気配もないからの、今まで通り、下手な手出しをしないでいる方が賢明であろうよ」
「確かに」
現実問題として、聖域の瘴気については俺たちの手に負えるレベルじゃないのだから、下手な事をしないで大人しくしていた方が賢明だ。
下手な事をして、聖域の瘴気の封印が敗れでもしたら、それこそ本当に取り返しがつかない。
転輪の聖杯のレプリカを作って何とか対抗できるかどうか?
まず無理だろうな。
これ以上の厄介事はゴメンだし、手に負えないどころか、国の崩壊に繋がりかねない事なんて絶対に関わり合いになりたくない。そんな訳で。
「聖域については監視を続けながら手は出さないでいるのが一番でしょう」
当然だけどもこの結論になる。
「ところで、話は変わるが、ケイたちに失伝魔法を教えているとの事じゃが?」
「アストラル魔法の事ですね」
結局聖域の事は話しても何の進展もないのでさっさと話を切り上げる。
なお、失伝魔法とそのまま今はもう失われた魔法の事。ぶっちゃけ、アストラル魔法は転生者専用に近い魔法なので、そう言うカテゴリーに分類される事になる訳だ。
「まあ、超級複合魔法に分類されますから、一朝一夕に取得出来るモノじゃありませんけど、いずれは彼女たちも使えるようになるでしょう」
虚無魔法と生命魔法についてはもう取得出来ている訳だし、これで彼女たちの戦略の幅も広がったと言いたい所だけども、虚無魔法は、その名の通りあらゆる事象を虚無に帰す魔法なので、使い道が限定されると言うか、恐ろしい程に扱い辛い魔法だ。
使うとしたら、魔域の活性化時に視界の全てを覆い尽くすほどに溢れ出した魔物を、一気に殲滅する時とかぐらいだろうか?
殲滅魔法としてはこの上なく強力無比な魔法だ。後には何も残らないから、素材も何も回収できないのが最大の欠点だけど。
と言うか、魔域の活性化が起きた時は、それに対抗するため莫大な予算が湯水の様に消費されていくので、少しでも出費を補てんするために、討伐した魔物の素材を回収していかないと、財政破たんで国が滅びかねないから、虚無魔法による殲滅は確かに有効だけども、魔域の活性化に対抗する国のトップにしてみたら、阿鼻叫喚の大参事かも知れないんだよな・・・・・・。
前にレイルに聞いた話だと、魔域の活性化時の出費は実に4兆リーゼを超えたらしいしね、日本円で40兆以上だよ?
確かにそれで国が守れたのだから万々歳ではあるだろうけど、上手く補填できないと国家予算が破綻してもおかしくない額だよな。
しかも、その金額でも想定していたよりは、出費を抑えられたらしいし・・・・・・。
どうやら俺が頑張ったかららしくて、何かしきりに感謝されていたけど、じゃあ、本来ならどのくらいかかると想定していたのかは、怖くて聞けなかった。
「それは楽しみじゃな。果たして我が孫はどこまで行けるかの?」
俺と同じレジェンドクラスにまで至れるかって事だろうけど、それについては俺だって判らない。
なにか、状況的に何としても至らない訳にはいかなくなったりしそうな気もしないでもないけど、もしそうなったとしても俺の責任じゃあないとだけ言っておこう。
カグヤの封印が破られるなんて事になったら、レジェンドクラスの超越者の力をもってしても不足だし、封印が弱まったくらいでも足りないかも知れない。
本当に、俺もだけどもなんで10万年周期の封印の破綻の時期に生まれてしまったかね・・・・・・。
これについては、俺も絶対に被害者だし、またが居なく俺の責任じゃあないと言っておく。
本当にこれからどうなるのか、不安で仕方がないよ・・・・・・。
本年最後の投稿です。
お正月は予定が詰まっていますので、来年の投稿は4日からになると思います。ご容赦ください。
それでは、良いお年を。




