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さて、いきなり厄介事が待ち受けていたのは想定外だけども、それも無事にかたず居た所で遺跡の調査をはじめたい所だけども、その前に少し魔域に行っておく事にする。
イキナリの厄介事に一週間も時間を取られて、その間、魔物の討伐どころか、修行らしい修行も出来なかったので、そちらの方を優先しないといけない。
気が付けばこの世界の各種族の王族を弟子にしているのだから、死として弟子の育成はキチンとこなさないといけない訳だ。
「まあ、最近は少し気が抜けてたのも確かだけど、いきなり実戦訓練とか、ホントアベルは唐突だよね」
「そうは言っても、ケイだってシュトラ王子たちの結婚式の準備とかも合わせて、もう二週間以上は魔物の討伐に行ってないだろ?」
「そこを突っ込まれると反論できないんだけどね・・・・・・」
別に怠けていたとかそんな訳じゃないけれども、最近は実戦からも訓練からも少し離れ気味だったのは事実だ。
かく言う俺も、あの30万年の遺跡で造られていた兵器、ウロボロスの影響で始まったあの戦い以降、実戦は実に1ヶ月振り近くになる。
「まあ自分の国なんだから、魔物を倒すのは当たり前なんだけどね」
ケイからすれば、家族に挨拶した後はしばらく魔物討伐をするつもりだったのが、降って湧いた厄介事で水を差されていた訳だしな。
しかも、国を支えていた神器が壊されていたなんて、下手をしなくても国を揺るがす大事件なんだから、解決するまでは気が気じゃなくて、魔物の討伐なんてしている余裕なんてなかっただろうし。
ケイだけじゃないみたいだけど、彼女にしたら、国の為であっても、自国を離れて好き勝手自由に楽しんでいる自分に、少し負い目もあるのだろうから、国に帰って来た時には、王族として国を護る使命を果たそうと思っているのだろう。
「それに魔域の調査にもなるしな。まさかユグドラシルに続いてコッチでも何か起こるとかはないと思いたいけど、一応はキチンと何か異常がないか確認しておいた方が良いだろ」
30万年かけて造られた兵器が完成する瞬間に居合わせるなんて、そんな偶然がそうそう何度もあるはずがないし、そもそもそんな遺跡がこっちにもあるなんて思わないが、一応は、念のために調べておいた方が良いかも知れない。
「心配し過ぎたって言いたいけど、ここまで来ると心配するのも仕方がないかもね」
「ユグドラシルに続いてコッチでもいきなりの厄介事が待ち受けていたからな。これ以上、何か起きないように念を入れておきたい」
「それについてはなんとも、と言うか、本当に管理者たちは始末に負えないよ。それもこれで終わりだけど」
流石に今回の一件で、聖域の管理者たちの命運は完全に尽きた。これ以降、同じ役職が復活する事すらもうないだろう。
聖域の統治は、王家が直接する事になるだろう。
「それについては本当になによりだよな。まあともかく、魔域の調査も含めて、魔物の討伐を始めよう。それが終わったら、聖域の調査もしたいし」
これまで係わったドワーフの中で唯一無二の救いようのないアホ共。聖域の管理者たちともう二度と係わり合う心配をしなくて良いのは何よりの朗報だ。
それと聖域については、俺自身一度行っているのに、あそこが周期を封じる場所だとはカケラも感じなかった。それどころか、正常な気に満ちたまさに聖域の名に相応しい地だと思った。
だけど実際には、あそこには数十万年の時を経てなお浄化しきれぬほどの瘴気が封印されているのだ。
恐らくは、瘴気をとどめて封印するためのシステム。魔道具なとのあるのだろう、その仕組みを以前は全く理解できなかった聖域の本質を知れたらと思う。
「確かにそれは気になる」
ケイにしても、今まで自分たちが単に聖域として認識してきた場所の、本当の役割を知って興味や関心を持たないハズがない。
まさか、聖域に封じられていた瘴気が溢れ出すなんて事態は起きないだろうが、それでも一応、調べておくに越した事はない。
「まあ、とりあえずはそろそろ実戦訓練を始めようか」
因みに今回はミランダを含めて全員いる。
その上で俺が今回教えるのは、魔域の状況把握を含めた戦い方だ。
「魔域の調査と言っても別に難しいモノじゃない。探査魔法を展開して、範囲内の魔域の状況を確認して行くだけだからな。魔物の討伐と並行しても特に問題無いハズだ」
まあ、どうしても意識がソチラにいってしまいがちになるので、慣れないと結構危険だったりするんだけども。
「ただし、慣れないと調査の方に気が向いてしまって、魔物の接近を見逃してしまったり、戦いに集中できなかったりするから、今回は4人一組で行動して、2人が魔域の状況を調査している間は、残りの2人が周囲の警戒をする形で行く」
「それが妥当でしょうね。交代で交互に、調査と警戒を続けて行けば、いずれは慣れるでしょ」
このレイザラムの魔域も、ヒューマンの大陸の魔域よりもはるかに危険ではあるけれども、1人ではなく4人組ならば、問題なく対処できるだろう。
うん。流石に1人にさせるほど無謀じゃないよ。
実戦訓練の修行なら、一緒について行かないのかと言われそうだけども、流石に全員で動いたんじゃあ過剰戦力過ぎて訓練にならないのし、自分で判断して行動しないと経験にもならないので、みんなには自分の力で頑張ってもらって、俺は折を見てみんなの所を周ってアドバイスをしたりするつもりだ。
勿論、何か危険があったらすぐに駆け付けられる様にしてある。
「それじゃあみんな頑張って、ミランダもフォローよろしく」
「私も、探査についてはそんなに得意って訳でないんだけど」
俺とミランダは当然教官兼バックアップなのだけども、ミランダ曰く、ワザワザ魔域の状況を確認しながら戦った事なんてそうないので、探査についてはそう得意ではないとの事。
まあそれならそれで、いざという時のバックアップをしてくれるだけで問題ない。
さてさて、みんながそれぞれ魔域の中に散っていった所で、俺もそろそろ行くとしようか。
まずは、魔域の調査をしながら、Sクラス上位の魔物でも狩って行くとしよう。
流石に、ESランクやSSSランクの魔物は、俺とミランダ以外じゃまだ勝てないからね。
SS+ランクぐらいなら、ケイたちなら4人いれば問題なく倒せるだろうけど。倒せない相手に挑ませるつもりは無い。
自分よりも強い者に挑んで全力を出して戦った経験?
そんなモノは俺がいくらでも経験させてやれる。
どうやっても倒せないと判っている魔物に挑むなんて、単なる自殺行為でしかない。そんな訳で、弟子の訓練をするにあたって、倒せない魔物は予め排除しておくのは当然だ。
まずは魔域に入って、探査魔法で魔物の位置を確認する。
やっぱりと言うか当然なんだけども、ヒューマンの大陸の魔域とは魔物の数とレベルが桁違いだ。
ESランクやSSSクラスの魔物が、探知した限りで30匹以上いる。
ていうかこの魔域はとんでもなく広い。ユグドラシルなどこの大陸にあるほかの国とも接している大陸の4分の1を占める魔域の大きさは地球のユーラシア大陸よりもはるかに大きい、ていうか倍どころじゃない広さがある。
つまりは、俺が探査できているのは魔域の入り口のほんの一部に過ぎないのに、Sクラス上位の魔物がゴロゴロしている訳だ。
そもそも、予めある程度狩っておいたはずなのに、もうこんなにいるのかよ。
ミランダの方でも討伐を始めているようだけど、急がないとみんなの方に行ってしまう危険性もあるからサッサと討伐するとしよう。
一番近い反応に向けて転移し、カラミティ・ヒュドラを黙視すると同時に、アイン・ソフ・オウルで瞬殺。
時間をかけている暇はないので即座に次の標的の元に転移して瞬殺して行く。
そんな訳で、盛り上がりも無く周辺の脅威は排除完了。
後は、俺自身も魔域内部の調査を勧めながら、みんなの様子を見守っていく。
さて、まずはケイたちのチーム。ケイトユリィ、それにキリアとディアナのペアで組んでいる。
今はケイとユリィが探査をして、キリアとディアナが警戒をしているみたいで、ついでに、さっきからひっきりなしに魔物が襲ってきているようだけど、Aランクまでの魔物だからか、ケイもユリィも特に問題なく探査をしながら魔物も倒せている。
だけども、流石にSS+のカオス・ディールが現れて調査を中止して一緒に戦ている。
ふむ。あれなら多分キリアとディアナだけで倒せたと思うんだが、だけども、流石に同格の敵の近くで無防備に調査に気を割いているのは危険だし、この場合は妥当な判断なのかな?
4人の連携も完璧で、危なげなく倒した所でその場に転移。
「うん。戦いの方は問題ないね。ただ、ちょっと探査魔法の密度が甘いかな。魔物の位置や魔域の魔力の密度だけでなく、魔域のありとあらゆる情報を洗い出すように探査魔法を明確にイメージして」
この魔域は、ユグドラシル側で例の遺跡があった場所だし、いくらなんでも似たような遺跡が他にも転がってるなんて事はないと思うけど、念のために調べて起きたいのは事実だけども、それだけじゃなくて、表層的な情報しか集められないんじゃあ魔域に万が一異変が起きていた時に、それを察知する事は出来ない。
「探査魔法は、ありとあらゆる情報を複合的に集められなければ本当の意味で使いこなせたとは言えないから、俺の魔法を参考にして、魔法式を展開してみると良い」
ただ、複合的な情報の処理は当然だけど結構負担も大きいんだよな。
とは言え、この程度の魔法で根をあげていたんじゃあ、アイン・ソフ・オウルとかみたいなシャレにならない超級複合魔法は使いこなせない。
実はアイン・ソフ・オウルをはじめとしたアストラル魔法も彼女たちはそろそろ使えるようになっているので、教えようかと思っているんだけども、今回はその下準備もかねての実戦訓練になりそうだ。
「これは、難しいですね・・・・・・」
「情報の処理が追いつかなくなりそう・・・・・・」
はじめは難しくても、慣れれば普通に使えるようになる。次のステップに進むためにも頑張ってもらわないと。




