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「転輪の聖杯が瘴気を抑えていたと?」

「ええ、どうやらこの地は元々人が住める場所じゃアなかったみたいですね。元々の理由は判りませんが、高密度の正気が覆う不毛の地だったみたいですです。それを、この転輪の聖杯を使う事によって瘴気を抑え、人の暮らせる大地にしたのが、このレイザラムの始まりの様ですね」


 転輪の聖杯が元に戻ったのと、復元の魔法によってその情報を読み取った事によって判ったのは驚くべき事だった。

 この神器は聖域の霊力を国中に満たしていたのではなく、瘴気に汚染されたこの地を浄化し続けていたのだ。いや、聖域で浄化された瘴気は霊気となって国中を満たしていっていく様になっていたので、ある意味では間違いでもないかも知れないけど。

 そして、聖域とは元々この国の大地全てを覆っていた瘴気を集め、浄化する為に造られた隔離場。そこで転輪の聖杯は未だに瘴気の浄化を続けていたのだ。

 転輪の聖杯の浄化能力は信じられない程に高い。仮に重度の瘴気に侵されて、明日とも知れる状況の重傷であっても一瞬で回復させてしまう程の、極めて高い浄化の力を宿している。にも関わらず、建国から何十万年と浄化し続けながらも、この地を覆っていた瘴気を未だに浄化しきれていないのだ。


「一体過去にこの地で何が起こったのか、どうしてそれほどまでの瘴気が生み出されたのかは判りませんが、もしもこのまま転輪の聖杯が失われたままだったら、この国はそう遠くなく瘴気に呑まれてしまっていたでしょう」

 

 瘴気とはその名の通り、穢れた気の事を指す。

 どうやらかつてはこのレイザラムの国土全域が、瘴気に汚染されていたらしい。

 建国王は転輪の聖杯を持って瘴気に汚染された大地を少しずつ浄化していき、その上で浄化しきれない瘴気を聖域に封印し、転輪の聖杯の力を持って浄化し続けて来たのだ。


「まさか建国史にその様な事が、それに、建国以来浄化し続けてなお浄化しきれぬほどの瘴気が、聖域に封じられていたとは」

「おそらく、建国王もあえて真実を残さなかったのだろう。」


 多分そうだろう。自分たちが暮らす大地が元々は正気に穢されていたなんてワザワザ後世に伝え残す必要はないし、いくらなんでも、何十万年と浄化し続けてなお、浄化しきれない程の瘴気が渦巻いていたなんて言うのは想定外だったと思う。

 精々、数千年から数万年で浄化しきれると思っていたハズだ。

 と言うか、転輪の聖杯の浄化能力をもってして、何十万年もかけてなお浄化しきれないと言う事実が信じられない。


「既に転輪の聖杯を聖域に戻してあるので、大丈夫だとは思いますが、万が一何か異変が起きた時には即座に対応した方が良いでしょう」


 と言ってもどうやって対応するんだって話だけど、まあ、瘴気の浄化の魔道具はそう珍しいモノじゃない。転輪の聖杯程のそれこそ神器と呼ばれるような性能のモノはありえないけど、ある程度の浄化能力を持った魔道具を用意しておけば、何かあっても対応できるはずだ。

 

「うむ。その上でアベル殿に頼みがあるのだが、レイザラムを使って浄化の魔道具を作ってはくださらぬか」


 そう来たか。確かに俺は転輪の聖杯の浄化システムも知っているし、レイザラムを使えばレプリカを造る事も不可能じゃないと思う。

 流石に、性能については千分の一程度のモノが出来ればいい方だと思うけど、それでも浄化の魔道具としては破格の性能になるハズだ。


「判りました。出来るだけ急いでみます」

 

 国宝の神器のコピーを作るとか、場合によっては色々とマズいなんてもんじゃないのだけど、今回は王家直々の依頼だし問題ないだろう。

 て言うか、何かついて早々面倒事に巻き込まれて、しかもまだしばらく解放される気配がないんだけど、これって絶対に俺の所為じゃないよね?


 

 実際の所、レイザラムの加工自体は何度も行っているけど、魔道具に仕上げるのは初めてかも知れない。

 さて、転輪の聖杯のレプリカを作ろうかと言う所で、ふとそんな事に気が付いた。

 因みに、魔剣や聖剣の類はいくつか作っているけれども、これらのモノは厳密には魔道具とは異なるのであしからず。

 まあ、原理としては基本同じといっていいんだけどね。魔剣や聖剣は使用者の魔力によって力を発揮するのに対して、真道具は動力として魔石を使う違いがまあ、説明としては一般的だろう。

 ただ、流石に魔石の魔力だけで稼働しているわけでもなかったりする。転輪の聖杯にしても、数十万年、下手をすれば百万年近くもの間、休まずに浄化を続けてきたのだ、オメガランクの魔石を使っていても、さすがに魔力が尽きてもおかしくない。

 あれはどうやら、勝機を浄化する際に、浄化した瘴気から魔力を抽出して回収する機能がついているらしく、つまるところ勝機がある限りエネルギー切れを起こす事はないようにできていた。

 なんでそこまで凶悪な浄化システムが作られたのかとか、逆に不思議になるんだけども、実際にこの国を作るためには必要不可欠なものだった訳だし、いったい何がとどうなっているのやら・・・・・・。

 本気でこの国の建国史を調べてみたくなってきた。


 まあそれはさておき、早速作ってみよう。

 作業自体は極めて簡単。転輪の聖杯の浄化機能の魔法陣、編成陣は頭の中に入っているので、錬金術でそれを丸ごとレイザラムのインゴットにに刻み込んで聖杯としてつくり上げる。、動力となる魔石、今回はレジェンドクラスのものををセットして、魔力バイパスをつなげれば完成。

 その上で、浄化の聖魔法を最大魔力で注ぎ込む。そうすると刻み込まれた魔法陣が浄化の聖魔法をそのまま吸収し、自らの性質として組み込み、動力の続く限り浄化を続ける魔道具として完成する。

 因みに、さすがに常時機能を展開し続けるなんて無駄な仕様ではなくて、当然だけども効果をオン・オフさせるスイッチ機能もついている。


「作るには作れたが、正直これはキツイな」


 簡単にできたように思うかもしれないけれども、一個作るのに魔力を全部使いきっているのだ。

 転輪の聖杯のオリジナルの修理よりはマシだが、一個の魔道具を作るための労力としては破格に過ぎる。

 て言うか、レジェンドクラスなんて俺を含めて5人しかいないのだから、その全魔力を注ぎ込まないと作れない魔道具なんて、つまりここの世界で5人しか作れないと言う事だ。

 ついでに、連日全力で魔力を消費しているのがさすがに結構堪えてきてる。

 これも当然だけども、自分の全魔力、或いはその数倍もの魔力を行使して使う魔法は、通常の魔法よりもはるかに負担が大きい。魔域の活性化などの非常時ならともかく、普段ならばできれば遠慮したいところだ。


「とりあえず渡しておくか」


 まあそれはともかく、出来たのだから早速持って行く事にする。

 面倒事とは出来るだけ早く係わりを断ちたいのが本音だ。と言うか、本題のハズの遺跡調査の為に、レイザラムの発掘済みの遺跡を調べるのすらまだできていない。

 多分、レギン王たちの方で既に調べてくれているハズだけども、この調子じゃあ何時になったら始められるか判ったものじゃない。


「失礼。浄化の魔道具が完成したので持って来た」


 レギン王の執務室に出向いて、デスクワークに奔走している王に出来たばかりの魔道具を渡す。


「おお、もう出来たのか。これで万が一の時の保険も出来た。助かるぞアベル殿」

「いや、今回は俺の方も良い勉強になったから」


 魔道具作りの勉強として考えれば、今回の件は本当にためになったのは事実だ。 


「それで、これはいくらくらいになるのかな?」

「レジェンドクラスの魔石も使ってるし、100億リーゼくらいはすると思うけど」


 さてここで当然のお話なんだけども、俺は魔道具の成句を依頼されたのだから、正当な報酬を受け取る権利がある。ついでに、国の至宝を直したのだから、そちらの報酬も受け取る権利と言うよりも義務がある。

 と言うか、レギン王としては国の威信の為にも正当な報酬を支払う必要がある訳だ。


「では、転輪の聖杯の修理費用と合わせて500億リーゼ。今日の内に入金させてもらおう」


 日本円で5000億とかぼり過ぎとか思うかも知れないけど、正当な報酬額だ。

 むしろ、これ以下の額だったら、正当な評価も出来ないのかとこの国が侮られる事になる。


「ああ、ところで、スミス殿はどうした?」


 そんな訳で報酬はシッカリと頂くとして、昨日までは王と一緒に頭を悩ませていた前王の姿がない。


「ああ、父上ならばようやく厄介事がかたず居たと、ご自分の鍛冶場に戻ったよ。アベル殿に見せられた魔剣を超える物を打ってみせると張り切っていたよ」


 つまりは、なんとしてもレイザラムを手に入れようと・・・・・・。


「それならそれで良い。俺たちの方は、そろそろ遺跡調査を始めさせてもらうつもりだが」

「それで構わない。既に国内の遺跡については調べが終わっている。ケイに資料を渡してあるから、明日からでも始められるだろう。ただし、途中で父上が乱入してくる可能性はあるが」


 ああその可能性はかなりありそう。

 まあ、とりあえずはいきなり湧いてきた厄介事から無事に解放された事を喜ぶとしよう。




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