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「なに、大した事ではない。かつての聖域の管理者どもの不手際によって壊れてしまって神器。転輪の聖杯を直してもらいたいだけじゃ」


 それの何処が大した事ないと?

 その転輪の聖杯がいったい何かは知らないけど、神器って間違いなく国宝だよね?

 何がどうして壊れたのかも非常に気になるけど、それを俺に直せと?


「その転輪の聖杯とは?」


 後、神器とか称されているのが非常に気になるんだけど。


「うむ。転輪の聖杯はこのレイザラム建国の時より伝えられる国の象徴の一つ。我らドワーフの至宝だ。建国王はこの転輪の聖杯をもってこの国を築いたと伝えられておる」


 建国の神器と来たよ。


「それ程の至宝が壊されたのですか?」

「うむ。元々、転輪の聖杯は聖域の中枢に安置されていてな。聖域の霊力を集めて国中に行き渡らせる役割を担っていたのだ。だがその力を俺が欲望の為に利用しようとした管理者たちの暴挙によって壊されてしまっていたのだ。しかも、その事自体アベル殿に管理者を一掃する手伝いをしてもらうまで隠されたままだった。もしもその事実を前もって知っていたなら、もっと早くにアヤツら極刑に処していたものを」


 どうやらかなりお怒りの模様。

 国の至宝が身勝手な欲望で壊されていたんだから当然だけど、て言うか、俺の時にも随分高圧的なバカだったけど、特権階級にあるからって本当にずに乗ってたんだなアイツら・・・・・・。


「それにしても、壊されたのが判らなかったのですか?」


 聖域の霊力を国中に行き渡らせる。そんな重要な役割を担っていたのだ。壊れてしまえば、今まで国に満ちていた霊力がなくなってしまう事になる。すぐにオカシイと気付くハズだが?


「流石に壊れて何年も経っていれば異変に気付いただろうが、壊されたのはほんの2年程前での、霊力の消失に気付くほどの影響がまだ出ていなかったのじゃ」


 つまり、どの道後数年もすれば管理者たちはお終いだったと。

 俺があんな茶番をする必要もなかったんじゃないか?


「いや、アベル殿のおかげで助かったのは事実じゃ。何と言っても、転輪の聖杯が失われた影響が出始める前に、壊れてしまった事実を知る事が出来たのは大きい」

「それに、アベル殿の力を借りれば、直せることも判ったしな」


 それはつまり、直すのには最低でもレジェンドクラスの超越者レベルの魔力や闘気が必要になると?


「転輪の聖杯を修復するには、レイザラムを完璧に鍛え上げられる力量が必要なのだ。それ故に、我はレイザラムを鍛える修行をしたかったのだが、考えるまでもなく、我がそこまでの力量に至るまで待っている猶予はない。今すぐにでもアベル殿に修復してもらい、聖域に戻さねばならね」


 これまで何十万年と国を支え続けて来た神器だ。それが失われた影響がどんな風に起こるか想像も付かない。だからこそ、最も早く確実に修復できる方法をとなるのだそうだ。


「レイストリア殿たちには頼まれなかったのですか?」


 だけど、それなら他のレジェンドクラスの超越者たちに頼んでも良かったと思うんだが、


「かの御仁たちでも、レイザラムを自ら鍛えた事など御座らぬよ」

「そんな事が出来るのは、遺跡から多くレイザラムを発見されたアベル殿だけだ」


 スミス前王とレギン王に苦笑されてしまった。

 それはそうか、レイザラムはこの世界で最も希少な金属だ。地球のファンタジーにおける神の金属とされるオリハルコンと同じような物で、その希少性はとんでもなく高い。

 その割に、遺跡からは当たり前の様に出で来るし、10万年前の装機竜人などには当たり前の様に使われているんだけどね。当時はどういう認識をされていたのか非常に気になるんだけど・・・・・・。

 何十万年もかけて掘り尽されて、今では希少だとかそんな事はないと思うんだけど、だとしたらどうして昔はそんなに大量に使われていたのかがどうしても気になる。


 いや今はそれよりも、問題は俺がその転輪の聖杯を修理するしかない様子な事だ。

 ココで、だが断るってのはどう考えても無理だ。

 それにしても、何が大した事はないだ。本気で国の命運が係った一大事じゃないか。


「そう言う事ならお受けしますが、確実に修復できるとは限りませんよ」

「それで構わん。元々無茶を言っているのは我らの方なのだ」


 そう言ってもらえると助かる。て言うか、なんとしても修復してくれなんて言われても出来るかどうかなんて判らない。

 その上、国の命運すら係っているかも知れないのだから、直せなかったじゃ済まないとは本気で勘弁して欲しい。

 それに、まずは実物を見てからの話だけど、建国に使われた神器とか、下手したら余裕でヒュペリオンとかよりも更に上位の魔道具とか、直せるとはカケラも思えないんだけど・・・・・・。


 何にしてもまずは見てみないとって思っていたら、何時の間にか目の前にひび割れた杯が置かれている。

 間違いなくこれが転輪の聖杯だよな。壊れていても目を離せない圧倒的な存在感がある。これはもう一つの完成された芸術品と言って良いんじゃないかな。


「これが転輪の聖杯じゃ。アベル殿に預ける故、どうかよろしく頼む」

「これ程の神器を治せるか、自身はありませんが、出来得る限りを尽くします」


 正直、見た瞬間にこれは無理だと思ったけど、何もしないまま匙を投げる訳にもいかないだろう。

 とりあえず、魔道具としてどんな機能を持っているのか、それだけでも判れば或いは何とかなるかも知れない。自信はないけど、やれるだけの事はやらせてもらうとしよう。



「ダメだ。サッパリ判らん」


 俺の部屋として宛がわれた王宮の一室で、昨日からひたすらに転輪の聖杯を調べているのだけども、どんなモノなのかカケラも情報を得られない。

 それ以前に、そもそもこれが何で出来ているのかすらもサッパリ判らない。

 はじめはレイザラム製かと思ったんだけども、調べてみればまったく別の金属だし、オリハルコンでもミスリルでも、ヒヒイロカネでも神珍鉄でもない。

 ぶっちゃけ、丸一日かけて何一つこの転輪の聖杯についての情報を得られなかったのは結構ショックだ。

 て言うか、このままじゃあそもそもどうやって修理すればいいのかも判らない。


「これはレイザラムを鍛えられるからってどうにか成るような代物じゃないぞ」


 単にひび割れてしまっているのを元に戻せばいいだけじゃない。魔道具としての機能も回復させなければ意味がない。

 そうなると、単に魔力で元の姿に戻せばいいと言う訳にもいかないだろう。


「となると、出来るかどうか判らないけど、やってみるしかないか」


 正攻法でどうにかなるとは思えないので、搦め手と言うか、斜め上を行く方法でどうにかするしかないだろう。


「2年以上の時間をさかのぼるか、しかもこれ程の魔道具のとなると全魔力を注いでも可能かどうか判らないけど」


 そう言いながら全ての魔力を込めて魔法を発動させていく。恐らく全ての魔力を注いでも足りないのは判っているので、魔晶石を使って魔力を回復しながら、今の俺の全魔力の10倍以上を込めて魔法を発動させる。

 発動させる魔法は『再生』。時間を遡り、転輪の聖杯が壊される前まで時間を戻し、その状態に戻す。

 これは人に使えば、例えば病気になる前の体に戻す事も可能だし、80代の老人を20歳の若者に戻すことも出来る。ただし、この場合、20歳から80代までの間生きて来た記憶もすべて失われる。それも当然で、20歳の体に再生されるのだから、そこから80歳になるまでの間に脳が記憶した情報や、体に刻み込まれた情報なども全て無かった事に、経験していなかった事になるに決まっている。

 そんな訳で、決して万能の魔法ではないのだけども、こうして壊れた魔道具などを修復するには最適な魔法とも言える。

 なら、壊れたのが判った時に最初からこの国でやっておけば良かったのにとも思うかも知れないけど、この魔法は10万年前の転生者が古文書に残した失伝魔法で、しかも使う為には莫大な魔力が必要なので、そう簡単にはいかないのだ。

 現に今こうして魔法を発動している訳だけども、ほんの少しでも集中力を乱せば失敗してしまうだろう。

 対象の記憶を読み取り、2年以上前の、壊れる前の元の姿である時まで遡る。そして、その時の情報を今のあるべき姿として置き換え、造り替える。

 魔法の発動自体は一瞬。それ故にその一瞬に想像を絶する程の集中力を必要とされる。


「何とか成功したか・・・・・・」


 魔法が成功し、目の前には目を見張るほどに美しい芸術品とも言える転輪の聖杯が、元の姿で佇んでいる。

 そして、元の姿に戻り本来の力を取り戻した事で、ようやくこの魔道具の詳細を理解する。

 これはまさしく神器と呼ぶに相応しいモノだ。単なる魔道具などと言う次元に収まるモノじゃない。

 正しく、この転輪の聖杯があったからこそ、ドワーフはこの地に国を築く事が出来たのだ。


「神器を壊していたのが発覚した時点で終わりだったろうけど、これで聖域の管理者たちは完全にアウトだな」


 これの詳細を知らされたら、今はまだ生きていても次の瞬間には死刑になるのが目に見えている。

 本当にバカな事をしたものだし、完全に自業自得だ。

 それに彼らがどうなった所で俺には関係ないので、そこで思考を切り替えて、早速修復の終わった転輪の聖杯をレギン王とスミス前王に届ける事にする。


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