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そもそも、10万年前の転生者たちはVRMMOとしてのこの世界を前世で知っていたそうだ。
だとしたら、そのゲームの中でネーゼリアへ侵攻してくる魔物の世界についての詳細な情報を得ていたとしてもおかしくはない。
いや、それ以前に、彼らはゲームの中で魔物の世界への逆侵攻をしていたのではないだろうか?
VRに限らず、MMO系のゲームにも大半の場合はある程度のシナリオが存在する。
完全にプレイヤーの自由に任せたゲームもあるにはあるが、歩いてどのシナリオに沿ってプレイヤーが行動してくれないと、運営側がゲームの流れをコントロールできないと言う面もあるので、行動自体はプレイヤーの自由としてもある程度のシナリオは予め決められているモノだ。
その上でこの世界を舞台としたゲームの展開を考えてみると、まず、対人戦闘、プレイヤー同士の戦闘については基本的に無視したシナリオが組まれているだろう。
別に対人戦闘に夢中になっても、プレイヤー同士による戦争、大規模戦闘をしても良いけれども、その場合は、その間に拠点が壊滅しているとか取り返しのつかない事になっているとか言う展開だろう。
実際、この世界、しかも十万年前のカグヤが造られる前の状況をペーストしたゲーム世界だったなら、余程のパワーインフレでも起きない限り対人戦闘なんてしている余裕はないだろう。
いや、10万年前の転生者たちのありえなさを考えると、普通にゲーム内でそんなパワーインフレが起きていてもおかしくないかも知れないけど・・・・・・。
「Ωランクの魔物よりも、更に強力な魔物ですか」
「ああ、10万年前の転生者たちは、転生前の日本でこの世界をゲームとして疑似体現していた。その中で魔物の世界への逆侵攻をしていた可能性もある。そして、その中でΩランクよりもはるかに強大な魔物と戦っていた可能性も」
て言うかこの世界、と言うよりもあの魔物を相手にしたゲームと言うのも無理があると思うんだけどね。
チマチマ攻撃して少しずつダメージを負わせていくとか、強力な防御結界に鉄より硬い皮とか鱗の装甲を持っている魔物相手には無理があるし、ジエンドクラスの魔物なんて普通なら、大人数での協力プレイで何とか倒すようなレベルの相手だと思うけど、実際にはどれだけ人数が居た所で防御結界を敗れる攻撃が出来なければ意味が無い訳だし。
いや、ゲームなら、周りの被害とか、戦闘の影響で星が砕けかねないとかそんなのをまるっと無視して、大人数で一斉攻撃を仕掛けて、少しずつ防御結界を削って行ったり、魔力とかの消費の大きな攻撃を敵に誘ったりして魔力切れを狙って、結界が切れた所で袋叩きにするとか言った、無茶と言うか現実には不可能な方法での討伐も可能か。現実では無理だし、ゲームの中でも相当大変どころじゃないと思うけどな。広域殲滅型の攻撃をしてくる魔物とか普通にいるし、そのクセ威力が桁違いなのももう当然の様なものだし、実質即死攻撃を常時してくる様なものだからなこの世界の魔物とか・・・・・・。
そう言う意味では、この世界に似たゲームっていったいどんなのだったのか果てしなく興味があるんだけど、まあそれは置いておいて、
「だから、彼らは魔物の世界がどんな所であるかを知っていたからこそ、あえて手を出さなかったと言う可能性もある」
或いは、下手に魔物の世界に手を出すとΩランクよりも上位の魔物が此方に侵攻して来るキッカケになってしまうとか、そんな可能性も十分にありそうだ。
「まあ、その辺りも含めて、全部カグヤに答えがあるだろうから、意地でも行かなきゃいけなくなったけどね」
「カグヤね。行く手段も転生者が残した宇宙船を見付け出さなければムリだし、見付け出せたとしても辿り着くのは命懸け。本当になんでそんな場所に重要な秘密を全部隠したのかしら」
「それは、迂闊に漏れたりしたら危険だと判断したからだろ。それと、本当に真実を知りたいのならどんな手を使ってでも辿り着いてみせろって事だと思う」
真実がなんなのか知らないけど、もうこれで辿り着かない訳にはいかなくなったのも事実だ。
「10万年前の転生者からの挑戦状って事ですか」
「と言うより、この程度もクリア出来ない様じゃあ真実を知る資格もないってとこだと思う」
ザッシュの言う挑戦状よりは、真実を知ればさらに苦難の道を歩く事になるのだから、せめてこの程度の試練を掻い潜れないようじゃ話にならないって感じだろう。
「なら、他のレジェンドクラスの方々にも事情を説明して、助力していただくのはどうですか?」
「それも考えたけどね。多分、それでも戦力は足りないし」
ぶっちゃけ、本気でカグヤに辿り着きたいと思うなら、ジエンドクラスにまで至らないと無理だろう。
何とか宇宙の凶悪な魔物たちの襲撃を掻い潜ってカグヤに辿り着いても、一定以上の実力がなければ中に入れない様にしてあったりとかしてそうだし・・・・・・。
それ以前に、本気で運良く魔物の襲撃を掻い潜ってとか、ジエンドクラスの実力がないと本気で奇跡でも起きないと無理だろう。
前に寄ったカグヤの観測基地の遺跡に残されてた情報を見て、本気でこれ行けるのかって頭を抱えたのは良い?思い出だよ・・・・・・。
「レジェンドクラスの超越者が5人でも戦力が足りないんですか?」
「ぶっちゃけ、ジエンドクラスの実力がないと無理だと思う」
「それってムリじゃ」
うん。普通に考えて無理ゲー過ぎるよね。でも、
「まあ、ティリアのご先祖様は実際にカグヤにまで行ったみたいだし。絶対にムリとか、どうする事も出来ないって訳じゃないよ」
て言うか、彼が残した遺跡に行けば何とかなるかも知れないのだけども、ココで彼に頼るのは納得が行かない。
それに、多分残された遺跡に行っても実力がなければカグヤに辿り着けないのは変わらないと思うし、カグヤで知った事実が残されているなんて事もないだろう。
手助けはしても、自分で辿り着けと真実を残すような無粋なマネはしていないだろうから。
「そう言えば、そのご先祖様の残した遺跡にまだ行ってないけど」
「ああ、まだ早いと思ったんだけど、こうなったらそうも言ってられないから、まずはその遺跡に行ってみる事になるかな。まあ、シュトラの結婚式の後だけど」
「すぐに行かないんですか?」
「それはそうさ、俺たちはユグドラシルの次期国王の婚姻を祝うために訪れているんでもあるんだから、それが終わるまで国を出るなんて出来るハズがない」
「結婚式が終わるまで、後3カ月はユグドラシルに滞在する事になるわよ」
この辺りも面倒臭い政治的な駆け引きとか裏事情とかがあるんだけども、まあ、それを抜きにしても結婚する新郎新婦2人の妹のユリィとケイが居る時点で、少なくても式が終わるまではユグドラシルに居るのは当然となる。
「それに、式が終わったらそのまま今度はレイザラムに行かないといけないし。実際問題、今回の件で色々と動かないといけないにしてもすぐって訳じゃないんだよ」
これまた、娘を送り出す為にユグドラシルを訪れるレイザラムの王、つまりはケイの父親に付き添ってレイザラムに向かわないといけない。
「そんな訳で、しばらくはやる事は特に変わらない。また遺跡調査を続ける事になるな」
実の所、シュトラたちとしてはこの忙しい時に、更に頭の痛くなる問題を増やすようなマネは止めてくれって所だろうけれども、先送りにしていても問題の解決にはならないし、ひょっとしたら過去の遺跡についての情報が残されている可能性もあるので、結局は遺跡調査を再会する事になった。
「出来れば、次の遺跡に、10万年前以前の遺跡についての情報が残されてるなんて、都合の良い展開になってくれると嬉しいんだがな」
「流石にそれは都合が良すぎるでしょ」
俺もそう思うけど、こうもメンドクサイ事が続くと、たまにはご都合主義な展開があってもいいんじゃないかなと思う。
「後それと、何が何でもカグヤに行かなくなって来た気がするから、場合によっては修行をもっと厳しくするからその辺も覚悟しておいて」
これも当然のハズなんだけども、みんなして一斉に悲鳴を上げる。
「それは勘弁してもらえませんか。そんなことしたらカグヤ行くとか以前に、私たちが死んでしまいますよ」
何かアレッサが必死に懇願して来るし、みんなも頷いてるのはどうしてだ。
「いや、死ぬとか大袈裟な。みんなが後どのくらいまで力を付けられるかの確認も含めて、一度厳しい修行をするべきかなと思っていたから、ちょうどいいかなって思っただけなんだが・・・・・・」
ぶっちゃけ、俺を含む転生者の4人が、今の所ジエンドクラスに至れる可能性があると思う。
だけどそれも確実じゃないし、これからの事を考えると、端目にみんなの限界を知っておくに越した事はないだろう。
実質問題として、これから更に戦いが激しくなった場合、着いて来れない、参加自体が命の危険に、死に直結するような事が起きない様に、みんなの実力を、何処まで強くなれるのかを早めに知っておいた方が良いと思う。
「そう言う事、でもそれは確かに必要な事かも知れないけど、同時にとても残酷よ」
それは言われなくても判っている。
だけど、現実問題として、今までも俺たちは一緒のパーティーメンバーではあったけれども、共に戦う仲間とは言えない関係だった。
それは、ミランダを除くみんなが俺の弟子と言う関係なのもあるけれども、余りにも力の差があり過ぎるからでもあった。
今では、ミランダでさえも共に戦うには力不足なのだ。
そして、その差はミランダがレジェンドクラスに至るまで縮まる事は決してない。
もし、万が一にも俺の戦場にみんなが一緒に居たりしたら、戦いの余波だけでみんなを殺してしまう。
正確には、みんなの実力では俺の戦場に居る事すら不可能なのだ。戦いが始まった瞬間、その場を支配する俺と敵の力の奔流と圧力、ミランダですらもそれに耐えられないだろう。
同じ戦場に立つ事なんて出来ない程の力の差が俺たちの間にはある。
勿論、それはレジェンドクラスの魔物を相手にする時にはの話だ。
Sクラスの魔物を相手にする戦いならばいっしょに戦う事も出来る。だけど・・・・・・。
いや、だからこその装機竜人グングニールなんだけどね。
アレさえあればみんなもレジェンドクラスに対抗する事も可能なハズ。
そう言う意味では、そろそろ本格的にグングニールを駆っての戦闘シュミレーションを始めるべきかな。幸いな事にレジェンドクラスの魔物のデータはイヤと言うほど集まったし、それを基に実戦を想定したシュミレーション訓練をしておくか。
いきなりまたレジェンドクラスの魔物が出て来るとかないと思いたいけど、実際の所、新しくレジェンドクラスが生まれたら、それに反応してレジェンドクラスの魔物が湧いて出る理由も謎な訳だし、今回は運良くSクラスの魔物までしか出てこなかったけれども、何かの拍子でレジェンドクラスの魔物が湧いて出てくるような事が起きないとも限らないしね。
不安になり過ぎてるだけならいいんだけど、ホント・・・・・・。
「ジエンドクラス、Ωランクよりも更に上の魔物が存在する可能性すら出て来たんだ。自分たちの力は正確に把握しておかないといけない」
今まで、数百万年を超える歴史の中で一度たりとも現れた事はないバスなのだから、今になって存在する可能性が判ったからって、そんなのが現れるなんてないと思いたい。
・・・・・・と言うか、万が一にもそんなのが出てきたりしたら、その時点で成す術もなく終わりだ。
現状じゃあヒュペリオンなどの対ジエンドクラス用兵器を総動員しても、Ωランクの魔物なんかが現れでもしたら対抗できるかすらも怪しいし、その時は俺だって河童氏から使える兵器をかき集めて総力戦に持ち込むしか手はないんだけどね。
「まさか、現れるかも知れないとか思ってるの?」
「まさか、流石にありえないと思ってるよ」
うん。ありえないハズなんだけども、何かフラグが立った気もしてならないんだよね。
まさかとは思うけど、ホントにそんな即死以外ないフラグは勘弁して欲しいよ。
俺が立てたとかはないよね?




