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「魔物の世界を亡ぼす為の兵器・・・・・・。そんなモノが・・・」
「それは確かに、容易くどうするか決められるようななモノでは無いな」
俺の報告にどうすればいいのかと会議室は静まり返る。
今、この場には各種族の王とのホットラインも設置されている。つまりはヒューマンを除く全種族での話し合いの場となっている。いや、この場合はヒューマンの代表は俺か?
いずれにしても、世界中の王が集まったサミットの様なものだ。
後、それからレジェンドクラスのメンバーにも参加してもらっているので、本気で世界の生末を決める会議と言っても過言じゃない。
「例の魔物の異常発生は、その兵器が完成した瞬間、向こうの世界への攻撃システムが一部稼働した事が原因で、現在は停止しているので、同じ事が起こる心配はありません」
魔物の世界に侵攻、もしくは攻撃をしようとするならば、こちらから向こう側へのゲートを開かなければならない。
その次元干渉システムと完成した兵器との接続時の余波によって起きたのが、あの魔物の異常発生だった訳だ。
「一つ聞くが、その兵器は確実に魔物の世界を亡ぼしえるのか?」
「可能性はあると思いますが、断言はできません。魔物の世界に着いはて情報が少なすぎるので、この兵器の破壊力ならば確実と断言しえないのです」
そう、何よりも問題なのが、本当にこれで魔物の世界を亡ぼせる保証が無い所だ。
「逆にこちらからの攻撃によって情勢に何らかの変化が起きる可能性もあるか」
「どう変化するかは不明だが、封印に影響を与えてしまう可能性は高いだろうな」
そして、魔物の世界を亡ぼし、魔物を全滅させられる保証もない以上。攻撃によって状況が変化した時、その変化が致命的なものになってしまう可能性もある。
例えばの話、あの兵器。次元転移式全域殲滅兵器ウロボロスをもって魔物の世界を攻撃したとして、その結果、攻撃を耐えたΩクラスのモノのが大挙して襲来してくる。そんな可能性すらあるのだ。
「それに、確かにこれまで一度として魔物の世界への逆侵攻、或いは攻撃が成されなかった理由も気になります」
「確かに、現に攻撃可能な兵器が開発されているにも拘らず。今まで一度たりとも行われていなかった理由は何なのか」
「開発に三十万年もの時間が必要だったのなら、単に開発したとしても忘れ去られてしまっただけでは」
「その場合は、同様の兵器、或いは開発工場が他にもある可能性も」
うん。どうなんだろうね。
ウロボロスの場合は、この世界を100億回亡ぼせるとか言う、とんでもないエネルギー量だからこそ開発に30万年もの時間がかかったんだと思う。
だけど、例えば単に魔物の世界に逆侵攻をかけるゲートを開く為だけのシステムの開発なら、それ程の時間はかからないんじゃないだろうか?
例えばの話、10万年前の超絶チート転生者なんかは、Ωランクの魔物だろうと余裕で瞬殺していたみたいだし、こちら側に侵攻してきた魔物を倒すより、相手の世界に逆に乗り込んで蹂躙しまくる方が、周りの被害とかを一切考えなくていいのだから戦いやすいし楽なハズだ。
それなのに、逆侵攻はしないまま此方の世界で迎撃するだけで、カグヤの封印によって魔物の脅威から一時的に世界を護る。これまでと同じ方法を取った。
今更の様だけども、確かに考えてみたらおかしい事だらけだ。
魔物の世界からの侵攻は数百万年以上も続いているのに、それだけの時を唯侵略を受けるだけでいること自体がおかしい。これまでただの一度たりとも反撃を仕掛けていないこと自体が、どう考えてもおりえない、信じられない程の異常さなのだ。
「逆侵攻、或いは魔物の世界に反撃してこなかった理由か・・・」
「我らでは考え着きもしない事だが、確かに、歴史上にはそれを可能にするほどの超絶者が現れた事が幾度となくあったハズ」
「彼らはあえてそれをしなかったのか、或いは、彼らをもってしてもそれは不可能だったのか調べてみる必要がありますね」
本当に何一つ判らなくてもやっとする。
多分、カグヤに行けばこれに対する疑問も全部答えが出るんだろうけど、なんていうかこの世界、思っていたよりもずっと面倒臭そうなんだけど・・・・・・。
「とりあえず、今はこの兵器、ウロボロスをどうするかを決めましょう。まずはそれを先に決めてしまわないと」
「使うか使わないか、その選択をしてしまうのが先か」
「決めると言っても、使うなど論外だと思うが」
「確かに、使うにはあまりにも不確定な要素が多すぎる」
「それに、もしもその攻撃の為の次元通路がキチンと開かれなかった場合、世界を100億回滅ぼすほどのエネルギーはこの世界で解放される事になるのでしょう」
「確かに、魔物の世界に逆にゲートを開ける確証がない以上。迂闊に使うのは自殺行為か」
「仮に、全てが上手く言って攻撃に成功し、魔物の世界を亡ぼせたとしても、その後にどんな事態が起こるか判らぬしな」
「では、ウロボロスは使用せず。そのままアベル殿に保管してもらう事とする」
「「「「「異議なし」」」」」
結局。アウグストスの悲願は見送りになった。
だけどもそれで良いと思う。彼の身に起きた絶望も、彼の悲しみも俺は知らない。
ただ、彼は大切な物を全て奪われ、果て無い絶望と悲しみに突き落とされても、全てを憎み、怒りに身を任せる事はしなかった事だけは判る。
彼は自分と同じ悲劇がこれからも永遠に繰り返される事を嘆き。悲しみと絶望の連鎖を断つ事を決めた。
「どうして俺が保管する事になったのかとか、突っ込みたい部分があるんだけど、聞くだけ無駄か」
「そう言う事。まあ、面倒な物を見付けた自分の迂闊さを呪う事だな」
迂闊だった訳じゃあ決してないと思うんだが・・・・・・。
今回の件は、ウロボロスの完成の瞬間に居合わせてしまった不幸が原因だろう。て言うか、よりにもよってこんなとんでもない代物が俺の居る時代に示し合わせたみたいに完成したのが何よりの不幸だ。
「それはともかく、同様の兵器が他にも開発されている可能性もあるから、そちらの調査もしないといけないな」
て言うか、冷静に考えたらウロボロスは俺が完成直後に遺跡を訪れるなんて奇跡が起きなければ、そのまま自動的に発射されていた。
つまりは、今を生きる人たちの与り知らぬところで魔物の世界への攻撃が行われていたハズだった訳だ。
仮に、同じ様な兵器の開発がどこかで行われていたとして、その場合も開発が終わった後に自動的に攻撃が行われるように設定されているんじゃないか?
そうだとしたら、既に魔物の世界への攻撃は行われている可能性もあるんだけど・・・・・・。
これまで魔物の侵攻が止まった事はない。
詰まる所、もしも魔物の世界を滅ぼすつもりで何処かの遺跡で開発された兵器が攻撃をしていたとしても、滅ぼす事は叶わなかったと言う事だ。
「確かにな。しかし我らの方でも出来る限り調べてみるつもりだが、恐らくはアベル頼りになるだろう」
「確かに、既に何の情報も残っていない様に太古の遺跡を見付け出すなんて、不可能に近いからな」
ああそれは確かに、レジェンドクラスの情報網を使って何とかと思わなくもなかったんだけども、そもそもはるか昔過ぎて記憶の欠片すら残されていない可能性が高い。
「今回の件は、完成直後にアベルに見付けられた事を含めて、ありえない幸運だったのは確かだな」
「確かに、発見が遅れれば発射されてしまった可能性もある訳だからな」
そう、それが問題なんだよな。て言うか、これから先同じ様な兵器を開発していた遺跡を見付けても、既に魔物の世界を攻撃した後かも知れないし・・・・・・。
「とりあえず、無駄だとは思うが、我々はもう一度過去の資料を調べ直すところから始めてみよう」
「そちらの方はよろしくお願いします」
ヒューマンと違って、他の種族の国は普通に何十万年と歴史が続いているので、過去の歴史も果てしない程に残っている。
それを一から調べ直すのは果てしない労力だと思うけれども、他にも歴史の中で忘れ去られてしまった重要な事案が出てくる可能性もあるので、是非ともやってもらうしかない。
「任せろ。かわりにソチラもこれまで以上に働いてもらうからな」
「こうなっては仕方がないと覚悟してますよ」
本当に、何でこう次から次へと問題が出て来るかね?
どちらにしも、シッカリと調べない事には話にならない。場合によっては遺跡探索も一時中断して、こっちの調査に集中しないといけないだろう。
その辺りの事もみんなに話さないといけない。なので、とりあえずココでみんなの元に戻らせてもらう事にする。
「それじゃあ、これからの事も話し合わないといけないんで」
「ああ、まあガンバレ」
そんな励まし?の言葉を頂いてみんなの待機している場所に向かう。
「戻ったはねアベル、それで結果は?」
俺がドアを開けるより早く開けて来たミランダがそのまま問い掛けてくる。
彼女がここまで気が急いているのも珍しい。
「ウロボロスはこのまま俺が保管する事になった。まず間違いなく、これから先も使う事にはならないだろうから、このまま封印と言って良い」
「そうそれが無難よね」
「それと、俺たちは同様の遺跡が存在しないかの調査を最優先で行う事になるだろう。一先ずはヒューマンの国々に戻って、10万年前以前の遺跡が残されていないかの再調査になるかな」
ユグドラシルを含む他種族の国は、まずは国を挙げて、レジェンドクラスの超越者の総指揮の元で歴史資料の総ざらいが行われる。調査はその結果次第となるだろう。
「何か、これまでにない面倒事が出て来た気がするんですけど」
「まあ、間違いないな。と言うよりも、今まで目を背けてきた現実を目の前に突き付けられたって感じかな」
「目を背けてきた現実ですか?」
ザッシュはどうやら判っていないみたいだ。いや、いきなり判れと言う方がムリか・・・・・・。
「正解かどうかは判らない。だけども、10万年前、絶対的な力を持っていた転生者たちが、どうして魔物の世界への逆侵攻をしようとしなかったのか、考えられる理由なんてひとつしかない」
そう、ありえないと思うけど、そうとしか考えられないのだ。
「魔物の世界には、Ωランクよりも更に強大な魔物が存在する」




