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おかしい。魔域に魔物の討伐に来たのは良いのだけど、どう言う訳か次から次へとSクラスの魔物が湧いてくる。
活性化が起きている訳でもないのに、どうしてこんなにSクラスの魔物が居る?
いや、このユグドラシルの魔域が、ヒューマンの大陸にある魔域よりも強大で、魔物の侵攻も桁違いに厳しいのは知っているけど、流石にこれはないんじゃないか?
前にここに来た時はこんな事はなかったと思うんだけどね。
あの時はまだ世界時の使徒に選ばれる前でES+ランクだったのだけど、確かなヒューマンの大陸の魔域よりも強い魔物が多くいたけど、こんな立て続けに、Sクラスの魔物が襲ってくる様な事はなかった。
て言うか、もう既に500匹以上倒しているんだけど・・・・・・。
しかも、まだここにきて30分も経ってないし、本気でどういう事?
流石にそろそろウンザリして来たので、転移魔法で戻ってしまおうかと思わないでもないけど、活性化も起きてないのにSランクの魔物がこんなに大挙して押し寄せて来るのは、いくらなんでも異常だ。原因があるならせめてそれを探りたい。
「まだ来るか・・・・・・」
のだけども、次から次へと魔物が襲って来るのでその暇もない。
Aランクまでのザコならいいのだけど、流石にSランクの魔物を相手にしながら片手間に調査は出来ない。
て言うか、さっきから襲って来る魔物が全部Sクラスだけってのもどういう事だ?
Aランク以下の魔物は襲ってこないどころか姿も見えないくせに、どこから湧いて出てくるんだって数のSクラスが襲い掛かってくる。
今度はSSSプラスランクのカオティック・スコルビリオン。30メートルを超える巨大なサソリで、サソリのくせに羽をもっていて自在に飛び回り、その速度は音速の10倍を超えるのだから、お前は一体なんなんだと突っ込みたくなる。
確か甲羅が鎧や戦車、装機竜人の装甲にまで使われているらしい。
身の方も何に似た味でしかも大変おいしいらしいのだけども、どうだろう、サソリとなると若干躊躇する。サソリを食べる文化圏にいなかったし、毒のある魔物なので大丈夫かとか考えたりもする。
て言うか、何故に此処でサソリタイプの魔物が出てくる?
こいつらは基本的に砂漠地帯の魔域に出没する魔物のハズだ。間違っても、深い森林地帯の魔域に300匹近くも居るような魔物じゃない。
「とりあえず、何か魔域に異常が起きているのは確定か」
ミランダたちが様子を監視しているハズだから、既にユリィから王に異常が伝えられているだろう。
恐らくは既に非常事態宣言が発令され、魔域に接する防衛都市で第一種戦闘配備が始まっているハズだ。
「て言うか、ココまでの異常がみられるんだから、俺が来る前に察知されてないのはおかしいか・・・・・・」
十万年以上も国を護り続けて来た魔域の監視システムが、こんな明らかな以上を見逃すなんてありえない。
と言う事は、この異常は俺が此処に来ると同時に始まったと・・・・・・。
「そんなトラブル体質なんていらないんだけど・・・・・・」
トラブル体質と言うか、もしこれが本当に俺が此処に北から始まったんだったりしたら、本気てもう厄病髪や災厄の類だ。
たまたま偶然タイミングが重なっただけだよね?
間違っても俺の所為じゃないよね?
「下手したら本気で疫病神か死神にでも認定されるぞこれ・・・・・・」
そんな事にならない様に、なんとしてもこのタイミングでこんな異常事態が起きたのか、その原因と真相を明らかにしてやる。
本気で、冗談抜きでそれが出来ないと俺の今後の人生に係わって来るぞ。
・・・・・・もし、万が一にも俺が原因なんて証明されたりしたら、本気でこれから先の人生真っ暗なんだけどね。
そんな事を考えている内に討伐数が1000を超えて、ようやく以上も収まったみたいだ。
これでようやく何が起きたのか調べられる。
どうやって調べるかは極めて簡単。アカシック・レコードそのものを覗くのだ。
詰まる所今回の異常が起きた原因を、直接見付け出せるのでウソだと疑われる心配も無い。かわりに、もし本当に俺が原因だったりしたとき判然に言い逃れも出来なくなるんだけど、そこはもう仕方がない。
「アカシックレコードに接続」
因みに極めて複雑な魔法式に成り立つ特殊魔法で、おそらくレジェンドクラスの超越者たちでも使えない。今は俺一人しか使えない魔法だ。
ただし、これも転生者が残した魔法なので、いずれは使用者が3人は増えるかも知れない。
「サーチ」
あえて言葉に出しているのは集中する為だ。
因果律を直接垣間見るこの魔法は、極めて高いレベルでの精神集中を必要とする。それと、当然だけども過去と未来、その全てを垣間見れる訳ではなく、知られる情報にはかなりの制限がある。
とは言え、今回の魔物の異常発生の原因を知るくらいは簡単だ。
そんな訳で、この魔域に起きたSクラスの魔物の異常発生、その原因と理由を因果律から垣間見る。
「・・・・・・成程、そう来るか」
割と予想外な理由に結構戸惑うんだが・・・・・・。
とりあえずこれは、知らせない訳にもいかないだろう。
異常の方も無事に終わっているのも確認できたし、まずはみんなと言うかユリィの所に戻る。
「ただいま。なかなかの戦いだったよ」
集まって監視と言う名ののぞき見をしている所に直接転移。当然だけどイキナリ此処に現れるとは思っていなかったようで、みんなかなり驚いているけど、人に断りもなく勝手に覗いていたのだから、これくらいの悪戯は許容範囲だろう。
「お帰り。結構な激戦だったみたいね」
そんな中でもミランダは流石と言うか、しれっと出迎えてみせる。
「それでユリィ、あのSクラスの魔物の異常出現の原因も判ったから、報告しようと思うんだが」
「はい。父たちは緊急対策室にいますので、案内します」
俺の言葉にユリィは即座に反応する。
それも当然だ、原因が解れば対策もとれるし、再発を防げるかもしれない。活性化も起きていないのに、一時間にも満たない間に1000を超えるSクラスの魔物が現れるなんて異常事態が早々度々起きてもらっては困る。国を統治する者として何としても対策を立てなければならない非常事態だ。
現状、なによりも欲しい情報である原因が掴めたと言うのだから、王たちにしてみたら、何はさて置き話を聞くのが当然の選択となる。
そんな訳で、早速俺を連れて行くと連絡を取ったユリィに連れられて緊急対策室に向かいながら、出来れば王たちだけと話したいのだけど、無理だろうなと思う。
国の命運を分ける対策を協議しているのだから、当然ながら国の重鎮が勢ぞろいしている事だろう。
まあ、そうなると色々と面倒臭いと言うか、俺に対して好意的じゃなかったり、利用できないかとか画策するような連中も中には出て来る可能性も高くなる。
特に、今回の原因とか予想外過ぎてそれだけでも面倒な事になるの確実だったりするし・・・・・・。
「父上、アベル様をお連れしました」
なんて考えている内に着いたようだ。公式の場なので、改まった口調ででユリィが来訪を告げると、「入れ」とこれまた威厳に満ちた声で入室を許可してくる。
「よく来てくれたアベル殿。まずは、突如として発生した異常事態を、被害が出る前に沈めてくれたことに深く感謝しよう」
言葉と共にメリアス王とシュトラが深く頭を下げる。
いきなり頭を下げた二人に一瞬騒めくが、すぐに他の面々も揃って頭を下げてくる。
確かに、何の前触れもなく1000を超える、しかもSクラスでも上位の魔物ばかりが現れたのだ。即座に迎撃体制を構築したとしても、迎撃、殲滅までにはかなりの犠牲と被害が出た可能性が高い。
その危険と脅威を未然に防いだわけだから、王として感謝するのも当然と。
裏に政治的な駆け引きとかもあるのは、これまた当然としても、俺への印象や風当たりも一気に変わったのも確かなので、今回は普通にありがたい。
「例には及びません。私はレジェンドクラスの責務を果たしただけですから」
当然だけど、俺だってこういう場所では言葉を改める。
別に空気読めないでも、あえて空気読まないでもない。・・・・・・いや、必要だったらあえて読まないけどね。
「そうか、ならば貴殿が居てくれた幸運に感謝するとしよう。それで、今回の一件の原因も突き止めて来てくれたそうだが、本当であろうか?」
「ええ、因果律演算魔法。アカシック・レコードを直接垣間見る魔法をもって、原因を究明しました」
俺の言葉に再び場がざわめく。
「静まらぬか、済まぬなアベル殿。早速だが原因を聞かせてもらえるか」
「はい。今回の魔物の異常発生の原因は、魔域内部に存在する遺跡。そこで製造されている物です」
本当になんでこうなったんだと思う。またしても遺跡がらみだよ。しかも、この遺跡については10万年前の転生者たちは関係ない。
なんと、彼らより以前にネーゼリアに転生した転生者たちが残した遺跡だったのだ。




