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ジオフロント事態はこの世界では珍しくない。
そもそも、魔物の脅威に晒されているこの世界では、地上よりも地下に都市を築いた方が安全とも言える。
地下一千メートル以上の奥底に、何層もの防御プレートを備えた上でジオフロントを建設する。そうやって造られた人口200万人を超える巨大な地下都市は、ヒューマンの大陸では珍しくなかった。
ただまあ、地下にあるから絶対に安全音信な訳でもないし、いざという時には成す術もなく全滅なのも変わらないんだけどね。
だけど、このジオフロントは確実にジエンドクラスの魔物の攻撃にすら耐えられそうなんだけど・・・・・・。
「そう言う意味では、確かにこれもとんでもなく厄介だな」
ココに居れば何があっても絶対に安全が保障されるのだから、住みたいと思うのは当然。
もしこれがヒューマンの国で見つかっていたら、奪い合いから戦争にまで発展していたのも確実だろう。
「でも、魔域の活性化とかの非常時に民間人を避難させる、シェルターとかに最適だろう」
「確かに、この広さなら国民全員を避難させられるかも」
エルフの総人口は凡そ3億人。戦闘職の者や後方支援の人員を差し引いても2億5千万を超えるだろう一般人を丸ごと収容できる規模なのだから、本当にどれだけ巨大か理解してもらえるだろう。
まあ、アイテムボックスとかと同じ系統の魔法がかけられているんだろうけど、おそらく日本の総面積よりも広大なジオフロントは流石に始めてみた。
「と言うか、このジオフロントだけで一つの国が造れるぞ」
それも可能かも知れないのが本気で恐ろしい。
このジオフロントは、二億人以上が居住可能な居住区だけでなく、農業プラントなどの食料自給区も完備しており、完全な自給自足が可能なのだ。
因みに、行政区に相当する中央指令室に残されていたデータによると、同様のジオフロントは世界各地に存在するらしい。
つまり、これと同じ物がヒューマンの大陸にもあるのは確定で、未だ発掘されていないのは救いだけども、もしも今後発掘されるような事があったらトンデモナイ騒ぎになりそうだ。
て言うか、可能性としては俺が発掘してしまうとかもあった訳で、その意味でもヒュペリオンの眠る遺跡を発掘できたのは幸運だったと改めて思う。
こんな特大の火種に墓ならない様な、爆弾を見付けてしまうなんて絶対にゴメンだ。
「何にしても、ココがユグドラシルにあったのが救いだな」
「そうは言っても、私たちでも扱いに困るわよコレは。だからこそ、既に発掘済みなのに国に遺跡の詳細なデータが残ってなかったんでしょうし」
ユリィの言う通り、この遺跡を発掘した転生者が情報を国に伝えなかったか、或いは当時の王と協議して情報を秘匿したかのどちらかだろう。
詰まる所、この遺跡の存在はエルフにとっても手に余ると判断されて、そのまま放置するのを決められた訳だ。
「まあ、ココをどうするかはシュトラが決めれば良い。公表するもしないも自由だけど、万が一の時の避難先として考えれば悪くはないだろう」
「万が一の時の避難先って、こんな湖底に沈んでいる上に、アベルしか入り口を開けられない施設をどう使えと?」
確かに、転生者しかロックを開けられない遺跡は使い勝手が悪いが、
「それなら、入口のロックを解除しておこうか? そうすればいつでも使えるようになる」
実はロックの解除事態もも可能だったりする。遺跡の入り口に賭けられているロックそのものを解除してしまえば、転生者以外でも遺跡に転移できるようになるため、このジオフロントもエルフの避難先として活用できるようになる。
「すぐに決められる様な事じゃない。父上とも相談して決めさせてもらう」
だろうな、俺としてもここでロック自体の解除を即決されても困るし。
「それにしても、紺なのが世界中にあるなんて、やっぱり十万年以上前は、今とは比べ物にならない程に厳しい世界だったのね」
「残されていたデータだと、魔物の攻撃で失われた物もいくつかあるらしいからな。コレの防衛システムでも守り切れない攻撃とかどんなのだよ」
このジオフロントの守りは鉄壁で、少なくても俺じゃあ傷一つ付けることも出来ないレベルだ。
そうなると、破壊したのは確実にジエンドクラスの魔物。
ジエンドクラスの魔物なんて最優先討伐対象だろうし、防衛システムには当然、迎撃システムも含まれているし、それに相応の戦力だって配備していたハズなのに、複数個が失われているってどれだけだよ?
「まあ、今となっては此処が破壊されるなんてありえないから、避難先としてこれ以上の物はないけど」
「だからこそ、危険なんだけどな・・・・・・」
何が危険て、仮にこのジオフロントをきょじうくとして使えは、ココに暮らす住民は完全な安全ガ確保された事でこの世界に生きる者として当然の危機感を失てしまうだろうからだ。
常に命の危険性と共にある世界に生きているからこそ、この世界の人々は精神的に成熟しているとも言える。
それが、ココで暮らすようになって、外界の危険から切り離されたらどうなるだろうか?
安全な生活に慣れていく内に危機感を失い、結果として堕落していく可能性がある。そして何よりも、自分たちだけが安全を保障されている事に傲慢になり、外に暮らす人々を見下す様になってしまいかねない。
勿論、これはあくまでも可能性の話だ。
ココに人が暮らすようになったとしても、必ずそんな風に堕落してしまうとは限らない。
或いは、命の危険から解放された事で更に高潔な精神を持つ事も出来るかも知れない。
ただ、どちらにしても全てが未知数過ぎるのだ。
それ故に、ココもどう使えばいいのかが判らなくなる。
「まあどうするのもシュトラ次第だ。判断は任せるから、そろそろ戻ろうか、次の遺跡の調査もあるし」
「こんなペースで持ち込まれても対処しきれないんだが・・・・・・」
超広域殲滅兵器にしてもこのジオフロントにしても、どうするかの対応を決めなければならない立場にいるシュトラにしたら、次の遺跡を調査したら、また自分の抱える重要案件が増えるのが確定で、これ以上は対処しきれないから、本気で勘弁してくれっていうところだろう。
気持ちは判る。
今まで俺が一人でどうするか決めて来た訳だし、遺跡のある国に何処まで情報を公開するかとか、その上での駆け引きとか本気で精神的にギリギリと削り取られるモノだったしな。
「そこは頑張ってくれ、何だったら今は判断を保留にしても良い訳だし」
確かユグドラシルが接する二つの魔域は、ここ三百年の間にどちらも活性化を起こしているので、少なくても後数百年は活性化が起こる心配は無いハズだ。
詰まる所、今回見付けた二つが必要な事態が起きるまでにはかなりの時間があるので、とりあえずは棚上げしておいたとしても問題ない。
「そう言う訳にもいかないだろう」
ハズなんだけども、やはりそんな訳にもいかないらしい。
とりあえずは責任に押し潰れない範囲で頑張ってくれ。
「頑張って」
ユリィが完全に人事の様に応援しているんだが。
逆に心を折りそうだから止めておきなさい。
さて、ジオフロントの調査も終わり。ホテルに戻って来たのだけどもやる事がない。
遺跡の調査は、シュトラに本気で止められた。次の遺跡の調査は最低でも一週間は待って欲しいそうだ。これはメリアス王からも頼まれた。これ以上立て続け超重要案件を持ち込まれても、対処しきれないとの事。
そうなると遺跡探索はひとまず中断するしかない。
まあ、先に俺一人で調べに行くのだけでも済ませてしまってもいいのだけども、と言うか、危険物をこっそりと回収したりするためにもそちらの方が都合が良いのだけども、それも止められてしまった。
さてではどうしようと考えるまでもなく。冒険者ならば魔物の討伐をするとしよう。
と言うか何気に久しぶりだったりする。
ユグドラシルに来てからは、ユリィとの婚約披露パーティーや遺跡の調査などで忙しく、魔物の討伐に行っている暇もなかったので、クリスタルスパイダーシルクを入手するのにクリスタル・ラビアルノークの討伐以降、3週間ぶりの魔物の討伐になる。
まあ、3週間ぶりなのは俺だけで、他のメンバーは折を見てちょくちょく討伐していたらしいけど。
「久しぶりの相手がコレか」
そんな訳で3週間ぶりの魔物の討伐に来たわけだけども、目の前にいるのはBランクのサンダー・バッファロー。200頭近い大軍だけども、正直、今の俺が相手をする魔物じゃない。
「ちょうど良いからコレはティリアに任そうか」
「私ですか?」
「そう。ティリアはまだ魔物と戦った経験も少ないからな。これくらいならちょうど良い相手だよ」
因みに、サンダー・バッファローはその名の通り、全身を雷で覆って突進してくる魔物だ。
その突進速度は時速500キロを超え、しかも全身を覆った雷は攻撃だけではなく防御の役割も負っていて、防御障壁を破っても、全身を覆った雷で対戦車ライフルくらいなら防いでしまう。
なお、攻撃の方は戦車を余裕で粉砕してしまうくらいの破壊力。
雷を纏っての突進しか攻撃手段がないためBランクになっているが、その攻撃力と防御力の高さはAランクでも高位の魔物に匹敵する。
それと、肉はBランクの魔物の中でも飛び抜けて美味く。かなりの高値で取引されるし、皮や角なども需要が高いので、傷を余り付けずに上手く討伐できれば、一頭当たり100万リーゼ近くになる。
1頭で日本円で1千万。200頭近くいるので、上手く討伐できれば20億近い収入になる。
「冒険者は魔物を討伐するのが仕事だけども、同時に倒した魔物の素材を卸すのも仕事だからね。ちょうど良い実地訓練だよ」
そんな訳で、俺はお姫様のティリアに冒険者としての魔物の倒し方を教える事にした。




