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 さて、目の前の光景をどう評したらいいのだろう。

 幸いな事に、新たに表れた魔物の大群の中に辞意の姿は見当たらない。

 しかし、そのすべてが最低でも数メートルはある巨大な蟲の魔物だ。

 その光景は虫嫌いでなくてもどうやったって生理的な悪寒を覚えずにはいられない。

 何だったか、前世で俺が生まれる半世紀前くらいに放映されたらしい、名作アニメ映画に出てくる蟲を思わせる凶悪に魔物が数十万。

 しかもSクラスだけでも千を超える数が居るのも確実。

 これは確かに、竜騎士団の総力を持っても対抗できないな。

 ・・・・・・いや、一部対抗できる規格外な人物に心当たりがあるが。

 それはさて置き、


「これはグロい・・・・・・」

「Gの大軍に比べればマシだけど、これはこれで・・・」


 あの名作アニメの蟲の大軍の描写は、アニメだから許されたのであって現実のものとなると本気で視覚的な暴力だ。

 

「Gを除けば、別に虫嫌いじゃないんですけど流石にこれは・・・・・・」


 大きなものでは数十メートルを超える蟲が数十万もの大軍で押し寄せて来るのだ。その光景は悍ましいとしか言いようがなくて、虫嫌いの人間ならその場で卒倒してしまうだろう。

 いや、別に虫嫌いじゃなくても耐えられないか・・・。


「だけど結構いい獲物も居るみたい」

「次はいつ機会があるか判らないから、ここで確実にゲットしたいかも」

「確かにね。こんなチャンス、ホントに滅多にないし」

「何をつくるか今から楽しみ」


 その一方で目を輝かせている面々も居る。

 その理由もわかるためツッコミはしないけど、これだけの大軍を相手にしながら確実にお目当ての物を手に入れるのは相当に困難だと思うが?


「そんな訳でアベルよろしくね」

「出来るだけたくさん手に入れてね」

「そうそう、むしろ、いくらあっても足りないんだから」


 と思ったら、それを手に入れるのは何時の間にか俺の役目になっている模様。

 何がどうしてそうなったと問いだ出したいところだけども、明らかにやるだけ無駄なのは、みんなの様子を見れば一目瞭然なので諦める事にする。

 て言うか、何時の間にかみんな、全員が期待の籠った眼差しで俺を見ているし、これはもう受け入れるしかないだろう。


「判った。仕方ないから引き受けるけど、そうすると俺は他の魔物に構ってる暇はなくなるから、そっちの方はみんなでキッチリ対応してもらうぞ」

「「「勿論」」」

「「「了解」」」


 蠢く蟲の大軍に引いていたメンバーも復帰したようで、元気よく殲滅を宣言する。


「ああ、他の蟲にも素材が結構良いものがあるのも居るから、気持ち悪いからって跡形も無く消し去るようなマネはしないようにね」


 一応はミランダが釘を刺している。

 G系統の素材だったら確保しようとも思わずに跡形も無く消し去るんだけど、それ以外の蟲型の魔物の素材は、カブトムシやクワガタ系の魔物の外殻などの、鋼よりもはるかに硬く軽い素材等々、有用な素材がかなりある。トンボ型の魔物の羽などもステンドグラスの代わりなどの高級建築材として高い人気を誇るし、確かにこうして大軍で迫ってくる様子は、生理的に嫌悪感を抱かずにはいられない程に悍ましいものだが、同時に目の前にいるのはまさに宝の山でもあるのだ。

 暴言者としてこの機会を無駄にする訳にはいかない。


「それじゃあみんなも気を付けて、シッカリと殲滅するとしようか」


 そんな気の抜けた号令と共に戦闘開始。

 因みに俺が相手をするのは蜘蛛の魔物。Sクラスのラビアルノーク。

 正確にはその最上位種でありESランクの魔物であるクリスタル・ラビアルノークで、更に言えば、お目当ては魔物本体ではなくてその吐き出す糸。

 スパイダーシルクの原料となる蜘蛛の糸だ。

 特にクリスタル・ラビアルノークの糸から作られたクリスタルスパイダーシルクはその入手難易度も合わせて極めて希少な品で、その名の通りクリスタルのような輝きのシルクはまさに宝石そのものと美しさで、アメジスト・ラビアルノークなどの同種の魔物から採れるアメジストスパイダーシルクなどの様々な美しい宝石のような色鮮やかなシルクを折り合わせて造られたドレスなどはまさに至上の一品と評される。

 ただし、先程も言った様にその入手難易度は極めて高く、むしろ不可能に近いとまでされるので、市場に出回る事はほぼ無いし、あったとしても値段は飛んでみないモノになる。

 それも当然で、各国の王族ですらも入手困難な品物なのだ。

何故にそれ程に入手困難かと言えば、まずESランクのクリスタル・ラビアルノークがそうそう現れない点があげられるし、現れたとしても普通に倒すだけでは得られない点も挙げられる。

 言うまでもなくスパイダーシルクの原料は蜘蛛の糸だ。

 そして、クリスタルスパイダーシルクの原料はクリスタル・ラビアルノークの糸。

 つまり、ESランクの魔物であるクリスタル・ラビアルノークに永遠と糸を吐き出させ続けない限り、クリスタルスパイダーシルクは出来ないのだ。

 単に倒すだけでも難しいESランクの魔物を相手に、永遠と糸を吐き出させ続けるなんて無理ゲーにも程があるのは理解してもらえたろうか。

 ぶっちゃけ同ランクのミランダでも難しい。

 と言う訳で、実を言えば手にいられるのが俺を含むレジェンドクラスの五人しかいないに等しいのだ。

 そんな超貴重品のクリスタルスパイダーシルクが入手できる好機。まあ、みんなとしてもこれを見逃すハズがないのは当然だろう。

 しかも運が良い事にと言うべきか、ご都合主義にも程があると言うべきか、ココにはクリスタル・ラビアルノークだけでなく、アメジスト・ラビアルノークなど全ての種類、全ての色のラビアルノークが揃っている。つまりは全ての色のクリスタルスパイターシルクを手に入れられるチャンスなのだ。

 と言うかこの後確実に、関係を持っているすべての王室から内にも欲しいと連絡が来るので、本気でどれだけの量が必要になるか想像も付かない。

 となれば搾り取れるだけ回収しないといけないだろう。

 本当に面倒くさいがまま良い。それに、クリスタル・ラビアルノークら所謂水晶蜘蛛系の魔物は、巨大な昆虫系の魔物でありながら、その全身が水晶で出来ているので気持ち悪くないのが最大の利点だ。

 むしろ、芸術品を思わせる造形美すら感じさせる。

 さて、とりあえずは周りの蟲を殲滅するみんなの戦いに巻き込まれない様に、俺の開いたの水晶蜘蛛たちを隔離する。

 それでもって超重力で体の動きを封じたうえで、厳格魔法をかけて相手の動きをこちらの思うが儘に操る。

 それから結界の球体に糸を吐き出させて糸球を造らせていく。

 色とりどりに輝くまさに宝石のように美しい糸球。繭玉だけども、実際は蜘蛛が獲物を閉じ込めて置く為の食料保存庫。

 まあ、今は幻覚で中に何も入っていない結界でつくらせているから、完全にスパイダーシルクの原料として搾取している状況だけど。


「人類の、世界の天敵の魔物相手とはいえ、これじゃあどっちが悪役か判らないな」


 まあ、それを言ったら蚕の養殖になるシルクの生産とかだって同じ様なものなんだけど、

 そんな事を考えながら、各水晶蜘蛛から糸球を次々と積むんでいく。

 因みにクリスタル・ラビアルノークら各種水深蜘蛛は50メートルを超える巨体だが、それにしてもすでに各種10個以上の糸球を造っているのに未だに途切れる気配がないけど、いったいどれだけの糸がこの中に入っているんだろう?

 直径10メートル近い糸球がそれぞれ10個以上出来てるけど、それでもまだ足りるかどうか判らないのだから恐ろしい。

 何やらもう、他の蟲の殲滅は終わったらしく、みんなはもう倒した魔物の回収作業に入っているようだけども、残念ながら俺の方は何時になったら終わるのか想像も付かない。

 とりあえず戦闘は終わったようなので、魔物を回収しているみんなの元の捕獲した水晶蜘蛛たちと一緒に戻る。

 なお、水晶蜘蛛たちは超重力で動けなくしているわけだけども、千倍の超重力を上と下からかけている形で、今は完全に空中に固定されている状況。超重力サンドイッチ状態とも言う。


「スゴイスゴイ。随分たくさんあるね」

「どんなドレスにするか今から楽しみです」

「ドレスの前にまずは下着よ。最高の一品を造ってアベルを悩殺してしまおうよ」


 何か一部不穏なセリフが聞こえた。

 それよりも、どうやらこれだけあってもまだ足りなさそうなのにウンザリする。


「後どれくらい採れそう?」

「判る訳ないだろ? と言うか既にどこにこれだけは行ってたんだって量になってるし、むしろこんな膨大な量を確保できている方が本当はおかしいって」


 一個10メートルを超える巨大な糸球だ。これをほどいた後に紡いでシルクに仕上げたとして、ドリケ岳の量になるか想像も付かない。


「それにしても、糸を採取する様子はまるで極悪人ですね」

「むしろ魔物が可哀想な事態」

「そんな事は俺が一番分かってるっての」


 クリスタルスパイダーシルクを欲しがったのはキミたちの方だろうが。俺? 俺はいらないぞ。既に美少女にしか見えないと自分自身でも諦めるしかない俺の容姿には、宝石のように煌びやかなクリスタルスパイダーシルクの衣装が良く似合うのが判っているからこそ、意地でもそんな物は着ない。


「それにしても、水晶蜘蛛は本当に芸術品の様ですね。私たちが相手をした蟲たちとは大違いです」


 いや嘆く気持ちは判るよティリア。

 でも俺に水晶蜘蛛を相手にしてクリスタルスパイダーシルクを手に入れる様にって言ったのはキミたちだからね?

 俺としても見ただけで精神的にキツイ蟲の大軍を相手にしなくて良かったと思わなくもないけどさ。


「まあ蟲系の魔物は、どうしても見た目が受け付けないってのがあるからな。それも含めて何事も経験だよ」


 ザッシュを除いてみんな女の子だからな。女眞子に害虫駆除を押し付けていたとなると確かに微妙だけども、それについて文句を言われても困る。

 

「とっ、どうやら終わりみたいだな」


 そんな事を言い合っている内に水晶蜘蛛が糸を出し切ったみたいだ。

 糸球が40個を超えた所でとうとう糸が尽きたらしい。それにしても、10メートルを超える巨大な糸球が、各色それぞれ40個ずつか、どれだけの量のクリスタルスパイダーシルクが出来るんだ?


「これだけの量があると価格が暴落したりしそうだな」

「それはないわよ。各国の王家からの注文だけでも確実に半分は消えるはずだし」


 ザッシュの意見をサナがアッサリ否定する。

 て言うかそんなにも欲しがるのか各国の王家。

 どうもその辺りについてはイマイチ詳しく調べてないので良く判らん。て言うか、いくら気象品とはいえとんでもない値段がする生地をよくそんなに買おうと思うな。

 ブランドとかファッションとかにイマイチ興味がないのでサッパリその辺の事が判らん。


「アベルさんとザッシュのタキシードとかもつくるでしょ。アベルさんなんて本当に似合うでしょうし」

「それは確かに」


 いやそこで勝手に話を吸拗ねない様に、タキシードなんていらんぞ。   

 絶対に男装の麗人とか間違われるのが決まっているし・・・。

 とりあえず、どんなドレスをつくるか盛り上がってるみんなは置いといて、糸を出さなくなった水晶蜘蛛たちをアイン・ソフ・オウルで倒し、その芸術品のように美しい姿を傷付ける事なく確保しておく。

 これもどうしようかな?

 千倍の重力圧に晒されながら傷一つ付かない、普通のクリスタルなんか比較にならない強度を持っているし。素材としても色々と使えそうなんだよな。

 とりあえず、手に入れた素材でどんな物をつくるかを考えて、ザッシュを除くメンバー全員。つまりは女の子たちが俺をどう着飾らせるかで盛り上がっている現実から目を背ける事にした。



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