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ヒューマンの大陸で最後の発掘済みの遺跡。正確にはその遺跡がある国に行く前に入念な準備をする。
まずは、間違っても今Gの魔物の大軍が現れていないか、あるいはその兆候がないかの確認。
その確認が済んで、脅威がないのが、安全が保障されたらすぐさま遺跡の調査を行う事を国に伝えて許可をもらい。速攻で遺跡を調査して終わり次第即座に退却する。
万が一、不測の事態が起きた時の為の準備も万全を期す。
それこそ最終決戦に臨むかの様な万全の態勢で挑む。
やり過ぎだろうとか言われ様が無視する。
ここの魔域にはそれだけのトラウマがあるのだ。正直、本当ならもう二度と来たくはなかった。
今回が最後。遺跡の調査が終わったらもう二度と来なくていいからと、無理やり自分を納得させてなんとか行く決意を固めたのだ。
「みんな、準備は、いや、覚悟は良いか?」
俺の確認にみんな真剣な表情で無言で頷く。
今回のミッションのポイントは、いかに早く、素早く調査を終わらせ、調査完了後には速やかの国を脱出できるかの二点。
遺跡の超背についてはこれまでに何度もしてきているのだし、素早く終わらせる事が可能。
問題は、出来るだけ長く国に留まって欲しいと考える国の上層部の思惑を切り抜けて、到着と同時に遺跡の長を開始し、終わると共に国を出る早業を実行できるかどうか。
訪れた国を一日もしないで出るのは、本当は外聞が悪かったりするのだけど、無意識に避けていた結果、最後に回す事になったおかげで言い訳の大義名分も出来ていたりする。
正直、俺一人だけでコッソリと潜入、密入国して築かれない内に遺跡の調査を済ませてしまえば良いと思わなくもないけど、俺が遺跡の調査をているのはもう知れ渡っているし、国としても自国にある発掘済みの遺跡の事は把握しているのが当然なので、他の国の遺跡は調査しているのに、どうして調査に来ないのかと不審がられるのは目に見えているのでこれも出来ない。
・・・・・・実際の所、こんな露骨に決死の覚悟で挑むとか、常にGの魔物の脅威に晒され続けているあの国の人たちに失礼なのも判ってるんだけどね。もう完全にトラウマになってしまっててね、自分じゃどうしようもないんだよ。完全に本能にまで恐怖が染み付いてしまってる感じでさ。
これについては完全に元日本人としての弊害の気もしないでもないけど、ミランダも同じだからそうとも言い切れないのか?
とりあえずすぐに出発。
ヒュペリオンでスイスイと飛んで行って、空港で入国手続きを済ませる。
その後は何時ものように用意されていたホテルに向かってチェックインして、同時に俺一人で遺跡に向かって事前調査をする。
・・・・・・・ここで一つ本当に助かったのは、ココの遺跡が魔域に埋もれていなかった事だ。
まあ、魔域に埋もれていれば、例え何が眠っていたとしても国との間に所有権の交渉をしなくて済むので本来は、そっちの方が助かったりするんだけども・・・・・・、今回は別と言う事で・・・・・・。
因みに遺跡は国の南西部、魔域とは正反対の位置の湖の中に沈んでいた。湖と言っても直径が最大で100キロ以上ある上に、水深も最大で2キロ近くある物だけど。
地殻変動に巻き込まれて地中深くに沈んでしまった物や、分厚い氷の下に埋もれている様な物に比べれば格段に楽なものなので、早速遺跡の入口へ直行。
開けた瞬間内部に湖の水が流れ込まない様に、入口の周辺を空気の層で覆ってからロックを解除。中に入る。
どうでも良いけどこの遺跡、外から見た限りでも兵器工場でもないし、要塞などの軍事施設でもない。それに研究施設と言った感じも、何かを観測したに調査するための施設でも無いようだ。
そうなると危険な代物が眠っている心配も無いからありがたいんだけど。それならここは元々何の施設だったんだ?
まあ、調べればすぐに判る事なのでとりあえず一番近くにあったドアを開くと、そこに在ったのは正しく日本のサブ・カルチャーだった・・・・・・。
「そんな訳で、この前に冗談で話題にしたばかりのモノが早々に見つかった」
「「「本当?」」」
「「「本当ですか?」」」
報告するとみんなして驚いてみせるけど、同時にもの凄く嬉しそうに興奮している。
正直俺も嬉しい。
まさかこんなに早く見つかるとは思っていなかったし、あそこにはそれこそ山の様なと言うより、星の数ほどの漫画や小説、アニメにゲームなどがあった、と言うか、本気でどれだけの作品があるんだと若干呆れたくらいだ。
それと、二つほど解った事がある。あの施設は完全に10万年前、転生者たちが自分たち専用の娯楽施設として使っていたものだ。
封印した理由は、異世界の文化を持ち込んでこちらの独自の文化体系を歪めてしまわないようにしたためか、自分たちのイメージを護ろうとしたためかは定かじゃない。それは確かめようがないけど、俺としては確実に後者だと思う。
・・・・・・あの遺跡の中は完全に日本のオタクの部屋とかと同じだ。或いはアキバなどのそういった専門のイベント会場、或いは行った事がないけどコミケみたいな感じか?
「本当だよ。早速行くだろ?」
「「「勿論!!!!」」」
みんな大喜びで目を輝かせているな。
と言うかこれは既にみんなガッチリハマって既にオタクが入っちゃてるかも・・・。
・・・・・・気にしないでおこう。だけど、これは扱いに注意した方が良いな。みんなの様子からして、下手にこの手の日本のサブ・カルチャーをネーゼリアに流出させると、ドハマリして中毒者のオタクになる人が続出しそうだ。
何か、10万年前の転生者たちが前世から持ち込んだマンガやアニメやらを自分たちだけで楽しむ為に専門の施設を造った理由が判った気がした。
これは下手に知られたら危険だわ。所謂アニメオタクとかだけでなく、廃人系ゲーマとか、腐女子とか、色々とこの世界にいなかった系統の人種を量産してしまう可能性が高い。
特にゲームがヤバイ気がする。
俺自身、前世でお気に入りのゲームが発売された時など、発売当日にゲットして早速プレイを開始して、そのまま一週間くらい没頭して、一気にクリアしてしまったりしてたこともある、そこそこコアなゲームユーザだったりしたから判るけど、今のみんなにゲームを渡すのはかなり危険な気がする。
かなりの確率で廃人系ゲーマに転職しかねない様な・・・・・・。
「それじゃあ早速行こうか、でも、驚かないようにな」
とりあえずはマンガやアニメ、小説とかだけにして、ゲームに目が行かない様にしておこうと心に決めながら、みんなを連れて早速遺跡に転移する。
・・・・・・まあ、驚くなと言うのは無理だろうけど。
「これは・・・・・・」
「スゴイと言うかなんて言うか・・・・・・」
「圧倒されるわね・・・・・・」
俺とサナたち転生者組以外のみんなは、目の前の光景に完全に目を丸くしている。
転生者であるサナやザッシュ、レベリアたちですら呆気にとられている。
まあ気持ちは判る。
この遺跡の中にはこれでもかと言う程に日本のオタク文化が詰め込まれているのだから。
まず、完結済みのマンガだけでも2万タイトルは揃っている。アニメはその倍は確実にあるだろう。ライトノベル系になると、書籍として発売されていたタイトルだけじゃなくて、小説の投稿サイトにあったらしい完結図もの物まで含まれるからそれこそ10万を越えそう。ゲームだってどれだけのタイトルが揃っているのか想像も付かない。
そして、それだけではなくてアニメとかのキャラクターポスターやキャラクターフィギュア。或いはロボットアニメのプラモなどが山のようにある。
「あの、これはアベル様たちが前世で暮らしていたという、日本では当たり前なんでしょうか?」
「「「「それは違うから!!!!」」」」
何かティリアがとんでもない勘違いをしそうな雰囲気だったので転生組全員で全力で否定する。
キミのご先祖様が前世に生きていた国は、こういうのも当たり前にアリはしたけど、絶対にこれが全てじゃないからな。
「これってレベリアから貰ったアニメのキャラクターよね。随分と精巧に出来た人形だけど」
メリアが突っついているのは、レベリアの記憶の中にあった魔法少女系のアニメのキャラクターフィギュア。
確かに精巧に出来ている。
その手の類のモノは2000年代に入る前からあったらしいけど、俺が生きてた頃にはとんでもないレベルの完成度になっていて、何か海外のオタクの間でとんでもない高値で取引されたりする、日本の一大産業になりかけてるような話題があった気がするけど、目の前にあるのはそれと比べても更に精巧に作られてる気がする。
「それにしてもすごい数だね」
それについては本気で俺もそう思うよ。フィギュアだけでも数千体は確実にあるんじゃないか?
いやもっとかも知れない、チラッと見たけどフィギュア専用の保管室があって、数え切れない程に並べられていたのはチョット本気で怖かった。
「どうやら此処にあるのは10万年前の転生者たち、この遺跡を造った物が残した物だけじゃなくて、発掘されて以降、ここを訪れた代々の転生者が残していったものもあるらしい」
だからこその想像を絶するタイトルの豊富さなのかも知れないけど、これってヤバくないか?
とりあえずみんな、そんなに目をキラキラさせない。
「楽しみなのは判るけど、マンガや小説の読み過ぎ、アニメの視過ぎは禁止だよ。破ったら没収するから」
「ええぇぇぇーーーー」
そんな横暴なと抗議の悲鳴が大合唱するけど、ここはシッカリとブレーキをかけて置かないと本気で取り返しがつかなくなりそうだし。
今更だけど遺跡には転生者である俺たちしか入れないし、転移して来る事も出来ない。
例えばミランダが一人で転移してここにあるお気に入りを物色しようとしても、残念ながらそれは無理。
とりあえず、ココにある者の管理はシッカリしないとなと思いつつ、どうやら俺たちがこの世界に持ってきたタイトルの中に、ココにない物もいくつかあったみたいなので、それを此処のコレクションの中に追加しておく。




