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ミスト視点です。
「みんなに話したい事がある」
スゴイ。スゴイ。スゴイ。
目の前に数え切れないほど並ぶ名酒の数々。本来なら手に入れる事すら不可能なハズの希少な品々。それを目の前にして興奮を抑えきれずにいる私たちに、アベルくんが話があると言ってきた。
その様子から、どうやら真剣な、それも重要な話だとすぐに判る。
「わざわざここで話すと言う事は、かなり重要な話なんだね」
ミランダさんの言う様に、あえて遺跡の中を話す場所に選んだのなら、話した内容が決して外に漏れないように徹底した結果だとするなら、そこまでして秘密にしなければならない話とは何だろう?
あのアベルくんが、そこまで徹底した上で話す重要な話とは一体何なのか、聞くのが少し怖くもある。
「ああ俺の、正確には俺とザッシュとサナとレベリアの四人の事だ」
その四人の事で重要な話ですか?
と言うか、四人の共通点が見付からない。
ザッシュとサナとレベリア、その三人になら共通点はあるけれども、そこにアベルくんが入ると共通点なんてなくなるハズ?
みんなも不思議がっている。偶にアベルくんがサナとザッシュの二人と話しているのは知っていたけど、それも特におかしな事でもなかったし・・・・・・。
「四人の事ですか?」
「ああ、俺たち四人は転生者。前世にこのネーゼリアとは違う世界で生きた記憶を持った者だ」
「「転生者?」」
突然の告白の意味がイマイチつかめない。
いや、意味は判る。言葉の通り前世の記憶を持って生まれたと、そして前世では違う世界で生きていたと言っているだけなんだけども、どうにも理解が追い付かなくて、みんなして同じ疑問を口にした。
「「違う世界って?」」
「地球と言う。天の川銀河の太陽系第三惑星。ネーゼリアの百分の一程度の大きさの星で、ヒューマン種のみが暮らしていて、世界人口はおよそ八十億」
「魔法も闘気もなく、そもそも魔物の侵攻自体を受けていない世界でした。文化レベルはこの世界と比べるとかなり劣っていましたね」
「基本的には銃が戦いの基本になっていた世界で、人間同士の争いが絶えない所でもあった。過去には何千万人もの戦死者が出た大戦もあったし」
「ただ、私たちが暮らしていた国はここ百年は戦争もなく、平和な国だったけど」
口々に説明してくれるのをまとめると、彼らは地球と言うネーゼリアとは似ても似つかない世界で平和に暮らして居た記憶があるとの事。
魔法のない世界で、魔物の脅威に晒される事もなく、その代わりに人間同士の争いが絶えない世界。
それと随分と人口密度が高いらしい。
多分、魔物の侵攻によって犠牲になる事がないから、人間同士の戦争があっても人口が減ること自体が少ないんだと思う。
それと、どうやら四人はその地球の日本と言う同じ国に暮らしていたらしい。
平和で豊かな国で、サブ・カルチャーの豊富さで群を抜く国だと、その中には前世の記憶を残したまま異世界に転生するなんて言うのがいくつもあって・・・。
「まさか自分が、そんなファンタジーな体験を実際にするとは夢にも思わなかったんだけど・・・」
との事。最初に自分の前世の記憶が戻った時は、本当に大混乱したらしい。
それも当然だと思う。いきなり、全く別人の知りもしない記憶が頭の中に現れて混乱しない方がおかしい。全く別のもう一人の記憶があると言う事は、それはある意味でもう一人別の人格が突然できたのと同じ。
多分、アベルくんたちは前世の自分とこの世界で生まれ育った自分の二つの自分の自我を融合させてひとつにする事で何とか平静を保てるようになったんだ。
それまでは、それこそ何時気が狂ってしまってもおかしくない状態だったと思う。
それにしても、話を聞いて納得した。アベルくんには年齢にそぐわない面があったけど、それが理由だったんだ。
因みに前世の記憶を合わせると御年三十三歳になるらしい。なお、一番年上になるのはレベリアで、合わせて40歳になるとの事。
「そして、ここからが収容なんだけども、ねーぜのあに地球から転生して来たのは俺たちが初めてじゃない。これまでに少なくても数十万人を超える転生者がやってきている」
桁が思っていたよりもはるかに多い。
流石にアベルくんたちだけが特別なんて事はないだろうと思ったけど、そんなに大勢の人が地球と言う世界からこちらに転生、生まれ直しているとは驚き。
「それは凄い人数ね」
「ああ、それもどう言う訳か、転生して来るのは全員俺たちと同じように日本人だけみたいなんだ」
「日本の人口も一億人を超えてますけど、これはどう考えて不自然です」
確かに、他にいくらでも国があって、沢山の人が暮らしているのに、それらの国から来た人はいなくて、日本と言うひとつの国だけからこの世界に生まれ変わって来るのは明らかに不自然。
「まあ、偶々これまでにほかの国からの転生者の痕跡を見付けられなかっただけかも知れないですけど」
「その可能性もあるな。だからこれ自体は重要じゃない」
成程、要するに同じ国に生まれた人たちが残した痕跡やメッセージなどは見付けやすかったから見付けられたけど、他の国から転生して来た人たちの痕跡は見逃していたのかも知れないと、それもありそうですね。
それで、それが重要じゃないなら何が重要ですかね?
「さっきも言った様にこの世界にはこれまでに多くの転生者がやってきている。その中にはカグヤを造った絶対者たちも含まれる」
「「「「「はあっ???」」」」」
これは驚くなと言う方がムリだと思う。
「それから三万年前に魔域を開放したのも、二万年前に大陸を征服して、世界征服に乗り出そうとして失敗し、最後にはヒューマン至上主義を造り上げたのも、俺たちが今周っている遺跡をかつて発掘したのもそうだし、ベルゼリアの建国王も転生者だ」
「この世界を護るために多大な貢献をした人たちもいるし、世界を亡ぼしかけた人たちもいるみたい」
これにはさすがに声も出ないと言うか、なんて反応したら良いのか判らない。
「そんな訳もあって、今まで話せずにいたんだけど、そろそろ伝えておいた方が良いと思って」
「私としては、過去にどんな事をした人がいたとしても、それは私たちとわ関係ないと思うんですけどね」
どうやらアベルくんは同じ転生者として過去の人たちの事で問題視されたりするのを避けたかったみたい。それに対してレベリアは関係ないと割り切ってる。
それについては私も同意見。前世で同じ国に生きていたらしい人たちでも、そもそも十万年から、二万年は前の人たちの事なんか気にしていても仕方がないと思う。
「確かにそうだけど、アベルが気にしてるのは自分もともすればそんな歴史的な大事件を引き起こしかねないからよ」
ああ、それは確かにあるかも。
アベルなら今からヒューマンの大陸を支配し様とすれば、それこそあっと言う間に統一国家を樹立することも出来るし、魔域の開放もヒュペリオンの火力があれば余裕だと思う。その後どれくらいの被害が出るかは判らないけど・・・・・・。
「うーん、でも、アベルは転生者だからとか関係なく、どうやっても歴史になお残す事になるの確定だと思うけど?」
「「「同感」」」
まさに納得の一言。実際、どうやったって目立たず、騒がれずに居ることなんて不可能ですよね。
「ああ、なんとなく何を気にしてるのか判ったけど、その上であえて言うけど、キミが色々と目立ったりトラブルとか厄介事に巻き込まれるのは、その転生者とかだからじゃなくて、あくまでキミだからよ」
ああ、何を言いたいのかなんとなく判るね。つまり転生者と言う事を言い訳にしない様にと。
「そうですね。現にアベルさんに比べれば、残りの三人はそれほど激動の人生を歩まれていませんし」
「そうなの? 自分ではかなりハードな人生だと思うんだけど」
その疑問は当然だと思うよレベリア。
だけど、キミの人生も確かにバードかも知れないけど、アベルくんがここ一年半ほどで歩んできた道のりと比べれば、平穏でありふれた人生でしかないんだよ。
・・・・・・アベルくんが例に挙げた転生者なんて、それこそ本当に激動の人生を歩んだと確定できるけどね。
そう言う意味では転生者だからと言うのもある程度本当かも知れないけど、何十万人と居る内のほんのわずかにすぎないのなら、それはもう本人の性質、資質の問題だと思う。
所謂、トラブル体質?
「まあでも、これで判ったよ。どうしてキミが十万年前の絶対者たちが残した古文書を読めるのか? どうしてキミには遺跡の封印が解けるのか? 全てはキミたちの為に残された物だったからなんだね」
「別に俺たちの為に残されていた訳じゃないさ。彼らは何か大きな異変が起きる時には必ず転生者がいると確信していたから。その時に使えるようにするためと、むやみやたらに発掘されて世界のバランスが崩れないようにするために、転生者以外に入れないようにしたんだ」
何か異変があった時・・・・・・。
確かに、近年の魔物の侵攻の活発化など、何かが億用としている前兆はあるし、私たちの国でもそれを警戒して対応策を講じているのも確か、つまり、このタイミングでアベルくんたち転生者が居る以上、何かが起こるのは確定と。
まあ良いですけどね。何か起こったら責任を持ってアベルくんに対応してもらうとしましょう。
それよりも、アベルくんたちが前世で暮らしていたという世界。地球の事が気になるよ。
一体どんな世界だったんだろう?
さあ、洗いざらい話してもらうよアベルくん。




