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シオン視点です。
さて、目の前の光景をどう表現したらいいのだろう?
そう思うけれども、残念ながら私にはこの光景を言い表す言葉を持たない。
唯々圧倒される。目の前の光景を前にして言えるのは精々その程度。
アベル・ユーリア・レイベスト。ヒューマンに現れた五人目の超絶者。レジェンドクラスの一角。若干十三歳にしてその高みに至った、天才なんて言葉じゃ表し切れない絶対者。
彼と行動を共にしてまだ間もないのに、既に私たちの常識は脆くも砕け散ってしまっている。
私たちが彼の仲間になるキッカケとなった出来事も、正直言ってどう言って良いのか判らないモノ。
だって、ジエンドクラスの食材なんてそもそも伝説に出てくる様な物。実際に目にすることも食べる事も不可能なハズの物だったのに、ここ最近の私たちは割と気軽に食べたりしている。
正直、これまで経験したことの無い至福の時間に、私たちはもう骨抜きになってしまってる。
そして、そのジエンドクラスの食材が発見された10万年前の遺跡、世界中に点在するその遺跡の内、既に発掘が終わっている遺跡の調査をしているとと言う事だったけれども、そこでも驚きの連続ばかり。
アベルが発掘した遺跡に眠っていたと言う今の私たちの拠点兼旗艦になっているヒュペリオン。これも信じられない性能の超凶悪兵器だとユリィたちから聞いていたけど、それをはるかに上回る世界を簡単に滅ぼせてしまう兵器を目の当たりにするとは思いもしなかった。
しかも、いずれはソレを使う事になるだろうと当然のように話しているんだから、もう本当に呆れるしかない。
・・・・・・10万年前の温泉施設が残っていたのにも驚いたけど、それと、アレは本当に気持ち良かった。出来ればまた行きたいけど、その辺をアベルはどう考えているんだろう? 私としては定期的にあそこに行って温泉を楽しみたいんだけど。
それからレベリア。私たちの後に仲間に加わった彼女。彼女を仲間に引き入れたのも驚いた。
詳しくは知らないけど、彼女はザッシュとサナの二人となにかあったらしい事と、それがヒューマン至上主義者に係わる事だって事くらいは知っている。
そんな相手をメンバーに加えるの?
はじめは本当に不思議な思ったけど、当の肝心のザッシュとサナの二人が当然といった感じで平然としていたから、私たちも気にしない事にした。
その彼女だけども、実際に接してみると意外にも付き合い易い相手だった。
ヒューマン至上主義者の両親に都合の良い人形として育てられて、一般常識にも乏しい偏った知識しか与えられず、魔法もも闘気も使えない状態だったのに、本人がまったく気にしてない様子なのにも驚いた。
辛い環境で育って来たはずなのに、そんな様子を微塵も感じられない活発な様子は好感が持てて、気が付けばあっさりと仲良くなっていたのにも、ある意味で驚いたのは内緒。
まあそんな驚く様な事がいくつもありながらも、私たちはアベルとも少しずつ親しくなれていって、初めて見るヒューマンの国々を楽しみながら、快適な旅を続けている。
そんな旅の目的でもある、10万年前の遺跡に今来ているんだけども、この遺跡は本当に凄い。
まずは、この遺跡は魔物との戦いの為に使われていた軍事用の遺跡じゃない。
だから、過去の超技術によって造られた兵器などはない代わりに、この遺跡のつくられた目的そのものが、初めて訪れた私たちを圧倒する。
「スゴイ。なんて綺麗・・・・・・」
「これが、星空の向こうの世界」
「世界はこんなにも広大だったんだ・・・」
私たちは、口々に感嘆の言葉を漏らさずにはいられない。
そこに映し出されているのは、この星の、ネーゼリアの外の世界の様子。
宇宙観測基地。それがこの遺跡の元々の施設名。
魔物の脅威への防衛のために必要不可欠な、カグヤとイズチの二つの月の観察ではなくて、遍く宇宙の様子を調べるための施設。
十万年以上前に外宇宙へ向けて発射された観測機から送られてくる様々な情報・データを解析し、分析して宇宙の成り立ちからカタチ、他の太陽系の詳細についてまで遍く叡智が此処にはある。
その中には、このネーゼリア。私たちが居きるこの世界。この星の他にも同じように人の生きる世界が、星がある事までも記されている。
この世界に住む誰一人としてね、今まで知らなかった事実。
それに、どうやらその世界にも魔域があり、そこに生きる人々が私たちと同じように、魔物の脅威と戦いながら暮らしているらしい事までもが記されている。
「遥か彼方の星の向こうに、私たちと同じように生きている方々が居るのですね」
「私たちは今日、初めてその人たちの事を知ったけど、その人たちは私たちの事を知っているのかな?」
どうなのだろう?
疑問は尽きないし、興味も関心も尽きる事はない。
無限に広がるかのような宇宙の雄大で美しい姿にも惹かれるけれども、ヤッパリ、どうしても関心は別の星に生きる人たちに向いてしまう。
その人たちはどんな生活を、暮らしをしているのだろう?
それ以前にどんな姿をしているのだろう?
私たちとは全く違う地で、異なる進化を遂げて来たのだから、私たちと全く同じ姿をしているなんて事はありえないのか? それとも話破たと太刀と同じような姿をしているのか?
どんな文明を築いて、どんな文化を持っているんだろう?
抑えきれない好奇心が溢れ出しそうになるけれども、残念だけども確かめる術がない事も判っている。
今とは比べ物にならない程に高度な10万年前の技術でも、流石にその世界の詳細な情報までは調べられていないみたいだし、そもそも、私たちにはそこに行く事は叶わない。
でも、どんな世界なんだろうと思いを馳せるのを止められないのは仕方がないと思う。
「それにしても、驚き過ぎて忘れてましたけど、この情報もどうしましょうか?」
「別に話しても問題ないだろう。星空の向こうに同じ様に生きている人たちが居ると知ったところで、何か変わる訳でもないし」
それはその通りだと思う。
多くの人が驚き、星空の向こうに思いを馳せるだろうけれども、あまりにも遠く離れすぎたその世界との繋がりを造る手段がない。
約4億光年。気の遠くなるほど離れたその地にまでは、魔法も届きようがないし、そんな途方もない距離を移動する術も多分ない。
多分と断定しないのは、10万年前の技術なら可能かもしれないから。
例えば、あのヘカトンペイン。あれならばヒットして星空の彼方にあるもう一つの世界へも辿り着けるんじゃないかとか思ってしまう。
それどころか、実は10万年前までは、2つの世界は交流していたんじゃないかなんて、そんなありえないハズの夢物語までも考えてしまうのは、10万年前の、この遺跡を造った超越者たちならそんな途方もない事も簡単にやってのけてしまうんじゃないかと思ってしまうから。
「でも、何時かは行ってみたいと思うよね」
そんな風に思ってしまうからか、自然と願いが口に出ていた。
何時か、今の私たちはまだ王族として生まれた使命も義務も果たしていないから、生まれ持った責任を果たし終えて本当の意味で自由になった後に、また見ぬ浦田な世界へ旅立ってみたい。
そんな夢みたいな願いが自然と言葉になっていた。
「本当にね。これこそロマンなのかもね」
「どうやったら行けるのか、想像も付かないけど、そんな困難を超えて辿り着けたら最高だよね」
「でもコレは、お父様やお兄様たちも絶対に行きたいと思うよね」
「新たな世界を目指す為に今の立場を捨てたりとかしてもらったら困る・・・」
「流石にそれはないと思いたいけど・・・・・・」
完全に無いと断言しきれない所が困る。
特にユリィのお父様なんかは、既に王位を譲られて隠居しても何の不思議もないので、これ幸いとさっさと王位を返上されたりしそうで怖い。
いや、本当は早く王位の交代をするべきなんだけども、あの王太子、ユリィのお兄様は何と言うか、本当にこの人が王位を継いで大丈夫なのかと不安になってしまう・・・。
本当は、国内の反乱分子の目を欺くための炎具だったらしいけれども、あのケイに対する行いは私たちを全力で引かせたから・・・。
・・・と言うか、アレは本当に演技だったのだろうかと本気で怪しく思ってしまう。
「でも、誰だって新たな世界を見てみたいと思うよね」
「本当に見れるかなんて判らないけどね」
少なくても、今の技術じゃあ絶対に辿り着けない。
そもそも、イズチに住まう強力な魔物たちの脅威を切り抜けて、外宇宙に名で辿り着くこと自体が不可能。それに、辿り着くまでに一体どれだけの時間がかかるか判らない。
それでも、何時から行ってみたいと思う。だけど、それは何時か。今はまだ、この私たちが済む世界。ネーゼリアですらまわっていない、まだ見ぬ未知の大地が多くあるのだから、それらを見もしないで新たな大地に行くなんてもったいない事なんて出来ない。
だから私は、私たちは、今この瞬間の、これ以上ない幸運を最大限活用して、この世界の全てを楽しも尽すって決めている。
だからアベル。私たちををもっと楽しい場所に連れて行って欲しい。
活動報告にも書きましたが、書き直しを始めました。
〇話を新しく書き直したものに変えています。




