181
さて、無事にとは言い難い気もするけど、遺跡の調査も終わったし、これでツバイトナッハでやるべき事は全部終わった事になる。
問題は次はどの遺跡に行くかだが、その前にレベリアを戦えるように仕上げないといけない。
現状の彼女の状況は、仲間になった当時のザッシュよりも悪い。
ザッシュの場合は、アレでも一応は記憶を取り戻して二十年近く経っていたし、その間に魔法を使えるようになったりとある程度はこの世界に馴染んでいた。
対してレベリアの場合は、記憶を取り戻してまだ間もない。しかも、記憶を取り戻す前は箱入り娘状態で、この厳しい世界を生き抜くために必要な常識にも事欠く有様。
簡単な魔法のひとつも使えないとは思いもしなかったけど・・・・・・。
そんな訳で、彼女に関してはまず魔法の基礎中の基礎から教えて行かないといけない。
「これは結構時間がかかりそうだな」
「そうね。まさか、貴族に生まれながら魔法のひとつも使えない娘がいるとは思わなかったわ」
レベリアは一応男爵令嬢なのだが、魔法のひとつも使えないとは本当にどうしたものか、要するに、ヒューマン至上主義者の超絶大バカの両親が、手駒としてしか娘を見ていなかった結果だろう。
下手に力を付けられて、反抗されるのを嫌ったのだろう。自分たちの都合の良い様に教育して、自分たちに逆らえないように力を与えずにただ都合の良い人形に仕立て上げたと、本当に虫唾が走るんだが、まあ、早々に壊滅できて良かったとしよう。
「私としては、早く魔法を使ってみたいんだけど、覚えるのにどれくらいかかるの?」
「まあ、使うだけなら一週間もあれば覚えられるよ」
救いとしては、自分のこれまで置かれていた状況を理解しながらも、当人が随分と楽天的な事だろう。
正直、彼女のこれまでの人生も、置かれている状況もあまりにも厳しいものだ。それを彼女自身解った上で、受け入れてこうして気楽そうにふるまっているのだから、本当に大したものだと思う。
とりあえず、彼女が前向きに今を受け入れてくれているなら、俺たちも全面的にサポートするとしよう。
まずは何はともあれ魔法だ。魔法を覚えてもらわない事には何も始まらない。
だけど、これが結構大変だったりもする。当然だけども、前世の地球には魔力も魔法もなかった。だから、体の中にある魔力を感じ取り、それを自在にコントロールして魔法を組み上げていくプロセス自体がまったくの未知なる経験となる。
要するに、自分の魔力を感じ取る。このはじめの一歩が結構な関門なのだ。
・・・正直な話、俺もコレに随分苦労したし、ザッシュやサナもかなり苦労して何とか感覚を掴んだとこぼしていた。
まあ、これさえ覚えられれば後は比較的はやいのだけども、コレにてこずると魔法を覚えるのにどれくらいかかるか判らなくなる。
出来れば、さっき言った一週間程度で、自分の魔力を感じ取れる様になって欲しい所なんだけども、こればかりはやってみないと判らない。
まあ、一度感覚を覚えてくれれば、後はもうコッチのものだ。一気に魔力操作の修行を進めて、まずは魔力だけでもBランク程度の領域にまで引き上げるつもりだ。
その後は、実戦を経験させながら闘気の扱いにも慣れていってもらい、ある程度うまく扱えるようになったら今度はパワードスーツを使った実戦に入ってもらう。
で、それに慣れたら今度は装機竜人を駆っての戦いだ。そうして一気に実戦と修行を繰り返して、出来れば半年くらいでA+ランクくらいにまでなってもらう予定。
「余り無茶はしないようにね」
「まったく戦う術を持たない、〇からのスタートなんだからそこまで無茶な事はしないよ」
と言ってみてもミランダは全く信用してない模様。
まあ、実際今のプラン。半年程度でA+ランクにまで鍛え上げるなんて無茶どころの騒ぎではないので、それも当然だと思うけれども、レベリアの場合は転生者だからあながち無理でも無かったりする。
はじめから自分で鍛え上げていて、十分な力を持っていたサナはともかく、ほとんど鍛えてなくてザコザコだったザッシュも半年足らずでSクラスにまでなっている。転生者特典なのか知らないけど、どうにも強くなりやすいようなので多分レベリアも頑張れば行けるはずだ。
「まあ、とりあえず魔力を感じ取ってもらわないと何も始まらないから。集中して、自分の体の中を循環する血液の流れを感じ取って、そこから、同じ様に自分の内側を循環している魔力、別の何かがあるのを感じ取ってみてくれ」
これは俺が魔力を感じ取る時にもやった方法で、前世に読んだ小説とかを参考にした方法。
魔力も何もない前世の地球の創作で、異世界転生したり、異世界転移した主人公たちが魔法を使う為に魔力を感じ取り使えるようにするためにやってた方法だったと思うけど、ダメ元で試してみたらうまくいったんだからあの時は本当に驚いた。
そんな訳で、この方法を試してみる様にレベリアに進めてみたんだけども、流石に初日で魔力の感覚を掴めるなんて事はなかったが、修行が終わった後も一人でずっと試していたのか、次の日には魔力を感じられるようになっていた。
そうなれば後は話が早い。次はその魔力の自分の思うイメージを伝える事が出来れば魔法の完成だ。
因みに、「紅蓮の業火となりて敵を焼き尽くせ。ファイヤーボール」などの中二病臭い演唱は、魔法のイメージをより具体的にするための補助的なものに過ぎず。イメージさえしっかりと出来ていれば唱える必要はない。
「魔力を感じられたなら、次はその魔力を掌に集めて集中して、それを魔法に変換すれば、魔法が使える。まずは魔力を集めて、それを光に変えるイメージで」
当然だけども、一番最初は殺傷力のない魔法から始める。
いや、唯の光でも十分危険だったりもするんだけどね・・・。それでも炎とかよりははるかに安全だ。失敗しても先行で視界がマヒするくらいで、イキナリ爆発する危険性がないからな。
「照明でもイメージすればわかりやすいし安全だと思うから、やってみると良い」
万が一にも、暴徒鎮圧用のスタン・グラネードでもイメージされたら堪ったものではないので、夜道を照らす外套とかその辺りをイメージして光の魔法を使ってもらい。
「光、光・・・、魔力を光に変える・・・」
ブツブツと呟きながら、イメージを具体的にしていく作業をしているのだろう。まあ、これはそう時間はかからないのは判っている。予想通り、一時間もしないでライトの魔法を使えるようになった。
「出来た。スゴイ!! 本当に魔法が使えたっ。ねえ、空を飛んだりとかも出来るようになるの?」
どうやら魔法が使えたのが嬉しいらしく、大はしゃぎしている。気持ちは判る。特に俺たちの場合は転生者だからもあるだろうけど、初めて魔法が使えた時の感動は本当に大きい。
「まあ上達すればね。流石にすぐには無理だ。飛行魔法は高度なコントロールを必要とする上級魔法だからな」
と言うか、制御に失敗すればそのまま地面に一直線なのだから、数十センチくらい浮かぶくらいの基礎練習ならともかく、空高くを自在に飛び回るのには相当の訓練が必要不可欠だ。
「そうなの? まあでも、考えてみたら失敗したら空から真っ逆さまなんだら、結構危険な魔法なんだし、難しいのも当然かも」
「そう言う事。飛行魔法を覚えたいなら、まずは魔力のコントロールを自在に出来るようにならないとな。そんな訳で、予定よりも早いけれども次の修行に行くよ」
しかし、実質たった一日で魔法が使えるようになるとは思わなかった。
この魔力の感覚を掴むのは、幼い頃の内に覚えられればいいけれども、年を取ると共に中々覚えずらくなっていくと聞いた事があるんだけども、前世合わせてアラフォーだと言っていたのに、どうやら彼女はかなり柔軟で臨機応変な思想や発想の持ち主みたいだ。
それは魔法や闘気を扱う上でこの上なく有利だ。後の問題は、彼女が実際に戦えるか?
それが最大の問題なのだけども、こればかりは実際に実戦を経験してみないと判らない。
「ほら、もっとシッカリ魔力を制御する」
そんな訳で、今はその問題は棚上げして彼女の強化に集中する。それと同時に、勿論だけど遺跡の調査も続ける。
て言うか、立場的にレベリアは何時までもツバイトナッハに居るのは不味いので、さっさと次の国に行く事にする。
次の国は何処にするか、色々と悩んだんだけども、結局アウラータ皇国にした。
・・・・・何時までも先延ばしにしていても仕方ないし、Gの魔域がある国にしようかとの案もあったんだけども、入ったばかりのレベリアにイキナリはキツイだろうと今回は見送った。
て言うか、ほぼ初となる魔物との遭遇がアレとか、本気でトラウマになって立ち直れなくなると思う。
「魔力操作が上手くいくようになったら、そのレベルに合わせて魔法も教えて行くから頑張って」
とりあえず、レベリアを戦えるように強くしていくのが先決になったけど、この様子なら思ったよりも掃くその時は来そうだ。
その時に、彼女が戦えるかどうかは別問題だけど・・・。




