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「・・・・・・・・・・・・・・」


 何か喋れ、思わずそう突っ込みたくなるのを何とか堪える。

 今いるのはツバイトナッハの王城。その一室で、俺はザッシュとサナと一緒に家族と、つまりは国王尾侯爵家当主であり宰相である人物などと対面している。

 それは良いのだけども、ここに来てかにザッシュが石の様に固まったまま一言も喋らない。


「まさか二人がこれ程までに早く、Sランクに至るとは・・・」

「信じられませんが、事実なのですね」


 どちらの両親も、いきなり自分の子が既にSランクにまで至っている事実を告げられて混乱しているので、何か取繕うなら今の内なんだが、そんな気も回らないらしいザッシュの様子に呆れてしまう。

 まあ、やらかした事を想えば、ほとぼりが冷める間もなく戻ってくるのは勘弁してくれと言う所なんだろうが、どのみち逃げられはしないのだからサッサと覚悟を決めれば良いものを・・・。


「アベル殿、本当に感謝します。言葉もございません。まさか我が息子がSクラスに至るなど、夢にも思いませんでした」


 そうか?

 俺が預かるのを申し出た段階でもしかしたらと考えていたと思うが。

 まあ、ツバイトナッハ王国としては万々歳だろう。俺との繋がりを持てたどころか、王族の中からSクラスが排出されたのだ。

 後はまあ、ザッシュとサナが結婚してくれれば、その子どもを王の好配として迎えればいい。

 ザッシュは王位継承権を剥奪され、王族から除名された上で国外追放になっている身だが、これを取り下げるのも実は簡単だ。

 要するに、魔域に異常が発生した時にでも颯爽と駆け付けて解決する。そんな功績をあげる状況を造り出せばいいだけ。


「サルディナもよくぞアベル殿の教えに従い。ココまでに至ったものだ」

「過分な御言葉光栄にございます。国王陛下、しかし、私などまだまだ未熟者に過ぎません」


 サナの方はこの場の空気を呼んで微妙に牽制したりしているな。


「二人については、これからも私が預からせてもらい。その得た力に相応しいだけの高潔な精神を身に付けてもらうつもりです」


 とりあえず、王たちとしてもまだザッシュたちに戻ってきてもらうのは早いと判断しているだろうし、俺の方としてもまだ二人を手放すつもりは全くないので、事実上、今回の対面の目的は今の一言で終了。

 後の問題はザッシュの方なんだが、コイツは何時まで固まっているつもりだろう?


「あの、父上、レベリアはどうしておりますか?」


 ようやく口を開いたと思ったら、第一声がそれかい?

 まあ気になるのは当然だと思うけどな。

 だけど、相手はあくまでヒューマン至上主義者どもが送り込んだ工作員の様な者だ。あえて気にする必要もないと思うが?


「ああ、あの者か・・・・・・」


 と思ったら、王を含めて全員が何やら頭が痛いとばかりに溜息を付いた。


「あの者は今も監禁しておる。何やらこんなはずじゃない。私はヒロインなのにどうしてこんな事になるのなどと訳の分からない事ばかりを言っておってな、会話すら成り立たぬのだ」


 それは本当にご愁傷さまとしか言いようがないけど、今度は俺たちが頭を抱える事になったよ。

 それは間違いなく転生者では?

 成程。王子に悪役令嬢。そしてヒロインまでが転生者だったと・・・・・・。

 それならそれで、あのバカ騒ぎの時に反応してくれればいいものを・・・。


「そうですか、では、一度私たちと会せていただけませんか? 特にザッシュ様は一度お会いになって、キチンと過去を清算なさらなければいけませんし」


 ナイスだサナ。俺としてもヤッパリ合わない訳にはいかないだろう。

 それにしても、自分はヒロインなのだと思い込んだままの転生者か、本気で面倒臭そうな相手だな・・・。

 そんなだからバカ共に利用されるんだと言いたいが、生まれた家がヒューマン至上主義でその考えに洗脳されてしまったんだから、彼女も被害者と言えなくもない。


「と言うかザッシュ、途中で気付かなかったのか?」

「いいえ全然・・・。俺はサナが転生者の事も気付きませんでしたし・・・・・・」 


 小声で問い質すが、ザッシュは王族から抜け出す事しか考えてなくて、完全に周りが見えていなかったから期待するだけ無駄か、


「サナの方はどうだ? それらしい素振を見せていたりしなかったか?」

「私も考えもしませんでした。彼女については身辺調査などをシッカリ行ったのですが・・・。そんな兆候はひとつも見付けられませんでしたし」


 サナの方は、ひょっとしたら自分を破滅させる相手かも知れないのだから、シッカリと調べていたようだが、転生者だとは見抜けなかったようだ。


「ひょっとしたら、全部終わってから記憶が戻ったとか・・・?」


 確か、バットエンド後に前世の記憶が戻るパターンもあったと思う。

 それだとすると本気でご愁傷さまとしか言いようがないし、今の自分の状況を受け入れられない、理解できないのも当然だろう。

 何かありえる気がしてくる。

 俺たちは顔を見合わせて深く溜息を付く。

 どうやら、思っていた以上に面倒な事になりそうだ。



「俺の言葉が解るか?」


 どうにかレベリア嬢との対面は俺たちだけで行えるように出来た。

 その上でまずは日本語で話しかけてみたんだけども反応がない。

 と言うか完全に心ここにあらずって感じで、俺たちの事にも気付いてない様な・・・。

 とりあえずは正気に戻ってもらわないと話にならないので魔法でちょいと。


「久しぶりだなレベリア」

「ザッシュ王子・・・・・・?」


 正気を取り戻したレベリア嬢がザッシュに気付いてこちらに近付いて来るが、何か話そうとしたところで俺とサナに気付いたらしく一歩下がって口を閉ざしてしまう。


「どうして貴方が此処に? 貴方はあの一件で国外追放されたハズです」

「アベル殿とサルディナ嬢の付き添いでな。ここに来たのは、キミが未だ監禁状態にあると聞いたからだ」

「そうですか・・・」


 なんとも余所余所しいやり取りだな。

 さっさとキミは転生者なのか? と聞いてしまった方が早いと思うが。 


「それで、ザッシュ様は今はどうなされているのですか?」

「今は、これまでの愚かさを反省し、王族として生まれた者としての責務を果たせる様に、アベル殿の元で修業に励んでいる」

「それは良かったですね」

「ああ、ようやく自分の成すべき事が解って来たよ」


 だから、そんな形式的な話を何時までしているんだと言いたい。さっさと本題に入れ、本題に、


「私はこの世界に生まれた意味を理解していなかった。王族として生まれた者の責務すら判ろうとしなかった。そんな私が今まで目を背けて来たものと、ようやく向き合えるようになったのは、ある意味でキミのおかげだと思っている」

「皮肉ですか?」

「そうじゃあない。私はようやくこの世界に転生してきた事実と向き合えるようになったと言う事だ」

「・・・っ転生?」


 ハッとしたようにザッシュを見るレベリア嬢。その顔にはアリアリと驚愕が浮かんでいる。

 これは、間違いなさそうだな。


「キミもそうなのだろうレベリア?」

「なっ? う・・・えっ? ・・・どういう・・・・・・」


 完全に混乱しているようだけども、その反応がそのまま答えになっている。


「それと私だけじゃない。サルディナ嬢も、アベル殿も同じ日本からの転生者だ」

「うそっ・・・」

「ウソでも冗談でもない。俺が前世の記憶を取り戻したのは五歳の時。日本人だった記憶が戻った」

「私も六歳くらいの時に、前世の記憶を思い出しました」

「私が一番遅くて八歳の時だな。そして、キミはこの前、記憶が戻ったばかりだ。そうだろう?」

「・・・・・・ええ、私が前世の記憶が戻ったのは、ここに囚われた後、正直、・・・はじめは何が何だか全然わからなかった」


 やはりそうか、彼女は十八歳だったハズだ。それまで記憶が戻らなかったのは偶然と言うよりも、こうなる事が初めから決まっていたからの様な気がする。


 全てを失って囚われた失意の内に前世の記憶を取り戻し、更なる絶望の淵に追い込まれる。全てが初めから仕組まれていたんじゃないかと思える。


「やはりか、それで、はじめは此処が乙女ゲームの世界とでも思っていたようだが、今は違うと理解しているのか?」

「正直言うと理解しきれていないわ。レミリアとしての記憶でこの世界の事も理解できているつもりだけど、それでも理解しきれてないのが正直な所」


 どうやら、自分はヒロイン。この世界は私の為にあるなんて勘違い系のお花畑じゃあないみたいだ。

 それなら、こちらとしても手を差し伸べるのもやぶさかでもないけど、転生者だからと言って無闇やたらに引き入れるつもりも当然だけどない。


「気が付いたら、自分の置かれている状況がネット小説とかで読んだ事のある。所謂ヒロイン様ぁ系のお話みたいになっているし、はじめは本当に混乱したけど、貴方たちの話を聞いて大分落ち着けたわ」


 まあ、イキナリ投獄されている状況で記憶を取り戻したりしたら、混乱しないハズがないよな。

 それと、こうして実際に話すのは初めてだけども、記憶を取り戻したからか結構落ち着いた理知的なタイプみたいだ。


「後から知ったけど、記憶を取り戻す前の私は、ヒューマン至上主義なんてバカな妄執に取付かれた両親に洗脳されて、かなり危ない子だったみたいだし、あの婚約破棄騒ぎの事も思い出したら赤面どころじゃないし、本当にどうしてもっと早くに記憶が戻らなかったのって思う」


 そこからは一気に溢れ出るままの愚痴を聞かされ続ける事になった。

 まあ仕方がないだろう。気が付いたらイキナリ牢の中で、誰にも不満をぶつけられないまま半年以上一人で貯め込んで来たんだ。

 それに、こうして不満をぶつけられるとかえって安心できる。

 どうやら、極めて現実的で良識のある人物だと判ったし、さり気なく聞きたかった情報もゲットできた。


「はあ・・・・・・。それで、私はこれからどうなるの?」

「キミが良かったら、俺が身元引受人になるけど?」


 それは転生者だから仲間に引き入れるって事じゃないのか?

 との突っ込みはスルー。

 単に、俺が彼女を気に入ってしまっただけなので気にしないで欲しい。



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