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さて、魔域の調査も終わりローレラントでの用事も全て終わったので、次の国に向けて出発する訳だが、その前に一度、クマーラの元に寄って行く事としよう。
クマーラの料理店兼俺たちの拠点はもう完成している。
と言うか、拠点を置くつもりだとローレラント王家に伝えたら即座に用意してくれた。
当然だけど、キチンと代金を支払って購入している。
だがまあ、王都の目抜き通りの一等地にある地上五階、地下三階のこちらの希望にピッタリの物件を即座に用意してくれるのは流石王家だ。
因みに一階部分はクマーラの料理店『ベルーゼ』になり、二階部分は事務室やクマーラらの居住スペースになっている。
他の改装は基本的に俺たちの拠点として活用するが、まあ、年に数回使うかどうかなのは確実。
「なかなかの客入りだな」
さて、オープンしたばかりのベルーゼはほぼ満員の状態だ。クマーラの料理の腕を考えれは当然の気もするが。
「まあキミが専属料理人にした人物の店なんだから当然よね」
この客足の原因には、俺の存在も大きく係わっているのもまた事実。
自分で言うのもなんだが、俺は時の人と言っていい超有名人だ。その俺が直々にプロデュースしたに等しい店としてローレラントだけでなく他の国々でも話題になっているらしい。
そんな訳で、料理フェスタは終わったのに各国から次々と人が訪れて、しかも目的はこの店と言う事で開店初日からてんてこ舞いらしい。
店の従業員は、家族やこれまで働いていた店から信頼のおける人物を引き抜いたり、料理フェスタで屋台を出していた料理人の中で仲良くなった人物など(俺たちが気に入ったドリアやエビのフリッターを売っていた屋台の料理人だった)を雇い入れてなんとか体制を整えたらしいのだけども、あまりの客の多さにさばききれないと、急遽アジュラもしばらく貸して欲しいとクマーラに泣き付かれたりした。
まあ、アジュラの方は何処の拠点を任せるかまだ決めてなかったので、しばらく預ける事にしたのだけども、それでも修羅場が連日続いているようだ。
そんな事を他人事に様に考えながら目の前の料理を堪能する。
うん。実に美味い。
やっぱりクマーラの料理人としての才能は超一流だ。専属料理人兼拠点管理人として雇い入れたし、いずれはジエンドクラスの食材の調理を頼める日もそう遠くはないだろう。
・・・・・・その時には、間違いなく本人は頭を抱えるか、卒倒するかのどちらかだろうけど、俺の元に来たのが運の尽きと諦めてもらうしかない。
因みに、今食べている料理はSクラスの魔物の食材を渡して作ってもらったものだ。これで料理を作ってくれと頼んだ時の引き攣った顔が実に印象的だった。
「程々にしておかないと逃げ出すと思うけど」
「うーん。逃げ出すのは無理だと思うよ。それよりも緊張と重圧に耐えきれずに壊れちゃうかも」
ユリィとケイは若干呆れ顔で忠告してくる。
まあ確かに、ここはゆっくりと少しずつ感覚を麻痺させていく戦法で行こう。
気が付いた時には後戻りできなくなっていると・・・。逃がすつもりは無いので諦めてくれ。
「だけど、初めての食材でこれ程の料理をつくり出すなんて流石ですよね」
アレッサは始めて調理する食材を完全に活かしきっている腕に関心している。
俺としても早速期待に応えてくれて大満足だ。
「これなら、いずれジエンドクラスの食材も完璧に調理してくれそうだな」
出来れば、10万年前のレシピに無い新しい最高の料理を完成させてくれると嬉しいんだが、それは流石にいくら何でも要求が高すぎるだろう。
だけど、それくらい期待してしまうくらい。クマーラやアジュラの料理人としての才能は計り知れないと思う。
天性の料理人と言うか、もうチートレベルの才能だ。
そもそも、二人ともまだ二十歳で、本格的に料理人として修行を始めてからまだ数年しかたっていないそうなのに、ぶっちぎりの腕前を披露して数十万の料理人が参加するフェスタで上位入賞を果たしてみせたのだ。
「だから、あまり先走らない。確かに先が楽しみな料理人なのは確かだけど」
実際の所、二人は今の段階ではミランダが見付け出した店の料理人に比べれはまだまだだ。だけど、このままいけば数年後には並び立つ腕前になっている可能性もあるし、更にこの二人に影響を受けてあちらの方も更に腕を上げてくれる可能性もある。
何事にもお互いに高め合えるライバルがいるのは良い事だ。
と言うか、ミランダ蓮寺クマーラたちの料理をクレストまで届けているらしい。結果、どうやら思惑通りに新たな才能あふれる料理人に刺激を受けている模様。
うん。頑張ってくれアミーラ。更なる美味しい料理で俺たちを迎えてくれるのを期待している。
何か、クレストとローレラントに来る回数が増えそうな気がするのは気のせいじゃないな。
「さて、クマーラの方も大丈夫そうだし。料理も堪能した所で、そろそろ次の国に行こうか」
料理フェスタを全力で楽しんだこともあって、思いの外ローレラントに長居をしたから、そろそろ次の国に行った方が良い。と言うか、滞在期間の差で色々と不満を持たれたりとか面倒な事が起きるのは、本気でどうにかして欲しい。
まあそれはさて置き、問題は次は何処に行くかだ。
前回ローレラントに来た時は魔域の活性化のただ中で、終わった後はようやくゆっくりと出来て半年ほど各国を回る観光旅行な事が出来たが、今回はそんな余裕はない。
別に逼迫した状況下にある訳じゃないけど、少なくも遺跡探索については出来るだけ早く済ませておいた方が良いのは確実。
て言うかまだまだ終わりが見えてこないし・・・。
この大陸の発掘済み遺跡を周り終えたら、次はユグドラシルとかレイザラムに行かないといけないし。本気で世界中を旅する事になる。
て言うか実際の所、発掘済みの遺跡だけでどれだけあるのだろう?
十万年前の段階で、世界中で必要のなくなった施設がどれだけの数封印されたのかも謎だが、いったいこの十万年の間に、どれだけの転生者がこのネーゼリアに現れたのかも謎だ。
少なくても百や二百じゃすまない。数千人は確実どころか、数万、十万以上を超えてていてもおかしくない上に、どうも全員日本人らしいのも不可解。
とりあえず、この大陸にあの残りの発掘済みの遺跡を周るだけで後二か月はかかると思われる。世界中の発掘図もの遺跡を周りきるのにどれくらい時間がかかるかと考えると少し怖くなってくる・・・。
「次はツバイトナッハに行くか、そろそろザッシュとサナの様子を見せて、挨拶しに行って良い頃だし」
「俺は別に戻らくても良いかと・・・」
「そんな訳にはいかないのは判っていらっしゃるでしょう? ご自分の不始末なのですから、キチンと責任を取らなければなりませんよ」
国に戻るのをしり込みするザッシュをサナが呆れたように窘める。
どうやら、ザッシュの中で国を出る前にやらかした黒歴史が盛大に後を引きずっているようだ。
まあ、家族に合わせる顔がないと言ったところだろう。
それでも、俺と一緒に旅を続ける中で必死に修行について来て、僅かな期間でSクラスにまで至ったのだ。
既に悠々と凱旋しても良いのではないかとも思うが?
本人としてはまだまだ戻りたくない模様。
「まあ、やらかしたのを考えれば、まだそんなに時間が過ぎた訳でもないのもあって国に戻り辛いのも判るけど、それなら、一番やらかした相手であるサナと一緒に居るのは良いのか?」
「それはその・・・、サナだから」
説明にも言い訳にもなってないが、要するにサナは同じ転生者なのもあって気にしない事にしたのだな。
周りから見たら、どうしようもないような大失態をやらかした相手と一緒に旅をしている時点で、国に戻るとかよりもはるかに気が重い試練とみられるハズだとかは気付いてない模様。
とは言っても、王位継承権を失ったとはいえやはりそろそろ一度国に戻って、自分のしたことのケジメを、後始末を付けないといけないのも事実。
「それにどの道、遅かれ早かれツバイトナッハには行くぞ。遺跡があるんだからな。それに、自分の国の遺跡に何が眠っているのか気にならないのか?」
「それは、・・・・・・・・・気になります」
「私もです。自分が生まれ育った国に遺跡があったなんて知りませんでした」
真相の令嬢然としながら、活動的で溌剌としたサナは、間違いなく遺跡がある事を知っていたら一人で遺跡に行っていただろう。
「転生者が二人も居た国だから、何かヤバいモノが眠っている気がして怖いんだけどな・・・・・・」
「アベルさんのベルゼリアでの例もあるから、否定できませんね・・・」
「でも、かつて発掘した転生者が残した何かが同じ様に残っているなんて偶然は・・・・・・」
無いハズと言いきれないのが怖い。
と言うか、今ネーゼリアに居る転生者が俺たち3人だけなのかも判らない。
このまま旅を続けていく中で、何時の間にか転生者の仲間が増えていく可能性もあるし、転生者と敵対する事態になる可能性だってある。
「まあ、とりあえずザッシュは遺跡の事より、国に戻ってきちんと責任を取る事に集中する事だ」
「・・・・・・・・・はい。・・・判ってます」
どうやら、今回のローレラントでは料理フェスタを楽しむのがメインになったように、次のツバイトナッハではザッシュの後始末がメインになりそうだ。
ついでに、その中でサナが何をするかが何気に注目だったりする。




