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あの後、バカが消えてからは何の騒ぎや問題もなくフェスタを楽しむ事が出来た。
それと、あのバカが騒いでいた屋台で売っていたボルシチに似た料理は、クマーラの海鮮パイに匹敵する美味さだった。濃厚な旨みが寒い季節にピッタリで、ほんの少しだけたらされたクリームとの相性も抜群だった。
当然ながら、その屋台の切り盛りしていたアジュラ・バサラと言う名の料理人は、クマーラ・ジュールと共に料理フェスタ本戦へと進み、見事に上位入賞を果たした。
さて、俺としてはこの二人には声をかけて置きたい所なんだけども、自分たちの拠点の管理の為だけにこれ程の料理の腕を眠らせてしまうのも惜しい。
クラスとのアレはどうなんだと言われれば、彼らにはシッカリと料理店を続けてもらっている。要するに彼らの店自体を俺たちの拠点に無理やりしたみたいなものだし・・・。
うん。あの二人には是非とも拠点の管理者となって欲しければ、彼らの店兼俺たちの拠点という形にすればいいだろう。、
屋台からの参加という事は、恐らくまだ自分の店を持っていない訳だから、上手くすれば話に乗って来るはずだ。
「そんな訳で、俺たちの拠点の管理と一緒に店をやってみないかな?」
「「・・・・・・」」
早速呼び出した二人に提案してみたんだけども答えはなし。というか完全に固まってしまってる。
「一応拠点としては確保しておくけど、使う頻度はそうそうないはずだ。この国に来た時に使うだけだし。それも魔域の活性化とかの緊急時には使わない。まあ、だからこそ、拠点の管理をしてくれる人材が欲しい訳なんだけど」
「それを私たちに・・・?」
「正確にはこの国の拠点をクマーラに、アジュラには別の拠点の管理を任せたいと思ってる」
クマーラをこの国の出身だけど、アジュラは別の国の出だ。料理フェスタに参加して名を上げるために来ていた所らしいので、こちらも丁度良い。
名を上げたいと思っていたのなら、俺の専属料理人となるのもありだろう。
「あの、本当にありがたいお話なんですけど、俺たちなんかで良いんですか?」
「ああ、キミたちの料理の腕を俺は高く評価してるし、人柄についても問題ないのはこうして対面していれば判る。」
正確には、既に身元の調査なども全部終えていて、家族構成から何から全て知れている。その上でこれなら信頼できると判断した。
「判りました。お受けします。」
「俺も身に余る光栄です。これからどうぞよろしくお願いします」
少し考えた末に二人は頭を下げて受け入れて、俺は専属料理人兼拠点の管理人を二人手に入れた。
「さてと、そんな訳で祭りも思う存分楽しんだし、思いがけない収穫もあったけど、そろそろ遺跡の探索の方に戻ろうか」
既にローレラントに来て二週間になるのに、未だに何もしてなかった遺跡の方に向かうとしよう。
そんな訳で、早速まずは、俺一人で遺跡に行ってどんな施設だったのかの確認。
判っていた事だけども、ローレラントの遺跡は永久凍土の下。分厚い氷の層と、完全に凍り付いた大地の奥に眠っている。
これまた何時も通りに、遺跡に続くトンネルを掘って行く。
遺跡の入り口前に辿り着いたら少し空間を確保して、さてこれまた何時も通りにロックの解除に取り掛かる。
それにしても、何時も思うんだが、このロックはどうして全部日本語で記されているんだろう? 問題も全部日本人を対象にした、日本人ならわかるだろってものだし、完全に日本人の転生者限定で設定されているのが気になる。
地球の他の国からの転生者はいないのだろうか?
それとも、今まで巡り合わなかっただけで、他の国からの転生者用のロックをされた遺跡もあるのだろうか?
今更ながらその辺が謎だ。
まあ、考えても答えが出る訳でもないので、さっさと遺跡を調べてしまう事にする。
ロックを解いて中に入ってみると、どうも工場のように見える。問題は何の工場かなのだけども、これでまた飛空艇や装機竜人の製造工場とか言うのは本気で勘弁して欲しい。
どうかそんなのではない様にと願いながら奥に進んで行きドアを開けると。
「これは、工場よりもアトリエか?」
どうやら危険と言えば危険な遺跡であった事は間違いなさそうだと確信した。
「魔道具の生産アトリエですか?」
「そう、ここは新たな魔道具の研究開発の為の施設だったらしい」
正確には10万年前の転生者たちが、自分たちの好きな様に自由気ままに、思い付くままに魔道具などを造っていた場所。
よって、ここで造られていたのは実用性のない物なども多い一方で、とんでもない性能過ぎて封印せざるおえなかったような危険物まで多種多様。
ある意味で飛空艇の生産工場などよりもはるかにタチの悪い場所だ。
「空飛ぶ絨毯とか、何に使うのか判らないモノとか色々と作っていたみたいだ」
魔法の絨毯を造ってみたくなった気は判らなくもないけど、実際に作ってみても役立たずなのは確定だ。
ぶっちゃけ、面白半分で造れるかな? と悪乗りして造ったような魔道具がほとんどで、その意味では結構ホッとしていたりもする。
さり気なく本気でシャレにならないような魔道具とかもかなりあったりしたんだけど、その辺は事前に回収させてもらっている。まあ、後でコッソリ戻してしまおうと思っている回収した魔道具の中には、星ひとつ容易く破壊する兵器なんかもあったりしたし、恒星間航行用の宇宙船なんかも残されていた。
本気で何でもござれで、好き勝手に研究していたのがまる判りだ。
「まあ、ここにある物はこのまま封印で良いと思うよ。実は結構めんどくさいのも多いし」
「めんどくさいモノですか?」
「魔石とかの素材」
その答えに全員納得してくれたようだ。
平気でレジェンドクラスの魔物の魔石とか、オリハルコンとかレイザラムやらがいくらでもあったりする。
ある意味で、ここで研究されたいた魔道具そのものよりも、ここに残されている素材の方がはるかに問題だ。
まあ、要するに当時下手に残しておくと危ういと判断した素材とかを此処に集めて封印したとかなんだろうけれども、下手に発掘してしまうと今度はこっちの時代が大変とか勘弁して欲しい。
「まあ、正直少し持って行きたいのだけど」
「確かに、これ程の素材があれば色々と作れるかも」
「ああ、少しならいいけど、出所とか追及されても面倒だから、本当に程々にな」
そのまま封印と行きたかったんだが、ミランダを筆頭に魔道具作りを趣味にしているメンバーにすると見逃せない素材ばかりの様だ。
いや、気持ちは判るよ。今までどうしても手が出せなかった研究に手が届いたり、素材の強度不足から作れなかった魔道具を完成させられるかもしれないんだし・・・。
だけど、本当に程々にお願いするよ?
本気て貴重な、それこそミランダレベルですら今まで手に入れられなかったような素材がてんこ盛りなんだから、そんな沢山持って行ったりするとどうやったって周りが怪しむ。
「それにしても、完全に趣味に走った研究にこれだけのモノを揃えられるんだから凄いわよね」
その感想は本気で正しいと思う。
どうやら、世界を救う傍らで、10万年前の転生者は本気で好き勝手に生きていたようだ。
「まあ、カグヤの製作者たちが使っていたアトリエだからな。その意味では当然だろう」
「つまり、カグヤに使われている技術の研究もここでなされていた訳?」
「多分な」
実際は、他にも研究施設と言うか、アトリエがあった可能性もあるけれども、まあ、ここでもカグヤに必要な技術の研究をしていたのは間違いないだろう。
遊びながら世界を救ったとでもいうのか、本当に10万年前の転生者たちはスケールが違う。
別に憧れるとか、俺もそんな風になりたいとか思う訳じゃないけれども、こうしてみると、もっとこの世界を楽しむべきじゃないかなと思えてくる。
何を言い出すんだとか言われそうだが、間違いなく、このアトリエで魔道具を造っていた彼らは、俺よりもはるかにこの世界を楽しんでいたと思う。
せっかくの異世界なんだら思う存分楽しまなきゃ。そんな彼らの声が聞こえた気がした。




