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「スゴイ。本当に美味しい!!」
ミランダ御用達の店の味は相変わらずで、久しぶりに来た俺たちも思う存分楽しんでいるし、始めて来たメンバーも目を輝かせている。
しかし本当に美味い。
あれから更に色々な地を周り、世界樹の蜜やレジェンドクラスの魔物の料理など、至上の味を体験して来たのが、この店の味はそれらによって色褪せる事ない。
それどころか、前に来た時よりも更に味が良くなっている様にすら感じる。
「これは、チョット期待しちゃうな」
ここまでの料理の腕を持っているのなら、ジエンドクラスの魔物を使った、10万年前のレシピにはないう至上の料理も作れるのではないだろうか?
これまで色々な国を周ってきたが、ここまでの料理人はそれこそ数えるほどだ。
「まずは、レジェンドクラスの食材を渡して頼んでみたら?」
「そうですね。流石にいきなりジエンドクラスの食材はどうかと思いますし」
そもそも、ミランダ御用達の料理人とは言え、普段はSクラスの魔物の食材を使う事すらまずないだろう。その上レジェンドクラスの魔物の食材なんて最早伝説級だし、ジエンドクラスの魔物の食材なんて伝説を通り越して神話級の代物だ。いきなりこれを調理してくれと渡されたりしたら、あまりの事に気を失ってしまうかも知れない。
と言うか確実にそうなるだろう代物だ。
心配するのも当然で、まあ、ミランダ御用達の料理人になったのが運の尽きと少しずつ常識とサヨウナラをしていってもらうしかない。
俺たちが更なる美味を楽しむ為の尊い犠牲になってくれ。
「とは言え、あまり急ぎ過ぎるのもどうかと思うし、そうすると足繁く通う事になるかしら?」
「正直、この店に来るためだけにこれからはクレストにちょくちょく来る事になりそうだが、ここは一いっそのこと拠点を造るか」
「それは良いと思いますけど、ベルゼリアにもまだ、正式に拠点を定めていないのにいきなりクレストに拠点を置くのもどうかと」
盛り上がって来たところでアレッサが釘を刺す。
とは言え、確かに言う通りでその辺りの順番もしっかり守らないと、後々面倒な事になったりする。
現在、俺たちの拠点となるのは母艦であるヒュペリオンのみ。一応実家のレイベスト邸も拠点のような扱いになっているが、流石に実家をそのまま拠点とする訳にもいかないので、拠点を置くならまずはベルゼリアから決めて行かないといけない。
「ベルゼリアの拠点ね。普通なら防衛都市のどれか一つで決まりなんだろうけど、難しいな」
実の所、俺たちの場合は各国に拠点を置くにしても、場所を防衛都市にするのは止めた方が良かったりする。
普通なら、冒険者の拠点は基本防衛都市のどれかに置くのが一般的なのだが、俺たちの場合、防衛都市のどれかに拠点を定めれば、その歳が有事の際の要になってしまうのが確定する。
魔物の侵攻に対する要の都市に、いくつもある防衛都市のひとつから早変わりしてしまう訳だ。
それは色々とマズい訳でもないが、それなりに面倒な事になるのは判りきっているので、避けた方が無難となる。
そんな訳で、まあ拠点を置くなら防衛都市は避けて、王都か王領の中核都市辺りが妥当となる。
「王都は私とアベル様の実家がありますので、今更拠点を置くのもとなりますね」
「ある意味じゃあ、王都そのものを拠点扱いするのが一番簡単なんだが」
別に明確な拠点は定めずに、レイベスト邸や王城を拠点代わりとして王都がベルゼリアの俺たちの拠点と言った形にする。
自国でもあるし、ある程度特別視する形でそんな風にするのが一番簡単で、ある意味では妥当かも知れない。
「それでしたら、お父様に私から伝えておきます」
ティリアが直接王に伝えるそうなので、ベルゼリアの拠点についてはこれで問題なし。
「マリージアはあの別荘を譲ってもらおう」
王族専用の避暑地に建てられた別荘。以前レイルに借りたあそこを拠点としてしまえば良い。そうすれば気が向いた時にバカンスに行けるし、あそこは景色も良いし休養を取るにはもってこいの場所だ。
当然だけども、譲ってもらうと言ってもタダでではない。相応の金額を支払ってだ。
マリージア側としては、出来ればタダで譲渡したかったりもするだろうが、ここでタダでもらったりすると後々が絶対に面倒なので避けないといけない。
「アスタートとかは王都で良いでしょうし、ツバイトナッハはザッシュとサナに良い場所を探してもらって、アーミィッシュの方はケレスに、ルシンの方はダガートに、セイグケートはシャイールに頼めば良いとして、問題はエクズシスとかよね」
別に全ての国に拠点を置かなければならない訳ではないが、ある程度以上親しい国には置くべきだろう。
それで一番問題になるのがミランダの言う通りエクズシス帝国だ。あの国との関係はかなり微妙と言えるんだが、ルークたちが居るのだから拠点を置かない訳にもいかない。そうなるとむしろ・・・。
「エクズシスについては、ルークたちがあの国に留まるなら、彼らに拠点を造ってもらって、そこを俺たちの拠点としても使わせてもらう形が一番妥当だろ」
変則的だか彼らは俺のクラウンの所属。配下と言う認識になってるらしいから問題ない。
「それが一番妥当か知らね。他の弟子未満の所は必要ないでしょ」
「とりあえず、ここを含めて十か所くらい拠点を造る形で動いてみようか」
他の国も出来れば拠点をと騒がしくなるだろうが、そんな何重もの拠点を造っても使い切れない。
と言うか、単に拠点を設置すればいいだけじゃない。拠点を造ったからには、そこを管理するための人員も必要だし、常駐してパイプ役を務める人員も必要になる。
本当なら、メンバーの誰かが拠点の管理とパイプ役として拠点に在住しないといけない。ベルゼリアの拠点には俺かティリアが常駐するのが普通になるし、マリージアならメリアたちと言った具合になるんだが、俺も含めて誰も拠点に留まるつもりは無いだろう。
「拠点を造るとなると、管理とパイプ役も考えないといけないんだけど」
「ベルゼリアはアベルの家族。エクズシスはルークたちで問題ないとして、他が問題ね」
そうなのだ。誰ね拠点の管理とパイプ役に残りたくないだろうから、メンバーを拠点に在住させるのは間違いなくムリ。そうすると、他の拠点はその国に行った時に使うだけのモノになってしまう。
まあ、それはそれで構わないかも思うが。
なお、ひょっとしたらもう気付いてたりするかもしれないが、この国の拠点はズバリこの店にするつもりだ。そして管理は当然この店の人たちにしてもらう。
要するに俺たちの拠点の管理人兼専属料理人になってもらうのだ。
これはもう俺たちの中で確定事項。ミランダ御用達となり、俺たちに目を付けられた時点でもう逃げ道はない。
「とりあえず、拠点の事はこれまでかな。これ以上はどうしようもないし」
当然だけど、誰だって拠点で一人ポツンとお留守番なんて嫌に決まっている。じゃあどうするかは、実際に拠点が出来てからまで放置で。
「そう言えばもうすぐローレラントでは料理大会があるわね」
ここでミランダがポツリと漏らす。
聞くとどうやらローレラントで毎年行われている冬のイベントで、国中の料理人が集まり、一番を決める料理フェスタだそうだ。
「それは是非とも参加しないと」
そう言う前世の日本でもよく開催されていたような、気軽に楽しめるイベントは大歓迎だ。
ついでに、良い料理人が居たらスカウトしたい。
どこかの拠点管理人兼専属料理人として雇えると嬉しいんだが、さて、良い人材がいるかな?
「この前は魔域の活性化の所為でローレラントではゆっくり出来ませんでしたからね。今度はゆっくりと観光を楽しむのも良いですよね」
「それを言うなら、ここもそうよ。この首都は革細工の盛んな街。一流の職人が揃っているわ。そちらを楽しむのも良いと思うけど」
確かに、俺が以前訪れた時に衝動買いした鞘の様に、他にも優れた職人によって作り出された一品があるだろう。それに隠れた名工と言うのも居るだろうし、埋もれた名品を見付け出してみるのも楽しそうだ。
「そうだな。少しこの国でゆっくりするか。遺跡探索に観光だけじゃなくて、シッカリ魔物の討伐もするがな」
前回来た時には、結局魔物の討伐を一度もしなかったからな。今回はシッカリと討伐に励まさせてもらおう。それと、早い内に遺跡の探索も済ませておこう。何か、そうしておかないとそもそも来た目的なのに忘れてしまいそうだ。
うん。しばらくは魔物の討伐はしてものんびりと過ごせる日々を送れそうだ。




