表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/398

167

「これが10万年前の遺跡ですか・・・・・・」


 ニーナは目の真上の光景に圧倒されたように、呆然と呟いた。

 俺たちとしては、この遺跡は危険もないし特に問題ないのだけども、初めて訪れるとなると感想も違うらしい。

 と言うか、「これが普通の反応だよね。慣れて来てしまって特に何も感じなくなってきちゃってるのとかどうしよう」と真剣に悩んでいる様子のメンバーがかなりいるのだが、ここは放っておくのが吉だろう。

 下手に俺が入り込むと、取り返しのつかない事になりそうな気がする。


「この遺跡は月の観測基地。イズチの動向を見張るために造られた監視施設だ」


 衛星軌道上を周る観測器や、イズチ周辺に展開された監視衛星などから送られる情報を集計し、異変が起きた時にはすぐに判るようにするための施設。

 この施設の存在が、10万年前まではイズチこそが、月こそが最大の脅威であった事を物語っている。


「月を監視ですか?」

「ああ、そう言えば話していなかったか? イズチは星の全てが魔域となっていて、十万年前まではジエンドクラスの魔物が毎日のように溢れ出ていたんだよ」


 理解できていないルークたちに、10万年前までは今とは比べ物にならない程、激しい魔物の侵攻が続いていて、その状況を打開するために全天型魔素吸収式次元封鎖システムであるカグヤを造り出したのだと説明する。


「あの月のひとつが、魔域を封じるために、10万年前に人の手で造られた物だと・・・・・・?」

「まあ、信じられないのも判るけど、事実だよ」


 因みに、地球よりもはるか巨大な惑星であるネーゼリアの衛星であるイズチも、地球の月と比べて遥かに大きく、カグヤも、イズチと同じ大きさに造られているので、実に大きい。

 実際。二つの月は地球よりも大きいのだ。

 それ程までに広大なひとつの魔域。もし、その魔域が活性化を起こしたらどうなるのか?

 実は、この世界に転生してからずっと、その不安を拭いきれずにいる。


 ・・・・・・実際には、カグヤの封印が成されてからの10万年間、一度たりともイズチで魔域の活性化が起きた事はない。

 だけど、これまでは起きなかったからといって、これからも起きないは限らない。

 特に、今がカグヤによる封印が成されてからちょうど10万年だと言うのが気になる。


「この遺跡を見付けられたのは幸いだったな。ここはこのままイズチの監視の為に活用させてもらおう」

「何を恐れているのかは判るけど、もしもそうなった場合、現状、対抗できる保証はないわよ?」

「だからこそ、準備を万全にしておくべきだろう?」


 俺の言葉に、一応は頷きながらも、ミランダとしては心配し過ぎだと思っている模様。

 俺としても、心配のし過ぎの杞憂で終わってくれるのなら、それに越した事はない。


「心配のし過ぎだと思うのも判るんだがな。これまでの事を考えると、どうしても楽観視できないんだよ」


 そんな訳で、万が一の時にも対応できるように準備を進めている訳だ。

 メリアたちの修行が、本人たちが死ぬ思いをするほど過酷だったのも、言い訳をさせてもらえば、一刻も早く強くしなければと気が焦っていたからでもある。


「そう言われると、否定しきれないのも怖いわね・・・・・」


 いや、そこは普通に否定して欲しいんだが・・・・・・。

 そこでなんでみんなして真剣に考え込むかな? ルークたちが突然の事に戸惑ってるからね。


「とりあえず、この遺跡を見付けられた事で、もしも万が一の事態が起きた時には、その予兆をいち早く知る事が出来るようになったのですね」


 そう、何よりもまず、何かあった時にはすぐに詳細な情報を得られるようになったことが大きい。


「アベルさんはやっぱり俺たちなんかじゃ想像も付かない様な事を見据えて動いているんですね。正直、俺たちじゃ何が何だかサッパリですよ」


 マークが何か言っているが、別にそんな大した事はしていない。

 イズチに対する備えについては、転生してからの最大の不安だったので、とりあえず情報だけでも得られるようになったのは何よりの救いだけどな。


「まあ、一応はキチンと理由があって遺跡を周っているんであって、興味本位でやっている訳じゃないって事だ」


 そう言いながらも、純粋に興味本位な部分があるのも否定できないんだけど・・・・・・。

 一応言っておくが、別にこの言い訳をするために彼らを遺跡に連れて来た訳じゃない。あくまで必要だと思ったから連れて来たんだ。


「ここに連れて来たのは、キミたちにも俺たちの目的を知っていてもらう為だ。取り越し苦労に終わればいいが、万が一にも現実のものとなった時の為に」


 何も知らずに、何の備えもしていなければ、もしもイズチが活性化を引き起こすなんて事態が起きたなら、何も出来ず何が起きているのかも判らないまま死ぬしかないだろう。

 知っていても、何ができるかは別問題だけども、知っていればそれだけで備えておく事が出来る。


「実際に起こる確率なんて、万が一どころか、億が一もないとしても、可能性は理解しておいた方が良いからな」

「そうね。それに、話を聞くと本当に起きそうな気がしてくるし」


 ミランダ。それについては絶対に俺の責任ではないのであしからず。


「まあ、一応備えておくくらいだから、そんなに気にしなくても良い。それより、俺たちの目的を話した所で、次はキミたちがどうするかだ。キミたちはこれからどうするつもりなんだ?」


 実の所、彼らを此処に連れてきた理由の一つが、これから彼らがどうするつもりなのかを聞くためでもある。ここなら絶対に盗聴の心配も無い。ついでに、ホテルなんかで結界を張って話すのと違って、何か重要な事を話し合っているらしいと誰かに気取られる心配も無い。


「私たちがこれからどうするかですか?」

「判っているハズだ。国が今、キミたちを取り込もうと躍起になっているのを。キミたちがこの国に残った時点でそれは初めから決まっていた事だ。つまり、キミたちは狙って今の状態に持って行ったとも言える訳だが、その上でこれからどうするつもりなのかを聞きたい」


 例えどうするつもりであったとしても、決めるのはあくまで彼ら自身で、俺が口出しをするような事じゃあないのだけども、その上で聞くのだから我ながら業が深い。


「そうですね。俺たちが今、この国で英雄視されている事は知っています。そんな俺たちを国が放っておく訳もありませんから、確かに竜騎士に成らないかとの誘いもありました。まあ、あの事件で俺たちがこの国に天の良い感情を持っていないのは判りきってますから、控えめの勧誘でしたが、だからこそ逆に諦めるハズもない事も理解しています」


 ルークが俺を見て諦めた様に話し出す。やっぱり、この国に残ると決めた時からこうなる事はある程度予測していたようだ。


「その上で、俺たちは国に仕えるつもりはありません。俺個人が、この国に残ったのは過去の自分の甘さと、その結果として奴隷となった事実に向き合う為です。これから先、アベルさんの弟子のひとりとして更に上に行くためには、それがどうしても必要だと思いました」

「俺たちもそうです。確かに、この国に思う事がないかと言えばウソになります。それでも、復讐に人生をかけようなんてバカな事は思いません。そんな事よりも、これから自分たちはどうするべきなのか、それを見据えるためにあえてこの国に残りました」

「それと、自分たちに対して、どんな反応をするか見たかったのも事実かも知れません。今はまだ俺たちの中に確かにある怒りが、この国を決して許せずにいます。でも、何時かは怒りを飲み込んで全てを許せるようになるかも知れない。だからこそ、この国の人たちが俺たちをどう思うかを確かめたかったのかも知れません」

「自分たちの中にある想いと向き合う為に、俺たちはこの国に残ったんだと思います。それは決してこの国の為じゃない。ただ、これからの人生を何時までも過去に囚われたまま生きたくなかったんです。それじゃあ、俺たちを奴隷に墜した奴らに負けてしまう事になるそれだけは絶対に嫌ですから」


 ルークが、マークが、ミリアルドが、ルインが、それぞれに自分の本当の想いを言葉にしていく。

 そんな中で、ニーナだけが無言で俺を見詰めている。

 それにしても、やっぱり彼らは修行の厳しさに逃げ出した訳じゃなかった。自陣地震で向かうべき道を見付け出し、自らそこへ突き進んでいたのだ。


「私がこの国に残ったのも同じです。自分の想いに正面から向き合う為」


 そして、ニーナが俺に向けて話し始める。


「あのままアベルさんの元でアナタに甘え続けるんじゃなくて、自分の自信で想いに向き合って、タダ支えられるだけじゃなくて、アナタを支えられるくらいに強くなるために」


 その言葉に鈍い俺でも流石に気付く。これは告白は告白でも、俺への愛の告白では?


「アナタにSクラスにしてもらうのではなくて、自分でSクラスにまで成れたのなら、なんとか隣に居られるくらいにまで成れるんじゃないかと思ったのに、アナタはもうレジェンドクラスにまでなっている。ヤッパリ、私程度じゃあなたの隣に立つのは無理かもしれないと思うけど、諦めるつもりは無い。私は、アナタに相応しい女になって見せるつもりです」


 なんだろう。これ以上ない情熱的な愛の告白を受けているんだけど・・・、どうしたらいいのか判らない。


「だから、覚悟して待っていてくださいね。アベルさん」


 だけど、ニーナはこっちのことなんてお構いなしに、花の咲くような笑顔を見せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ