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「・・・・・・これが、今の俺たちの全力です」


 息も絶え絶えになりながら、なんとかルークはそう言ってくる。

 早速死にそうになっている彼らに、ノインが慌てて駆け寄っている。

 悪いな。正確に実力を測るにはこれが一番だったんだ・・・・・・。

 ルークたちの実力を図るために何をしたか言えば模擬戦だ。俺を相手に全力で挑んで来いと発破をかけた。

 結果、それはもう、死に物狂いで、俺を殺す勢いて挑んできた。

 まあ、何をどうやった所で俺に傷一つ付けられないと判った上で、死に物狂いで挑んで来た訳だが、


「うん。合格だな。それだけ強くなれていれば十分だ」


 結果は合格。A+ランクでもかなり上位の実力になっている。ルークはこのままなら後3・4年でSランクになれるかも知れない。


「アベル。やり過ぎ」

「本当の実力を知るためには必要な事だよ。実力とは魔力や闘気の総量だけでは計れない。実際にどこまで戦えるのか、実戦でどこまで動けるかが何よりも重要だからな」


 死屍累々の有様を見れば、やり過ぎとのご指摘はもっともだが、純粋にどこまで彼らが強くなったかを計るには必要不可欠だったのだ。


「そうね。それに、ある意味で彼らにとってはこの上ない贈り物よ」


 ミランダは俺の意図を理解してくれているみたいだ。


「自分の実力を正確に知るのも、全力を出し切った戦いを経験するのも、私たちにとって重要と言う事ですね」


 どうやら、ニーナの方も俺の意図を理解していたようだ。その上で全力で、自分がとこまでやれるかを知るために臨んできたのだ。

 うん。相変わらずシッカリしている。


「とりあえず。今のままの修行を続ける事だな。後で、それぞれに合わせた細かい修正点も伝えるから」

「ご指導。ありがとうございました」


 まあこのくらいは当然だ。俺の中では、彼らは実はまだ弟子として認識されている。ぶっちゃけ、直接指導をしなくなっただけで卒業させたつもりは無い。

 他のチラッと指導しただけの連中の大半は、もう完全に弟子カテゴリーから外れているんだが、俺自身が彼らを気に入っているのもあって、彼らは特別枠だ。


「それでだ。この後早速、この国に来た最大の目的である、遺跡の血様さに行くんだが、良かったらお前たちも来てみるか?」


 だから、こんな事も提案してみるんだが、何を言い出すんだとノインが真っ青になっているのが面白い。



「アベル。どういうつもり?」

「何を怒っている、ノイン?」

「とぼけないで、どうしてみんなに遺跡に行くかなんて聞いたの?!!」


 ルークたちと別れ、一先ず宿泊先となるホテルにチェックアウトすると、真っ先にノインが詰め寄ってくる。


「遺跡には危険が一杯。だから、何があるかは私たちだけの秘密にしておくハズ」

「その認識は少し違うかな。確かに、遺跡の中には下手に知られたら世界の存続すら危ぶまれる危険な物が眠っている事もあり得る。その情報は確かに機密にしなければいけないが、同時に、万が一の事態が起きた時の為に、遺跡の情報についてはある程度各国と共有しておかないといけない面もある。要するに、対応は遺跡の中に何が眠っているか次第だな」


 今の所、遺跡にねむっいている超絶兵器を必要とするような事態は起きていないが、これから先もそんな平和が続くとも限らないのが困ったものだ。


「ルークたちは既にこの国で重要な地位についている様なモノだからな。ある程度知ってもらっておいた方が良いだろう」


 本人たちは、未だに一回の冒険者のままのつもりだろうが、国を挙げての囲い込みはもうかなり進んでいるハズだ。このままボケっとしていたら、何時の間にか国の柵に囚われいるのに気付いているかどうか?

 現実的な問題として、ルークたちは既にA+ランクでも高位の実力を有しているのだ。それ程の逸材を国が放っておく訳がない。これまでにも、竜騎士団への勧誘、より正確には貴族として国に仕えないかの打診が何度となくなされている。

 当人たちの実力もあるし、俺との繋がりもあるので、国としては何としても取り込みたいと思うのは当然だけども、ルークたちにその気がないのでこれまで断っているが、それで素直に諦めるほど国も甘くない。

 裏から少しずつ既成事実を造り上げて、当人たちが断れない状況を造り上げようと動いているのだ。実は、今回俺たちの出迎えに王家や国の重鎮などが顔を出さずに、ルークたちだけだったのもその工作の一環だったりする。


「みんなは冒険者だよ。国に仕えてなんかいない」


 どうやら、ノインの中でこの国に対するわだかまりは拭いきれていないみたいだ。

 まあ、そちらの方はそれでも構わない。許す許さないは本人の自由だ。その事について俺が口を挟むべきじゃない。時間をかけて、少しずつ自分の中で過去と向き合って決着をつけていけばいい。


「だけど、彼らはこの国にいる。そして、最前線で国を護り続けている。その事実は変わらない。そして、それだけで国にとってなによりも重要な人物である事になる」


 彼らの過去は最早国民すべてが知る所となっている。国そのものが関与していたとすら言っても過言ではない最悪の犯罪、その被害者であり、犠牲者でもある彼らがこの国に留まり、国を、この国に住まう民衆を護るために最前線で戦い続けている。

 事実として、ルークたちの今の立ち位置はそうなるのだ。

 そして、まあ当然な事だけども、そんなルークたちにこの国の民衆はどんな感情を向けると思う?


「今の駆られはこの国の英雄。聖人君子に等しい立場だ。当人たちにはそんな意図はなかったんだろうけどな」

「意図はなくても、この国に残ると決めた時から決まっていた結果ね」


 ミランダの言う通り、あの事件の後にこの国に残ると切る多時から、既に決まっていた結果とも言える。

 要するに、社会的な地位がどうこう以前に、彼らはこの国の超重要人物なのだ。


「まあ、ニーナ辺りはその辺もはじめから解ってたと思うけどな。その上で、どうするつもりなのか結構楽しみだったりもする」


 事件は解決し、罪を犯した罪人は裁かれ、被害者であり犠牲者であるノインたちは解放された。だけどもそれで全てが終わった訳では、全てが解決した訳ではない。

 被害者の心に残った傷跡は決して消える事はない。そして、この国で決して許されざる最悪に犯罪が行われていた事実も、決して消える事はない。

 その上で、ニーナはどうするつもりだろう?

 正直に言えばあの時、俺はノインではなくニーナの方が、俺たちと共に行きたいと申し出るだろうと思っていた、本気で俺の修行の過酷さに恐怖していたルークたちとは違い、彼女はもっと強くなる事を求めていたからだ。

 それなのに彼女はこの地に残る事を選んだ。その事が俺には不思議だったのだ。

 どうしてこの国に残る事を選んだのか?

 或いはその答えが今回で判るかも知れない。

 それは、或いは彼女の仲の心の闇をのぞかせる結果となるかも知れない。

 だけども、彼女がどんな答えを出そうとも俺は全てを見届け、そして、全てを受け入れよう。


「信頼しているのね。彼女の事」

「当然だ。俺の自慢の弟子だからな」

「むう。二人とも、どうして私よりも、ニーナのこと解っている風なの」


 ノインはどうやらご不満な様子。

 ノインは、ニーナがどうしてこの国に残ったのか、今迄不思議に思った事もなかったようだ。何かしらに意思、思惑があっての行動だと理解できなかったのが悔しいらしい。

 ついでに、自分が思い至らなかった事を当然の様に俺たちが察しているのも気に入らないだろう。

 大切な家族の事を自分が一番分かっていると思っていたのにと悔しそうだ。


「別に彼女が何を思っているのかまでは判らないさ。ただ、彼女が何かしらの想いを秘めている事だけは知っているだけ」

「そして、その想いを知る事になる時も近いとね」

「・・・・・・私は、ニーナが何か思いがあってこの国に残ったって判らなかった」

「それは仕方がないだろう。あの時は、ノインも自分の事で精一杯だったのだからな」


 あの状況のノインに、ニーナの想いに気付けと言う方がムリだろう。

 

「それに、今こうして気付けたのは、ノインがそれだけ人として成長した証拠でもある」


 最悪な状況の中で、それでも辛うじてニーナたちに守られていたからこそ、歪に歪んで破綻してしまいこそしなかったが、人として明らかに欠落した自我しか持ち得なかった彼女が、確かに人として他者をを思いやり共に歩んで行けるようになった証。

 仲間になった当初のノインは、ある意味でエイルと同じような感じだった。それが、何時の間にか随分と人間臭くなったものだ。


「知らない。私にとってニーナたちが大切なのは、はじめからずっと変わらないから」

「大切だと思うのなら、尚更、彼女たちの出す答を見守ってやればいい。ニーナが何を思っているのかその想いを正面から受け止めてやればいい」


 この国には辛い思い出しかないのに、この国に残ると言う事はその過去と向き合い続ける事だと言うのに、それでもあえて残った彼らの想い。それは、ニーナだけじゃない。ルークにもマークにも、ミリアルドとルインにも、あえてこの国に残る事を決めた理由が、それぞれの決意と覚悟があるはずだ。

 本来なら、俺はその想いに口出しするべきじゃない。興味本位で覗き込むなんて許されない事だ。

 だけど、ノインはどうだろう? 

 本当に彼らと家族に等しいと言うのなら、ノインも彼らの想いを知れ、共に分かち合うべきではないだろうか?

 ノイン自身もまた、彼らと同じ様に、自分自身の過去と向き合っているのだから・・・・・・。


「そして、ノイン自身の想いを、彼女たちに伝えればいい。共に想いを分かち合えるかけがえのない存在なのだからな」


 そう、この国に来た目的は遺跡探索よりもまず、ノインの為。

 生まれぞだったこの国にようやく戻ってきて、そして、自身の過去と大切な仲間、家族たちとどう向き合っていくか、彼女自身の生末を決める決断を促す為に、俺たちはこの国に来たのだ。

 これからどうするかは本人次第。

 だが、例えどんな決断を下しても、ノインが俺たちの仲間であり、俺の弟子である事は変わらない。



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