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「でも、次期国王ってどうやってシャイールさんを王位に? やっぱり現国王の娘との結婚ですか?」


 ザッシュとしてはどうしてもそちらが気になるようだ。

 まあ気持ちは判る。元々一般諮問だったシャイールは王家の血を引いていない。現王の血を引く後継者候補が居るのに、彼らを差し置いて王位につくのは流石にありえない。王位につくとしたら、王女と結婚して王位継承権を持たなければまず話が成り立たないはずだ。


「いやそのな、正確には俺はもう王位継承権持ってるんだよ」


 はい? 意味が判らない。


「俺の奥さんは三人いて、三人とも俺の元弟子なんだけどな、その一人が現王の妹で、しかも降嫁した事にはなってないんだとよ」


 成程。つまりはこの国に縛り付ける計画を縫っている段階で、あわよくば彼を王位にとの画策もあったと言う事だな。


「あのガキ、俺の指導を受けた所為で自分は王になる羽目になったのだし、逃すつもりはありませんよとかほざきやがって」


 あのガキとはこの国の王の事、ガキと言っても既に御年80歳。およそ65年前からシャイールの指導を受け、結果、見事に妹共々Bランクへと至り、竜騎士団で20年ほど戦い続けて、Aランクにまで至った逸材で、本人としては王位につくつもりなんてカケラも無かったらしいが、周りに強制的に王に仕立て上げられた人物である。

 まあ、100年以上も現れなかった、ようやく出た王家の血を引くA・Bクランの実力者。本人が嫌がろうが何だろうが、王位についてもらうのはもう確定事項だったろう。

 妹の方は、更に超重要人物と国との結び付きの為に動いてもらわないといけなかった訳だし・・・。


「それはもう、50年以上前からすでに次期王にと国を挙げて動いていたと言う訳で、今更どうやったって覆すのは無理なのでわ?」

「そうなんだろうけどよ。どうして俺なんだよ?」


 まあ、本人にしたら、何故に王に何てならないといけないんだと思うのは当然だろうけど、周りからしたらこれ以上王に相応しい人物なんていない訳だ。

 そもそも、この国が持ち直したのは純粋に全てシャイールの力でだ。


「それは、その才能を見抜く眼力と、才能を引き出す転生の指導者としての力量。国としては失う訳にはいかないだろ」


 ここでシャイールを失えば、再び人材不足による窮地に陥る危険性があると、誰もが危惧しているのは当然だ。


「まあ、やり過ぎ? 人材不足は時と共に少しずつ改善していったかも知れないのに、それを自分の出で解決してしまったりするから、周りはもう居なくなるなんて想像も出来なくなっちゃったんだよ」


 むしろ、Sクラスに至った事よりも、人材を育て上げて存亡の危機に立っていた国を救った事の方が大きいだろう。その時点でもう、どうやっても国に留まってもらわないといけないと、国を挙げて懐柔と取り込みが始められた訳だ。


「俺としては、そろそろ宮使えは引退して、冒険者として自由に旅をする予定だったんだが」

「それは無理でしょ。国としては後2・300年は手放さないわよ。まあ、その間に後継者を育てて、自分が居なくても大丈夫な様に国を造っていくしかないわね」


 シャイールの願望をミランダはバッサリと切り捨てる。

 まあ、正直、俺も、と言うかここに居る全員がソレは無理だと思う。

 現実問題として話を聞けば聞くほど、もう彼には王となるしか道は残されていないだろう。間違いなく、10年後には彼は王座についているだろう。

 合掌・・・・・・。 


「俺は自由に生きたいんだが・・・・・・」


 そうは言っても、完全にやり過ぎた自業自得だ。それに、この後300年王位についたとしても、まだ500歳前、余裕で数百年の自由を満喫する期間が残っている。

 そんな訳で、本来なら背負うハズもなかった高貴な者の責務を果たしてから、自由を謳歌してくれ。


「と言うか、アベルの弟子にしてくれないか? そうすればこの国を出て自由に旅が出来るだろ」

「それは無理」

「アンタはもうSクラスでしょ。アベルのもとで修業して、レジェンドクラスでも目指すつもりなの?」


 弟子に取れば確かに、シャイールはこの国から自由に慣れるかも知れないが、それは本気で、流石に断る。そんな事をしたらどれだけの反発が起こるか判ったものじゃない。

 ぶっちゃけ、この国ひとつ敵に回した所で何の問題もないと言えばないんだけど、だからと言って無闇やたらと国を敵に回すような事をするつもりも無いし、なにより、シャイールは本人が自覚しているよりも、はるかにこの国にとって必要な人物だ。


「この国の人たちにそれだけ必要とされているのだから、諦めるしかないと思うが」

「誰からも必要とされないよりはマシって言うけど、必要とされ過ぎるのも重いんだが・・・」


 それはそうだろうが、それ程の絶大な信頼と信用を受けているのも、全部シャイールがやり過ぎたからだ。

 国の窮地に立ち上がり、国の窮地を救うために尽力し、見事に国を救った救世主。そんな相手に期待を寄せるなと言う方がムリだろう。


「本気で俺を連れてってくれないのか?」

「この国を敵に回してまで連れて行く理由がないからな」


 会ったばかりで、それなりに気が合う相手とはいえ、まだそんなにお互いを知らないシャイール一人の為に国ひとつ敵に回すつもりは流石に無い。


「まあ、キチンと許可を取って来るのなら、王になるまでの間、旅にどうこうするのも構わないけどな」


 もう王になるのは避けられないのだから、それまでにモラトリアムとして旅に出て自由を満喫する許可を得るとかならば可能だろう。

 100年間国を護るために休まずに戦い、働き続けて来たのだ。数年の休養くらいならば誰もが納得して理解してくれるはずだ。


「逃れられないと王になるのを受け入れる代わりに、しばらくの休養をもぎ取ると・・・」


 どうやら真剣に検討しているようだ。


「ついでに言えば、それでキミに頼り過ぎのこの国の状況を少しは変えるキッカケになるかも知れないしな」

 

 この国にとってシャイールがなくてはならない存在なのは確かでも、同時に、頼り過ぎなのも確かだ。

 だから、一度共有を取ってこの国を離れて、シャイールが居なくても国を存続できるのだと今一度確認する必要がある。


「そうだな。よし、早速交渉してこよう」


 そう言うとそのまま出て行ってしまった。


「ヤレヤレね。一体どうなる事やら」


 どうなるも何も、確実に休養をもぎ取ると思うが、それでどうするかは彼次第。

 世界中を自由に旅して周るのも良いし、どこかでユックリと休むのも良いだろう。もしも俺たちの旅にどうこうすると言うのなら歓迎しても良いが、そうなると絶対に休養にはならないので、覚悟してもらう必要があるだろう。


「まあ、この国が彼に頼り過ぎだったのは事実だし、いい機会だったと思うがな。これで少し息抜きをすれば、何時まで国の為に働き続ければいいんだって、面倒になって放り出す可能性も低くなるし」


 それはそれで、この国の自業自得の面もあるが、どうせなら、互いに良好な関係を保てるに越した事はないだろう。

 そのためにも、シャイールに頼り切りのこの国は、一度関係を見直すべきなのだ。


「国の重責にある方が、その役割を放棄するなどあってはならない事だと思いますが・・・」

「それはそうだけど、元々彼はそんな責任を負う立場にいなかった訳だからね」


 ティリアの言いたい事も判るが、シャイールとしては元々は、100年前にこのままでは竜騎士団が成り立たないと、国の危機に仕方がなく入っただけだったのだ。人材不足が解消され、竜騎士団が無事に存続可能になったら止めて、出ていって気楽な冒険者に戻るつもりだったのが、はやく人材不足を解消しないといけないと張り切り過ぎた結果、国に雁字搦めに囚われてしまったけど、本人としては国の為に全てを捧げるつもりなんてないだろう。


「元々王族でも貴族でもないのに国な中枢にかかわると、それを妬んだりやっかんだりして絡んで来る連中が絶対に出て来るからな。そんな連中の相手をしながらでは、国の為に尽くそうなんて気持ちもなかなか生まれやしないだろうさ」


 正直、話を聞いた限りだと、シャイールに国を護る使命感を持てと言うのも無理だろと断言できるくらい、そんなバカどもの妨害やらが続いていたらしい。

 流石に、100年の間にそんなバカは掃討されたらしいが、聞いただけでも国に忠誠心を持つとかまず無理だろと断言できるくらいだ。


「確かにお聞きしただけでも、気分が悪くなりました。どこの国にも愚かな方はいらっしゃるのですね」

「当然、相応の報いは受けているだろうけどな」


 100年の内に全て掃討されたとは、つまりはシャイールに敵対した、がけで陰謀を巡らせた者は全て国から物理的に排除されたと言う事だ。

 着衣を失い、地位と職を失い。立場も名声も全てなかったものとされ、保証も何一つされずに追い出された事だろう。

 

「まあ因果応報だな。それより、シャイールは本当に俺たちと一緒に来ると思う?」

「さあ? でも来ない思うわよ。休養をもぎ取ったら、一人で自由に気楽に生きたいでしょ」


 それもその通りだな。それに、休養をもぎ取るにも、かなり根気強い交渉が必要になるだろう。一週間や二週間では済まないだろう。それまで待っている理由もないし。


「まあ、気が向いたらむこうから会いに来るだろう」


 休暇をもぎ取った後、一緒に少し旅をしてみたいと思えば、向こうからやって来るだろう。その時は一緒に旅をするのも良い。まあ、立場的に流石に遺跡の中には一緒に連れてはいけないだろうけど・・・。

 そんな訳で、俺たちはつかの間の自由を勝ち取りに行ったシャイールの奮闘を祈りながら、セイグケートを後にするのだった。



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