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「カグヤの封印が弱まる可能性ですか・・・」
「10万年前にカグヤを造り出した方々、その方々からメッセージが残されていたんですね」
さて、ダガートの襲撃と言う想定外の事態がおきたが、無事にそれも撃退する事が出来、ようやくサナやザッシュ、ティリアやシオンたちに話をする事が出来た。
話した内容は、要するに俺の旅の最終目標の様なモノだ。
つまりはカグヤに行く事なのだけども、別にただ行くだけが目的じゃない。この世界の真実とか10万年前の転生者たちが残した情報とかを求めて以外にも、極めて切実に理由がある。
「それに、カグヤの封印が正常に機能していても、確かに10万年という長い時の間に、それをかいくぐって神うしてくる術を備えられてしまう危険性はありますね」
「それさえも見越して、カグヤが建設されていたとは驚きです」
そう、10万年もただカグヤの封印によって侵攻を阻まれたまま、何も対抗策を講じずに居続けたままでいる程、相手が無能だと考えるのこそ愚かだ。
何故? そもそも何の為に侵攻してきているのかすら不明だが、どれだけの犠牲を出そうとも異界からの侵攻が止む事がない以上、侵攻を阻むカグヤの封印に対する対抗策も、いずれは講じられると考えるべきだ。
現実問題として、レジェンドクラスの超越者が新たに現れた時、必ずレジェンドクラスの魔物が現れる出現期が訪れるのも、向こう側からカグヤの封印を掻い潜って魔物を侵攻させてきている裏割れではないかと思えるし、俺が関わった2度の魔域の活性化の最後に現れた黒い球体、アレもまた、向こう側の世界がカグヤの封印の裏を突いて侵攻してくるための手段を講じているのだと考えられないだろうか?
いずれにしても、カグヤの封印があるのだからと呑気に構えていては、万が一の事態が起きれば成す術もなく蹂躙されて終わりだ。
だからこそ、俺はまずはいざという時に対抗できる手段を確立し、その上でカグヤの封印を掻い潜る異界側の侵攻の詳細を調べるつもりなのだ。
そして、そのデータをカグヤに持ち込み、カグヤに入力すれば、封印の隙を練った侵攻にも対応し、二度とそんな事が起きないようにする事が出来る。
要するに、カグヤには封印の穴を付いていずれまた、タイ規模な信仰が行われる事を想定して、どのように封印を掻い潜ってきているのかさえ分かれば、そのデータを基に封印を強化し、二度と同じ手段での侵攻を許さないようにするバックアップ機能がついているのだ。
「まあ、実際にカグヤの封印が失われるような事があれば、魔物の侵攻に対抗すらできずに、私たちは滅びる事しか出来ないのは判りきっていますからね。そのような事態が起きない様に、あらゆる対抗手段が設けられた上で、カグヤはこの世界の守護者として造られたのでしょう」
成す術もないと言うのは大げさとも言えないのが恐ろしすぎる所だけど、実際の所確実に亡ぶかどうかは判らない。と言うのも、実はカグヤによる封印によって魔物の侵攻を防ぐ手段が講じられたのは、別にこれが初めての事ではないらしいからだ。
これも10万年前の転生者が残した古文書に書かれていた事実だが、どうやら異界からの侵攻を阻む為の結界で世界全体を覆った転生者は彼らが初めてではないらしい。当時、辛うじて30万年前に転生者によって魔物の侵攻が防がれ、その後、10万年に渡る平和が続いたとの伝承が残されていたそうだ。
つまり、今から40万年ほど前にもカグヤと同様の封印システムを造り出した転生者が居たと。
ひょっとしたら、その更に昔に同様の事をした転生者がいた可能性もゼロじゃない。
流石に、あまりにも昔の事過ぎて魔法ですら調べようがない領域だから、確実とは言えないけど・・・、過去に同じ事が繰り返されていた事は確かなのだ。それも、転生者によって。
「この古文書によると、40万年前に造られた同様の封印システムが、およそ10万年で破られた史実があるらしいから、カグヤの封印システムがどれだけ万全を期していても、いずれは破られる時が来る可能性は高いけどな」
「それも踏まえて、成す術もなく蹂躙され、滅びるなんて事がない様に、対抗し得る力を残して、未来に託したのですね」
サナの考えは正しい。因みに、封印を造り出したのが転生者である事はシオンたちも一緒なので伝えていないが、彼女はキチンと気付いている模様。ザッシュの方は判らん。
まあ、とりあえず、これで一通りの説明は済んだ訳だけども、俺としてはやっはり、かつて同じ様に造られた魔域からの侵攻を阻む封印が、10万年で破られたと言うのが非常に気になる。
どうして、そのちょうど封印から10万年のタイミングで転生するかな?
思いっきりフラグとしか思えないんだけど?
まあ、カグヤ味噌のかつての封印が破られたと言う事実を視野に入れて造られているので、キッカリ同じ10万年で封印が破られる可能性は低いと思うけど・・・。
て言うか、本気でそう願いたい。
とりあえず、万が一にも起こるとしても、封印の裏をかいての侵攻が始まるくらいで、その情報をカグヤに持ち込めば収まるくらいの危機であって欲しい。
これはもう本当に切実な願いとして・・・・・・。
「そんな訳で俺たちは、地上に残された遺跡を周って、十万年前から託された力を確認して、万が一の時にはすぐにでも使えるように、魔物の侵攻を阻めるように準備しながら、魔物の侵攻に変化が居か見極めて、異常があれば即座に詳細な情報を取りつつ、カグヤに行くための準備を進めているってとこかな」
て言うか今更ながら、メリアたちやユリィたち、それにミランダにもこの旅の詳細な目的については語ってなかった気がする。いや、流石にそんなはずはないよな。どうにも確信をもって断言できないが、旅の目的くらいは伝えていたハズだ・・・・・・。
「ヒュペリオンがあるからすぐにカグヤに行けるのに、まだ行かないのは何でなんですか?」
「まあ、今の内に行っておいて、万が一の事態が起きた時にはすぐにでもカグヤに情報を届けられるようにしておいた方が良いだろうって考えも間違ってないかだけど、ぶっちゃけ、今の俺たちにカグヤに辿り着けるだけの実力があるかってのを忘れてるな」
どうやら、ザッシュも説明した内容を十分に理解して危機感を持ってくれているようだ。それは何よりなのだけども状況認識がまだ甘い。
「えっ? だってヒュペリオン自体がジエンドクラスの魔物に対抗できる戦艦で、レジェンドクラスのアベルさんも居るし、10万前の強力な装機竜人だって何機もあるんですよ?」
ザッシュの言う通り、俺たちの戦力は今の世界ではもう過剰とかそんなレベルじゃすまない程だ。だけども、それだけの戦力があってもカグヤにどりつける可能性はほぼゼロだ。
「キミね。宇宙の危険性くらいは知っておこうよ。カグヤと並ぶもう一つの月。始めからこの星の衛星としてあったイズチは星そのものが魔域なんだよ?」
カグヤの封印を最も強く受けるイズチは、それでもなお地上のどの魔域よりもはるかに危険である。
ぶっちゃけ、新たにレジェンドクラスが誕生した時に起こる出現期も、異界からレジェンドクラスの魔物が現れているのではなくて、イズチに居るレジェンドクラスの魔物が呼び出されているのではないか? なんて説すらあるほどに、魔域イズチの危険性は想像を絶するレベルだと言う。
封印によって動きが封じられているのか、地上に舞い降りてくるような事はこれまでなかったが、ジエンドクラスの魔物すらも数十匹は居るのが確認されているとも言う。
要するに、宇宙とはそんな危険地帯なのだ。
そんな危険地帯にノコノコ出向いて、イズチの魔物を刺激したらどんな事になるか?
下手をしなくてもそれだけで世界が亡ぶ。
「イズチのジエンドクラスの魔物が地上を襲撃しない理由も実の所謎だからな。本当にカグヤの封印の所為でイズチから動けないのならいいけど、そうでなかったらカグヤに行くために、宇宙に上がった事で刺激してしまい。最低でも数十匹以上は確実にいるジエンドクラスの魔物を解き放つ事になりかねない」
そうなったら本気でどうしようもない。現状、遺跡を周って確認した危険物の中でも、ジエンドクラスの魔物に対抗できる上に、そもそも稼働可能なモノは極わずかだ。その全てを駆使したとして、殲滅できるかは判らない。
それに下手をしなくても壮絶な死闘の末に俺たちの中から相当数の使者が出るのは確実。
「イズチの事もほとんど知らない今のままじゃあ、行くには時期早々過ぎるんだよ」
別に最後の楽しみとして取っているだけとかそんな子供っぽい理由じゃなくて、本気で行くにはまだ実力も足りないし情報も不十分。ただそれだけの話だ。
「それに、確かに行ってみたいのも確かだけど、出来れば行かなくちゃいけない様な事態にならないに越した事はないしな」
「「それは本当に・・・」」
この意見には当然ながら全員一致で賛同された。
実際、太古に人の手で造られた天体に辿り着くなんて、これ以上ないロマンだけども、その為に人の世界の存続すら危ぶまれる危機に陥るのなんて御免だ。
そんな訳で、俺は別に何時でも行けるしとふらふらと遊んでいた訳ではなく、行く準備も出来ていないし、行くべき時でもないからカグヤに行かなかったのだと言う事だけは、ハッキリと断言させてもらう。
で結局、行く事になるか行かないままかは、これからの結果次第なんだけども、どうなるかは予想も出来ないけど、最悪の事態も想定しておかないといけないのは確かだ。
つまりは、行く事になる前提で行動するべきなのだ。
結果、行かないで済んだ時の脱力が半端なさそうだけど・・・・・・。




