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「もう、アベル殿ったら酷いじゃない。結局私だけ除け者にしてみんなで遺跡を見て来たのね」


 色々と秘密にしてきた事も話そうとホテルに戻ってきた俺たちを出迎えたのは、ダガートと言う名の何かだった。


「消えろ」


 瞬間。俺は完全遮断結界を展開して危険な兵器を封印する。


「あの今・・・・・・」

「何もなかった」

「いえでも・・・・・・」

「誰も居なかった」


 そう、ダガートなんて人物がホテルの部屋に不法侵入していたなんて事実はなかった。誰が何と言おうと何もなかったのだ。


「気持ちは判るけど、どうするつもり?」

「勿論、このまま永遠に封印するつもりだ」


 ミランダの問いに対して折れはキッパリと答える。


「それは流石に止めときなさい。と言うか、そろそろ出てきそうだけど」


 流石は腐っても元Sクラスと言う事か、それとも遺跡の前で封印された時にコツと言うか、俺の術式の癖を掴んだのか、もうすぐ封印から出てきそうだ。


「もうっ、本当にヒドイじゃない。いきなり何するのよアベル殿っ、て今度は何?」


 今度は何ってモザイクだ。その凶悪な全身をモザイクで覆って姿を晒す事がない様にしている。因みに声も変えてある。


「そのGの魔物の大軍を思わせる醜悪な姿を人目に晒せない様に、モザイクで覆ったんだよ」

「ヒドイ。何その言い方。私の姿のドコがゴキの様に醜悪だっていうの?!!!」


 その言い草には逆にコッチが絶句する。シオンたちなんかは「まさか、自覚が無い?」と驚愕している。

 イヤ俺もだよ。まさか、本当に自分の格好がどれだけ悍ましいか判ってないのか?


「まさかそんなセリフが帰って来るとは思いもしなかったんだが、ひょっとして鏡を見た事もないのか?」


 前世、例えばテレビに出る様なおネイ系の仲にも、かなり激烈なのも居た記憶があるが、これはそんなレベルじゃない。まさしく見る者の精神を汚染する禁断の兵器だ。


「失礼ね。鏡ならキチンと毎日見ているわよ。身だしなみを整えるのは乙女の必須条件よ」

「アンタは男であって乙女じゃないだろう」


 何をほざいているんだろと本気で突っ込む。


「失礼ね。体は男でも心はれっきとした乙女よ」

「本当に心は乙女だと言うなら体も乙女にしろ。出来ないとは言わせない」


 何をこんなくだらない事を言い合っているんだろうと本気で思う。

 ついでに、魔法で女になればいいだろうと言ったとたんに黙り込むんだから呆れるしかない。


「性別なら魔法で簡単に変えられるハズだ。本当に心が乙女だと言い張るなら、どうして体も乙女にしない?」

「ええっと・・・それは・・・・・・」

「本当に自分が乙女だと言い張るのなら今すぐに体の性別を変えろ。そうでないのなら今すぐにそのふざけた格好を止めろ。どちらも選べないと言うなら今この場で殺す」


 因みに殺すのは単なる脅しではない。ここまで来て更にグダグダ言う様なら、因子消滅魔法で存在ごと消し去る。


「判ったわ・・・いや、判ったから少し待って欲しい」


 諦めた様に席を外すダガート。だが、まだ油断はできない。戻って来た姿がどんなモノかはまだ分からないのだ。これで、変わらない姿で戻ってきたりしたら本気で殺す。その前に悪ふざけをした事を心の底から後悔する地獄を見せてやるがな。


「すまない。余計な手間と時間をかけ世さてしまって申し訳ない」


 そう謝って戻って北ダガートは、黒のスーツに身を包み。三つ編みにしていた髪もオールバックにセットしてあった。うん。どこからどう見てもヤクザかマフィアのトップだな。或いは公安の取締官か。どちらにしても子供が見たら泣き出しそうな強面全開だ。


「正直、この格好は子どもが泣くのであまり好きではないのですが」

「子供が泣くのはさっきの格好でも同じだろう。それどころか、生涯消えることの無い深刻なトラウマを植え付けてしまうだろ」


 本気で、幼い子どもがあの姿を見たりしたら発狂してしまうかも知れない。気を失ってあまりの衝撃に記憶を失って、なにもみなかった事に脳が無理やりしてしまう可能性も高いが。


「百年前、妻に先立たれた途端、縁談の話が次から次へと舞い込んできて、それを躱す為に思い付いた変装だったのですが、何時の間にか面白くなってしまいまして、結果、随分と周りに迷惑をかけてしまったようですね」

「ああ、やっぱりキッカケはソレが理由だったのね」


 つまりミランダが煩わしさを避けるために自由気侭、唯我独尊にふるまっていたのと同じと。


「あれはそんなレベルで済むモノじゃないと思うけど。気が狂ってしまった人だっているんじゃないかな」

「流石にそれは、みんな怯えてしまうのは確かですが」


 ミストのもっともな意見に、ダガートは苦笑しながらそこまではと否定するが、ありえない話じゃない。


「それ以前に、毎日鏡で自分の姿を見ていながら、自分がどれだけ凶悪で醜悪な姿をしているか理解できなかったのか?」


 キリアの疑問は最もだ。全員ダガートがどうこたえるか興味津々だが。


「いや、私としては確かに諸そうしている訳だし奇怪である事は理解していたが、それ程騒がれる様な物とは思っていなかったのだが」


 ダガートの答えは完全に想定外のもの、これは・・・・・・。


「要するに、コイツの美的感覚が壊滅的だったのが悲劇のもとね」

「「確かに」」


 もう、そうとしか言いようがないだろう。呆れた様子のミランダの結論にダガート以外の全員の想いが一致する。


「何か随分と酷い事ばかり、さっきから言われているが・・・」

「何が酷いモノか、純然たる事実しか言ってない」

「自分がどれだけ酷い事をこれまでして来たか、全く理解してないみたいね」


 まったく悪びれた様子の無いダガートの様子にイライラが募る。


「いっそ、彼にはGの魔域にでも行ってもらったらいいんじゃないかな? そこに出る魔物の同等の悍ましさだったんだって理解してもらう為にも」

「それが良いと思う。自分がどれだけの事をして来たかはっきり理解して、その分の責任と償いをするべきだよ」


 何かユリィとケイがノリノリで提案して来たんだが・・・。確かに良いかも知れない。自分が今まで回りにどれだけ悍ましい思いをさせて来たのかを実感してもらうには最適の場所だ。


「だから、本当に先程から酷すぎませんか? 人をGと同レベルだなんて・・・」

「いや、実際にそれくらいしか比較対象にならないレベルだったから」

「と言うかアンタ、Gはダメだと普通に感じられるのに、どうして自分のあの女装は大丈夫なのよ・・・」


 本当に、どうしてあの女装を自分自身も毎日目にしているのに、その悍ましさに気付けなかった?


「もう本当に世界最大の謎かも知れませんね」


 まったくだ。追及してもダガート伸びで鬼感覚が壊滅的に狂っている以外に理由は出てこないだろうからこれまでにするけど・・・。


「ああもう、判りました。みなさんが自分の姿がそこまで凶悪だったと仰るなら、一度Gの魔域に行って、住まうGどもを殲滅してきますよ。その上で、それと自分の女装した姿は、同等レベルなのか聞いてみる事にします」


 どうやらまだ納得していないみたいだが、とりあえずはあの化け物Gの集団と立ち向かい、自分が周りからどんな悍ましい物体と見られていたかを確認して、その上で、まあたぶん子孫とか、親しい友人とか知り合いなんか、そんなに酷かったかと聞いて回るつもりなんだろう。

 俺からすれば、既に聞いて回った結果がどうなるかなんて判り切ってるし、事実を受け入れたダガートがどんな反応をするかには少し興味がある。

 まあ、それを確認するために長居する気もないが。


「とりあえず、この話はこれまでにして、それよりも遺跡の話です。まさか、イキナリ封印までされて、同行を拒否されるとは思いませんでした」

「あれは、目の前から悍ましい存在を一刻も早く消したいからの方が大きかったんだが・・・」


 別に、今みたいに普通の格好をしていれば、ごく普通に話し合いをして連れていけないと説得した。

 アレは本当に自分の身の安全の為、精神の平穏の為に緊急回避的に咄嗟にした事だ。と言うか、ほとんど無意識の内に気が付いたら封印していたの方が正しい。


「その話ももういいですので、それより、どうしても連れていってはくれないのですか?」

 

 これはどうやら本気で真面目な話のようだ。

 装機竜人の研究・開発に係わる者として、今よりもはるかに優れた技術を誇り、圧倒的な性能の、自分たちが造り出した機体など比較対象にするのもおこがましい程の機体を数多量産し続けていた生産工場。その様子を、どのように造られていたのか、当時の設備を見てみたいと純粋に願っているのだろう。

 それは、純粋に技術者としての願い。


「遺跡に行ってどうするつもりだ?」

「この目で見たいのです。今とは比べ物にならないほど優れた技術の粋を集めて作られた工場、その凄惨設備。どのようにして装機竜人が造られていたのか、その技術の一端にこの目で触れたいのです」


 本当に真剣に十万年前の、自分たちとは比較にならない優れた技術を持っていた当時に触れたいと願っているだけの様だ。そう言えば、彼は既にグングニールを手にしてる訳だし、その優れた機体がどのように生み出されたのか気になるのだろう。


「それなら別に連れて行っても良いけど、絶対に俺の案内する場所以外には立ち寄らないと制約してもらおう」

「本当ですか。勿論です。勝手に遺跡を見て回ったりはしません」


 研究者に遺跡の中に研究対象の装機竜人が山のように眠っているとか知られると絶対に厄介な事になるからな。

 それさえ気を付ければ、遺跡の工場区を案内するのは問題ない。そんな訳で後日、普通に強面になったダガートを遺跡に案内する事になった。

 因みに、ダガートが普通の格好をするようになったことはその日の内に国中に知れ渡り、国を挙げての祝祭が催され、俺たちはレゼル皇王に本気で感謝された。




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