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さて、どうにも短期間で一気に仲間が増えたけれども、シオンたち9人は元々ユリィたちと仲が良かったのもあってあっと言う間に馴染んでいる。
それはともかく、今日は何か色々とあって延び延びになってしまった次の目的地への出発の日だ。
行き先はルシン皇国。そこの遺跡が目的だけども、事前に調べたところではどうやらアスタートの遺跡と同じく兵器工場だったらしい。ただし、戦艦の製造工場ではない模様。
「考えられるのはやっぱり装機竜人の生産工場か」
「そうすると、中には大量の装機竜人が眠っているのは確実?」
「まあ、どんな装機竜人があるかは判らないけど」
ミランダの言う通り、遺跡の元々の役割を考えれば、中には相当数の装機竜人が眠っていると考えていいだろう。
「まあ、その場合は俺が始めに確認しに行くだけで終了になるかな」
「それが妥当でしょ。入ったばかりの子に余り心労をかけるのもどうかと思うし」
「全く持ってその通りで、何も言い返せないな・・・」
まだ仲間になったばかりのメンバーには、イキナリ刺激の強すぎる危険物の山を見せるのも酷だろう。
「と言っても、どの道いずれはこの船の事とかも話さないといけないし、衝撃の連発が待っているのは変わらないけど」
「この船が規格外なのは俺の所為じゃないから。まあ、確かにそうだけど」
このヒュペリオンの常軌を逸した規格外さを知った時の事を想い出したのか、ミランダは頭が居たそうにしている。それはそうだろう、俺もヒュペリオンを母艦に決めた後に冷静さを取り戻して、本気で頭を抱えたし・・・。
発掘した当初は、これで十万年前への手掛かりが掴めると興奮していたし、カグヤへ辿り着く事が出来る船を使わない手はないとそのまま自分たちで使う事を決めてしまったけど、後で冷静になってこの船の規格外さを分析して、考えて頭を抱えた。
性能が桁外れとかそんなレベルじゃない。これ一隻で世界を亡ぼせるレベルとか何なの?
まあ、実の所は既に一部では公然の秘密になっているだろうから、ティリアとかシオンたちも父王とかから聞いて知っている可能性もあるんだけどね。
それでも、流石に対ジエンドクラスの魔物用の、永久機関まで搭載した最終兵器だとは思いもしないだろう。
「アレ? そう言えばこの船の秘密、サナたちには話したの?」
「あっいや、そっちにもまだだった。レジェンドクラスの魔物の襲撃とか何やらで忘れてた。まあ、多分サナの方はもう大体察してると思うけど」
ザッシュの方は、気付いてないだろうな確実に。
「まあ今更だし、説明は纏めて一緒でいいんじゃない」
まあそれで良いだろう。ついでに説明は、やっぱりある程度馴染んでからと言う事で、大体三か月後くらいの予定。
「それよりも、ルシン皇家への対応は大丈夫なの、向こうの方は何としても繋がりを持ちたいと思っているわよ」
前回は一週間ほど滞在して、何事もなく出国したけど、今回はそうはいかないだろうなと言うのは判っている。
ルシン側としては、なんとか俺と友好な関係を築きたいのは当然で、しかも、この前の時と違って今の俺はレジェンドクラスなのだから尚更だ。
おそらくは、友好関係を結べれば、魔域の活性化などが起きた時に真っ先に駆け付けてくれるだろうし、レジェンドクラスの魔物の素材などもある程度優先的に回してくれるかもしれないし、今は関係が断絶している他種族の国とのある程度の橋渡しもしてくれる可能性もあると考えているだろう。
そんな訳で、国防の意味でも、純粋に国としての利益の面でも何としても友好関係を結びたいと思うのは当然で、むしろ、ここで何もせずに引き下がるようじゃあ、せっかくの機会とチャンスを無駄にするようじゃあ国家元首などやってられないだろう。
そんな訳で、向こうも必死の思いでアプローチをかけて来るのは確定なんだけど、別にごく普通に、友好的に接して来るのならば俺も友好的な関係を保つつもりだ。
「別に敵対しようとなんて訳じゃないんだし、友好関係を望んで丁寧に対応して来るなら、それに応えるつもりだよ」
「意外と常識的な回答ね」
「・・・俺を何だと思っているのかな?」
心外も良いところだ。色々と煩わしいモノを知被けさせないための演技だったとは言え、唯我独尊にして自由奔放を行くミランダよりは常識人のつもりだ。
「いやね。キミが普通に友好的な関係を築こうと思っているならそれでいいんだけど、思い出したんだけど、あの国にはアイツが居るから・・・・・・」
何ともまあ、随分と意味深な発言だ。そもそもアイツとは誰ぞ?
聞き返そうと思ったんだけども、ちょうどルシンの王都ルシリシアルに到着し、空港への着陸に入ったので聞き逃してしまった。
何か非常に気になるんだけど・・・・・・。
「よくぞいらして下さったアベル殿。今回の訪問、心から歓迎しますぞ」
「滞在中なにかとお世話をかけるとと思うが。よろしく頼みますレゼル皇王」
出迎えは王自ら。これにも動じないどころかごく自然に対応できるようになったものだ。
「判っています。今回は我が国に眠る遺跡の調査に参られたとか、それで、その件も合わせて、着いて早々で申し訳ありませんが、すこし話し合いの時間を頂きたいのですが」
「判りました。それではこれから王城へ?」
「いえ、空港の一室を用意していますのでそこで」
早速話し合い。これも想定していたし、イキナリ城へ連れて行こうとしない辺りには好感が持てる。と言うよりも、皇王としては余計な貴族なんかの横やりが入る前にある程度の話を済ませておきたいのだろう。
「ではこちらに」
と促す皇王に、俺は他のみんなに先に宿で待っていてくれと言って一人でついて行く。ティリア辺りは着いて来たそうにしていたが、国との関係を決める場に他国の王族も一緒なのは不味い。
特に今回の場合は、ルシンとの関係にベルゼリアが口を出したと評されかねないので、シッカリと自重してもらわないと。
と、別れて話し合いの場に向かう途中でミランダから端末に連絡がある。随分と珍しい。何か急を要する事でもあったか?
「アベル、さっき言いそびれたけどこの国にはアイツが、元Sクラスのダガートが居るから気を付けなさい」
元Sクラスに気を付けろ?
謎だ。謎としか言えない伝言に首を傾げる。
「どうかしましたかな? アベル殿」
「いや、ミランダから元Sクラスのダガートに気を付けろと言付かって」
「・・・・・・ああ、そう言う事でしたか、確かにアベル殿、どうかくれぐれもお気を付けください」
なんだそれは? 王から見ても危険人物なのか?
だけど、元Sクラスと言う事は、既に引退してこの国に定住していると言う事だろう。自国に住み着いてくれた元円クラスなんてそれこそ国賓レベルの超重要人物だ。丁重に歓迎するのが同然のハズだけど?
何か、あまり歓迎してない様な感じがしないでもないんだけど・・・・・・?
「ここです。すぐに飲み物を用意させますので」
会談の場所は空港内の30平米程の一室。元々秘密の会談などの為に用意されている部屋である事は一目瞭然で、完全防音で、盗聴や盗撮なども一切不可能な様にしてあるのが解る。
「さて、ワザワザ口にしなくても、アベル殿は今回の会談の目的など知っておりましょう。確かに、我が国はアベル殿との友好関係を望んでおります。だが、それが容易い事ではない事も王として存じております」
さて、対談が始まったのだけども、この始まり方は想定外だ。
「すぐに友好的な関係を築けるほど、我が国とアベル殿の間には関わりがありません。ですから、私としてはまずは普通に顔見知り程度の関係を築ければ十分だと考えています」
「その提案は正直、予想外でした」
本当に予想外だ。国の為にある程度強引にでも、有効な関係をと迫って来ると思っていたのに・・・。
「そう言えばレゼル皇王。貴方には私と近い年頃の娘がいたはずなのに、連れてこなかったのは」
「ここで紹介しても、縁戚になろうと画策していると警戒されるだけでしょう。無論、私としても出来ればと思わなくもありませんが、無理強いは逆効果な事も判らないほどに愚かではありません」
成程、良く判っているし、とりあえず顔見知り程度でも繋がりを持てれば、そこから少しずつ友好的な関係を構築していけると、うん。実に効率的で、なおかつ現実的だ。
レゼル皇王。どうやら彼は俺が調べたよりもはるかに優れた賢王の様だ。
「そうですか、それならばとりあえずはこの国とは顔見知りと言う事で、話してみて、貴方とならば友好的な関係を築けそうだと思いましたから、多分、このまま友好関係を築けると思いますよ」
「そうですか、ありがとうございます。私としても、そうなる事を願います」
友好的に無事に会談も終え、互いに握手を交わした所で、何やら外が騒がしくなってきている気がする。
「大変ですレゼル皇王陛下、実はダガート様が此方にいらっしゃいまして、アベル様と会せろと」
外で厳重に見張りをしていた内の一人が入ってきたと思ったら、真っ青になって報告する。
何かもう、この世の終わりみたいだと思うのは気のせいか・・・?
「何だと・・・? ダガート殿が」
「良いから開けなさい。私が新しくレジェンドクラスとなったアベル殿に挨拶するのは当然でしょう」
報告を受けて真っ青になって、全身を恐怖に振るわせながら掠れた声で呟くレゼル皇王言葉を途中で遮って、勢い良くドアが開けられて新たな人物が入ってくる。
その人物を見た瞬間。俺は恐怖に固まった。
元Sクラスのダガート。それが新たに入ってきた人物なのは判る。
身長は2メートルを超え、全身を筋肉の鎧で固めた肉体で、体重は俺の3倍どころか、4倍はありそうだ。ヤクザやマフィアも裸足で逃げ出すほどの凶悪な強面で、声もドスの効いた野太い野性味溢れるまさしく漢の声。
そんな彼は、何故かアリスが着ていそうな少女服で全身を包んでいた。フリフリの少女服に身を包んだ、ヤクザも逃げ出す長身のがタイの良い筋肉質なオッサン。
それが、元Sクラスのダガートなのだろう。
「はじめましてアベル殿。私はダガート・ディス・グレーゼルト。元Sクラスの冒険者で、今をこの国で装機竜人の研究者をしているわ」
丁寧にあいさつをされても、反応する事が出来ない。挨拶を返そうと思っても言葉一つ口に出せない。
恐ろしい。俺はこの世界に、ネーゼリアに生まれてこれ程の恐怖を感じた事はない。
魔域の活性化の途中、死を覚悟した時ですらこれ程の恐怖は感じなかった。
アレは、彼は凶器だ。いや全てを薙ぎ払う兵器だ。この世に存在してはいけないものだ。なのに、どうして今俺はその恐怖の源と相対している?
まさか、俺はこれからこんな地獄の使者と交流を持たないといけないのか?
遺跡の調査も国との皇りゅも何もかも放り出して、今すぐに此処から逃げ出したくなったのは仕方がないと思う。




