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ケイ視点、三回目です。
「それにしても、こんなに早くまたみんな一緒になれるなんてね」
「うん。早くても200年は立たないと無理だと思ってたものね」
本当にその通り。本当なら私たちがこうして全員そろってまた一緒に旅を出来るようになるには、最低でも後200年は必要なハズだった。
それが、アベルが現れてから状況が一気に変わってしまった。
元々、ヒューマンを除く主要14種族を統べる王の娘として、同年代に生まれた私たちは、国の意向や思惑もあって幼少期から引き合わされて、気が付いた時には親しい友人となっていた。
もっとも、私たちが無二の親友になったのは、国の思惑とは関係なく、私たち自身が極めて似た性質を持っていたから。
どこまでも自由を愛し、自分の好きな様に気楽に、思う儘に生きたい。
それが私たち14人の偽らざる本心で、王女として生まれた使命模擬家も当然理解しているけれども、それに縛り付けられたくはない。
そんな思いを共通させていた私たちは、会うたびに互いの絆を強くしていって、何時の間にか心の底から信頼しあえる関係になっていた。
そして、私たちは自分の欲望、願望のままに行動を起こして、16歳の時から14人全員で世界中を旅して周れるようにした。
アレには本当に苦労したけれども、そんな苦労なんて忘れてしまう程に充実した。最高に日々を送る事が出来た。何者にも邪魔されずに、自分たちの好きな様に生きる。それは初めて体験する生き方だった。
だけど、そんな最高の時間は1年しか続かなかった。
結局、まだ私たちは王家に生まれ持った責任や義務から逃げられないのだと理解した私たちは、ならばその責務を全て果たして、自由に生きても誰も文句を付けられないようにした後に、またみんなで一緒に、自由気侭に、思うが儘に旅をしようと私たちは誓い合った。
だけど、その為には長い時間を必要とするのも判っている。最低でも200年はかかる。
でも、私たちはどうせSクラスになって、1000年は生きるのだから、その内の200年くらいならば国の為に尽しても良いと割り切って、私たちはそれぞれの国を護るための力と、国を存続させるための歯車となる事を決めた。
「それは全員同じ気持ちだよ。アベルに、あの子に会ってから本当に全てが変わったから」
だけど、そんな決意は言葉通り、アベルに出会った事で呆気なく意味をなさなくなった。
「本当にね。ひょっとしたら、またみんなと一緒に成れるんじゃないかと思ったけど、実際にこうして全員がこんなにも早く揃う事になるなんて、はじめは夢にも思わなかったし」
自分たちの為に利用するのは、少し気が引けたんだけどねと続けた後にユリィは更に、だけどすぐにそんな引け目なんて消し飛んだけどと微笑む。
それは私も同じ、利用している引け目なんか消し飛ぶくらいに、散々苦労させられたし、それに、気が付いた時には既に私たちは彼に恋してしまっていた。
「アベルは私たちの想像の遥か斜め上を平然と行くからね」
「若干12歳のヒューマンでありながらES+ランク。しかも魔域の活性化で多大な戦果をあげた。これくらいまでならまだ問題なかったのに、私たちが仲間になったと思ったら、いきなり十万年前の遺跡から装機竜人と空中戦艦を発掘するし、二度目の魔域の活性化では何か不可解な現象に巻き込まれたと思ったら、活性化を終焉させてるし」
そう、本人は知らないだろうけれども、結局あの魔域の活性化の最後に起こった不可解な現象によって、活性化を終焉したのは間違いなく、つまりはアベルによって活性化を終わらされたのだという見方が今ではされていたりする。
これは本当にごく一部で囁かれている仮説だけれも、アベルには魔域の活性化を終わらせる何かしらの因子があるのではないか?
実はそんな荒唐無稽な事すらも真剣に話し合われていたりもする・・・。
それにその後も、世界樹の使徒になっただけならともかく、それと一緒にイキナリレジェンドクラスになるし、選定の儀をしてみればレイザラム製の太刀を造って見せるし、レジェンドクラスの魔物の侵攻に関しても結局一人で、誰の犠牲も出さないまま全て終わらせて、その上、大量の素材をゲットするし、今度は既に発掘済みの十万年前の遺跡を見て回ろうかとか言い出したと思ったら、次から次へととんでもない危険物を見付け出すし・・・・・・。
他にも挙げればキリがないくらい、本当に色々とあった。
「噂は聞いていたけど、何かこれ以上ないくらいの実感がこもってるね」
「それは当然。私たちも散々苦労したし」
クリスたちも本当に苦労したからね。それと、アベルの非常識さは噂程度で測れるほど生易してモノじゃないよ。
「でも、ユリィとケイだって実は彼に迷惑かけてたりするでしょ?」
「それは・・・」
「・・・確かにね」
それを言われると反論できない。
実際に、私たちの国に来た時にはアベルに結構な苦労をかけたと思う。
アレは、完全に父たちの悪ふざけとも言えるから更に始末に悪い。
別にアベルを巻き込まなくてもどうとでもなった問題に、ワザとアベルを巻き込んだのだから・・・。
多分、アレは私たちがアベルに惹かれているのを知った上で、今の事実上の婚姻関係を造り上げるために仕組んだ策略。
「多分、その内今度は私たちの国に行く事になるけど、その時には同じ事が起こるのはもう確定だから何とも言えないけど」
「そうだね。それに、いずれは確実にシオンたちも同じ事になるから、覚悟しておいた方が良いかもよ」
「ユリィたちと違って、私たちはアベルが好きと言う訳でもないから、困るんだけどね」
クリス、ヒルデ、シャクティの三人は、いずれ自分たちの国にアベルと一緒に戻った時に、必ず起こると判っている出来事に遠い眼をしている。
うん。多分だけども、確実に羞恥プレイとしか言えない展開になると思う。
だけど、クリスたちは否定するかもしれないけど、それまでに彼女たちがアベルの事を好きになってる可能性だってゼロではないんだけどね。
どうなるかは私にはわからないから何とも言えないけど。
「それは私たちも同じでしょ。私たちの場合は、まだお互いの事をよく知りもしないから、もう少し待ってもらわないと困るんだけど」
「そこは、父上たちの都合で、すぐに呼ばれるかも知れないからね」
アベルがレジェンドクラスになった事で、自国に呼び寄せるメリットがこれ以上ないくらいに膨れ上がったので、出来ればどの国もアベルを呼びたいと思っているのは間違いないから、何時向かう事になるか判らないのは確かに困ると思う。
「とりあえず、アベルはこのまま遺跡探索を続けるらしいから、言っていない遺跡がこのヒューマンの大陸に無くなるまではここを離れないと思うけど」
「それが終わったら、間違いなく私たちの国の遺跡を周る事になるから、或いはそう遠くなくその時が来るかも知れないよね」
十万年前の遺跡。カグヤが造られて魔物の脅威が激減したために、必要なくなったとして破棄されたと言われる遺跡の数々は、なにもヒューマンの大陸だけにある訳じゃない。私たちの国にもいくらでも存在が確認されているのは知っている。
だけども、既に発掘済みだったり、どうやっても中に入れなかったりするために放置されている。
それが、アベルならば平然と中に入れると知って、父たちは間違いなく手ぐすね引いて、アベルが遺跡探索に来るのを待っているだろう。
特に今回みたいな、ジエンドクラス食材なんて、本当ならもう絶対に手に入れることも出来ないハズの幻の品を見付けられるかもしれないとなれば、その期待は更に高まっているに違いない。
「私たちの国の遺跡のどれかに、今回の様に、ジエンドクラス食材が眠っている可能性もあるかも知れないと?」
「父たちは間違いなく、それを期待して待ってるよね」
シオンの問いにはそうとしか答えられないし・・・。
「それは、正直・・・、私も期待してるかも」
「うん。ボクも・・・」
「期待するなっていう方がムリだよね・・・」
正直、私だって期待してたりする。
「ああそれと、レシピに書いてあった料理をつくるのに、必要な素材が色々とあるから、それも取りに行かないといけないって話だったよね」
「そうだったけど、正直、揃えるのムリでしょってラインナップだったよね」
アシャに言われて思い出したけど、それも求めてイキナリ、シオンたちの国に突入するのもあるかも知れない。でも、世界樹の蜜と同じく手に入れられるかはほとんど賭け、もしくは奇跡に近いような希少な素材ばかり。
「あんな素材を平然と使ったレシピの研究がされていたなんて、十万年前っていったいどうなってたんだろうって本気で思うよ」
「確かに、当時は簡単に手に入れられたなんてあるはずもないし、どうなっているのかまるで判らないよ」
キリア、ディアナ。それは私たちも同じ思い。と言うか、あのレシピを見た誰もが至る疑問だと思う。
確かに、その食材を揃えてつくり上げる料理は最早、天上の味では済まない員じゃないかと思えるけど、手に入れるのも困難なんて言葉じゃすまないモノばかり。
「確か、原始の霊水もあったよね。アベルなら手に入れるために躊躇わずにアークラントに行きそう」
「でも、天真の霊地で、原始の霊水を手に入れられる可能性は低いと思う」
「そうかな、アベルなら結局は手に入れそうだけど・・・」
原始の霊水は、五百年近く前に、ミミール様が手に入れて以降、誰一人として手にする事の出来ていない幻の霊水。アークラントには、5000年近く前、当時の天人のレジェンドクラスの方が手に入れた原始の霊水が残っていると言われるけど、それ以降、天人で霊水を手に入れられた者が出ていないので、実は結構神経質になっているとヒルデから聞いた事がある。
「原始の霊水ですか、私が手に入れられればいいのですけど、多分ムリですよね」
「まあ、父君でも無理だったんだからね」
「でも、このままアベルのもとで修業を続けていれば、何時か手に入れられるようになってると思う」
その根拠がどこから来るのか判らないんだけどシャクティ?
だけど、その一方で妙に納得して、確かにとか思っていたりする。
「このままいくと、ひょっとしたら私たちもレジェンドクラスのへと至る可能性もゼロじゃあないし」
ああ、そう言う根拠ねと納得してしまう。
シオンたちなんかは、「それは流石に・・・」なんて否定しているけど、私たちはその可能性も限りなく低くてもあるんだと判ってしまう。
アベルと出会うまでは、自分がいずれレジェンドクラスに至るなんて夢にも思わなかった。
だけど、アベルと出会い、彼の元で今までとは比べ物にならない、信じられない速さで力を付けて行って、もしかして、万が一にもの可能性を否定しきれなくなって来た・・・。
「完全には否定できない所が、本当に怖いよね」
「アベルのもとに居る以上、可能性はゼロじゃないから」
本当に、ありえないはずなのに、ひょっとしたら私たちもレジェンドクラスになるんじゃないかと思ってしまう。
「「そっ、そこまで・・・・・・?」」
信じられないのは当然だけど、そこまでの相手なんだよアベルは、まあ、シオンたちもすぐにこれまでの常識を尽く壊されて、私たちと同じように慣れさせられるから、覚悟しておくし良いよ。




