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ユリィ視点、三回目です。

「お久しぶり。また会えて嬉しいけど、本当に想定通りの展開だったわね」


 私の言葉に、ようやく合流できた九人は苦笑する。


「私としても彼がレジェンドクラスになるのは想定外だったしね。まあ、そのおかげでみんなとこうして合流できた訳だけどね」

「ユリィたちに続いて、クリスたちまでいるのだから、様子見には十分。ワザワザ私たちが行く事ないって言い出す連中が居てね。そのおかげでつまらないイザコザに巻き込まれるし、彼がレジェンドクラスに成ってくれたおかげで、無事に行けるようになった時には正直ホッとしたよ」


 シオンに続いてミストが苦々しいとばかりに毒づいて来る。私たちもこれまでの彼女たちの苦労はその都度、愚痴られて知っているから、なんとも言えないし。それに、私たちもアベルと一緒に居て散々味わってきた苦労を彼女たちに愚痴ってきましたから、お互い様だったりする。


「つまらない面倒事に巻き込まれたけど、そのおかげで国の膿が少しは取り除けた」

「それはあるけど、ボクとしては正直、あまり関わり合いになりたくなかったかな」


 ミルカの言う通り、彼女たちが今までこれなかった原因のひとつでもある、国の一部腐敗した連中はアベルがレジェンドになった時点で自動的に退場する事になっただろうけど、それまで散々振り回されたとキリアはウンザリした様子を浮かべている。


「それは私も同意見だけど、生まれ持った責任とか義務だからね。それに、こうしてみんなと合流できたから、少なくてもしばらくはそんな厄介事と関わらなくて済むし」

「そうそう、別の意味で色々と気疲れするのは間違いないけどね」

「話には聞いていたけど、そんなに大変なの?」


 それは全員同意見らしく、足止めされていた間の事を想い出してげんなりするみんなに、私とケイは二人でフォローしようとするけど、明らかにフォローになってない微妙なものになってしまって、それに逆に興味を持ってくれたみたい。


「すぐに判るよ。行く先々でトラブルに巻き込まれるから・・・」

「行く先々でトラブルを引き起こしているが正しいんじゃない? 本人にはその気は全くないんだろうけどね」


 本人が聞いたら、もの凄く不本意だと言いそうだけど、私たちの認識では間違いなくアベルは自分から面倒事に首を突っ込みに行っている。

 今私たちがしている、十万年前の遺跡を周るのなんてその最たるモノ。既に発掘済みでも中にはどんな危険な物が眠っているかも判らないような場所に進んでいくなんてどうかしている。いや、それが解っていながら止めようともしない私たちにどうこう言う資格はないのも判ってるけど・・・・・・。


「まあ、苦労が絶えないのも事実だけど、充実した楽しい毎日なのも間違いないから」

「色々と思いもしなかったような事実を知る事になりますし」

「これからは一緒に楽しめるのは嬉しいよ」


 私たちの微妙な発言に引き攣りかけた空気をクリスたちがフォーしてくれる。


「まあ、魔物との戦いは常に最前線だけど、それは別に望むところでしょ?」

「それは確かに」

「でも、レジェンドクラスの魔物の出現はもう終わってしまっているのが残念。私も直にその姿を見たかった」


 常に激しい戦いの最中にあり、魔物の討伐の最前線にある事にはむしろ望むところだとマルグリットが同意する一方で、ディアナは合流が遅れたせいで、アベルとレジェンドクラスの魔物との死闘を直接目にする事が出来なかったのが不満みたい。


「ああ、それは確かにね。あんな機会もうないだろうし、本当に残念だよ」

「いや、そう断言するのはまだ早いと思うよ・・・」


 自分も見たかったとアシャが同意するのに、ケイは何処か疲れたように言葉を濁している。

 うん。その気持ちは痛いほど良く判るよ。私も同意見だし・・・・・・。


「「アベルの事だから、どうせ遠からずまたレジェンドクラスの魔物と戦う様な事になるから」」


 当然のように私とケイのセリフが重なるのは、仕方がない事だと思う。

 そして、この確信は間違いなく現実になると思う。

 ・・・だって、これまでの事から考えてもアベルにはこれからも信じられないような困難が次々と襲い掛かって来るのは間違いないはずだし、でも、現状では既にSクラスの魔物がどれほどの数現れても、アベルにとって脅威には成り得ない。そうなると、間違いなくレジェンドクラスの魔物が、それこそアベルを目指して現れて来るのがもう想像できてしまう。


「いや、普通に考えて、流石にそれはありえないと思いますけど?」

「うん。レジェンドクラスの魔物の出現期も終わったし、しばらくは魔域の活性化もないと聞いている。だからそんな非常事態になる事はないはずだよね」


 ルシリス、サウラ、貴方たち二人の言う事は一般的には最もでだけど、アベルの非常識さはそんな常識では計れないから。


「そう思うのが当然だけど、アベルの非常識さは想像を遥かに超えてるから・・・」


 やっぱり、この辺りは実際の経験の差かな、クリスたちは同意してくれるけど、シオンたちの方はきょとんとしている。

 

「まあ、みんなもいずれ、ううん、すぐに実感すると思うから・・・」


 どうやったって、アベルと一緒に居ればその非常識さに振り回される事になるのだから、どうやってもシオンたちもすぐに理解する事になる。

 私たちがアベルと一緒に居ることで体験してきた、常識が崩れ落ちるあの感覚を、彼女たちもこれから味わうのかと思うと何とも言えない気持ちになって来るけど・・・・・・。

 

「それより、ユリィとケイに続いて、シオンたちもアベルの婚約者になったね」

「何を他人事の様に、貴方たち三人も、私たちと同じ婚約者候補でしょうに」


 ここで話題を変えようとするクリスに、シオンは呆れたように爆弾を落とす。

 うん。その通りなんだけど、クリスたちは気付いてなかったから・・・・・・。


「私たちも?」

「何を驚いているの? 私たちよりもずっと前から彼と一緒に居るんだから当然」


シャリアも驚いているけど、ミルカの言う通り、これだけ長く一緒に居ればそれだけで既に既成史実として成り立ってしまう。


「まあ、父上たちとしては当然の選択ですよね」

「うん。まあ自由の対価と思って諦めないと」

 

 どうやらヒルデは自分がアベルの婚約者候補になっているのに気が付いてたみたい。そして、キリアが言う通り、ある意味では私たちがこうして自由にしていられる対価とも言える。

 でも・・・・・・。 


「今のは少し見逃せないかな。本当にただ自由の対価としてのみ、アベルの婚約者候補になるのを受け入れたのなら、それは不誠実だよ」


 珍しくケイが少し怒っているけど、これは当然。そして、ようやく私たちが本当に聞きたかった話になった。

 彼女たちは、自分たちがアベルの婚約者候補になったのをどう思っているのか?

 クリスたちは、婚約者候補になってもまだアベルを男性としては見ていない。彼女たちはまだ誰かを好きになるとかに興味がないから。

 それでも、私たち自身の経験からすると、そんなのとは関係なく何時の間にか好きになってしまっていたりするんだけど・・・・・・・。 


「別にそんなつもりは無いよ。それに、話には聞いていても、実際に会うのは初めてでまだどんな子なのかも判らないし。だから、今の所は婚約者候補の肩書も形だけ」

「実際にどうなるかなんて、今はまだ分からないからね。だけど、これからずっと一緒に居る事になるんだから、少しずつでも彼の事は知って行けるでしょ」

「何年か、何十年か一緒に居て、気が付いたら好きになっているかも知れないし、結局そう言う対象には見れないかも知れない。そこはこれから次第だよ」

「ひょっとしたら、私たちが彼の魅力のとりこになるかも知れないし、逆に私たちがなんとも思わなくても、彼の方が私たちをスキになっているかも知れない。どうなるかなんて、本当に判らないけど」

「私たちにとっても、今の関係は楽しみでもあるんだよ。まだ真っ白な私たちの関係が、これからどんな風に色付いて行くのか」

「なんだかんだで、ボクたちはみんな自分の好きな様に生きたいと思うのが第一で、恋愛とか二の次だったからね。それがいきなり全員同じ相手となるなんて、ある意味、運命みたいに感じるし」

「それは言えてる。今こうしてみんなが集まれたのも含めて、何かもう運命みたい?」

「もっとも、仮に運命だったとしても、自分の意思に反してそれに従うつもりは無いけど」

「それも含めて、全てはこれからかな。これから彼と一緒に居て、彼の事を知った上で自分で決めるか、それとも何時の間にか好きになっているか。自分たちがこれからどうなっていくのかも含めて、全部が楽しみ」


 その言葉を聞いて、ああやっぱりみんな変わらないなと改めて実感する。

 国の、父たちの思惑や意向はともかく、自分の未来は自分で決める。それでこそだ。

 私も、私とケイも自分たちの国がどんな思惑で私たちとアベルの婚姻を成立させたかなんて判り切っている。

 父としては、国を護るためにレジェンドクラスの血が欲しい。

 私とアベルの間に子供が生まれれば、その子は半分の確率でエルフになる。その子どもと、ミミールさんの子供を結婚させて、レジェンドクラスの子供同士の間に子をなさせたいのだと思う。

 そして、その子どもの血筋を王家に取り込む。

 国を護るため、統治者として君臨し続けるためには仕方のない事。多くの民を護るために必要だと私も判っているから、その事にとやかく言うつもりは無い。

 本当は、出来ればアベルとミミールさんの間に子供を成して欲しいとか思っているハズだけど、そこはあえて無理やりなんてバカなマネはしないのだし。

 アベルがレジェンドクラスになった時点で避けては通れないから、そこはもう諦めてる。ただ、アベルとの関係については一切口を挟ませるつもりは無い。

 私たちは、私たちの意思で、自分たち自身の想いのままにアベルを好きになったんであって、決して強制されたからじゃないんだから。

 だから、クリスたちも、シオンたちもそのまま、本当に自分の意思でアベルとの関係を決めて欲しい。


「だからひょっとしたら、最終的には私たち全員が彼の事を好きになってるかもしれない訳だし」


 私としては、そうなってくれると嬉しい。みんなで幸せに一緒に生きていけるのは、本当に楽しいだろう。だから、私は彼女たちがこれから先に選ぶ未来の可能性に思いを馳せる。




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