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アレッサ視点、三回目です。
「それで、次は何処に行くんですか?」
レジェンドクラスの方々もお帰りになり、レイル王子も仕事に戻られ、次にどこに行くかと言う話にようやくなりました。
今回はまさかの展開過ぎて、正直途中から生きた心地がしませんでした。
まさか、レジェンドクラスの超越者たる方々と共に食事をする事になるなんて・・・。
・・・途中から、あまりの食事の美味しさに、まったく気にもしなくなっている自分に気が付いて、後で青くなったのは当然です。
それにしても、ジエンドクラス食材ですか、今となっては決して手に入ることの無い貴重な食材。それらが保存されて後世の世の為に残されていたなんて、私自身、初めて十万年前の方々に心から感謝しました。
・・・・・正直、今まではどうしてこんな危険な物を残しておくのですか? と絶叫したくなる様な物ばかりでしたから。
「次はエクズシスだな。その前に、例によってセイグケートとルシンにも寄るけど」
ただし、セイグケートの方は発掘済みの遺跡がないのでただ単に寄るだけになるが、ルシンの方には確か発掘済みの遺跡があったハズなので、まずはそこに行くかなとの事です。
「随分と久しぶりの、ノインの里帰りですか」
「そう言う事だな」
素直じゃないなと思いますけど、これも優しさなのでしょう。
実は、私たちはノインが仲間になった一件以来。まだエクズシスに行っていません。
理由は、ノインの中に戻る事への大きなためらいがあるからです。
勿論、彼女はかつての仲間たち、自分の家族も同様の人たちと再会したいと心から思っています。だけどその一方で、あまりにも辛く生産に記憶の残るあの国に戻る事に心の奥底で怯えてしまっているのです。
それはどうしようもない事で、誰にも彼女を責める事は出来ません。
彼女は生まれた時から既にあの国の闇の中に囚われて、地獄のような日々を送ってきたのですから・・・。
「里帰り・・・」
呆然としたようにノインが呟きます。その小さな呟きの中に、色々な思いが混じり合って溢れそうになっているのが解ります。
「久しぶりに会ったニーナさんたちに、今のノインの強さを見せて、驚かせてあげようよ」
「そうそう、きっと驚くよ」
メリアたちがノインに笑い掛けながらさり気なく気遣います。
あの子たちもシッカリと気遣いが出来る姉の一に収まっていまするね。それに、かの字たちがニーナさんたちに一番見て驚いて欲しいのは、ノインの人としての変化です。
彼女は人としての感情を取り戻しただけでなく、人としても大きく成長しました。
今の彼女は、生まれた時から奴隷として囚われていたころとはまるで別人です。その変化を、人としての成長を、誰よりも彼女の事を大切に思っているニーナさんたちに、家族に見せてあげたいのです。
「彼女たちも、そろそろどのくらい強くなったか、シッカリと見極めないといけないしな」
「あの、程々に・・・」
ここで黒い笑みを見せるアベルに、ワザとだと判っていても引き攣ってそう言いとどめておくのがやっとです。
・・・・・本当に、黒い演技が上手すぎです。
「そうか? 場合によってはスペシャルハードコースで鍛え直すつもりなんだが」
「それは、冗談抜きで死にかねないわよ、あの子たち・・・」
鍛え直すとしても、それはニーナさんたちの為なのは判っているのですけど、それでも、あえてスペシャルハードと断言する修行行を課したりしたら、本当に死んでしまうのではないかと不安になります。
ミランダさんですらそう思ったらしく突っ込みを入れてますし、私たちも、今まで何度死ぬかと思った事か、もう数え切れません・・・。
「アベルのスペシャルハードコース・・・・・・」
「考えただけで震えが止まらないよ・・・」
「・・・絶対に死人が出るよね?」
「考えたくもないのに、どんな地獄なんだろうって想像しちゃう・・・」
「判る。私も想像したくないのに勝手に頭に浮かんできちゃうの・・・・・・」
「怖いよ。聞いただけで震えあがって動けなくなっちゃうよ・・・」
「・・・スペシャルハードコースて、もしかしなくても、かつてニーナさんたちに課したのよりも更に厳しい修行と言う事だよね?」
本当にどうしましょう。自分たちが受ける訳でもないのに恐怖に身が竦んでしまいます。
「いや、何をそんなに怯えているのかな? そこまで怯えられると流石に傷付くんだが・・・」
「何言ってんのよ。当然の反応でしょう。キミ、まさかとは思うけど自分の詩行がどれだけ過酷か判ってないとか言わないでしょうね?」
「いや、どれだけ過酷かって言われても、俺自身がこなした修行をベースに、思いっ切り難易度を落とした安全な修行だよ?」
「「ウソだっっ!!!!」」
全員の声と思いが一致します。ティリアでさえ、それは絶対にありえないとばかりに声を上げます。
彼女も、仲間になってまだ日が短いとはいえ、既に私たちの修行の過酷さを身をもって体感しています。
「いや、ホントだって、今キミたちに課してる修行なんて、過酷さで言ったら俺がこなした修行の千分の一以下だって」
いや、一万分の一以下か?
そう続けられて完全に言葉を失います。そんなバカな事があるでしょうか?
何かこのやり取りも実は、どれだけ繰り返せばいいんのだろうと言うくらい繰り返している気もしますけど、いずれにいしてもそこまでハードにしてはいないハズだと言われて信じられません。
「あれで千分の一・・・?」
「ウソよ。一万分の一なんてありえない・・・」
「いやホントだって、現にみんな脱落せづについてこれてるだろ?」
愕然としていた私たちも、そう言われると何も言えなくなってしまいます。
「だとしてもダメ、せっかく久しぶりに会うんだから、ニーナたちとゆっくり過ごしたい。アベルの詩行を課せられたんじゃあニーナたちクタクタになってしまって、私と一緒に過ごせない。だから絶対ダメ」
と思ったら、ここでノインが猛烈に反対します。
確かに、アベルさんの修行の後じゃあ久しぶりに会ったのにとの団欒も出来ないでしょう。
「アベルがニーナたちの事を想って強くしようとしてくれているのは判るけど、今回はダメ」
どうやら一歩も引くつもりは無いみたいです。その様子にアベルさんも、私たちみんなも驚きを隠せません。
だけども、その言葉には家族への強い思いが溢れています。ニーナさんたちを心の底から大切に思っているのが真っ直ぐに伝わってきます。
「判ったよ。だけど、場合によっては彼らをしばらく強制連行して、ミッチリ修行させるから」
そんなノインの気迫に、アベルさんが苦笑して折れます。
それにしても、強制連行というのはどうでしょう?
もう少しマシな言い方があると思いますが、なんだかんだでアベルさんもニーナさんたちの事が気に入っていますから、ヤッパリ気になるのでしょう。
・・・・・・それにしても、やっぱり少し嫉妬してしまいます。
ノインとニーナさんたちの絆は何ものにも代えられない特別なものなのは判っています。それでも、私たちも彼女と共に過ごし、深い絆を育んできたと思うのですが、やっぱり私たちではニーナさんたちには敵わないみたいです。
「次の行き先も決まったみたいだけど、悪いけど、その前に確実に私たちの父たちが来るから、行く前にまだ一仕事と言うか、一波乱あるよ」
「これはもう確定だからね。今回の件でまた確実に動きがあるし」
そんな事を考えていると、ユリィさんたちが待ったをかけてきます。
そうでしたね。レジェンドクラスの魔物の時にも色々ありましたし、今回も確実にユリィさんたちの父君である、各種族の国のトップである王自らが出向いて来るのは確実ですね。
それに、ユリィさんたち以外の種族の国も動かないはずがありません。これまではまだ様子見をしていた種族の方々も一斉に動き出すでしょう。
「今回の件は本当にまたとない機会だから。本当はアベルがレジェンドクラスになった時にすぐにでも動きたかったんだけど、タイミングが難しくて動けなかった鬼人とか、水邦とかも動くのは間違いない」
本当はレジェンドクラスの魔物現れた時に、その肉を食材として確保する時にでもと考えていたらしいのですけど、思いの外レジェンドクラスの魔物の出現が長引いたため、アベルさんがその対応に追われる事になってたチャンスを逃してしまったので、今回は絶対に機会を逃すはずがないとの事です。
「また、仲間が増えるのですね」
「確実にね。一気に何人増えるのかが少し怖いけど・・・」
これまで、アベルのもとに集まったのは私たちヒューマンを含めて六種族。ですが、これからすぐにでも全ての種族が集まる事になるのは確実の様です。
「つまり、全ての種族からアベルさんの奥さん候補が集まってくると言う事ですか?」
ここで相変わらずザッシュさんが爆弾を落とします。
「まあそこは、もうレジェンドクラスの宿命だね。どの国もその血を取り込みたいのは同じだから」
そう言うミランダさん自身、ヒューマンの各国からの婚姻の申し出にウンザリした過去があるそうです。あの奔放過ぎる性格も、そんな申し出を煙に巻くためだったと聞いた事があります。
ユリィさんたちは本当に興味本位で、むしろ自由に世界を旅するためにアベルさんを利用するような形で仲間になりましたけど、これから来る方々は、はじめからアベルさんとの間に子をなす事を前提としているのですね・・・。
そんな方たちと仲良く出来るのでしょうか?
それに私たち自身、アベルさんとの間に子供をと思っているんでしょうか?
色々と考えても答えが出なくて、頭がパンクしてしまいそうです。せっかく告白したのに、本当にこれからどうなってしまうのでしょうか・・・・・・。




