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 さて、いよいよ手に入れた最高の食材、本来なら食べられるハズもない幻の、奇跡の食材を実食する時だ。

 食べるのはΛランクのアビス・リヴァイヤサンの肉。これを十センチ和戸の厚さの塊に切り分け、一千℃の超高温で一気に焼き上げる。焼き時間は十秒。コンマ一秒の誤差も許されない。

 そして、焼き上げた塊はそのまま切り分けずに塊のまま皿に盛り付け、骨髄のエキスと血を煮詰めて作ったソースをかけて出来上がり。

 さて、記念すべき一品目はアビス・リヴァイヤサンのロースト。

 食べるのはパーティーメンバーにレイル。それにレジェンドクラスの四人も一緒。

 あまりの顔ぶれに、ティリアは勿論、メリアたちや、ミランダですらガチガチになってる気がするが、ここはあえてスルー。

 どの道、食べ始めれば回りなんて気にしてられなくなる。 

 早速食べるとしよう。まずは大きな塊にナイフを入れて切り分ける。

 一千度の高温に晒されながら、その表面は綺麗な焼き色がついているだけで焦げてすらいない。代わりにサクッと音がする程に硬く焼き固め似れている。 

 しかも、焼けていのも表面のわずかかな部分だけだ。中は生のまま、いや、高温の熱が伝わりシッカリと中心まで火が通って暖かくなっているが、それは見事なまでのレア。

 血が溢れ出す事がない代わりに、切り口から肉汁が溢れてくる。

 ナイフを入れた瞬間に広がる芳醇な肉の香りに、思わず息を飲む。

 口にする前から最高の感動がすでに広がっている。

 誰も、何ひとつ言葉にしない。目の前の料理に全神経を集中している。

 切り分けた一切れにソースをたっぷりと絡ませ、そのまま一気に口に運ぶ。

気が付いた時には皿が空になっていた。自分で食べたはずなのにその記憶がまったくない。だけども、全身をこれ以上ない至福が満たしている。

 美味い。などと言う言葉では言い表せられない。レジェンドクラスの魔物も至上の味わいだったが、これは最早、

次元が違うとかそんなレベルですらない。

 それにしても、二キロはあった塊を食べ尽したのに、全く食べた気がしない。体中の全ての才能がもっと食べたいと叫んでいる。


「これほどとは・・・」


 思わずと言った風にレイストリアが感嘆の声を漏らす。だけど、俺からしたら感嘆の声を上げられるだけで凄い。俺を含めた他のみんなは、呆然としたまま声ひとつあげられない。 

 完全に最高の味の魅了されて、囚われているのだ。

 そんな俺たちの前に、次の料理が運ばれてくる。

 次の一品はラハム・カーズリアの肉を五センチ程の大きさに切り、世界樹の蜜に付け込んだ後、180℃のオーブンで十分ほど焼き、更に肉汁とワインで煮込み、ワインのアルコールが飛んだところで、茶色くなるまで炒めたオニオンスライスを入れ、味を調えたハニーオニオンシチュー。

 実にシンプルその一品は、肉にスープとオニオン、まずは三つを一緒に味わうのが醍醐味。

 スプーンに火の三つがちょうど良く揃う様によそい。アツアツのまま頬張る。

 まず最初に来るのはスープに溶け出した濃厚な肉の旨み、そして次に噛み切った肉から溢れ出す肉汁が口の中一杯に広がる。そして、肉の旨みと合わさった世界樹の蜜の甘みが全ての味をさらなる高みへと引き上げる。

 言葉も出ない。この至上の味に出会えたのは、運良く世界樹の蜜を手に入れられる信じられないほどの幸運に恵まれたから。我を忘れて貪りたくなるのを必死に抑えながら、この至上の美味に至る事が出来たこれまでの幸運に感謝する。

 そして最後の一品は、カオス・アビスドケロンのたたきとアビス・レモラ・グランゼの丼。

 カオス・アビスドケロンは塊のまま一千度の高温で両面をさっと炙り過ぎに氷水で締めたモノを一センチほどの厚さに切った刺身で頂く。醤油はレイが鬼人の国でもほんのわずかしか生産されていない最高の一品を提供してくれたのでそれを使う。薬味はワサビでもショウガでもどちらでもいい。どちらも同じく最高のモノを用意したけれども、ここはあえて何もつけずにいくのもありだろう。

 アビス・レモラ・グランゼはサクのまま醤油に付け込み漬けにする。そしてほんの少し炙ってから五ミリほどの厚さに切り、あえて酢飯ではなくアツアツの白いご飯の上に並べる。マグロのような身はとてもキレイで、赤身に中トロ、大トロと各部位をまんべんなく丼の中に散りばめたその様子は宝石の様ですらある。

 ほんのりと醤油の焦げた香ばしい香りが更に食欲を増す。

 このご飯も、レイ提供の最高の米を使っている。

 誰も何も口にしないまま、無言のまま一口。

 全身を衝撃が駆け抜ける。だけど、我を忘れて知らない内に食べ尽してしまうような真似はしない。ゆっくりと噛みしめながら、味の全てを堪能し尽す。

 美味い。どちらも美味すぎる。それに、二つの料理を一緒に食べる事でさらなる高みへといざなっていく。それぞれを別々で食べる。或いは一緒に食べる。赤身、中トロ、大トロ、食べる部位によってもまるで異なる美味が全身を満たす。まるで虹色のように変わる味の変化が全身を駆け抜けて、悲鳴を上げてしまいそうだ。

 

「至福」


 ようやくその一言を口にしたのは、全部食べ終わった後、どれ程、味の余韻に浸ってからだったろう。

 気が付けば、食事を始めてから三時間も経っている。


「私は、生涯でこれ程の幸福を感じた事はない」


 レイストリアが深く断言する。

 四千年の人生で、今が最高の時だと断言できるほどの衝撃だったと。

 それは冗談でも大げさでもないだろう。他のれレジェンドクラスの三人も頷いて同意している。


「一刻も早く、この至福を家族と分かち合いたい」

「それは確かに」

「同じ感動を一緒に味わいたい」

「幸せなご家族ですね」

 

 すぐにでも家族の元に戻りたそうにし出したレイストリアに、レイなども同意するが、それにしても家族思いな事だ。


「そうか? 私と一緒に居るなど苦痛でしかないと思う者も多いが」

「それとコレとは話が別でしょう」


 俺が言う事でもないが、やっぱりずれていると思う。

 今更かも知れないが、俺以外のレジェンドクラスの四人は家族を、家庭を持っている。

 いや、今ちょうど四人とも家庭を持っているのは本当に偶然以外のなにものでもないんだけども・・・。


 そもそもの話、レジェンドクラスに至った者の血を残すのは周りからしたら当然だ。


「そうかな? かつて、私と共にいる重圧に耐えられなかったものも少なくない」


 そんな訳で、周りからこれでもかと言う程に、相手が送り込まれて来るのだけれども、当然ながら中には彼の言う通り、レジェンドクラスの超越者の傍らにいる重圧に耐えられない者も出てくる。

 中には逃げ出した者もかなりの数が居たのだろう。

 

「それはあなたと家族になる覚悟も何もなく、ただあなたの周りに近付いて来ただけの人たちでしょう」

「ふむ。それもそうだな」


 何の覚悟もなく、タダ地位と名声、そして莫大な富だけを目当てに近付くような連中が、何時までも彼らの周りにいられるハズがない。


「まあ、其方の場合はその心配もなさそうだが」

「確かにね。何時の間にかシッカリと通じ合ってるみたいだし」

 

 ここで俺の方に飛び火して来るか?


「まあ、汝も我らと同じ道を辿るのは必定。こればかりは逃れられぬわ」

「もう既に、シッカリと絡め取られているようだし」


 ああ、それについては否定できません。


「私も、出来れば娘をアベルのもとにと思うしな」


 レイルもそこで便乗しない。

 いや、判ってるんだけどね?

 何時の間にか既に婚姻していた三人が、揃いも揃って王族なのも偶然じゃない。レジェンドクラスの血を残したいと思うのが当然の様に、各国ともに自国にその血を取り入れたいと思うのも当然で、現にレイストリアたち四人も、最初の結婚相手は王家からだったし、俺もこのままいけばそうなる。

 でまあ、最初のと言うのは当然、その後にまた結婚を繰り返しているから。

 と言うか、それが当たり前で、寿命の桁が違い過ぎるので、彼らは最初の結婚相手も、出来た子供もとっくに死別している。


「まあ、それが当然だろう。第二王女だった我妻から生まれた私の長男も公爵家の当主となり、長女は王家に嫁いだからな。国としては何としても我らの血と我らとの繋がりが欲しいモノだ」


 まあそれはそうだろうけどね。

 因みに、今の一言で判ると思うが、ヒルデはレイストリアと血が繋がっている。遠い子孫だ。いや、天人のアークセイヴァー王家には、四千年の間に幾度となくレイストリアの血が組み込まれているので、遠いかどうかは判らないけど、後、当然だけどユリィたちもそうだ。

 ユリィの中にはミミールの血が流れているし、クリスはレオシリスの血が流れている。

 クリスなど、実はレオシリスの直系だったりする。


「まあ、遠からず我が孫も、其方の伴侶となるだろう、その折はよろしく頼むぞ婿殿よ」

「あの、レオシリスさま、一体何を・・・・・・」


 豪快に笑うレオシリスに、クリスはオロオロとしているが、まあ、このままいくとそうなるのも確実な気がする。

 クリスの方は、俺に尻尾をモフモフさせたりと、逆に異性としては全く関心がないみたいだけども、現状では回りが放っておかないだろう


「ヒルデもそうだな。ふむ。中々に楽しみであるな」

「ユリィちゃんはもうアベルくんのお嫁さんだし。子供が出来るのが楽しみよね。いくらなんでも当分先とは思うけど?」


 そこは疑問形ではなくて、間違いなくまだまだ先です。

 何時の間にか俺がいじられまくっている気がするが、彼らの家族の話をしようとしてたはずなんだが、どうしてこうなったのだろう? ユリィなんてもう恥ずかしくて気を失いそうになってるし、クリスとヒルデも顔を真っ赤にしててそれどころじゃなさそうだし。何時の間にか最高の食事の余韻も何もなくなってる。

 いや、羞恥に悶える三人の様子が可愛いなんて思ったないよ?

 そんな生暖かい眼で見てたら、余計に突っ込みを入れられて取り返しのつかない事になるのくらい判ってるからさ。

 駄目だ。やはりまだまだレジェンドクラスの超越者を四人も同時に相手にするのは荷が重すぎる。

 この後、遺跡探索をして、万が一にも他のジエンドクラス食材を保管してある遺跡を見付けたら、またこの二の舞になるのかと思う時が重い。

 出来れば、それまでに少しでも彼らに対抗できる経験を積めると良いんだけど・・・。




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