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「本当に、本当に危険はないんですね?」
「ああ、今回はレイルも一緒に連れて行く。連れて行って大丈夫だと判断できる遺跡だったから、問題ないよ」
「そうですか。それは何よりです」
レイルも一緒に連れて行く予定と聞いて、アレッサが心の底から安堵する。
気持ちは判るけどね・・・。そこまであからさまなのもどうかと思うよ?
それ以前に、そんなに嫌なら遺跡回りを止めようと言ってくれれば、俺だって喜んで中止するんだけど、その辺りはどうなのかな・・・・・・。
「そこまで心配するなら、遺跡探索止めるけど? 別に絶対にやらなきゃいけない訳じゃないんだから」
「いえっ、あのその・・・ごめんなさい」
いやそうじゃなくて、遺跡探索を止めるか何だけど・・・。
「そこまでにしてやりなさいアベル。実際の所、なんだかんだ言いながら彼女たちも、古代の歴史とロマンな迫る遺跡探索に魅了されているのよ」
困惑している俺にミランダは楽しそうに答えを投げかけてくる。
「はい、その・・・、先程のアベルさんとの掛け合いも含めてもう楽しみになってしまいまして・・・」
とは恥ずかしそうに少し俯いたアレッサ。明らかに羞恥に顔を赤めているのを見ると、すこしイジリたくなるのだけどもここは止めておこう。
と言うか、ここで下手にいじろうとすると止まらなくなりそうだ。
「はあ、つまり、結局はみんなも楽しんでいるから止めるつもりは無いと?」
「そう言う事ね。それより、遺跡の方はどうだったの? レイル王子まで連れて行くくらいだから、危険がなかったのは確かでしょうけど」
「いや、ある意味危険物は存在したよ。だけど、これまでとは全く違う危険物がな」
「「はい?」」
俺の言葉に理解できないとばかりにみんなして首を傾げる。
まあ当然だろう。でも、俺もあの遺跡の本当の目的と、そこに眠っている物を見た時には心の底から驚いた。そして歓喜に絶叫した。
「まあ、行けば判るさ」
あの感動は、ここで洩らしてしまうのは惜しい。だから、不思議がって何があったのか聞いて来るのを無視して、みんなを遺跡に案内する事にした。
「さあ、ここがアルレイト海洋調査所だ」
「それは判ったけど、アベルくんはどうして何も教えてくれないの?」
意気揚々と遺跡を案内する俺を、アレッサが頬を膨らませて不満げに睨む。
どうやらレイルを含む全員が同じ気持ちの様で、みんなして同意している。
まあ、気持ちは判るが。
「それは勿論、俺の口から伝えてしまうのは勿体ないからだよ」
「勿体ないって、それ程の物がこの遺跡には眠っているの?」
「当然」
俺が自信満々に断言すると、みんな納得したのか黙ってついて来る。
「何か、調査所や観察所と言うよりは、倉庫みたいですけど・・・」
「そもそもアベル、ここは一体海洋の何を調査していたの?」
メリアとリリアの感想と質問は的を得ている。此処は調査対象を保管しておくための倉庫でもあるし、何よりも大切なのは、その調査対象だ。
「良い質問だ。レイルとの話にも出たが、この調査所が魔域のあるこの地に造られたのは意味がある。この施設の調査対象は魔域、正確には魔域から現れる魔物なんだよ」
「成程、魔物の研究施設だったのか」
レイルが感心したように納得するが、その認識はちょっと違う。
「確かに魔物の調査の為の施設だけども、魔物の生態や弱点などを調べるためのモノじゃない。この遺跡は、海の魔物の一番美味しい食べ方を調べるための研究所なんだよ」
「「はあっ????」」
流石に想定外過ぎたのだろう。全員が揃って疑問符を浮かべたまま困惑している。
まあ、まさか如何に美味しく魔物を食べるか、唯その為だけの研究施設が存在するは俺自身も夢にも思わなかった。
「そっそんな施設だったんですか・・・?」
「信じられません」
「あの、十万年前って、今よりもずっと魔物の侵攻が激しい、厳しい世界だったんですよね・・・?」
「魔物の研究でも、美味しく食べるための研究・・・」
次々と疑問の声が上がっていくけれども、気持ちは判る。
だけど、ある意味では当然の研究だったとも言えるだろう。
「驚くのも当然だけど、今よりもはるかに牙しい状況だったからこそ、必要不可欠な研究施設だったんだ思うよ」
「そうか、確かに士気を高め、維持するには美味い食事は必要不可欠だ」
確か地球でも軍事用の食料レーションの研究開発は盛んに行われ、缶詰やレトルトの類もそこから発展したとか言うような話も聞いた事がある。
要するに、どんな世界でも美味い物を食べられると言う事実は、兵士の士気に直結のは変わらないと言う事だ。
「多分、確実にその手の理由もあっただろうな。今よりはるかに厳しい戦い、それこそ魔域の活性化すら比較にならないほどの魔物の侵攻が永遠と続く中、士気を高め、維持するのにこれほど効果的なものはないだろうし」
より強い魔物を仕留めれば仕留める程、美味い物が食べられる。その事実をハッキリと知らしめるのは、魔物との戦いにおいてかなり有効な手段だろう。
「そう言う事だな、そして、この遺跡には当時研究されていたレシピと、研究対象である食材が残されている」
そう、それこそがこの遺跡に眠っているある意味でヒュペリオンよりもはるかに危険な代物の正体だ。
「太古のレシピですか」
「成程、倉庫のようにも見えるのは、この海で取れた魔物の肉を保存してあるからなんですね」
「どんなレシピなのかすごく興味がありますね」
食事、食べ物にはその時代、文化の背景が色濃く反映される。十万年前のレシピは確かにその時代背景を示す貴重な文化遺産だ。
だけど、重要なのはそっちじゃない、どうやらミランダは気付いたみたいだ。共学に目を見開いている。
「十万年前から保存逸れている貴重な食材が眠っているんですね。でも、十万年も前のモノなのですよね。大丈夫なのですか?」
「そちらは問題ないでしょう。倉庫には時間停止の効果が組み込まれているから、中に保管されているものは入れた当初の鮮度のままよ」
何とか共学から立ち直ったミランダが、サナの基本的な疑問に答える。
「高位のアイテムボックスと同じ仕組みですね」
「そう言う事」
アイテムボックスやマジックバックなども様々で、要領から中に入れたものの時間経過についてまで色々と特性がある。
例えば、貯蔵用のアイテムボックスの中にはあえて中に入れたものの時間経過を通常よりも早くするものすらある。ワインやウイスキーなどの熟成にも使われるその手のマジックアイテムもあるので、一概には言えないのだけども、やはり、高位のアイテムボックスになるほど容量も増え、時間停止の機能もついている傾向がある。
まあ、俺の持ってるアイテムボックスもそうだし、そう考えて間違いないんだけど、やっぱり少し勉強不足だぞザッシュ。
「そして、本命がこの倉庫の中に収められている物だ」
俺は遺跡の一番奥まった所にある倉庫の前で立ち止まる。
実際の所、この遺跡の実に半分以上がこの一室で締められている。それ程巨大な倉庫。しかも、相互自体が魔道具であり、中のモノの時間が止められていると同時に、魔化の広さは更に途方もない広大な空間に広げられてある。
それこそ、遺跡そのものの数千倍以上にもなる広さを持つ倉庫なのだ。
「この中のモノが本命と言う事は、レシピではありませんね」
「レシピの方は研究室や資料室にそれこそ山のように残されてたからな。既にひとつ残らず回収済みだよ」
と言っても、俺たちの後にまたこの遺跡を訪れる転生者が居るので、ひとつ残らず回収済みと言っても、残さず持ち去った訳では勿論なく、全てコピー済みと言う事。
「一体中に何があるんですか?」
「入ってみれば判るさ。それじゃ、開けるぞ」
俺は早速、倉庫を開けて中に入る。ここにきて勿体付けるつもりは無い。俺に続いて中に入り、やはり先ずはそのあまりにも桁違いな広さに驚いたようだ。
「なんですか此処は、あまりにも広すぎませんか・・・」
「間違いなくこの建物なんか比べ物にならないくらい広い・・・・・・」
「それにここにある量は一体・・・、全部でどれだけの量の食材が保管されているんですか?」
驚きは最もだ。因みに、恐らくだけどもこの倉庫の保管量は数千億トンには確実に達するだろう。
「それで、これは、ここにあるのは一体どんな食材、魔物の肉なんですか?」
「・・・・・・まだ分からない。この遺跡が造られた当時の事を考えれば、判ると思うけど?」
未だに気付かないみんなの様子にミランダは苦笑いする。
「当時と言うと、十万年以上前ですか?」
「ここにあるのは、全てジエンドクラスの魔物のモノだよ」
みんながうんうんと考え始めたところで、答えを出す前に暴露する。
瞬間、完全に音が消える。
みんな呼吸も忘れて固まっているのがハッキリと解る。
「「はあっああああああああっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」」
ようやく動き出したのは十秒以上も経ってから、ミランダを除く全員がぎこちない動きで俺の方を向き、声を揃えて絶叫した。
うん。実に予想通りの反応で大満足だ。
つまり、この遺跡には今では手に入れる事すら不可能な貴重な食材が、それこそ山のように保管されているのだ。
まさに宝の山、この世界で最も価値のある遺跡と言っても過言ではない。
正直に言おう、俺はこの遺跡に来て、初めて心の底から、十万年前の超絶チート転生者に感謝した。
まさに、俺はこの遺跡と巡り合う為に、既に発掘済みの遺跡を周るなんて事をしていたんだと確信した。
それ程までに、これはまさに運命的な出会いだ。




