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「ほう、あの遺跡の調査を?」


 どうやらレイルも興味津々のようだ。

 既に発掘済みの遺跡とはいえ、現代よりもはるかに高度な文明を誇った古代の遺跡。カグヤすらも造り出した人々が残した遺産。

 そんな遺跡を調べると言うのだから、興味が湧かないはずもないだろう。

 古代の歴史に触れる遺跡探索は、やはりこの世界でもロマンがある。


「資料では、海洋観察のための施設だったとされているけどな」


 海洋観察の施設だったとされているが、果たして十万年前はどのような調査が行われていたのか? 

 それに、本当に単に海洋観察のためだけの施設だったのなら、転生者だけが入れるロックをしてまで、あえて残す理由もない。しかも十万年も、それも大規模な地殻変動に巻き込まれて海中に沈んでなお、無事に残っている様な驚異的な強度を持たせる理由もない。

 その意味でも、あえて残すだけの意味と価値のある遺跡である事は間違いない。


「海洋観察か、ここで行われていたのにも何か意味があるのかな?」

「まあ、会えて魔域に接する海を調査地点に選んだんだから、何かしらの意味があるんだろうな」


 レイルの言う通り、ワザワザ魔域のすぐ傍に観測所を造ったのだから、実際には魔域の調査の為の施設でもあると考えてもいいだろう。

 まあ、本当のところは実際に行ってみてのお楽しみで。


「出来れば私も行ってみたいのだが?」

「まずは、俺が一人で行って危険がないか判断するから、その結果次第だな」


 俺としては、こうなったらもうレイルも巻き込んでしまっていいのではないかとか思わなくもない。


「一人で事前調査をするのかい?」

「ああ、みんなに何があるか判らないんじゃあ怖くて行けないと言われてね」

「未知の危険への恐怖もまた、遺跡探索の醍醐味のひとつじゃないのかな?」

「それはそうなんだけども、この場合の危険は意味が違うからな」

「どういう意味かな?」

 

 首を傾げるレイルに、肩を竦める。そこを話すと完全に巻き込むのが決定するんだが・・・。


「つまり、危険なのは遺跡に眠っている物の事なんだよ。アスタートで見付けたグングニールなんかよりもはるかにシャレにならない、危険なシロモノが眠ってる可能性があるからな」

「うん? しかし、今キミたちが回っているのは、既に発掘済みの遺跡なんだろう?」

「発掘済みだからって、危険物が残っていないとは限らないんだよ」


 そもそも、一度発掘された遺跡は余程の事がなければ再調査はされない、それ故に、これは世に出したらやばいだろうと言う様な本当の意味での危険物は、遺跡の中に残して無かった事にすることも出来るのだ。それに、人が訪れない遺跡の仲ならばあとになって危険物を戻しに行くにも最適な場所だ。よって、遺跡によっては発掘された中身がそのまま戻されていたりする事もある。

 そう説明すると、レイルは開いた口が塞がらない様子で、呆然としている。

 気持ちは判る。まさかそんな抜け道的な使われ方がしているとは思いもしなかっただろう。


「つまり、アベルたちがこれまでに訪れた遺跡の中にも、そんな危険な物が眠っている事があったと?」

「あった。因みにこれはトップ・シークレットだ。絶対に他言無用だから」

「判っている。私自身、聞いた事を後悔しているよ」


 それはもう深々と溜息を付いてみせる。その様子からもレイルの内心がハッキリと解る。

 うん。ご愁傷さま。巻き込む気満々で俺が洩らした最重要機密だよ。これを知ったからにはキミももう俺たちの共犯だから。


「まあそんな訳だから、ここの遺跡もどんな危険物が眠っているとも知れないからな。危険がないと確認できない限りはレイルを連れてはいけない」

「だろうな、俺もどんなものが眠っているのか怖くなってきた。それに、もし何かが眠っているとして、私がそれを知ったとしても、国に報告する事は出来ない訳だ・・・」

「それは当然。と言うか、下手に手を出すと国が亡びると思うから、止めた方が懸命のレベルの危険物だと思うぞ」

「そこまでか・・・」

「間違いなくな。これまでの経験上」


 実際、万が一にもエイルの眠っていた遺跡の事が知れ、誰かがあそこに眠っているヴァリュキュリアを全て起こそうとしたりしたら、それこそ世界崩壊レベルの危機に発展するのは確実だ。

 まあ、転生者以外は遺跡に入れないから、今の所はあれたちがシッカリしていれば大丈夫だけども、実際には俺たち以外の転生者が居たいと言う保証もない・・・。

 その上で、俺たちが発掘したグングニールやヒュペリオンにしたって、もしも二万年前の超絶バカの転生者、皇帝キールなどが手に入れていたりしたら、それこそどんな惨事になっていたか・・・。

 十万年前の超越転生者たちは、必要だと判断したから残したのだろうけれども、ハッキリ言って危険物過ぎて始末に負えないレベルの物ばかりだ。

 一歩間違えたら大参事どころか、世界の滅亡に直結しかねないとか・・・・・・。


「どうも、ロマンを求めてうかつに入るような場所では無いようだが、アベルはそれでも行くのかな」

「ああ」


 もう半分以上唯の維持になってる気もするが、それでも遺跡の確認は必要だろう。

 後で訪れる転生者に向けて、遺跡を発掘した転生者からのメッセージが残されているのも多い。それらを繋ぎ合わせて、この世界にどれだけの転生者が居たのかを明らかにしていくのも面白い。

 それに、もしも俺たち以外に転生者が居た場合、放置していたら危険と言う場合もある。そんな訳で、実はこれまでに回った遺跡には既に俺がもう一つの封印をしてあったりする。それを突破しなければ、遺跡に眠る危険物を手に入れるのは不可能なんだけども、まあ実際の所、レジェンドクラスの力がないと無理なのでまず不可能。

 何時までも恒久的に、何千、何万年と持つ様な封印ではないけど、それでも千年近くは封印出来るハズだ。

 因みに、言っておくけどこれはあくまでも遺跡から危険物を出せないようにする封印で、遺跡そのものに入れなくなるような類のモノじゃない。


「まあとりあえず、遺跡に行ってみたいなら少し待ってくれ、俺が言って問題ないような一緒に行けばいい」

「話を聞いた後だと、行くのが怖くなってきたけどな」

「行くか行かないか、どちらにするかは好きにすればいいさ。それよりも、随分と力を付けたじゃないか」


 これ以上話しても疲れそうになってきたので、話を変える。

 実際、レイルは力を付けている。どれくらいかと言えば、既にSクラスにまで至っている。


「ああ、私自身驚いているよ。まさかこんなにも早くSクラスにまで至るとはな、アベルの授けてくれた修行法がそれだけ優れていたと言う事だが、おかげて私の人生計画が滅茶苦茶だ」

「それは違うな。キミがSクラスに至ったのは、キミ自身の才能によるものだ。確かにその修行法は効果的だが、才能の無い者をSクラスにまで至らせる事は絶対に不可能だ。キミがSクラスに至ったのは、キミ自身の才能によってだよ」


 愚痴を言いたくなる気持ちも判るが、こればかりは俺の責任とも言いきれない。

 Sクラスにこんなに早く至ったのは、メリアたちよりも早くにそこまでの力を付けたのは、間違いなくレイル自身の才能によるものだ。

 俺自身、旅をしながら共に厳しい修行を課しているメリアたちですらまだなのだ。レイルがSクラスになるのは早くても数年後だと思っていた。それがまさか一年程度でなっているとは、完全に予想外も良いところだ。

 つまり、それだけレイルの才能が並外れていたと言う事で、その意味では完全な自業自得だ。


「全ては自身の才能が招いた結果だからね。俺にどうこう言われても困るよ」

「そうは言うがな、このままでは私は王にならざるおえなくなってしまう」


 どうやら、数十年程司令官として国防の指揮を執り、人を全うした後は自由に生きようと画策していたのが、完全にご破産しそうな勢いらしい。


「Sクラスの実力に、俺との繋がりか」

「そう言う事だ。国内にも俺を次期王と推す声が高まってきている」


 Sクラスの実力者であり、しかも専用のグングニールまで有しているので、実際にはレジェンドクラスに匹敵する力を有する。しかも、俺との間にも深い繋がりを持っていて、その関係でエルフやドワーフの国、ユグドラシルとレイザラムにも多少のコネを持ちうる。

 それだけでも、レイルは次期国王としてこの上ない優良物件なのだ。

 しかも、実際に魔域の活性化を司令官として指揮して戦い抜き、切り抜け、勝利をおさめた実績まである。


「政治家としての手腕はまったくの未知数なんだけどな」

「元々、国防に専念するつもりで、国政に係わる継物は皆無だったからな。それが、今では父上の命で多少なりとも係わらざるおえなくなってる」

「つまり、王としても既に、レイルを次期王にするかどうかの審査を始めていると?」

「そうなる。で、当然だがそうなれば兄上も面白くなかろう。その上、あえて無能のふりをする訳にも行かんしな」


 レイルとしては、国防の要しての才覚はともかく、国の要たる王となる西鶴はないと判断してもらって、早々に国防司令部の長官としての地位を確保したい所なのだろうけど、それにしても、Sクラスの司令官を国がそうそう簡単に手放すはずがないという問題もあるのは、本当に判っているのかな?


「俺としては、早々に王になってしまって、百数十年くらい国を統治して、次代に後を譲った方が楽だと思うけどな」

「どうしてそうなる?」

「考えてもみろ。Sクラスの有能な司令官を国が簡単に手放すと思うか? ケレスなんかがいい例だな。彼は間違いなく最低でも後百年は絶対に竜騎士団長の座を退けられないぞ。国がどうやっても手放そうとしないだろうからな。キミも同じだよ。どうやっても司令官の座から離れられないまま数百年は働き続ける事になると思うけど」


 思うと言うか確定だろう。まあ、次代を育てて後を引き継がせればどうにかなるかも知れないが、それもかなり大変だと思う。

 まあ、王になったとして、次の次期国王を育て上げるのも相当に困難だとは思うけど・・・。


「ムムム。それは確かに、ならどうすればいいんだ・・・・・・」


 頭を抱えて真剣に悩みだしてしまった。どちらにしても大変なのに変わりはないけどね。

 しかも、彼の場合は既に国防の要職についているので、今更投げ出す事も出来ないのが辛い。職務をまっとうしないと自由に生きるのは無理なのだ。

 それも、普通なら数十年でいいのに、彼の場合は周りがもっと続けて欲しいと逃がさない。そうすると数百年以上も働き続けないといけなくなる。

 王家に生まれて、国を護ろうとする、国を思う気持ちは本物だけれども、何時までも国の為だけに生きるのもゴメンだろう。元から職務をまっとうしたら自由に生きるつもりだったレイルにしたらなおさらだ。

 だからこそ、これからどうしようと悩む。はてさて、悩んだ末に彼はどんな答えを出すかな? 




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