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当然ながら、ベルゼリア王家は国内の膿を出すのに今回の件を利用する事を決め、そして遺跡探索当日。ものの見事に王都は無人になった。
と言っても、完全に無人ではない。今頃は王家の勅命を受けた諜報部が暗躍している事だろう。
まあ、そちらの方は俺たちには関係ない。俺たちは俺たちで遺跡の調査をさっさと終えてしまおう。
因みに、遺跡にはレイベスト邸の庭から穴を掘って向かう。要するにエイルが眠っていた遺跡に行った時と同じ方法だ。氷の層と土の違いがあるけれども、基本的にやる事は変わらない。
「それじゃあ早速始めるとするか」
なお、当然だけども今回も、まずは俺が一人で遺跡に向かって危険がないかどうかを判断する。他のみんなが遺跡に行くかどうかはその結果次第だ。
そんな訳でさっさと遺跡に行くためのルートを造ってしまって、どんな遺跡か確認してこないといけない。
魔法でドンドン地面を掘り進めていき、盟絵と進んでいく。
遺跡があるのは地下4000メートルの地点。どれだけ深くに埋もれているのだと言う話だし。10万年の間にそれだけの地殻変動があった証拠でもある。
ついでに、地球ならそれだけ地下深くになると、マグマの層に到達しそうだけども、こちらではそんな事もないらしい。が、若干暑くなってきている気がするのは、気の所為じゃあないだろう。
「ようやく着いた」
流石に四千メートルも地中を掘り進めて行くのにはそれなりの時間がかかった。ようやく付いた時には思わず独り言を漏らしてしまった。
最も、まだ終わりじゃない。そもそも、遺跡はまだ地長に埋もれたままでどうなっているのかも確認できない。そこで、遺跡周辺を結界で覆った上で、遺跡を覆う土を全て転移で消してしまう。
なお、転移先は俺のアイテム・ボックスの仲。なのでいきなり大量の土砂がどこかに現れるなんて事はないし、結界できちんと支えているので、いきなり地下に空洞が出来ても上の王都が陥没するような事にはならない。勿論、調査が終わったらどけた土を元に戻して、元通り埋めてしまうつもりなので、問題ない。
さて、こうして目の前に現れた遺跡なのだけども、どう見ても完全に軍事施設だ。それも戦闘拠点ではなくて兵器工場らしい。
微妙に嫌な予感がしなくもないけれども、大丈夫だと言い聞かせる。
グングニールやヒュペリオンが眠っていたアスタートの遺跡を思い出すけれども、此処は既に発掘済みのハズだ。遺跡に眠っていた兵器の大半は既にかこのここを発掘した転生者が持ち出しているハズ。
だから、この中にはシャレにならない危険物が山のように眠っていたりはしないハズ・・・。
そう自分に言い聞かせるのだけども、何時の間にか頬を一筋冷や汗が流れている。何と言うか、本能が直感的にこの中にヤバいモノが眠っていると確信している。
本当にこうなる事が解っているのだから遺跡探索なんてやらなければ良いとも思うけど、こうしてやっているのだから仕方がない。それに、流石に今回は遺跡の確認もしないで終わらせられない。
まあ、ベルゼリア王家にありのままを正確に報告するのはもう不可能と確定している様なものだけどね。
とりあえず、何時もの様に正面のメインゲート。ロックのしてある場所に行く。
モニターに映し出された日本語のもんだいを解きながらふと思う。
そう言えば、これらの遺跡は破棄れる時、日本人にしか開けられない様にロックされただけだったのかと?
極めて単純に、遺跡自体を隔したりはしなかったのか?
そう思ったのは、この遺跡の周りを覆っていた地層が、遺跡の周辺だけ硬い岩盤になっていたからだ。まるで遺跡を破棄する時に、コンクリートで覆って二度と使えないようにしたかのようだと感じた。
・・・もしそうなら、この中には相当危険な代物が封印されていたとかではないだろうか?
と言うか、どうしてあの本には、世界中の遺跡の位置などの詳細な情報は載っているのに、元々どんな施設だったかの情報、一番大切なはずの情報が穴だらけなのだろうか?
実際に行って確かめろと?
勘弁して欲しい。行ってみてのお楽しみじゃないのだから、何が待ち受けているのか判らないのは心臓に悪い。ただ、少なくても今回の遺跡は、規模から言って戦艦のドックではないだろう。数十を超える戦艦を格納する程の広さはない。
では何を造るための工場か?
それは、ロックを解除した瞬間に分かった。
「装機竜人の生産工場か」
グングニールなどを量産していた兵器工場だと、モニターに映し出されている。
つまり、この中にはこの遺跡を発掘した転生者が全て持ち去っていない限り、相当数の装機竜人や装機竜、装機人とそれらを造るための生産ラインが残っている事になる。
厄介と言えば、これ以上厄介なモノもない。とりあえず中を確認して、どうするは後で考えるとしよう。
「ヴァルキュリア専用装機竜人ニーベリング。まさかここで見つかるとはね。都合が良いと言うべきか、出来過ぎと言うべきか迷うところね」
「エイルを見付けて、次に訪れた遺跡で彼女の専用の装機竜人を見付けた訳ですからね。確かにどう考えても出来過ぎです」
どうやら、何かもう完全に誰かの掌の上で踊らされている感覚を覚えたのは俺だけじゃないみたいだ。
エイルだけは気にも留めずに自分の機体の調整に余念がないけど、流石にただの偶然で済ませるのは無理があるだろう。
そもそも、エイルのいたマーチスの遺跡の後、次に来たのがベルゼリアの遺跡なのは、例によって遺伝子研究をしていたバカ共を殲滅して、その後にユリィたちの件で謝罪回りをする羽目になったからだ。それがなければ別の国の、他の遺跡に立ち寄っていたハズだ。
だから、俺たちがこの遺跡に来たのは本当に偶然。偶然のハズなんだけども、どうにも釈然としない。
「確かに出来過ぎなのは確かだけど、根幹は助かったのも事実だし」
「そうですね。ヴァルキュリア専用で、普通の人では扱えないそうですし」
実に数千にのぼるニーベリングを含む戦闘バイオロイド専用の装機竜人が格納されているのを見た時には、本気で眩暈を覚えたが、ヴァルキュリアを含むそれぞれの戦闘バイオロイド専用機として設定されていて、彼女たちしか使えないのならば話は別だ。エイルの機体以外は、此処でこのまま眠ったままでいてもらおう。
いや、研究材料と欲しう言うのも出て来るだろうから、俺の姉のメリルを含む、装機竜人の開発に人生をかけている連中に幾つか渡すとしても、特に問題ない。
「問題は生産ラインの方だと思いますけど、そちらは大丈 夫なんですか?」
「そっちも問題ない。六万年前に発掘して時に、生産ラインの主だった部分を持っていってるみたいだからな」
どうやら、この遺跡をは屈した転生者は、ニーベリング以外の主だった物は持ち去ったようだ。お陰で危惧していたような危険物はなかった。
ただ、中枢のメインシステムには結構重要な情報が詰まっていたので、そちらの方はキチンとコピーさせてもらった。
「さてと、エイル。機体の調整は終わったか?」
「一通りは完了しました」
「それじゃ、戻って報告しようか。どうやら、報告内容を捏造しなくて済みそうだし」
使えない装機竜人が眠っていただけだ。あくまで生産工場のため危険もない。これならそのまま報告しても問題ない。せっかくの遺跡なのに活用できないのは、ベルゼリアとしては残念だろうけど、正直、十万年前のモノは危険すぎるので、関わり合いにならない方が身のためだ。
散々使い倒している俺のセリフでもないが、不用意に近付くとシャレにならない事になりかねない。
「戦闘バイオロイド専用の装機竜人ですか・・・」
「ええ、地下の遺跡はその生産工場で、数千機のニーベリングを含む各装機竜人が格納されていました」
現代の物よりもはるかに優れた性能を誇る十万年前の装機竜人が数千機。中にはベルセルク・タイプの専用機で、ジエンドクラスの力を発揮するグラムもあったが、そちらも動かせないのだから意味がない。
本当なら、世界のパワーバランスが崩れかねない発見だったので、本当に助かった。
「残念だったと悔やむべきか、助かったと安心するべきか悩むところだな」
「確かに戦力と出来ないのは残念ですが、無用な混乱を起こさずに済んで寄ったと考えるべきでしょう」
王も宰相も、想像もしていなかった事態に困惑気味のようだ。それもそうだろう。これがもし、普通に使えるグングニールの様な装機竜人だったなら、下手をしなくてもこの国が消滅する事態になっていたハズだ。
「それに、遺跡があくまで兵器工場に過ぎないのなら、王都が何らかの危険に曝される心配も無いと言う事。それだけでもなによりと思わねばな」
「確かに、今回の件は好都合であったのも確かですが、同時に肝が冷えました」
それはそうだ。言ってしまえば地下に地下に原子力発電所があるのを知らないまま居たみたいなもの。もしも臨界するような事になったらどうなるか?
とりあえずその心配をしなくて良いと判っただけでもなによりだろう。
「それに、使う事は出来ませんが、研究材料としてはこの上ないモノです」
「確かにな。これで錬金術や魔工学の更なる発展が見込めるか・・・」
俺が言うまでもなく、研究材料として活用するのは決定事項だけども、それで何かしら成果を上げられる可能性は低いと言葉を濁す王。
まあ、実際にグングニールを徹底的に解析、研究してもう一年にもなるのに、どの国も未だに十分な成果を上げられていない。
「レジェンドクラスでなければ精製不可能な機関を組み込んだ機体など、どうやって参考にしたらいいのかも判らぬからな」
それは俺も同意見だ。レジェンドクラスでなければ精製不可能な機関を主要機関に搭載しているのを知った時には、どうやってこれを参考にしろと? と本気で嘆いた。
今では自分で再現可能になったので問題ないかと言えば、生成に必要な素材をどうやって手に入れるかが今度は問題になると来た。
ぶっちゃけ、必要な素材が希少過ぎて、手に入れるのだけで一苦労どころの騒ぎじゃない。
・・・まあ、そんなに基調に素材の塊なら、使えないからってそのまま眠らせていないで、遺跡の装機竜人を解体して、素材やパーツにしてしまえば良いだろうと思うかも知れないけど、それもそんなに簡単な話じゃない。
既に機体に合わせてセッティングされているそれぞれのデータを書き換えたり、造り替えたりしなければ新しく使うことも出来ないし、その為にはまたレジェンドクラスの魔力によって錬成し直す必要があったりする。
要するに、ハーツとして使うのもまず不可能なのだ。
まさに宝の持ち腐れ。使い道のない財宝の様なもの。
「まあ良い。何事もなく無事に遺跡の探索が終わっただけで良しとしよう。それよりアベル殿。どうかな、我をその遺跡に連れて行ってはもらえぬか?」
ここでまさか、王がもの凄く楽しそうに頼んでくるのは想定外だった。どうやら、今回の遺跡の探索が終わるのはまだ少し先みたいだ。




