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「なんとな。王都の真下に遺跡が眠っておるとは・・・・・・」
「ええですので、遺跡の状況について調査した方が良いかと」
自分たちの暮らす真下に、十万年前も前の遺跡が眠っているとは思いもしなかったようだ。俺の話を聞いて王ばどうしたものかと頭を抱えている。
実際問題として、仮にその遺跡が元々は軍事施設だったりした場合はこのまま放っておくと結構マズい事になる可能性も少なくない。
「王よ。此処はアベル殿に全面的にお任せするしかないかと」
「確かにそうだな。アベル殿、王都の地価の遺跡への探索許可を出すが故、其方らで調べて来てくれ。その報告次第では我らも行動せさせるおえまいが、アベル殿ならば全て問題なく終わらせてくれよう?」
「勿論」
要するに、何か問題が起きた時には責任は全部俺が背負うとの事だけども、そのくらいは初めから想定している。
と言うか、十万年前の遺跡に眠る兵器が暴走するような事態に陥ったら、ベルゼリアの全力を注いでもどうする事も出来ない。とりあえず、出来る可能性がある事と言えば、俺たちが遺跡を探索する間、王都を封鎖する事くらいだろう。
「では早速、明日より遺跡の探索を始めますので、その間、王都を封鎖するなどの対応を取られるかはそちらで」
「待って欲しい。いくら何でも王都を封鎖するかどうかの判断を一日で決め、しかも王都に住む全ての者に通達し、退去させるなど不可能じゃ、実際に封鎖するかどうか判断する時間も含め、探索は一週間後まで待って欲しい」
「判りました。では遺跡の探索は一週間後に」
確かに、いきなりその日の内に一千万を超える市民を避難させるなんて無理がある。それに、王都には当然だけど、他国から派遣された大使なども在任している。彼らに碌な説明もしないまま王都から退去してもらう訳にも行かないだろうから、もし万が一の場合に備えて王都を封鎖するのなら、最低でも一週間はかかるのは当然だ。
「それでは、一生看護に詳しい探索の報告をお待ちしています」
「判りました、それじゃあ私はこれで」
王や宰相たちは疲れた顔で俺を見送る。
内心では、どうして王都の真下に遺跡なんかがあるんだと絶叫している事だろう。
自分たちの祖先はどうしてそんな場所を選んで王都を立てたのか?
そもそも、地下に古代の遺跡が眠っている事を知っていたのか?
疑問、疑念は尽きないだろう。少なくても、俺の知る限り王都の地下に遺跡がある事を知る者は、今のベルゼリアには誰も居ない。
或いは長い歴史の中で忘れ去られてしまった可能性もあるけれども、事が事だけに、少なくても王族には代々受け継がれてきていなければおかしい情報だ。
恐らく、これから王都を一時封鎖するかの議論をする傍ら、王家に伝わる古文書を片っ端から読み返して行くのだろう。
俺としても、それで何かしらのヒントなり、情報なりを得られればそれに越した事はないのだけども、多分だけど望み薄だろう。
「それにしても、遺跡の真上で生まれるとはな、コレも何か意図があるのか?」
王宮からの帰り道、ふとこの事実を知った時の事を思い出して苦笑する。
自分と同じ転生者が残した、この世界で生きて行くために必要な情報が詰まった本。それを手に入れられた時には狂喜乱舞したものだけども、読み進めて行って、自分の暮らす、生まれた王都の真下にかつて、十万年前の転生者たちが残した遺跡があり、この本もそこから発掘されたモノだっと知った時にし、背筋が凍るような感覚に襲われたモノだ。
全てが何者かの仕組んだとおりに、掌の上で進んで行っているのではないか?
そんな恐怖を感じたのを覚えているし、その疑念は今も拭えていない。
そんな事を考える内に家につく。
ベルゼリアに滞在する時は基本的に拠点にするのが何時の間にか当たり前になっている実家。レイベリス家の屋敷。何か気付かない内に、未だに拠点一つ持っていない俺たちのある意味で拠点の一つになっている。
いや実際は今の所、俺たちの拠点はヒュペリオンになっていて、それ以外ではホテルに泊まっているけれども、そろそろ各国に拠点を設けた方が良いかも知れない。
「あらお帰り。どうだった?」
「遺跡調査は一週間後、その間に国として調査中、万が一の事が起きた場合に備えて一時王都を封鎖するかなどの検討をするってさ」
「賢明な判断ね。その上、何か問題が起きた場合は、責任は全てキミに行くと」
「ご名答。まあ当然の判断だよな」
と言うか、はじめからどんな結論になるか判っていただろうがミランダ。
予想外の天かいなんてまず起こりえないのだから、確認のために聞いて来る必要もないと思うんだが、その辺はどうなんだろうか?
「万が一の事態がおきるなんてありえないと思うけど、それでも一応は王都を封鎖するのかな?」
「多分ね。その辺りは形式的にやらない訳にはいかないとかそんなとこだろうけど」
ケイとしては、同じ王族としてベルゼリアの対応が気になるようだ。
「アベルへの信頼の証として、平常通りにするかと思ったけど」
「確かにそれもありだけど、場合によりけりでしょう。今回の場合は、地下に眠る遺跡がどんなものか判らないから、万が一にも民に被害が出ない様に、万全の体制を取る必要があると思うけど」
ケイのいう事も確かにアリだし、ユリィの論も最もだ。
ただ、今回の場合はやっぱり一時王都を封鎖するだろう。何故なら、こんな絶好の機会を見逃す訳がないからだ。
王家は今回の王都封鎖を利用して、裏で色々と動くつもりでいるのは間違いない。国の膿を掃除するのにこれ以上の好機はないだろう。
どんな世界の、どんな社会でも完全に正常で清廉潔白な組織、社会も存在しえない。裏で不正や悪事を働く人間が必ずいる。それが解っっているのだから、せっかく機会を得たらそれを活かして殲滅するのは当然だ。要するに、ベルゼリアとしては、今回の件は国内の不穏分子を排除するための絶好の機会なのだ。
「それよりも、国の不穏分子を排除する格好の機械なのだから、利用しない手はないと言うのが正解だと思う」
「やっぱりどの国でも、同じ問題に頭を悩ませてる訳ね」
新たに自分の意見を述べたクリスが正解。ヒルデも同意するように頷いているけど、やっぱり、天人の国にも不正を働くのはいるらしい。
「それでも、自浄できるのなら良い。これまで見て来たヒューマンの国には、自浄に期待できそうもない国もあったから」
「確かに」
「そうかも」
辛辣なシャクティの意見に四人が揃って同意する。
実際に否定できないけどね。まあ、そう言う国は自然と淘汰されていくものだ。腐敗を止める事も出来ない国が生き残れるほどこの世界は甘くない。目先の利益に目が眩み、現実を直視できなければ、すぐに自分で自分の首を絞める事になる。
「まあ、そう言う国は遠からず消えるから問題ないけどね。キレイに消えてくれないとそれなりに被害が出てしまうから、色々と動いたりしないといけなかったりして面倒なのよね」
それはそうだろう。振るい国が滅び新しく生まれ変わる変革にしても、どうやっても混乱は避けられない。その隙は魔物にとってこれ以上ない好機になる。過去には、それが原因で数百万もの犠牲者を出した事すらある。そんな惨事にならない様に、国の入れ替わりには細心の注意が必要になる訳だけども、どうやらミランダは、過去に国が変わる瞬間に立ち会ったどころか、腐敗しきった古い国を滅ぼして新しい国を立ち上げるのに積極的に係わった事があるみたいだ。
まあ、それもこれもヒューマンが一つにまとまらずにいくつにも分裂しているのが原因であり、問題なんだけども。
「腐敗を正す事の出来ない国はすぐに亡ぶ。当然ですけど、そもそも、どうしてヒューマンはこんなにも幾つもの国に分かれて、分裂しているのですか?」
「それは確かに疑問よね。一つの国に纏まって統治すれば問題も少なくなるのに」
それが解っていながらできないのがヒューマンなんだよとしか言いようがない。
現実問題として、有史以来、ヒューマンが一つの国に纏まったのなど、実は二万年まえの超絶バカの転生者が引き起こした惨事以外では無かったりする。
どうも十万年前以前の、全ての種族、全人類が一丸となって魔物の脅威に立ち向かわなければならない状況下ですら、ヒューマンの国は一つに纏まっていなかったみたいなのだ。
他の種族が全て、一つの種族ごとに、一つの国に纏まっているのに対して、ヒューマンだけがいくつもの国に分裂している。それがヒューマンの種族特性と言えば確かにそうなのかもしれないが、そんなのだから、全ての種族の中で最も多い人口を、ゆうに全体の三分の一以上人口を誇りながら、最も小さな大陸一つ
を領地にしているだけなのだ。
前にも説明したと思うけれども、この大陸にはヒューマンしかいない。ヒューマンの国しかない。そしてこの大陸は地球で言うオーストラリア大陸みたいなもので、他の大陸に比べると極端に小さい。
それに対してエルフやドワーフが暮らす大陸はこの大陸とは比べ物にならないほど巨大だし、そもそもこの大陸の様に一つの種だけで統治されてはいない。そして、もう一つ、エルフの国ユグドラシルやドワーフの国レイザラムなどの比国土は、ヒューマンの国全てを合わせたよりもなお大きい。それこそこの大陸がそのままスッポリと収まるほどの国土を誇る。
それは、他のほとんどの種族の国についても同様だ。
要するに、ヒューマンはそれだけの人工を誇りながら、この程度のちっぽけな大陸一つを守護するのがやっとだと認識されていると言う事で、更にそれが事実だと言う事だ。
「それが出来れば苦労はしないよ」
その最大原因は間違いなく、ヒューマン同士でいがみ合い、争い合うその性質にあるのだけども、それが解っていてもどうしようもないので、本当にそれが出来れば苦労はしないとしか答えようがなかった。
まったく、姿が同じだからか知らないけど、どうして地球の人間と同じ性質をヒューマンだけが持っているんだかと、本当に不思議に思う。




