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「いよいよか・・・」
ついに動く時が来た。
今回は俺とミランダだけで動く。二人だけで全て終わらせる。
最初にそう説明した時には、メリアたちは反発したけれども、事情をシッカリ説明するとすんなりと納得してくれた。
正直、今回の件はどうやっても気持ちの良いものじゃない。その現場は吐き気がする程に悍ましいモノだろう。
それに、今回は相手を確実に根こそぎ、塵ひとつ残さずに殲滅しきる。その為にはこちらも一切の隙もミスも許されない。それはつまり、感情的になって発してしまった一言が取り返しのつかない事態にすら発展しかねない。
ほんの些細な一言が、相手を救うキッカケになってしまいかねない。そんな可能性もゼロではない。
だからこそ、不安要素は全て取り除いて万全の態勢で臨む。
研究者も、研究施設も一つではない、ヒューマンの国のあちこちにある。今回叩き潰すのはその内の一つだ。
そして、それを皮切りに全てを完膚なきまでに殲滅する。
それにしても、ヒューマンの業は何処まで深いんだろうと呆れてしまう。
或いは気付いたかもしれないけれども、今回の標的となるクローンの研究をしている者はヒューマンにしかいない。
エルフやドワーフなどの他種族は、そもそもクローン技術の研究自体をしていない。正確には、カグヤが出来た十万年前以降、必要がなくなったので一切研究されていない。
・・・十万年前以前は、エイルの姉妹、ヴァルキュリアシリーズを含む戦闘バイオロイドが世界中に配備されていた。専用の装機竜人ニーベリングと共に戦場を駆け、事実上、EXランクの力を発揮したそうだ。
最新モデルのヴァルキュリアシリーズも、エイルの個体ナンバーからして既に八千体以上が生産され、戦場に送られている。
それに、単体でEXランクの力を持つベルセルク・タイプの戦闘バイオロイドにも、当然、専用の装機理宇人が揃えられていて、合わせた戦闘力はジエンドクラスに迫るとも言う。
それだけの戦力を安定して配備できなければ、魔物の脅威に対抗できなかったと言う事だ。
だからこそ、十万年前まではどの種族も関係なく、生き延びるために戦闘バイオロイドを使っていたしその研究もしていた。
だけど、カグヤが出来て必要なくなってからは、ヒューマン以外の全ての種族が研究を破棄した。
以降、十万年に渡ってヒューマン以外で遺伝子研究を進めた種族はいない。
本当に何とも言い難いが、これもヒューマンの業としか言えない。
そんな訳で、今回の件に関してはユリィたちは完全に我関せず。出来るだけ早く終われせられると良いねくらいの感じだ。
「本当に面倒だから、今回で全て終わってくれて、二度と同じバカが出てこないでくれると助かるんだけどね」
百年以上前に、ミランダ自身の一件で完膚なきまでに、それこそ跡形も無く消し去ったハズなのに、こうしてまたどこからともなく復活して来るので、根本的な撲滅は無理だろうと、彼女も諦めているらしい。
「出来れば俺たちが生きている間くらいは復活しないで欲しいんだけど、それも難しいんだろうな」
「難しいと言うよりも、確実にムリね」
だろうな。たかだか百年足らずで復活しているのだ。俺人かこの先何千年と生きるのだから、復活する度に叩き潰していくのを繰り返さないといけないだろう。
・・・・・・本気で勘弁して欲しい。
「面倒過ぎるけど、どうにも成らないだろう所がなんとも・・・・・・」
「まあ、私もこの先何度も巻き込まれるの確定だし・・・・・・」
本当に面倒だけども、遺伝子研究をする者にとって、俺やミランダ、それにアーミィッシュのケレスなどはこれ以上ない研究素材だろう。
まあ、彼らの目的はあくまでも自分の研究を完成させる事で、その結果については一切の興味も関心もないのが一致している。だからこそ、研究資金を得るために人のクローンを勝手に造っては、売りさばくような真似を平然と行う訳だが・・・。
そんな事をしないで、ただ研究だけしていれば問題もないのにと思わなくもないけれども、どう言う訳かこの手の研究をする者は道を踏み外しやすい。
要望があるからと言えばそれまでなのだけども、違法なクローンの製造に、優れた力を持つ人造人間の製作の為に常軌を逸した手段を用意たりと、研究のためには手段を択ばなくなっていく。
「本当、遺伝子研究をしているだけなら何の問題もないのにな」
どうして人の遺伝子を勝手に研究材料にしたりするかな?
ちゃんとと許可を得にきて、研究内容についてもキチンと説明し、経過の報告も行うのであれば、別に研究を止めはしないし、場合によっては多少の援助くらいもしただろうに、結局は許可も得ずに勝手に人のクローンを造った挙句、それを使ってよからぬことを画策している始末。
そんなのだから殲滅しないといけなくなる。
「と、動いたな。それじゃあ行くか」
目的地の研究所で取引が行われようとしている。俺のクローンへの記憶や魂を移し替える取引だ。
別に不老不死に憧れてクローン体をいくつも使い捨てていくだけならば文句も言わない。どうやった所で、記憶と魂を移し替える作業を何度か繰り返していく内に、魂そのものの劣化を招く事になるからだ。
こればかりはどれだけ研究を費やしても回避不可能で、結局、不老不死を夢見ても精々が数百年程度が限界なのだ。
自分自身の根本をすり減らしていってでも、生きたいと貪欲に願う妄執についてはどうしようもないだろう。
誰に止められようと、例え禁じられていようとも、その結果どんな未来が待ち受けているか判っていてもなお止まらない。貪欲に求めるのが人なのだから・・・。
最も、全てを失ってもと求めた疑似的な不老不死も、今回の件で終わりだ。
俺はミランダと二人、目標の研究所に転移する。
研究所には本来、転移や透視などの魔法を防ぐ無効化の魔法陣が展開されているが、現実問題として、そんなモノは俺には通用しない。ついでに言えば、この研究所自体来るのは初めてだが、視覚情報で位置を特定できているので直接転移する事も可能。
転移と同時に全ての防犯機能と警報システムを無効化する。これで、相手側は俺たちが来た事にも気付けない。
ついでに研究所のメイン・コンピューターを掌握。実験データなどのこの研究所で行われていた全ての情報を一気に手中にする。
これでデータの破棄も不可能だし、言い逃れも不可能。
本当にこうして自分でやってみて思うが、魔法は万能過ぎるだろと思う。
適性があればの話ではあるし、魔力量が少なければそう大したことも出来ないが、逆に俺の様に全魔法適正を持ち、膨大な魔力量を持っている場合はそれこそ全知全能に近いようなチートだ。
うん。全魔法適正。転生者に与えられる特典だけども、確かにこれはある意味でチート過ぎる転生特典だ。
そんな事を思いながら、掌握した研究データを確認していると、思わず顔が引き攣る。
「これは・・・・・・」
出来れば冗談であって欲しいのだけども、無情にも事実として此処で研究されていたのは間違いない。
「どうしたの?」
「研究内容についてもっと詳しく調べておくんだった・・・」
いきなり固まった俺にいぶかし気なミランダに研究データの一部を見せると、判っていた事だけども当然ながら彼女も固まった。
「あーー。可能性を忘れていたわ。て言うかバカにも程があるでしょ」
「これは、他の研究所も動きがあるまで待ってなんかいられないな。此処が終わったらそのまま全て殲滅して周らないと」
他の研究所でも同じ事をしているとは限らないけれども、同時に、していないとも限らないし、更にシャレにならない事を仕出かしている可能性もある。
「本当に、もっと徹底的に調べて早急に壊滅させておくべきだった」
色々と面倒な事が重なったのも事実だけども、後回しにしておいたのは間違いだったようだ。
迂闊さを公開しながら進むと、メインフロアの入り口を固めている集団が見えて来る。
「なんだ貴様らは・・・」
「まさか、どうして此処に・・・」
こちらに気付いて騒ぎ出す前に問答無用で制圧する。
「キミたちもここに居る時点で同罪だ。相応の刑罰を覚悟しておく事だな」
身動きも取れず、言葉も話せないが意識はある相手に冷ややかに宣言する。
その言葉に自分の未来が想像できたのだろう。青い顔で崩れ落ちそうになるが、魔法で完全に拘束してあるので気を失っても崩れ落ちることも出来ない。それに、既に俺と敵対したと言う事実が成り立っているのだ。これから先、彼らにはそもそも居場所がない。
そんな絶望に苛まれる連中を無視してメインフロアに入る。そこには当然、此処で遺伝子研究をしていた研究者と、研究成果を求めて来た顧客。
そして、何よりもこの研究所で行われていた研究の成果がある。
「本当に碌でもない事をしてくれるな。まあ、それもこれで終わりだけど」
「なっ何を・・・・」
突然現れた俺たちに驚く間も与えずに全員を拘束する。
「俺の遺伝子情報を使って、勝手に研究してる時点で既にアウトだったのに、ここまでの事をして無事に済むと思っていたのか?」
応えさせるために拘束を緩めるような真似はしない。ただ呆れるだけだ。
研究成果であるクローンたちはつい先日訪れた遺跡で眠っていた、エイルたちと同じようにカプセルの中に浮かんでている。
その中には当然俺のクローン。そして、ユリィたちのクローンもあった。




