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「まあ、アベルのクーロン体が自分の体になれば、今までとは違って、圧倒的な力を手にする事も可能かもしれないなんて考えるバカも居るでしょうし、早々に手を打たないと危険なのは確かね」

「本当に、アベルのクローンを使ってそんな事が可能なんですか?」

「それに、そんな事が許されるのですか?」


 平然とこれから起こり得る事を説明するミランダに、メリアたちは愕然として問う。


「基本的には許されないわね。そもそも、本人の許可なく、クローンの製作をすること自体が禁じられているから、最も、そんなモノはいくらでも偽造できるし、自分の研究に狂ったマッドサイエンティストにそんな一般常識は通用しないから」

「自分の研究のためならどんな禁忌も躊躇わずに犯すと?」

「ある意味では、よくある事だからね」


 苦笑気味のミランダの様子から、間違いなく同様の相手に苦労した経験があるのだろう。

 ヒューマンの中で最高の力を持つ実力者として長く君臨してきた彼女だ。その遺伝子情報をもとに研究をしようとする輩は後を断たなかっただろう。特に、研究の許可すらも止めようとしないバカの相手を相当して来たのだろう。


「自分も前に散々苦労したと」

「そう言う事。まあ、その経験でどうするのが一番効果的かは良く判っているから、手っ取り早く終わらせるために手を貸すわよ」


 それは本当に助かる。正直言って、これから相手にするバカの、或いは研究狂いの相手を長々とするのは御免こうむる。

 絶対に精神的にどっと疲れる予感しかしない。


「結局、エイルの件がなくても、今回の件は遅かれ早かれ問題になっていたんですね」

「むしろ、彼女が見付かって、これ以上ないくらいスムーズに、万全の態勢で臨む準備が出来たっていう事?」


 良く判らないとばかりに首を傾げているけど、まあ、事前に説明してい中たんだから当然だろう。

 俺としては、この件についてはメリアたちが気付く前に全て終わらせてしまうつもりだったんだけども、彼女たちも可能性に気付いてしまった以上は、全てを教えた方が良いだろう。


「まあ、全くの偶然だけど、時期が良かったのは確かだな」


 現実問題として、ヒューマン至上のバカどもの掃討とか、レジェンドクラスの魔物との連戦とか、重大な案件が連続して、対処するのが遅れてしまっていたけれども、そろそろ本格的にどうにかしないとマズい時期に入っていたのは事実だ。

 いい加減バカの相手はこれで最後にしたいのだけども、そうもいかないのが現実なのも判っている。


「本当に救いようのない事をする人たちが居るんですね」

「それ以前に、他人のクローン体に記憶や魂を移し替えるなんて事が、本当にできるんですか?」


 とここで当然の疑問。


「そんな事をしたら、遺伝情報的にはアベルさんと同じ存在になってしまいますよね? データバンクに記載された個人情報と全く違う人物になってしまうんじゃないですか?」

「その辺りは裏でどうとでも出来るわよ。それに、完全なアベルのクローン体じゃなくて、アベルの遺伝情報をもとに当人の情報を組み込んで造られた個体、遺伝情報的にアベルの子供に近い存在を使うと思うし」


 例えば、顔や体格などを記憶や魂を移し替える本人のデータを基にそれと近い形に操作して造り上げる。その程度は容易いし、完全に俺と同一の遺伝情報のクローン体を使っていなければ、後でいくらでもー゛ン名やごまかしがきくなどと言う思惑もあるだろう。

 本気でバカバカしいと思うが、近畿に平然と手を染めるような連中は、自分たちがしている事がそもそも罪だとカケラも思っていないか、バレたとしても言い逃れできる準備を完璧にしているものだ。


「俺としては、自分の知らない所で勝手にクローンを造られたり、遺伝的には子どものような存在を造られたのとか勘弁して欲しいんだが」


 実際に対応が遅れてしまったのもあるので、既に個体として完成してしまっている脳性も高い。

 完成している個体は、事が終わると同時に全て破棄するしかない。流石に自分のクローンを目覚めさせるような真似をするつもりは無い。

 だけど、それも微妙に気が引けるのも確かだ。

 ただの偽善と言われればそれまでなのも判っているが、それでも、自分と同じ存在を消し去るのはあまり気分の良い事じゃない。


「まあ、場合によってはアベルのクローン体があちこちに居るなんて事になりかねない訳だし、シビアにいかないと取り返しがつかなくなるから、私の時も散々苦労したし、通過儀礼と思って諦めて全力で叩き潰す事だね」

「流石に既にクローンたち記憶や魂を移し替えた人がいた場合はどうしようもないと?」

「いや、その場合は元の体に記憶と魂を戻してしまえば良いだけだよ」


 正確には元のクローン体に記憶や魂を戻してしまえば良いだけ。とは言っても、今の所それはまだ行われていないのは判っている。と言うか、それが既に実際に行われていたらもう、問答無用で殲滅している。

 俺が微妙に気が引けてるのが判っているのだろう、ミランダは躊躇うなと断言してくる。

 それも当然だ。もしもここで相手に甘い事をしたら、絶対につけ上がる連中が現れる。少なくとも自分のクローンに関わる問題に付き合わされる宇な事は今回限りにするために、完膚なきまでに叩き潰す必要があるのくらいは判っている。

 

「でも、どうやってクローンを開発している研究者たちを叩き潰すんですか? 話を聞いていると、迂闊に手を出せないから放置していた部分もあるみたいですけど・・・」

「そこは相手の居場所は全部把握済みだから、後は事が起こったらすぐに叩き潰せばいいだけだよ」


 本気で不本意だが、この際クローン体の製作自体を止めるのは諦めざるおえない。要するにそれらを使って何かしらをしようとする決定的な現場を押さえて叩き潰すのだ。


「今までコッチが手を出さないできたのに高を括っていただろうから、決定的な瞬間を抑えられれば動揺して自滅してくれる可能性が高いし。研究者だけじゃなくて、そんなバカな事に乗っていたアホどもも一緒に抑えられるから」


 ようかるに俺のクローン体を自分の体にしようと考えているどうしようもない連中。と言うか普通にクローン体を使て生きながらえている連中についても徹底的に叩きのめしておかないと、今回の件は根本的な解決にはならない。


「そうですね。クローンを使った延命とアンチ・エイジング、私にはそれが正しいとは思えません」


 だろうな、だからこれは一般には知られていない、ごく一部の人間が極秘に行っている暗部だ。

 それでも、合法とも言えないが違法でもないギリギリのラインで長く続けられてきたのは、若いままで長く生きたい、そんな根本的欲望に逆らえない人間が多いからだろう。


「それにしても、クローン技術て碌な使われ方がされないのですね」

「遺伝子研究はももっと人や社会に貢献する分野だと思っていました」


 その感想は良く判る。だけど、現実を知ってしまえばそんなのは幻想でしかなかったとハッキリ判る。より正確に言えば、魔法があるこの世界では特に役立つ成果を上げる事は事実上不可能な分野なのだ。


「病気に侵された臓器やケガなどで失った手足などの代わりををクルーン技術で造り出し、治療するのも魔法で簡単に治せるので一々手間をかける必要がほぼ無いし」


 病気を完全に無かった事にしたり、四肢の欠損も再生させる。そこまで高度な治療魔法を使いこなせる者は確かに少ないが、実際の所それでも、遺伝子研究をしている学者よりは数は多い。要するに魔法の万能性の前に研究自体が役に立たなくなる分野の最たる例なのだ。


「結局、使われ方としては、話したように長く生きる事を望む者が使ったり、或いは、大切な人を失った現実に耐え切れなかった人が、器だけでも大切な人を取り戻したいと縋ったりとかかな」


 それもどうかと思うんだけども、例えば子供を失った親が、子供の遺髪などからクローンを造り、失ってしまった事実を受け入れられずにクローンを死んだ子供として扱うなど、気持ちは判らなくもないケースもあるそうだ。

 大切な家族、愛する人、尊敬する人など、自分の何よりも大切な誰かを失ったショックに心が壊れてしまう人も少なくはない。


「それは、気持ちは判らないでもないですけど・・・」

「本当に意味のある使い方は出来ないんですね・・・」


 確かに慰めにはなるかも知れないけれども、ただの現実逃避には何の意味もない。それが解っているからだろう、メリアたちも困惑気味に言葉を濁している。

 だけど、これらの使い方はまだギリギリ許容範囲内と言えなくもないレベルだ。

 その一方で、彼女たちにはとても言えない使われ方も現実にされている。

 ・・・本当に、これは言葉にするのも躊躇われるのだけども、例えば憧れのアイドル。手の届かない憧れの、或いは執着する相手の遺伝情報を手に入れられたなら、それをもとにクローンを造り出す事すら可能だ。

 勿論、それはただ同じ姿をしただけの別人に過ぎない。だけども、憧れの相手と全く同じ姿をしている上、自分の好きに出来る人形。

 そんな自分の欲望を満たしてくれるモノが手に入ると判っていて、自制出来る者がどれだけ居るだろうか?

 実際に、アイドルや姫君などのクローン体がアングラで秘密裏に取引されている。

 その売り上げは、一年で兆の単位にまで達するとすら言われる規模の市場になっているのだ。

 

 ・・・実際に本人を拉致監禁してしまうよりははるかにマシ。

 そんな風にも言われて正当化もされているが、現実にはどうやっても決して許されざる犯罪行為だ。

 これも、これまでい幾度となく叩き潰されて、市場ごと壊滅させられて一時期はなくなるものの、時が経てば必ず復活してしまう類のものだ。

 今までどうやっても完全に根絶できずに来たのは、人の欲望と余りにも深く結びついているためだ。、

 恐らく、今回の一件でも完全に根絶する事は出来ないのは判っている。こればかりはレジェンドクラスの力があってもどうにか出来る問題じゃない。

 だけど、何もしないでいて良い問題でもない。

 だから、俺はこの件に関しては、人間の欲望が生み出す救いようのない闇に関しては、メリアたちに知られないように気負付けながら、全てを片付けるつもりだ。



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