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 当然だけども、マーチスの方は上手く煙に巻いて、冒険者ギルドの方でも問題なくエイルのギルドカードを発行して、つつがなく無事に彼女を仲間に迎える事が出来た。


「改めてよろしくお願いいたします。マスターアベル様。そして皆さま」


 予め仲間に加える事は決めてあったし、まさか、このまま放り出す訳にもいかないので、エイルはごく自然に仲間として迎え入れられた。 

 それでも、どうしていきなり目覚めたのかとか、どうして俺がマスターなのかとか疑問は尽きないのは当然なので、あの遺跡はレジェンドクラスの実力者が訪れると自動的にその相手をマスターとしてヴァリュキュリアシリーズを覚醒させるように造られていたらしいと、真実とウソを合わせた説明をしておいた。

 ウソをつくのは気が引けるが、転生者に反応して目覚めるとは言えないので、その辺は勘弁してもらうしかない。


「まあ、仲良くやってくれ」


 実際に仲良くなれるかどうかは判らないけれども、それを口にするほど無粋じゃない。

 原因は当然ながらエイルの方にある。

 いや、そう評するのは酷かもしれない。責任が彼女にある訳ではないのだから・・・。

 目覚めたばかりの、生まれたばかりと言っても良い彼女は、兵器として造られた自分の在り方を貫こうとしている。正確には、それ以外のありかだを知らず、出来ないと言っても良い。

 そして、彼女の名では戦う事が最優先だ。忠孝歌の目の存在として造り出された彼女には、そうやって予めほとんど戦いを強制する意識が組み込まれている。

 むしろ、戦わないのなら存在する価値すらないという強迫観念すらも予め設定されているのだ。

 だから、確実に自分としていられる兵器としての在り方に固執する。


 問題は、そんな彼女が本当の意味で俺たちの仲間になれるか、新しい自分の在り方を見付け出せるかだ。

 もしも、彼女が新しい自分の在り方を、兵器としてではなく人としての生き方を見付け出せたのなら、それに越した事はない。その時は、本当の意味で彼女を仲間として迎え入れる。

 だが、結局、彼女か兵器としてて師生きられないのであれば、俺たちも彼女を兵器として扱うしかなくなる。

 どちらになるか、それも全ては彼女次第だ。どうやっても、俺たちには支える事しか出来ない。


「それから、エイルにはこれから、俺の弟子としてメリアたちと同じ修行をしてもらう」

「修行ですか?」


 不思議そうに聞き返してくるのは当然だろう。と言うか、初めて見せた人間らしい感情のこもった反応だ。

 それはともかく、兵器としてSS+ランクの力を持って生み出された彼女は、既に完成された存在だ。問題はそこから成長し得るのかし得ないのか。

 彼女の力は、製造段階で魂に施された改造により成り立っている。或いは、人工的に造られたSS+ランクの力を持つ魂が宿されているからと言っても良い。

 Sクラスの力を持った魂を人工的に造り出す。それ自体が驚嘆すべき事だけども、まずは、人工の魂によって成り立つ彼女の魔力と闘気が、人間と同じように修行によって増幅可能なのか? それを確かめるべきだろう。


「キミはSS+ランクの力を宿して造り出された。それは良い、問題はキミの力はそれが限界値なのか、それともそれ以上の力を持ち得るのかだ。それを調べるために、キミには魔力と闘気の絶対量を引き上げるための鍛錬をしてもらう」

「そう言う事でしたか、了解しました。それらに対する情報は私にもありませんので、確かに、実際に確かめてみるしかありません」


 ただし、これはある種極めて危険な行為でもある。

 人工的に造られた魂によって得られている力がエイルのものだ。それ故に、修練によって魔力と闘気の絶対量が増えた場合、魂が耐えられなくなってしまう可能性もある。

 人工的に造られ、手が加えられた彼女の魂が、変化に耐えられるかどうか、それ次第では彼女は容易く死んでしまいかねない。

 おそらく、間違いなくエイルもその事に気付いている。

 自分が死んでしまいかねないと判っていながら、躊躇いもなく同意したのだ。

 

 ・・・まあ、どう反応するか確かめる意図もあった俺にどうこう言える事でもないけど。

 結果はまあ予想通り、これは先は長く険しそうだ・・・。



「それにしても、人工の魂に、魂魄や精神に対する改造か、もう生命、命そのものに対する冒涜としか言えない行為だと思うが・・・」

「この世界では当たり前なのでしょうか・・・」

「と言うより、必要ならばどんな手段でも躊躇わないんじゃないかな」


 例によって、転生者だけの話し合い。そして、この場合はザッシュの言葉が的を得ている。

 命への冒涜であろうが、それが生き延びるために必要であれば躊躇わない。躊躇っている余裕などあるはずがない。

 実際に、彼女ら、戦闘バイオロイドが造られ、戦場に送り込まれる事でどれほど多くの命が守られた事か想像すらできない。

 倫理的には決して許されない、命を冒涜する行為だとしても、エイルの姉妹たち、その犠牲によって多くの命が救われ、守られた事は確かな事実だ。

 倫理を護るために億を超える人命を犠牲に、或いは、人類社会そのモノを犠牲にするか、それとも人の社会の存続の為に倫理などかなぐり捨てるか、ある意味で究極の二者択一の結果として、エイルたちは造られたのだ。


「そうだな、世界を、多くの命を護るために必要だと判断すれば、どんな手段も躊躇わないんだろう。実際、人造人間、戦闘バイオロイドの開発、導入によって多くの命が守られたのは事実なのだから」

「人命を護るためなら、倫理を踏み躙る事も躊躇わないと言う事ですか・・・」

「むしろ、躊躇っている余裕なんてないっていうのが正しいんじゃないかな」


 実際、俺たちは十万年前までの、カグヤが出来るまでのこの世界での戦いを知らない。

 ただ、現実とて今なお、年間で少なくても数千万人の戦死者が毎年でているのだ。それは、それだけの脅威に常に晒され続けている事を意味する。

 そして、カグヤが出来る前の世界は、今とは比べ物にならないほどの脅威に常に去れされ続けて来たのだ。

 その中で生き残るために必要ならば、たとえそれが倫理や道徳に反していても、躊躇う事なく実行する。

 恐らくは、そうやって生き延びて来たのだ。

 そうする事で辛うじて社会を維持で聞いたのだろう。


 勿論、実際にどうだったのか、本当の事は判らない。湧かせないけれども、今のぬるま湯に様な世界に生きる俺たちに、当時の事をとやかく言う資格はないだろう。


「想像も付きません。一体、かつての世界はどんな姿だったのでしょう」

「俺も想像も出来ないよ。とりあえず、当時に生まれてたら呆気なく死んでたのは確実?」


 ある程度の文献などの情報は残っているとはいえ、流石に十万年以上も向かいの事だ。当時の詳細な状況については知りようがない。

 訳でもない・・・・・・。


「それだったら、これから周る遺跡の中に、当時の戦闘映像の記憶が残っているかも知れないから、それで確かめてみると良い。まあ、全てを理解する事は出来なくても、一端を知るくらいは出来るハズだから、レジェンドクラス実力を持つ戦闘バイオロイドの量産まで必要とした、当時の状況が」


「・・・・・・・は?」

「レジェンドクラスですか・・・・・・?」


 何を言われたのか判らない、そんな様子で呆けたように聞き返してくる。

 ・・・気持ちは判る。

 俺自身これについては本気で目を疑った。


「ああ、ベルセルク・タイプと呼ばれる戦闘バイオロイドは、EXランクの力を持っているらしい」

「EXですか・・・」


 開発された戦闘バイオロイドにもいくつかのタイプ。シリーズがあり、その中で最も強大な力を持つのがベルセルク・タイプになる。

 このタイプの開発は、十二万年前に終わっていて、以降、改良を重ねながら、二万年の間に約二億体が製造され、実戦投入されているとの事だ。


「レジェンドクラスの実力を持った戦闘バイオロイドが二億・・・」


 息を飲むのも当然だろう。勿論、二万年の間に二億体が製造されたのであって、一度に二億もの数を必要とした訳ではない、ないにしても、それ程の戦力を必要とする程の激戦が続いていたのは、ハッキリと理解できる。


「本当に想像も出来ませんね。・・・・・・それにしても、この戦闘バイオロイドの開発にも、転生者が関わっているのでしょうか?」

「さあ、全く関与してないとも言いきれないけど、エイルが眠っていたあの施設は十五万年前から稼働してたみたいだし、魔物との戦いに必要不可欠な研究として、この世界ではじめから続けられていた可能性の方が高いと思う」


 実際の所、この世界の歴史がどれほどになるかも正確には判らないのだ。少なくても、十五万以上の歴史があるのは確定として、或いは数十万年の歴史を持ち、その歴のの中で永遠と魔物との戦いを繰り広げて来たのかも知れないし、或いは数百万を超える歴史を持ち、魔物の侵攻の無かった歴史もまたこの世界にはあるかも知れない。

 いずれにしても、余りにも歴史が長く、古すぎるために詳細な資料などが残されていないのが多く、二十万年以上前ともなれば、もうほとんど調べようもない。


「いずれにしろ、何にでも転生者が関わっているんじゃないかと疑うのもどうかと思うぞ。確かに、転生者によって引き起こされた出来事は多いけれども、この世界は、この世界に生きる人たちの営みによって成り立っているんだからな」


 なにもかもが転生者によって決まる。或いは自分たちによって決められるなんて己惚れるのは危険だ。

 自分に言い聞かせる意味も持った戒めに、サナとザッシュの二人も真剣に頷いた。



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