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「ケレスね。彼はそうね。世間の評価通りの人物であり。同時に自分の評価に困惑している人物よ」


 ミランダの救国の天剣をそう評価した。

 どうやら、ケレス竜騎士団長はミランダをしてオモシロイと思わせるに十分な人物なようだ。

 それにしても、


「自分の評価に困惑しているというのは?」

「そのままよ。自分はそんなに称賛されるような人間じゃないと思っているの」


 なんとまあ、驚かせてくれる。幾度となく国の危機を救い、多くの人命を守り通して来た騎士の中の騎士と評される人物が、称賛されるのに困惑していると?


「英雄として周囲にもてはやされるのを嫌うタイプの人物なのか?」

「まあ、実際に会ってみれば判るよ。今ここで私か話してしまったんじゃ勿体ないからね」


 確かにそうだ。この世界で会ってみたい人物のトップテンに入る英雄にようやく会いに行くのだ。

 今ここで詳細な人物像などを聞いてしまうのはもったいない。

 因みに、アレッサもアーミィッシュには行った事があり、ケレス竜騎士団長に会った事があるらしいが、彼女の場合は人となりとかまでが判るくらい親しく話す機会なんてなかったので、当時は雲の上の英雄に圧倒されたとの事。

 そんな話をしている内にアーミィッシュに到着。

 ヒュペリオンを降りると早速、出迎えの姿があるのだけども、その出迎えの人物に驚く。竜騎士団長ケレス・アッシュミラーその人が直々に出迎えているのだ。

 いや、今の俺たちの立場からすると妥当な人選かも知れないのだけども、目的の、この人に会う為にワザワザこの国まで来たといっても過言でもない人物といきなりエンカウントしてビックリする。


「お初にお目にかかりますアベル殿。アーミィッシュ皇国竜騎士団長ケレス・アッシュミラーです」

「こちらこそ初めましてケレス殿。レジェンドクラス冒険者アベルです」


 互いに挨拶を交わし、力強く握手を交わす。それだけでケレスの実直な人柄がハッキリと知れる。


「今回は、我が国に眠る遺跡の調査に出向かれたと伺っておりますが」

「ええ、勿論それもありますが、最大の目的は貴方に会う事ですよ」


 そう言うとケレスは困ったような顔をするが、実際にこれは事実、彼は和佐技国外からも人目その姿を見ようと多くの人が訪れる程に特別な人物なのだ。


「真の英雄たるアベル殿にまでそう言われると困ってしまいますが、どうぞ、私のひととなりを確かめて行ってください」


 真の英雄と言うのがモノスゴク気になるのだけど、俺を相手に自分のひととなりをさらけ出しても構わないといえるだけの人物なのは確定。


「それでは、何時までもここで立ち話を続けるのもなんですし、宿の手配をしてありますのでそちらでゆっくりと話しましょう」


 案内されたのは当然だけど王都で一番のホテルのロイヤルスイート。宿泊費はアーミィッシュ持ち。完全に国賓待遇だ。

 それももう慣れたけどね。宿泊費ぐらい払わせてもらえないと、俺のところに金が集まるだけ集まって、使う場所も機会もなくなってしまううんだけど・・・。


「さて、ミランダ殿はもうご存知ですが、私のひととなりを知っていただくには、私が竜騎士となった経緯から説明しなくてはなりません」

「経緯ですか?」

「ええ、これはもう有名になってしまっているのでご存じかも知れませんが、私は元々、騎士の家系の出ではありません。貴族と言っても、財務系の要職を代々になってきた下級貴族の一員に過ぎませんでした」


 これはまあ、同然の話だが、貴族の全てが騎士や竜騎士として戦う武系の要職に就く訳ではない。それでは国の体制が成り立たない。それぞれ、司法系や財務系、外交系などの様々な役職を代々担う貴族家も存在している。

 彼はその中で、財務系の要職を代々になってきた下級貴族の、準男爵家の長子として生まれ、本来ならば家を継いで財務官として働くはずだったのだ。

 それがまかり間違って竜騎士長に成ったのだから、そのサクセスストーリーはかなり有名だ。


「ええ、存じています。有名な話ですからね」

「ええ、ですが世間に出回っている話には肝心の部分が、私が騎士に成った本当の理由が抜けています」

「本当の理由ですか?」


 確か、当時、魔物の侵攻が激しさを増してきていたアーミィッシュの状況に、国を護るために騎士の道を歩む事を決意したとか言われているけれども、実際には違うと?


「私が代々の財務系の要職をを捨てたのは、妻との別れが原因です」

「奥さんですか、それって」


 確かそれも有名な話だったよな。今の彼は三人の奥さんを持つ上級貴族だが、元々は家同士が決めた奥さんがいた。

 

「十八で私は妻を迎え家を継ぎ、財務官として働き始めました。妻は同じ財務系の下級貴族の娘で、家同士が決めた政略結婚でした」


 これもまあ良くある話だ。財務系の貴族同士の結びつきを強くするための政略結婚。立場の弱い下級貴族ならばむしろ必須とも言えるだろう。


「政略結婚ではありしたが私は妻を愛していました。ですが、妻は私を愛してはいなかった」


 そう言えば、これも有名な話だっったな。政略結婚で結婚した彼の奥さんは結婚前から違う男性と実は恋仲にあり、更に結婚後も関係を続けていたのだ。


「妻には他に好きな男性がいた。新進気鋭の建築家で、財務系の侯爵家の三男に生まれた人物でした」


 武系の貴族家と違って実力主義ではないので、三男では家を継ぐことはないと早々に家を出て、建築家として名を知られ始めて来ていた人物だったそうだ。


「妻は私との結婚後も彼との関係を続け、遂に一年後には彼との間に子供を授かりました」


 そして、子どもを理由に離婚を迫ってきたと、当然、彼は困惑し、奥さんの実家も大混乱に陥った。

 普通ならば、不義を働いた奥さんの方にこそ非があり、もし仮に離婚したとしてもその後、不倫相手と幸せに暮らしていく事など不可能なのだけども、建築家の実家の公爵家が売れで手をまわしており、むしろケレスの輪うが立場が悪い状況に追い込まれていた。


「私は自分の置かれている状況に絶望しました。そして、絶望のままに妻との離婚を受理し、悪名を賜った私は家に迷惑をかけないために、家督を弟に譲り。自分は死ぬ積もりで騎士団へと入ったのです」


 しがない準男爵など侯爵の裏工作の前には成す術もない。このままでは家そのものが潰されかねないと、ケレスは当主の座を降りるしかなかった。

 そして、悪評を立てられ、当主の座を追われるしかなかったケレスには平穏な生活など残されているハズもない。

 そうなれば、自ら死地に赴くつもりで騎士団への入隊を決意するのも当然だろう。

 それに、自ら騎士団へと入り、国の為に命を賭けて戦う道を選んだとなれば、悪評も汚名も少しは軽減させる事が出来る。

 それでも、茨の道である事に変わりはないだろう。


「しかし、私はそんな決意とは裏腹に、騎士団の中で頭角を現していく事になります」


 元々、財務系とは言え貴族家の出なのだ、有事の時には戦えるように魔力や闘気の修練は欠かさず行っていたが、常に鍛錬を欠かさず実戦の中で生き延びてきた部系貴族家の先鋭である騎士団の中で通用するとは思っても居なかったのに、と続ける。

 確かに、誰が見ても自殺行為でしかなかったはずなのに、皮肉な事に文官の家の出のケレスには戦いの才能があったのだ。

 それも類まれなる才能が。


「実戦を経験した私は瞬く間に力を伸ばしていき、わずか二年でB-クラスにまで至り、騎士団から竜騎士団へと移る事になりました」


 そして、そこでもまた彼はその頭角を現していく事になる。


「ですが、そこで終わりだろうと私自身思っていました。当時、魔域からの魔物の侵攻が激しさを増し続け、Sクラスの魔物による侵攻も後を断たず。竜騎士団内にも多くの犠牲が出ていました」


 装機人や装機竜、そして装機竜人と言う圧倒的な兵器を有しているとはいえ、相手をするのは同じく圧倒的な破壊の化身たるSクラスの魔物。戦いが激しさを増せばと、当然ながら竜騎士団も多くの被害を出す事になる。


「実際、隊内では私は初陣で落とされるだろうと言われていました。そして、その初陣の時を迎えました」


 その後の話は本当に有名だ。

 初陣の相手は、オーガの大軍。ただし、オーガと言っても、その総数は一万を超え、Sクラスのエビル・オーガやカオス・オーガなどだけでも百匹を超える。まさにに想像を絶する脅威。

 竜騎士団も万全の態勢で臨み。まずはA・Bランクのオーガの掃討から開始されたのだけども、相当が終盤を迎えた時に、思わぬアクシデントが起きる。

 Sクラスのオーガが隊列を組み、相当の指揮を執る司令官のもとに突き進み、司令官を打ち取ったのだ。

 ハッキリ言って、これはアクシデントと言うよりも、指揮官の無能が招いた当然の末路だ。

 Sクラスの魔物はどれも押しなべて知能が高い、特に人形のオーガなどは当然のように戦略を練って来る。彼らは配下のオーガたちを囮にして、司令部を一気に潰す策を取ったのだ。

 それにまんまとかかった司令官こそ無能。戦いの実力は一流でも、指揮官としては三流以下の証拠だ。

 だけども、そんな司令官でもいなくなれば部隊は混乱する。討伐に出た竜騎士団は一気に全滅の危機に瀕する事になる。

 ここからが、ケレスの伝説の本当の始まりだ。彼は混乱する部隊をまとめ上げ、残りのオーガの殲滅に成功する。

 普通なら、いくら司令部がやられて混乱していても、初陣の新人の指揮に従いはしない。だけど、彼の言葉には司令部をやられて浮足立つほかの竜騎士たちを落ち着かせ、有無も言わさずに従わせるだけの重みがあった。

 事実、彼が指揮を執ってからは被害は出ず、結局このあーが討伐戦で犠牲になったのは指揮官と司令部のみ。

 だけども、この後が大変で、竜騎士団の首脳部としては、魔物の策にまんまとハマって、呆気なくやられてしまっただけでなく部隊も全滅の危機に陥れた無能者を指揮官に任命していたなど屈辱でしかない。出来れば揉み消してしまいたいがそうはいかない。

 異例の経歴のケレスは注目を集めているし、元々、魔物の侵攻が激しさを増す中で国民の関心も高まっていた、結局すべて公表する事となり、結果、戦果をあげたケレスには称賛が送られ、まんまと魔物の罠にはまった司令官の無能ぶりが明らかになった事から、竜騎士団にもかなりの被害が出ているのは、実は魔物の侵攻が激しさを増しているからではなくて、指揮官が無能だからなのではないかと疑問が上がる事となった。 


「これは首脳部としては屈辱以外のなにものでもなく、私はいきなりトップに睨まれる事になりましたが、だからと言って功績を評価しない訳にもいかず、結局、私は異例の出世を果たしました」


 指揮を執って部隊に被害を出さずに魔物を殲滅しただけではなく、自身もエビル・オーガを二匹倒していた。つまり、初陣で指揮官としてだけでなく、竜騎士としての実力も十分だと証明してみせたのだ。

 むしろ、昇進は当然だけども、それでも確かに一部隊の指揮官となったのは異例だろう。

 首脳部としては、初陣での一件は唯のマグレで、確かにあの司令官は無能ではあったけれども、現状の竜騎士団の人事に問題はないと証明したかったのだろうけれども、それが裏目に出る事になる。

 ケレスの指揮する部隊は全戦全勝。しかも被害を出すことなく完勝を続けていき、昇進を続けるケレスに危機感を抱いた首脳部は、更なる魔物の侵攻の激化、数百を超えるSクラスの魔物の侵攻をむしろ好機と、ケレスの部隊に討伐を命じ、その上で補給せんを滞らせ、万全の態勢で戦えないように仕向ける暴挙に出る。

 本当に気がふれてしまったとか思えない暴挙だ。そんな事をすれば、討伐に出たケレスの部隊が全滅するだけでなく、いくつもの防衛都市に壊滅的な被害を出し、最低でも数百万単位の犠牲者を出す事になる。

 だけど、結果的にはケレスはそのあまりに不利な状況下で無事に討伐に成功する。

 まさに激闘、死闘としか言えない激しい戦いを制し、未曾有の危機を救った彼は、これ以降、救国の天剣と称される事になる。


「そして、この一件の後、竜騎士団の首脳部が常軌を逸した妨害工作をしていた事が明らかになり、彼らは全員が投獄される事となり、同時に私は竜騎士団のトップに、団長に任命される事になります」


 これは当然の処置だ。首脳部の中には公爵など、皇族に連なる者もいたが、国を滅ぼしかねない暴挙を犯した者たちを要職に残しておく事など出来るハズもない。

 流石に事が事なので、事実をありのまま公表する訳にもいかず、表向きは補給船の不手際で多大な危機を招いた責任を取っての引責辞任の形を取り、竜騎士団の首脳部はその地位を失い。投獄されて罪に見合った刑の執行を待つ事となった。

 当然、それぞれの貴族家事態もお咎めなしとはいかず、相応の責任を取る事となり、国の勢力図が大きく変わる事態に発展した。

 そんな混乱の中、当事者であるはずのケレスは竜騎士団長となってからも常に最前線で戦い続け、的確な式で確実り勝利を掴み取り、また、味方の犠牲も出すことなく、激しさを増す魔物の襲撃を打ち払い続けていた。


「正直、私には竜騎士団長の地位も、国の政変も興味がありませんでした。元々、私は死ぬために騎士となった、しかし、皮肉な事に、私には騎士としての才能があり、死ぬ事は叶いませんでした、そして、竜騎士となり最前線で戦いに出る事になり、この国の置かれた過酷な現状を目の当たりにし、竜騎士団長として国を護る立場となり、今度は国を護るために死ぬ訳にはいかなくなったのです」

「実際、彼が死んでいたらこの国は多大な犠牲を出していたハズよ」


 Sクラスの冒険者たちがアーミィッシュに集まり対抗する事になるので国自体が滅びるまではいかないまでも、下手をすれば一千万を超える犠牲者が出意もおかしくはない状況だった。


「五年間、私は最前線で戦い続けました。そして、ようやく、魔物の侵攻が一段落し、危機を脱する事が出来たのです」


 Sクラスの魔物が百以上の数、しかも立て続けに現れる様な異常事態がそれ程続いたにも拘らず、ケレスが竜騎士団長となって以降、国民に犠牲者を出さなかっただけでなく、竜騎士に誰一人犠牲者を出さない完全な勝利で、事態の収束を迎えたのだ。


「そうして、ようやく落ち着きを取り戻した王都に戻った、それまで必死に戦い続けて来た私を待っていたのは割れるような大歓声でした」


 常に前線に立ち続け、竜騎士団だけでなく騎士団や軍にも犠牲が出ない様に指揮を続けて来たケレスは、五年の間に自分がどんな評価をけるようになって来ているか、全く気が付かなかった。

 そんな事を気にしている余裕はなかったし、元々、興味がなかったのもあるだろう。

 そんな彼は、常に前線に立ち続け、自ら命をとして国と自分たちを守り続ける竜騎士団長の姿に、国民がどれだけ熱狂していたか知りもしなかった。


「そして宮殿に呼ばれ、皇帝陛下より直々に表彰され、勲章を賜った私は、三人の妻を娶り、公爵として国に仕える事が決まりました」


 これもまあ当然。むしろ、アーミィッシュとしては今更ケレスを手放すなんて選択肢があるはずがない。

 第四皇女を第一夫人とし、皇家の直径たる公爵として、国に縛り付ける事にしたのだ。更に一人は代々竜騎士を輩出する侯爵家から、もう一人はケレスの元々の諸族であった財務系の侯爵家から選ばれ、国を挙げた盛大な結婚式が執り行われる事になった。


「これもまた当然ね。長く続いた魔物の脅威を打ち払い、ようやく平穏な日常を取り戻したと、そして、もしまた同じような脅威に晒されても、アーミィッシュには絶対の守護神が居るのだと知らしめる為にも、必要不可欠だから」

「私自身、貴族家に生まれ政略結婚は当然だと思っていましたし、国を護るために必要ならと従う事にしました。ですが、そんな私の前に彼女が、元妻が現れたのです」


 政略結婚を蹴り、愛を選んだ元妻。いや、相手が侯爵家の出なのだから、更に自分の利益に成る相手を選んだというべきか、いずれにしても、愛する相手と子供を授かり、幸せに暮らしていたハズの彼女の生活は、ケレスが騎士として頭角を現し始めると共に崩れ始める。

 特に決定的だったのが五年前、救国の天剣の二つ名と共に彼が竜騎士団長となってからで、それまで侯爵家によって流された悪評と汚名は全て消え去り、称賛の渦が巻き起こる中、逆にこれまでケレスを陥れていた侯爵家が危機に陥る事となった。

 そこからは坂道を転げ落ちる様な没落だったそうだ。元々、建築家としての評価は侯爵家の後ろ盾があってのモノでしか夫は一気に仕事を失い。社会的評価も地位も失った。

 没落しながらもなんとか改易だけは避けたい侯爵家は、そんな彼との関係を完全に断ち切り、不倫相手と子を成し再婚する事に大混乱しながらも、相手が侯爵家の関係者と知ると掌を返して喜んだ実家も、同様にその立場を失っていて一潰れるとも知れない状況。

 結局この五年間、頼れる者も居ないまま、世間の冷たい目に晒されがら身を隠す様に生きて行くしかなかった。


「そんな自信の胸中を再会した私にぶつけて来ました。そして、私の幸せを返せというのです」


 開いた口が塞がらないと言うべきか、どこまで身勝手なのかと呆れるべきか、彼女はケレスとの再婚を迫ってきたそうだ。


「正直、私はどうして良いのか困惑して、どうすればよいのかと人を呼びました。結果、彼女はたたき出されて二度と私の前に現れませんでした」


 これも当然だ。そもそも何の為に財務系の侯爵家から夫人が一人選ばれていると思っている?

 離婚によって悪化したケレスとの関係の改善のためだ。

 それなのに、ケレスを貶めて離婚した当の本人が今更再婚しろなどと、知れた時点で国の上層部の怒りは限界を超えている。その後、彼女がどうなったかは言うに及ばないだろう。


「私は妻との離婚に、裏切られた事に絶望して自ら死を選ぼうとしたはずなのに、再会するまで彼女の事を忘れていた事に今更気付きました。そして、それから二度と会わない彼女がどうなったかにも一切興味がない事にも気付いたのです」


 それはむしろ当然だろう。憎しみも悲しみも一生持続するものでもないし、命を賭けた戦いの中でそんな事を気にしている余裕なんてあるはずもない。五年の内に完全に忘却の彼方へと至り、完全にどうでもよくなっていたのだ。


「或いは、私は自分の手で復習を遂げていた事に満足していたのかも知れません。私を貶めた者、裏切った者に相応の報いを与えたのですから」


 別に意図した訳ではなくても、結果的にそうなったのは確かだ。

 

「そう考えると、私はむしろ意図して彼らを貶める為に、復讐のために戦っていたのではないかと思えてしまえるんです」


 それは考え過ぎだろう。そんな邪念だけで戦えるほど、Sクラスとの戦いは容易ではない。

 それでも、そんな風に考えてしまうのは、最後に彼の元奥さんが彼に賭けた呪いだろう。或いは、一人だけ成功を掴み、これからの栄光を約束されていたケレスに、一人だけ幸せになられてたまるかとの思いのもとに彼女は、厳しい警備をかいくぐり彼の元を訪れたのかも知れない


「それから五十年。竜騎士団長として戦いに身を置き続けてきましたが、そんな私が英雄と称されていいのか、まだ答えが出ないのですよ」


 そう言って、ケレスは寂しそうに笑った。


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