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さて、遺跡を探してみると、ここを発掘した一万五千年前の転生者が残した物がいくつも見つかった。
その中で一番目を引いたのは、彼女が後にここを訪れる同じ転生者に充てて残したメッセージだ。
メッセージと言うか、愚痴と不満を綴ったものだったけど・・・。
この遺跡を発掘した一万五千年前の転生者。アメリア・セイリアス。彼女はどうやらひどく苦労したらしい。
何にと言えば、二万年前の世界征服を目論んだ超絶バカの転生者の後始末にだ。
彼女が生きた一万五千年前は、今よりもはるかに二万年前の超絶愚行の影響が深刻に残っていて、彼女は同じ転生者が犯した過ちのしりぬぐいに奔走しなければいけなかったそうだ。
その苦労は本当に嫌になるほど大変だったそうだ。
考え着く限りの原因となった張本人への罵詈雑言、己の不幸を嘆く呪詛の後に、この遺跡に来た未来の転生者に対して絶対にあんなバカなマネをしない様にと、くどいほどに説いている。
「これは、なんとも言えないな・・・」
ご愁傷さまでしたとか言ったら何処からか殴りに来そうな気がする。
それくらいの怨念が込められている感じのメッセージだ。
「とりあえず。私が彼女の立場だったらと思うとゾッとしますね」
サナの言う通り、俺たちもヒューマン至上主義者。あの一件で二万年前の超絶バカと関わる羽目になったけれども、彼女の苦労と比べれはどうと言う事はないと実感せざるおえない。
「どれだけ人に迷惑をかければ気が済むんでしょうね」
多分、彼女の他にも後始末に奔走する羽目になった転生者は相当数いるのだろう。間違いなく、その全員が原因となった転生者に呪詛の念を抱いている。
正直、俺たちだってふざけるなよと言う気持ちで一杯だ。
どれだけ人に迷惑をかければ気が済むのかと言うか、間違いなく自分の事しか考えてないタイプの転生者だったんだろうけど、二万年がっ手ってもその愚行が鮮明に残されていて、未だに後を引いているのだからたちが悪いどころじゃない。
「まあ、とりあえず、彼女の忠告通り、間違っても同じように構成の転生者の呪詛の対象にならないように気を付けよう」
「そうですね。気を付けないと」
「オレは特に気を付けないと」
ザッシュは婚約破棄未遂? 事件の時に後世に名を残す道化になりかけたからな。もっとも、サッシュの場合はバカな事をしたなと笑い者になるだけで、後世の転生者に恨まれる事はないだろうけど、後の転生者たちにバカとして覚えられるのも出来れば勘弁したい所だろう。
因みに、一万五千年前の転生者はアメリア以外にも四人いて、一緒のパーティーメンバーとして活動していたそうだ。その残りの四人も、同じ苦労を散々したらしく、怨嗟の言葉が綴られた愚痴のメッセージが残っていた。
「それとコレ、どうしようか?」
遺跡を調べて回った所、とんでもない物が見付かったのだ。ある意味、龍脈の力を制御する施設に相応しい超絶秘宝。龍欠から溢れ出す大地の力を結晶化した龍玉と呼ばれるモノ。
星の力の一部とも言えるそれは、一万五千年分の龍脈の力をその中に宿している。
シャレや冗談じゃなくて、圧倒的な力の結晶だ。レジェンドクラスの魔物の魔石の比ではない。 ジエンドクラスの魔物の魔石でも、ここまでの力は持っていいだろう。
正直、扱いに困るシロモノを見付けてしまった。
「どうしようかと言われても、アイテムボックスの中に封印しておくしかないんじゃないですか?」
ザッシュの言葉にサナも頷いてるし俺もそうするしかないかなと思う。
当然だけど、メンバー全員に他言無用と言ってある。こんなシロモノの存在が知れたらどんな騒ぎになるか判ったものじゃない。
ついでに、アメリアたちはここを発掘した時に、八万五千年分の龍脈の力を宿した龍玉を手にしているハズだけども、結局それをどうしたのかがものすごく気になる。
「遺跡を周るとこれからもこんなとんでもない物が次々と出て来るのか、今回が特別だったのか、本気で悩むな」
これから更に他の遺跡を周っていくのを躊躇してしまう。いきなり大物が掛かり過ぎだ。
「とりあえず、龍玉の件も含めて、遺跡の詳細は報告しない方が良いですね」
「確かに、迂闊に国に報告できるようなものじゃないよな」
それは俺も同意見だ。
遺跡については観測施設として建設されたものだけども、今は地中に埋もれてしまったせいで機能していないとでも報告するのが一番妥当だろう。
と言うか、一万五千年前にアメリアたちがしたのと同じデタラメな報告だけども、流石にそれ以外の報告のしようがないだろう。
ユリィたちにも、今回の遺跡の件は、母国に報告するのは止めてもらうのは決定。
いや流石に、こんな遺跡があるなんて報告されたらどんな騒ぎになるか知れたものじゃないよ。彼女たちもそれは良く判っていたらしく、報告しないように頼んだら快く応じてくれた。
そしてまあ、龍玉に関しては確かにアイテムボックスに封印しておくしかないだろう。その内に何か使う様な事があるのかハナハダ疑問な危険物だけども・・・。
「それで、二人はまだ遺跡回りを続けたい? 次は何が出て来るか知れたものじゃないけど・・・」
「勿論です。こんなワクワクするのは始めてです」
「次はどんなモノが待ち受けているんだろうと想像するだけで、興奮してしまいのますよ」
俺としてココで一端、遺跡回りを中止したかったんだけども、どうやら二人はまだまだ続ける気満々の様だ。いきなりインパクトの強過ぎる遺跡探索だったと思うんだが、それで逆に楽しみで仕方がなくなってしまった模様。
「それじゃあ、次の遺跡に行こうか」
まったく若いな。俺なんか今回の件でどっと疲れたっていうのに・・・。
・・・・・・実際には俺が一番若いんだけどね。
「次は何処の遺跡に行くんですか?」
「次はアーミィッシュの遺跡だな。と言うか、考えてみたらこの国に行くの初めてだ」
一年以上かけて大陸中を旅して周って来たけれども、それでもまだ立ち寄ってない国がいくつかあった。
アーミィッシュ皇国はそのひとつで、俺としてはどうして今まで訪れなかったのか不思議で仕方がない様な国だ。
竜騎士団長ケレス・アッシュウィラー。アーミィッシュの象徴とも言える人物が守護する国。
「アーミィッシュ、ではケレス竜騎士団長と会えますね」
「救国の天剣か、合うのが楽しみだ」
サナもザッシュもケレス竜騎士団長の事は知っっているようだ。これから会うと知って目を輝かせている。
実際、俺も会うのが楽しみな人物だ。
五十年以上竜騎士団長として前線に立ち、魔物の脅威から国を護り続けて来た騎士の中の騎士。
この五十年、アーミィッシュでは魔域の活性化こそ起きなかったが、数十を超えるSクラスの魔物が侵攻して来る事も度々あった。その全てをケレスは自ら最前線に赴き戦い。打ち払い続けてきた。
それも、部下にも街にも被害を出さずにだ。
鉄壁の猛将。救国の天剣。多くの異名を持つ彼がいたからこそ、アーミィッシュはこの激動の五十年を無事に乗り越える事が出来た。
それが一般に出回る評価であり、間違いのない事実でもある。
A+ランクの実力者であり、いずれはSクラスへと至るのも確実と言われている。優れた名将であり、戦いにおいて自身の功績の身を追い求め、部下の命すらもないがしろにするタイプの司令官とは対極に位置する仁徳の将でもある。
「俺も会うのが楽しみだけど、問題なのはアーミィッシュの遺跡に何が眠っているかだよな」
出来れば、今回みたいな遺跡自体が世界を揺るがしかねないとんでもない物なんて事はなしにして欲しい。今回は遺跡回りよりも、純粋にケレス竜騎士団長に会いに行くのをメインにしたいくらいだ。
「まあ、いくら願っても無駄なんだけどね」
遺跡に何が眠っているかは既に決まっている。それがなにかは判らないけれども、俺がいくら願ったところで、今からアーミィッシュの遺跡に眠るモノが当たり障りのない程度に変わるなんてありえない。
同時に、シャレにならない危険物が眠っているとも限らないのだけども、もう、その辺は期待しないで置いた方が良いとこの頃は思う様になってきている。
「それじゃあ、みんなに次の行き先を報告しておこうか」
携帯端末でみんなに次の行き先をメールで送っておく。
「そう言えば、ミランダやアレッサはアーミィッシュに行った事があるのかな」
特にミランダならば、ケレス竜騎士団長に会った事があってもおかしくない。と言うか会って居ないはずがないか。
「実際に会ってみる前にどんな人物か聞いてみようか」
「ミランダさんの人物評価ですか、凄そうですね」
確かにね。ミランダは人を見る目がどこまでもシビアだ。
ついでに、評価に値しないと判断した人間との関係は完全に断ち切る。それ以降いくら接触して来ようとしてもシャットアウト。
そんなシビアな彼女が救国の天剣と呼ばれる人物にどんな評価を下しているのか、ある意味でこれ以上ない程に楽しみだ。




