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 さて、アルピニストからすれば無粋で、山に対する冒涜かもしれないが、霊峰アグレリアの頂まで一気に飛んで辿り着く。

 所要時間わずか一分。メリアたちのスピードに合わせてのゆっくりとした飛行だったけど、登山の醍醐味の欠片もないのは確かだろう。

 なにか途中に居た登山者が何か叫んでいた気もするが、別に登山家に知り合いも居ないし、文句を言われたとしても聞き流すだけだ。

 

 さて、アグレリアの山頂は、八万年前に削り取られてできた場所で、都市が丸ごとひとつ入るくらいの広大な平地になっている。

 その中心には社が立てられているのだけども、今回の目的地はそこじゃない。登山道から外れた人の来ない端の方に、目的の遺跡は埋まっている。


「ここが入り口だな」

「見事にただの洞窟にしか見えないわね」


 確かに完全に天然の洞窟にしか見えない。まさか、この奥に遺跡が眠っているとは、知って訪れでもしない限りは誰も思わないだろう。


「かなり奥まで続いていそうですね」


 メリアの言う通り、どうもこの洞窟は結構ありそうだ。遺跡の入り口まで最短距離を掘り進めて造った訳ではないらしい。


「まあ、入ってみれば判るさ」


 入口が隠されている訳でもないけれども、まず人の来ない場所にある上、見付けにくい場所にあるのでまあ人が入る事はまずないと思われる洞窟。

 とりあえず魔法で光の光源を造って中に入っていく。


「確かに長いな」


 一本道だけども曲がりくねって続く洞窟は、二百メートル近く進んでもまだ終わりが見えない。


「不自然なほど曲がりくねっていますね。遺跡を隠す意図があるんでしょうか?」

「多分そうだろうな。一万五千年前に発掘した人物が、遺跡までのルートをこんなに遠回りにした理由は他に考えられない」


 はじめから隠す意図があって掘り進められたとしか思えないのはどうかと思う。

 意図は判るのだけどもとアレッサが困惑しているのも当然だろう。

 まあ、多分はじめからこんな遠回りのルートで遺跡への入り口を造ったのではなくて、遺跡の調査を終えた後に最短距離で掘った元のルートを埋めて、こちらの長いルートを造ったのだろう。

 多分、人を寄せ付けなくする為だろうけれども、それならば入り口を埋めてしまえば良いのにとも思わなくもない。


「そう言えばこの観測所は、そもそも何を観測していたのか判らないんだよな。それ次第で結構面倒な事になりかねないかも」

「不吉な事を言わないで」


 みんなして声を揃えて言い返して来るけど、こればかりは俺の責任じゃない。

 ワザワザ後世に残しておくぐらいだから、よほど重要な観測施設である可能性も否定できないのだ。


「まあ、地中に埋もれた今となっては観測も出来ないだろうけど」


 このアグレリアの地脈データの観測などならともかく、地中に埋もれた今の状況では他の観測データの収集のしようがない。掘り起こさない限りはここの遺跡は意味をなさないはずだ。

 

「それはそれで、重要なデータが集められずにいるのが後で厄介に事になりそうな気もするけど・・・」

「いえ、一万五千年前にここを発掘した人たちが、そのままにしたという事は、データの収集が出来てなくても大丈夫だと判断したか、今の状況でも問題なく観測が出来ているからではないですか?」


 成程、そちらの可能性もあるか。


「確かにアレッサの言う通りかもな。だとすると、一体何の観測をしているのか」


 なんて話している内に目的地に、遺跡に辿り着いた。

 ここまで散々遠回りをさせられたけれども、その割には遺跡自体にはカモフラージュなどはされていない。そのまま五、正面に遺跡の入り口がある。

 うん。入口以外はこれまた完全に埋もれているな。

 土砂の重さで押し潰されないのが不思議なくらいの有様だけども、八万年以上前に、Sクラスの魔物の攻撃でアグレリアが大きく崩れた時にも無事だったんだから、魔法なりなんなりで相当強固に、堅牢に造られているんだろう。


「さてと、早速中に入ろうか。一体何が残っている事やら」


 モニターに映し出されているのは非核三原則を問うモノ。つまりはこれがロックになっている訳だ。

 観測所のロックに非核三原則の問い?

 何か非常に不吉な組み合わせに思えるのは気のせいだろうか?

 日本語で書かれている問いを見て、ザッシュとサナも顔を引き攣らせているのは、俺と同じ感想を持ったからだろう。

 とりあえず、さっさと三原則の答えを撃ち込んでロックを解除する。

 ただの観測所とは言え、シッカリとロックを解除して世紀の手順で中に入らないと、侵入者を排除するどんな凶悪な仕掛けが設置されているか判ったものじゃない。


「ここであえて、正規の方法を取らずに不法侵入して、どんな排除プログラムが設置されてるか確かめてみるのも面白いかも知れないけど」

「全然オモシロくありません」

「そういう遊びは、私たちに被害が出ない様にやってね」


 ふと思ただけなんだけども、どうやら不評の様子。

 まあ当然か、下手をするとその遊びで命を落とす可能性すらある。誰が好き好んでそんな危険な真似をするかと。


「イヤ、冗談だから、そんなに本気にしないで」


 何か過剰に反応されてる気がして悲しい。自業自得の気もしないでもないけど、もっと信じてくれても良いと思うんだが・・・。

 それはさて置き、早速中に入る。ロックを解除して、正式な手順で中に入ったので、IDなどがなくても侵入者とはみなされないようだ。 


「それじゃあ、早速観測室に行こうか」

「そうね、まずはこの遺跡の詳細を知るのが一番だし」


 まずは何を観測するための施設なのか、それを知らないとどうにもならない。それに、何かこの遺跡に残っているとしたら、それも観測室にあるだろう。

 当然だけどアスタートの遺跡とは比べ物にならないくらい小さい。まあ空中戦艦のドックを兼ねたあの遺跡と同規模の観測所なんて考えられないし当然だ。

 それでも体育館くらいの大きさはあるだろうか。地上三階。地下二階建ての観測所としてはかなりの大きさの施設た。

 で、肝心の観測室は地下二階にある。地下二階の全フロアが観測室になっているようだ。

 あえて地下に観測室を造ったという事は、ここはアグレリアの地脈データなどの観測所の可能性が高い。

 まあ、実際に行ってみれば判る事だ。早速エレベーターで地下二階に降りる。

 十人乗りのエレベーターが三基設置してある。どうやら結構な人数がこの観測所に詰めていたらしい。


「これはまた何と言うか」


 目の前に広がる光景にどう反応して良いのか判らなくなる。


「成程、結局ここはアグレリアの地脈、いいえ、龍脈データの観測所だったのね」


 フロアの中心に設置された観測機。それはミランダの言う様に龍脈の観測をするためのものだろう。

 龍脈とは大地を流れる気の流れの事。星の生命エネルギーが循環するルートと言っても良い。

 この龍脈の流れる地にはいろいろと特別な意味があったりする。例えば、レイザラムの聖地と王都、魔域の鉱山は龍脈でつながっている。

 そして、龍脈の流れ中には、大地のエネルギーが噴き出す龍欠と呼ばれる場所がある。世界樹ユグドラシルの聳える地などがまさにそれだ。


「成程、どうやらここは龍脈の上どころか、龍欠らしいわね」

「龍欠か、と言うか、それなら実は八万年前のはかなりヤバかったんじゃないか?」

「確かに」


 大地の力が溢れ出る地だからこそ、このアグレリアは霊峰と呼ばれているのだろうが、そんな地で大地が大きく崩れる災害があったのだ。下手をするとそれが原因で龍脈の流れに異常がおきたり、欠から過剰なエネルギーが溢れてしまう可能性だってあった。


「このデータを見る限り、この観測所は万が一の時に龍欠のエネルギの暴走を抑える役割もあるみたいね」


 当時の様子を詳細に記憶したデータを見てみれば、確かに過剰な龍欠からの力の放出をこの遺跡が抑えて、事なきを得ているのが良く判る。


「つまり、この遺跡は唯の観測所ではなくて、もっと重要な施設な訳だ」

「龍脈の力の暴走を食い止め、正常に星野生命エネルギーがが循環するように促す施設、想像を絶するわ」


 世界が正常に営みを続けるように監視し、いざとなればサポートする。そんな事が可能なのかと思う様な重責を、確かにこの遺跡は十万年以上も担ってきたのだ。


「それは凄い。本当に凄いですね」

「一発目からこんなスゴイ遺跡だなんて、本気でワクワクするな」


 サナとザッシュはファンタジーの規格外の遺跡に興奮している。

 メリアたちも興味津々でモニターの情報を見ているし、ユリィたちは真剣に観測器などを調べている。


「これは、この遺跡自体がほかの何よりも価値のある遺産と言う事かな」


 この遺跡の価値に比べれば、ヒュペリオンやグングニールすらもかすみかねない。

 まさか一発目でここまで壮大なものに巡り合うとは思いもしなかった。


「これは、この後も期待していいのか、いきなり大物を引き当ててしまって、あとが残念になってしまうかどっちかな?」


 出来れば、この後も驚かせてくれる発見が続くと良いのだけども、流石にこの遺跡よりもスゴイものはまずないだろう。

 まあ、それならそれでいいさと割り切って、ここを発掘した一万五千年前の転生者が残した物を探す事にした。



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