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「勘弁してください。本当に死ぬかと思いましたよ・・・」
「最後まであれだけ悲鳴を上げていられる余裕があったんだから、問題ない」
確かに、急加速や方向転換をするたびに相当なGが掛かってきたけけれども、ジェットコースターに乗っている様なモノで、そう大した事はなかった。
実際、ザッシュにしても死ぬかと思たとか言っているけど、テスト中ずっと悲鳴をあげ続けていて、Gに耐え切れずにブラック・アウトするなんて事は結局なかった。
でまあ、ジェットコースターでもそうだけども、悲鳴を上げられるのは余裕があるから。本当にヤバかったら悲鳴なんて出している余裕はない。
「まあ、久々の絶叫系を楽しんだという事だ」
「オレ、別に絶叫系好きじゃないんですけど・・・」
「それは奇遇だな。俺もそうだ」
特に遊園地などに行って楽しいと思えるタイプじゃないんだよ俺。ゲームセンターならまだ楽しめるんだけど、前世は完全なインドア派の研究者と言うか、ロボットオタクだったからな。
「それにしても、あの程度のGなら確かに問題ないかも知れませんけど、それでも体に負荷が掛かるのは戦いの中でいざという時の判断が遅れる原因になりませんか?」
「正解。なんだ、ちゃんとシッカリ観察しているんだな」
体にかかる負荷は最大でも二十G程度だが、極限の戦いの中では、不意に襲ってくる負荷に一瞬判断を誤ってしまったり、気を取られてほんの一瞬だけど判断が遅れてしまう危険性がある。
その意味で、搭乗者に負荷が掛かってしまうこの機体は間違いなく欠陥品だ。
実際の所は、その程度の負荷でミスを犯すような事は完全にありえないのだけどね。
「イヤ、正解って・・・? 欠陥品だって判って造ったんですか・・・」
「当然だろ。と言うか、これはあくまでもオモチャだぞ? まさか、これに乗って実際に戦うとでも?」
「・・・は? オモチャ・・・・・・・?」
ザッシュはどうにも理解できてないみたいだけど、俺が装機竜人を造ったのはあくまでも趣味でしかない。
ミランダにしてもそれは同じ。
「と言うか、装機竜人の製作者にとって自分の専用機を造るのはあくまでも趣味。これは常識だぞ」
と言うか、実際に造ってるSクラスの実力者たち全員がそう。
自分だけの専用機。持てる技術の全てを注いで造り上げた最高傑作。ただしそれは、あくまでも自己満足のオモチャに過ぎない。
これも今更また説明するのかとも思うが、装機竜人や装機竜、装機人の作り手は全員がSクラスの力を持つ。故に、そもそも、ワザワザ装機竜人を使わなくてもSクラスの魔物と戦えるのだ。無駄に費用がかさむ金食い虫の装機竜人を駆って戦う必要性がどこにもない。
それも、レジェンドクラスの魔物すら対抗できるグングニールが出てきた事で少し変わったのだけども、俺はどうでも良い。
「その上、ミランダの場合はグングニールを使えば、実力以上の力を発揮できるけど、俺の場合はグングニールでも、力不足だし」
既にレジェンドクラスの力を持つ俺は、グングニールに乗っても意味がない。
それこそ、ジエンドクラス級に近い力を発揮するバカげた機体でもない限りは、装機竜人に乗る意味は全くないのだ。
「じゃあ、何で造ったんですか・・・・・・・?」
「趣味に決まっているだろ」
と言うか、せっかく巨大ロボットが戦場を駆ける世界に転生したのに、それに乗らないでどうする?
その上、自分で好きな様に専用機を造り上げる事すら可能と来たのだ。ロボット工学を学んでいたマニアがその状況に燃えないとでも?
「て言うか、キミだって着くてみた行って勉強はじめてるだろ? だけど、実際に造れるようになった時にもう乗る必要なくなってるぞ」
そもそも、装機竜や装機人、更にその上位機種である装機竜人は、A・Bランクの者でもSクラスの魔物に対抗出来るようにと開発された機体。
ただし、その製作にはどうしてもSクラスの強大に魔力が必要となる。よってその製作者は全てSクラスの力を持つ、ワザワザ作った機体に乗り込む理由がない者たちになる。
「確かに・・・」
説明すると今更ながら納得する。
しかし、本当に抜けてるな。まさか今更こんな説明をする事になるとは思いもしなかった。
なんで装機竜人とかの製作に興味を持って、凄い勢いで錬金術や魔工学の腕を上げて行っているくせに、こんな一般常識の範囲を理解してないかな?
「それでも製作者の全員が自分の専用機を造るのは、もう、趣味としか言いようがないだろう」
ミランダにしても、もう自分の専用機なんてはるか昔に造り終えているのに、グングニールを手に入れて以降、機体を解析して、また新しい専用機を造ったりしているのも、完全に趣味だ。
新しく造った機体にしても、グングニール程の性能は無いので、生身で戦った方が強いのに造ったのだから、もうこれは趣味以外のなにものでもないのは確定。
「ミランダのあの機体だってそうさ。グングニールを解析して新しく手にした技術を確かめたくて造った実験機で、実際に戦うために造ったんじゃない。俺と同じで趣味の自己満足の為に造ったのさ」
「竜騎士団の誇り。国を護る剣も、アベルさんたちにはただのオモチャですか・・・」
そうは言っても、基本的に新技術などの研究に没頭する理由なんてそんなモノだろう。
社会の為に役立ちたいなどの想いもあるかも知れないし、名声が欲しいなどの欲望も大いにあるだろうけれども、自分の研究がどんな成果を発揮するか、それこそが研究者が熱中する最大の理由だ。
Sクラスの装機竜人などの製作者が、持てる技術の粋を結集した専用機を造るのも、自分の技術こそが最も優れていると証明したいからでもあるだろう。
「まさに自己満足の結晶。戦うために造ったんでもないし、気が向いた時に乗り回すだけだから、実質もうオモチャとしか言いようがないし」
「随分と物騒なオモチャですね」
「それを言ったら、Sクラスの面々は個人で物騒なメンバーばかりだから、俺の言う事じゃないけど」
戦略核なんかよりもよっほど物騒なのがSクラスの面々だ。
今や俺はその範疇を超えて、一人で世界を亡ぼせるレベルの超絶危険人物になっているけどね・・・。
「まあ、キミも実際に造る時になったら実感するよ。最高のオモチャだって」
「そこまで常識外れになりたくないんですけど」
そうは言うが、キミは既に別の意味で常識外れだぞ?
いい加減に知っておないといけない常識が欠落しているのはどうかと思う。これでもかなりマシになったんだけども、今回みたいにまだまだ穴があるのがちょくちょくみられるのが困ったものだ。
「まあ、それば実際にSクラスになってみれば判る事さ。それよりも、そろそろみんなの所に行こう。これからの予定も決めたいし」
常識外れの力を持つSクラスに、一般人の常識が通用するハズがないし、同じ常識でもいられない。その辺りは実際になってみればハッキリする。
「予定って、そう言えばアベルさんの装機竜人が完成したから、これで休暇は終わりなんですよね」
製作中は俺は完全に没頭していたから、ザッシュたちにとっては完全な休暇になっていた。
レジェンドクラスの魔物が現れる非常時には、彼らもかなりの緊張を強いられただろうから、良い骨休めにはなっただろうけれども、それももう終わりだ。
「俺としては、十万年前の遺跡を周って、情報だけ集めてみるのも良いと思うけどね」
まだまだ十万年前の転生者が残した遺跡は多くある。その中には多くの情報も残されているハズだ。
「情報ですか? オレとしてはこのヒュペリオンみたいな残されてる遺産にも興味があるんですけど」
「それは、これ以上無闇やたらに見つけ出すと大事に、面倒なトラブルや騒動になるから」
実際。既に見付けてある遺産の内、ヒュペリオン以外の空中戦艦はいまだに俺のアイテム・ボックスの中に封印中なのだ。これ以上厄介事の種はいらない。
「出来れば過去の転生者が既に発見済みの遺跡が良いかな。それでもまだ情報は残ってるだろうし」
発掘品などの新しい発見はないけれども、遺跡のメインコンピューターにかなりの情報が残されているハズだ。色々と調べるのには一番都合が良いだろう。
「そう言えば、過去の転生者が十万年前の遺跡から発掘した遺産は今どうなっているのか、こちらも調べてみた方が良いかな?」
本気で今更な気もするが、ヒュペリオンしかり、グングニールしかり、十万年前の遺産はどれも明らかに今の技術とは比べ物にならない圧倒的なオーバーテクノロジーの塊だ。
発掘されて出回れば、当時の世界に大きな変化をもたらすのは確定になるだろう。例えば、三万年前の転生者が魔域の開放に成功したのも、この遺産の力があったからだと考えられる。
遺産の力をもってしても、魔域の解放後に起こった惨劇に対抗しきれなかったのだけれども、逆に、これも遺産の力があったからこそ、多大な被害を出すが無事に切り抜ける事が出来たのではないだろうか?
「やっぱり、一度キチンと調べておく必要があるな」
過去の転生者が発掘した遺産。それがどうなっているか、もし万が一にも、誰かが見付け出して悪用するような事になったらどれだけの被害が出るか判らない。
俺自身、後の為にヒュペリオンやグングニールをどうするかシッカリ考えて決めておかないといけないのと同じように、まずは過去の転生たちのは屈品の行方を調べてみるべきだろう。




