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 さて、ボランティアの依頼も一通りこなすと、またやる事がなくなる。

 そんな訳で、今は俺は暇なのだけど、ならばこそやるべき事がある。散々時間がかかってしまっている自分の装機竜人の製作だ。

 ようやく、本腰を入れて一気に造り上げてしまえる余裕で出来たとも言う。


 そんな訳で、ヒュペリオンのドッグで早速製作を始める。

 既に必要な素材は錬金術で造り上げている。後はそれらを組み上げ、仕上げて行くだけ。

 だけどこれが結構大変だったりする。特に伝達デバイスの配置をほんの少しでもミスると機体そのものが使い物ならなくなるし、フレームの強度を想定値に仕上げるのも実はかなりの神経を使う。

 今造っているのは、そもそも採算無視のワンオフの機体。ついでに俺の趣味で既存の機体とは異なる特殊な要素を複数取り入れているので、当然のように構築要素も普通の機体とは大幅に違うし、この前の一件で手に入ったレジェンドクラスの魔物の素材を基に、錬金術で造り上げたパーツを相当数使っているのもこれまた難しい要素になっている。


「これはまた随分と大変そうね」

「当然だけど、レジェンドクラスの魔物の素材は、性能が良すぎるから調整が大変だよ」


 見学に来たミランダが初めてで造る機体じゃないわねと思いっきり呆れている。

 それについては俺も確かにと思うが、自分の専用機なのだから手を抜きたくない。だからこそ、俺が今造れる最高の機体にするのは当然。

 それは良いのだけど、元々使う予定で用意していた物と比べて、レジェンドクラスの魔物の素材から造り出したパーツはどれも性能の桁が違い過ぎる。 

 だからと言うか、想定していた以上の機体が完成するのは間違いないのだけども、他の部品との調整がひたすらの様に大変過ぎる。

 下手をするとほかの部品との性能差から、逆にフレームの強度などを下げてしまいかねないのだから大変だ。

 そこをうまく噛み合わせ、最高の性能を引き出せるように調整するために、ひたすらのように計算式を組み上げ続けないといけない。

 それに機体の制御OSも新しく組み直す必要がある。

 まあ、それでも可変機構に形状記憶合金を必要とするような、無茶な変形をしないのでいくらかはマシなんだけど、ダイレクト・リンクシステムを一からプログラムするのは無謀だったかもしれない。

 せっかく自分の専用機なのだからと、制御システムやリンク・システムなど、機体に搭載されるプムグラムの一から全て自分でつくってみようかと思ったのだが、判ってはいたが、想像以上に大変だった。

 制御プログラム系の設定は前世でもやっていたのだけども、そもそも装機竜人に搭載されているシステムはそれらとはケタが違う。頭を抱えたくなる程に複雑で精密な設定で、更にそれらを盛り込んだ特殊機構に合わせて変更していかないといけない。

 途中で何でここまで面倒臭い事をやっているんだろうと本気で悩んだのは秘密だ。

 とりあえず、しなくても良い無駄な苦労もしたりもしたけど、三週間ほどかけてようやく完成の目途が立った。

 フレームは組み立てられ、後は外装を取り付ければ完成だ。


「あと少しで完成ね。はやく仕上げてしまえば?」

「そう思うんだけど、ここにきて外装って意味があるのかとふと疑問に」


 これは騎士の鎧などにも言えるのだけども、そもそもが戦闘時に敵の攻撃は避けるか防御障壁によって防ぐかなので、分厚い装甲を着込む意味が本来、全くない。

 装機竜人の外装も、ワイパーン・ロードの皮や鱗を基に錬金術で造り上げた強固な外殻を纏うのだけども、実質これも必要ないのではと本気で思わなくもない。

 実際、防御障壁を展開していなくても、ミサイルの直撃でも傷一つ付かない堅牢な装甲なので、有効と言えば確かに有効なんだけども、実質的な活用する機会があるかは別の話。


「また、ここにきておかしな事を言い出したわね・・・」

「それは、自分でもそう思うけど、一度気になってしまうとどうにも」


 呆れられて当然だとも思うが、無用な強固な外装に重量を取られるくらいなら、最低限の外装を施して残りは他の機能を搭載したりした方が効率的なんじゃないかと思う。

 今更他に何を新たに取り付ける気だ? という突っ込みもあるけれども・・・。


「いや、ここはやっぱりスタンダードに造るよ。既に用意してあるパーツも勿体ないし」

「判ったから、はやく仕上げてしまいなさい」


 そんなにバカバカしいと呆れないで欲しい。まあ、ミランダにしてみれば確かに何を今更言い出しているんだとしか思えないだろうけど、実際に造ってみて感じた疑問などは結構重要なのだ。

 まあ紙装甲の、外装をスカスカにした機体を造るのは今度にとっておけばいい。


 因みに、外装を取り付けた機体はほぼ黒一色。漆黒の機体に、一部金や銀の装飾が施されている形になる。

 ついでに、この機体の外装は一部レジェンドクラスの魔物の素材を使っているので、巡航ミサイルどころか、核ミサイルの直撃にも余裕で耐えられるほどの強度を誇る。

 それに何の意味があるのか果てしなく謎なのは変わらないのだけど、まあ、出来てしまった物を今更どうこう言っても仕方がない。


「ようやく出来た」

「これまた随分と派手に造ったものね」


 完成すると、それまで散々苦労したものだから実に感慨深い物がある。

 対してミランダは完成した機体を見て呆れているようだ。

 確かに、光も通さない漆黒の機体に、金と銀の装飾が施されたこの機体はある意味で実に派手だ。むしろ、思いっ切り趣味的と言っても良い。

 特に翼の部分は思いっ切り派手と言っていいだろう。漆黒の部分と純白の部分が半々で、その上で金の装飾に覆われているのだ。

 実質、変形機能の為だけについている。実は飛行や姿勢制御の為に必要なかったりする巨大なウイングが最大の特徴となっているのは、今になってみるとどうかとも思う。


「それで、機体名は何というのですか?」

「これが、アベルさんの造った機体ですか」


 ミランダが伝えたのか、完成した機体を見にみんなが集まってくる。

 こうしてみんなに見られるのには、何か少し恥ずかしい物があるのだが、どの道、造ってそれで終わりじゃない。この後は、機体を動かしてテストを行う事になる。

 そうなると、問題は誰に一緒に搭乗してもらうかなのだけど・・・。

 試験データの収集の為のテスト起動に適した人物は、実は身内に若干一名いたりするのだけど、姉にここで来てもらうのは実にめんどくさい事になりそうな気がする。


「機体名はエール・セイヴァー可変時の最大速度だけは、グングニールも上回る機体だよ」


 そこが一番のこだわりポイント。

 自分で機体を造るのは良いけど、レジェンドクラスの魔物の素材を手に入れられても、どうやってもグングニールよりも劣った機体しか作れないのは判っていた。だからこそ、何か一つだけでも上回る部分をつくれないかと試行錯誤した結果、なんとか最大速度だけは上回らせる事が出来た。

 そんな訳でこの機体はシャレにならないほど速い。それこそ殺人的とすら評しても過言ではない。

 重力制御システムや慣性シスムは万全を期しているが、それでも、最高速度を出した時には搭乗者に結構な負荷がかかってしまう可能性もある。

 実はある意味、欠陥品も良い所の機体だったりもする。


「完成した所で、早速テストをしたいんだけど、ザッシュ、モニターとして一緒に搭乗してくれ」

「えっ? オレですか?」


 そうキミだよ。残念ながら欠陥品も良い所の機体になっているのは否定できないからね。他のみんなは乗せるには気が引けるんだよ。


「そう。まあ一番気兼ねしなくて済むし、よろしく頼むよ」


 搭乗者にどれだけの負荷が掛かるか判らないまま、他のみんなを乗せられないとは言えない。

 適当に誤魔化して、ザッシュを機体に連れ込む。

 基本的に搭乗者。パイロットとのダイレクト・リンクによって機体制御を行う装機竜人は一人乗りだけども、こうした試験運用の時など、テストデータをまとめる為にもう一人くらいは搭乗できるようになっている。


「気兼ねしなくて済むっていうのは判りますけど、どうしてオレが? テストデータの収集なんてやった事ないから、上手くできるか判りませんよ」

「ああ、その辺りはあまり気にしなくて良いよ。実際に動かしてみて、完成度を確かめるのが目的だから」


 最大速度を出した時にどの程度の負荷が掛かって来るか、とりあえずはそれが解れば問題ない。


「完成度ですか?」

「ああ、この機体はスピードに特化した仕様になっていて、速度だけならグングニールを上回る」

「それは凄いですね」


 グングニールの速度は音速の二百倍を超える。それをさらに上回る速度となると本気で凄いというよりも、ヤバイ。

 

「それは良いんだけど、最高速度を出した時には重力制御で抑えきれなかった負荷が搭乗者にかかる可能性があるんだ。しかも、どの程度の負荷になるかまだ分からない」

「・・・・・・は?」


 ザッシュが完全に固まる。

 話している内にヒュペリオンのカタパルトデッキを出て、外に飛び出す。

 通常飛行は全く問題ない。すべるようになめらかに空を飛んでいく。


「そんな訳で、まずは最大速度を出した時の負荷がどの程度になるかを調べたいんだよ。そんなテストに女の子を巻き込む訳にはいかないだろ?」

「イヤイヤイヤ、チョット待ってください」


 思いっきり顔が引き攣っているが、もう遅い。


「それじゃあ、そろそろ始めるから、データ収集をよろしく」

「ちょっと待ってください」


 ザッシュの制止を無視して一気に速度を上げていく。静止状態からそのまま最大速度を出す事も可能なのだ。一瞬で音速の二百五十倍までその速度を上げる。


「てっ、うわああああぁぁぁぁぁぁ」


 同時に一気に負荷が掛かり、ザッシュの悲鳴がこだまする。

 うん。結構負荷が掛かって来るけど、悲鳴を上げる余裕がある程度だし問題ないな。こうして、無事に機体データ収集のテストは終了した。



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