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 予想よりも問題なく、遺体や遺品回収は無事に終わった。

 俺自身、思っていたよりも死屍累々の光景を落ち着いて受け入れていたし、結局、ザッシュも最後まで取り乱す事も無く静かに現実を受け入れていた。

 とは言え、これで俺たちに覚悟が出来たかはまだ分からない。

 特に、仲間たちが死に瀕した時に俺は冷静でいられるか・・・・・・。

 メリアたちもそう簡単には死にはしない。それだけの実力を既に身に付けている。ミランダに至っては死ぬところを想像もできない。

 だけど、どれだけの力を持っていても死からは逃れられない。些細なキッカケで簡単に死んでしまう可能性だってある。 

 そして、それは俺だって同じだ。

 そもそも、俺たち転生者組は一度死んだからこの世界に来ている訳だし、その意味では一番死に近いのが俺たちかも知れない。

 それでいながら、死に対する覚悟がが一番足りていないのも俺たちなんだけども、どうやら、戦いの中に身を置く続けている間に、自分では気付かない内にそれなりの覚悟はできていたらしい。

 これまでに、散々ゴブリンやオーク、オーガなどの人形の魔物の殲滅し続けて来たのだから、今さら人の死に動揺するまでもなくなていたのかも知れないけど、俺たちもこの世界に馴染んできているのは確かだろう。


「遺品と、出来る限りの遺体も回収して来た」

「では、霊安室にご案内します」


 回収して引き渡しに来たのは当然だけど、冒険者ギルドではなくて軍の施設。

 本当は自分たちで仲間を連れ帰って、弔いたかったのだろうけれども、二千人もの犠牲を出したのだ。負傷者も相当数出ているハズだし、部隊の再編成も行わなければいけない。実質、彼らにはそれだけの余裕が今はない。


「こちらです。では、遺体を出してください。」

「判った」


 案内された霊安室は相当な規模の部屋で、それだけで、この規模の犠牲者が出るのすら日常茶飯事に等してのだと理解できる。これも、この世界の現実を示す謙虚な例のひとつだろう。

 まあ、今は関係ないので回収した遺体を次々と並べていく。

 因みに、バラバラになっていたりと損傷の激しい遺体は出来る限り復元している。

 ただし、蘇生はしていない。

 これは当然だ。今回の件はあくまでも遺体の回収の仕事であり、戦死者を生き返らせるのは入っていない。

 ただ、実際の所、二千人の戦死者を生き返らせる事が出来るかどうかと言えば、跡形も無く爆散してしまった者を除いて大半が可能だ。

 それが解っていながら、俺は彼らを生き返らせないし、同僚であるはずの彼女も何も言わない。

 ここまで案内してきた軍の事務官であろう女性は、淡々と俺が出した遺体の確認を続けていく。

 彼女は俺ならば、彼らを生き返らせる事も可能だと理解していながら、決してそれを望まない。

 頭では判っていても、感情の部分では理解しきれないのだろう、その様子にサナとザッシュは複雑そうな顔をしている。

 気持ちは判る。もしも自分の大切な人がして出しまった時。生き返らせる術が目の前にあるのに縋らずにいられるか?

 実際にその時になってみなければ判らないけれども、ほぼ間違いなく生き返らせて欲しいと縋るのは確定だ。


「はい。確認しました。では次に、遺品の方をお願いします」


 少なくても、こんな風に淡々としては居られないだろう。

 それは、間違いなく俺も同じ。

 続いて回収した遺品を出していきながら、こういう対応をするだろうと判っていたけれども、実際にされると微妙に落ち着かないなと思う。

 それは、本当は行き変えさせられる人たちを書き換えらせない事への、後ろめたさからなのか?

 いいや、違う。

 判っていても、どうしても心の底で納得しきれていない部分があるからだ。


「はい。遺品の確認も終わりました」

「あと、言きせれていた戦車や戦闘機などと、討伐されていたリザードマンなども回収してきているが」


 死んだ仲間を連れ帰ることも出来ないのに、討伐して魔物を回収している余裕があるはずがない。戦場には夥しい数の討伐されたリザードマンがそのまま残されていた。

 それらも全て回収してきている。こちらは、軍で素材と魔石を換金し、戦死者の遺族への補償に充てられる事になる。


「では、演習場へご案内しますので、そちらでお出しください」 


 当然だけど、霊安室に戦車やらを出す訳名はいかないので、今度は演習場へ行って残りを出す事になった。どうでも良いけど、こちらもついでにある程度魔法で修復してある。

 完全にスクラップ状態のまま持ってきても別に問題ないのだけども、搭乗員の遺体を回収してある程度復元するついでだ。

 まあ、それでもそのまま使える訳でもないし、修復して使うかどうかは軍のトップたちが決める事だ。


「これで最後だな」

「はい。確認しました。ありがとうございました」


 演習場の一角に俺が出した半壊状態の戦車や戦闘機などが並べられている。その隣には夥しい数のリザードマンの死体が山になっていて、ある種、異様な光景になっている。

 回収した戦車は25両、装甲戦闘車が18両、戦闘機が20機戦闘ヘリが10機。それだけの被害を出す激戦だったことが知れる。


「ベネメート・・・。ゲーグルズ・・・。戻って来たのか・・・」


 戦場後で回収してきた者を全て出し終えて、帰ろうかとしたところでこちらに近付いて来る者がいる。

 俺だ出した戦車数両を複雑な表情で見詰めている。


「アレット事務官。搭乗者は?」

「はい。先程遺体の確認をいたしました。現在は霊安室で安置中です」

「・・・・・・全員か?」

「はい。貴官の部隊の未帰還者全員の遺体を確認しました」

「そうか、ありがとう・・・・」


 話からして、どうやらこの男はリザードマン討伐戦に参加した戦車部隊の隊長だったようだ。激しい戦いで自分の部隊に相当の被害を出し、その上で機体が破壊されても搭乗員の中には無事な者も居るかも知れないと、わずかな望みを持っていたのかも知れない。

 確かに、今並べられている戦車の損傷具合程度なら、搭乗員は無事かもと思ってしまうかも知れない。


「アベル殿、貴殿が回収してきてくれたのだな。感謝する」


 そう口にしながら、何所か複雑そうな表情を、何か懇願したいのを必死にお抑えているように見えるのは、気の所為じゃないだろう。

 間違いなく彼は、出来る事なら戦死した自分の部下を生き返らせたいと思っているのだ。

 そして、目の前にいる人物。俺ならばそれも可能だと判っている。判っているからこそ、生き返らして欲しいと強く想ってしまうが、それを口に出さないだけの理性もある。

 どうしようもない思いに翻弄されているのが、今の彼の心情だろう。

 気持ちは判る。判るけれどもだからと言って彼の部下だけを生き返らせる事は出来ない。

 もしも生き返らせてしまったなら、今回の戦死者、二千人以上を全員生き返らせなくてはならなくなる。

 悪いけれども俺はそのつもりは無い。

 いや、出来るからこそ、決してしてはいけないと言い換えた方が良いだろう。

 無闇に死者の蘇生を行えば社会に大きな混乱を起こしてしまうのは目に見えている。だからこそ、蘇生魔法が使える者はその使用を厳重に制限されている。


「気にする事はない。これも役目の内だ」


 だから、俺はただそう応えるだけで、すぐにその場を後にした。


「判っていても、やっぱり複雑ですね」

「自分の知っている人、大切に人が生き返るのなら、なんとしても生き返らせたいと願うのはむしろ自然だろうからな」


 役目を終えて、軍の施設を出たところでサナとザッシュがようやく口を開く。

 当然だけど、この二人も今のやり取りに色々と思うところがあるだろう。


「魔法は万能。万能だからこそ使い方を誤ってはいけないという事だよ」

「そうですね。それは判っているのですが・・・」

「判っていても、理解はしきれてなかったのかも知れません」


 二人ともこれまでに家族などに散々教え込まれてきたので、一応は判っているつもりだったけど、それでも本当の意味で理解はしていなかったとハッキリと解ったのだろう。

 正しくこの世界で魔法は万能。魔法適正と高い魔力さえあれば、それこそどんな事だって出来てしまう。

 死者蘇生。性転換。寿命を延ばす事も、若返らせる事も、どんな病でも直してしまえるし、逆に人を殺すのも容易いし、人を呪うことも出来る。特定の人物に不幸が続くように仕向ける事も可能だ。

 そして、多くの人の意思を操って自分の思うが儘にしてしまう事も出来る。

 魔法は万能で、人の欲望に限りはない。だからこそ、扱いを間違えれば逆に世界を滅ばしてしまいかねない力の使用は、厳重な規制がひかれているのだ。


「地球で言えば、個人で核兵器持ってるようなモノなんだから、気を付けないとって判っているつもりだったのだけど、まだまだ認識が甘かったみたいです」


 ザッシュは頭をかいて、なんとか考えをまとめようとしているみたいだ。


「蘇生魔法で多くの人を生き返らせ、助ける事は確かに出来る。だけど、一度それをしてしまえばもう後戻りはできなくなってしまう。誰か、どこかの国だけを特別扱いする事は出来ませんから」


 戦いは世界中で常に続いている。魔物との戦いによる犠牲者が耐える事はないのだ。その全員を生き返らてる事なんて出来ないと判っているのだから、迂闊に人を生き返らせるべきではないのも当然。

 誰か一人だけを生き返らせて、他の物は無視してしまえば当然不満が出る。

 一度人を生き返らせてしまえば、後から後から、生き返らせるのならコイツも、彼もと押し寄せるものが後を断たなくなる。


「出来るのにやらないのに、不満を持つ者も当然出て来るけどな」


 生き返らせなければ生き返らせないで、どうして犠牲になった人たちを救う力を持ちながら、それを使おうしないと不満に思う者も当然出てくる。

 普通だったら、死者蘇生のまわぅを使うのに必要な魔法属性を持つ者がそもそも限られているし、使えたとしても魔力に限りがあるから問題にならないのだけど、俺の場合は、使える上に魔力の総量も桁違いだからこそ始末に悪い。


「アベルさんは、実際にあの人数を蘇生する事が可能なのですか?」

「出来るさ。その十倍の人数でも問題ない」


 そこが一番の問題だ。俺の魔力量だと数万単位の人数を一日に蘇生させる事すら可能だろう。

 だけど、そんな事をしたらこの世界のバランスを完全に崩してしまう事になる。


「だけど、この世界は魔物との戦い、そこで出る犠牲者の事も織り込んで社会が成り立っているから」

「それは・・・」


 そうやって今の社会体制を構築したのは、十万年前の転生者たちだ。

 それに文句はないし、多分、当時の彼らも同じ事に頭を悩ませ続けたのだろう。

 当時は今よりも、比較にならないほどに戦死者の数も多かったはずだ。その上で、この世界で知り合った仲間や大切な友が死んで行くのを幾度となく見て来ただろう。

 その上で、この社会システムを構築したのだから、その想いに口を挟む余地はない。


「実際に、毎年一定数の戦死者が出るからこそ、この世界の人口は今の数で成り立っている。それがいきなり戦死者が出なくなってその分の人口の減少が急激に減ったりしたらどうなるか」

「社会システムが成り立たないほどに、爆発的な人口の増加を招く危険がありますね」

「むしろ、確実にそうなる」 


 毎年、帯びたたしい戦死者が出る事を前提に成り立っている社会は、戦死者が居なくなれば、その分の減少分を補うための出産率。人口の増加分が、一気に過剰になって、二十世紀後半からの地球での人口の増加率など比較にならない勢いで人口が爆発的に増えていく事になってしまいかねない。

 そうなると、人口を支える為の生産が追い付かなくなってくる。

 食料だけじゃない。人が一人生きて行くにはそれだけで多くの物資を必要とする。


「それも魔法で解決することも出来なくはないけど、それはもう意味がないだろう」

「だから、魔法を使うのには相応の覚悟がいるのですね」

「正直、もっと気軽に使いたかったです」


 万能すぎるからこそ、使いかを誤ればそれだけで社会に大きな混乱と犠牲を出しかねない。

 ゲームのように簡単に人を生き返らせる事も確かに出来るけれども、実際にはそうする事は出来ないのが現実。その事は良く頭に置いておかないといけない。 



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