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メリア視点、三回目です。

 一体どうしてこんな事になってしまったのだろう。


「それじゃあ始めようか」


 目の前でにこやかに佇むアベル相対しながら、私は心の中でずっと己の運命を呪い続けています。

 アベルの個人レッスン。その過酷さは通常のみんなとこなす修行の比ではない。それは今までの修行の中で骨身に沁みて理解している。

 しかも、今の彼はレジェンドクラスの超越者。その個人レッスンは今までの比ではない過酷なものになるのは目に見えている。

 正直、生きて無事に乗り越えられるか不安で仕方がない。


「そんなに不安そうに、死地に向かうような絶望的な顔をされると流石に傷付くんだが」

「えっ? あっ・・・ごめんなさい」


 困ったようなアベルに素直に謝る。

 確かに私たちの態度は彼に失礼だ。アベルの個人レッスンは確かに想像を絶する程に過酷だけども、彼は私たちに出来ない事は決して言わない。私たちが全力で臨めば辛うじて対応できるギリギリのラインを見極めて課題を出してくる。

 だから、今回も多分、死ぬ気でやればなんとかクリアー出来るハズ。

 魔晶石の回復限界まで、幾度となく魔力を使い切って臨む修行は、丸一日続けられる訳がないし、地獄の様な苦行も実はほんの一瞬で終わるはず・・・。


「頑張りますから、よろしくお願いします」


 ミランダさんの大ミス。余計な一言がキッカケな気もするけど、アベルが私たちの事を思って個人レッスンをする事にしたのも確かなのだから、私は覚悟を決めて臨む事にした。



「大丈夫か?」

「・・・大丈夫じゃない。・・・・・・死んじゃう」


 どうにか声を絞り出すのも一苦労なくらい疲労困憊している。

 修行が終わると同時に、私は倒れ込んで仰向けに寝転んで少しでも疲れを癒そうとしている。

 覚悟はしていたけれども、本当に過労で死ななかったのがウソのような過酷さだった。しかも、時間にしてほんの一時間足らずなのに、魔域の活性化中、一日戦い抜いた後よりも疲れ果てている。

 ううん。この地獄に比べたら、あの命を賭けたギリギリの戦いですらまだ生温い。


「何時までもそんな所で寝転がっていたら風邪をひくよ。そろそろ起きないと」

「・・・・・・ムリ。・・・まだ動けない」


 むしろ、このまま寝てしまいたい。疲れ果ててはいるけれども、汗をびっしょりとかいている訳でもないし、このまま一時間くらい寝てしまっても問題ないと思う。

 そう思うと途端に眠気が襲ってくる。それだけ疲れ果てているんだろうけれども、体は正直と言うべきか、別に肉体的に疲れてる訳じゃない気もするけど・・・。


「全くしょうがないな」


 そんな声を聴きながら、私は眠りに墜ちて行った。



「ようやく起きたか」


 目を覚ますとアベルの顔が目の前にある。

 湾頭に美少女にしか見えない、羨ましい良いくらいに綺麗で可愛らしい顔。本人にとっては不本意なのは知っているけど、ぎゃくに男の子っぽいアベルも想像できない。


「ここは? 私どれくらい寝てましたか?」


 とりあえず今いるのが寝たというか、ほぼ気を失ったようなモノの様な気もするけど、寝た時と同じ場所じゃない。


「ヒュペリオンの医務室だよ。一応、何か異常はないか調べておいた方が良いだろうと思って、それと寝ていたのは大体三時間くらいだよ。随分と疲れたようだね」


 疲れ果てたのは間違いなくキミの所為だといいたい。

 それにしても三時間か、つまり今はちょうど昼頃になる。随分寝たような気もするし、そのくらいで疲れが取れたのかとも思う。

 まだハッキリとは判らないけど、起きた時の感覚からしてもうほとんど疲れは残ってない。


「アベルが運んでくれたの?」

「当然。それと疲れて寝てしまっただけで、異常はなかったよ」


 それはそうでしょう。むしろ、疲れ果てて気を失う程に過酷な修行をさせる方がどうかしていると思う。


「それはありがとう。だけど今回はやり過ぎだと思う」


 そもそもアベルがあんな過酷すぎる修行を課さなければ、終わると同時に気を失う事もなかったはず。これまではそこまで疲労困憊する事もなかったのに、ヤッパリレジェンドクラスの超越者になってタガが外れている気がする。


「そうかな。ちゃんと最後までやり遂げられたじゃないか」

「それはそうだけど、明日からのみんなが心配です」


 間違いなく、私と一緒で終わった後に倒れて気を失うのは確定。

 何もそこまでと本気で思うくらいに厳しすぎるのはどうかと思う。私たちはなんだかんだでもう慣れてしまったけれども、これだから次から次へと弟子志望者たちが逃げ出していくんだと思う。

 まあアベルとしても、そんな何百人も弟子を一緒に見ていられないから、ワザと厳しくして振るいにかけているんだと思うけど・・・。


「大丈夫だって、メリアもちゃんと無事に出来たんだから。みんなだってやれるさ」


 そうではなくて、終わった後に倒れるのが確定なのが心配なんだけど、どうやらアベルは、この倒れるのも織り込んで修行プランを練っているみたいだから、言うだけ無駄みたい。


「それより、これからどうする? 今日一日メリアに付き合うつもりだけど」


 飴と鞭の使い方が上手い事で・・・。

 修行は一時間足らずで終わるし、その後三時間の強制休息を取っても、半日以上残っている。二人でランチを楽しんでそのままデートにしようか、それともこのまま二人だけでのんびりするのも良いかも知れない。


「とりあえずお昼にしましょう。キミがつくってくれると嬉しいな」


 とりあえずは二人でゴハン。

 アベルの作る料理はどれも美味しい。私たちよりも上手な気もするのはショックだったりするんだけど、そこは頑張って料理の腕を上げて行くしかない。


「了解。最高のランチを用意するよ」


 アベルが用意してくれたランチはカルボナーラにクラブサンド、ボロネアスープにシーフードサラダ。メインにダーク・ドラゴンのロースト、それにフルーツたっぷりのタルトケーキ。


「ああ、幸せ」


 本当にそうとしか言いようのない至極の一時。


「気に入ってくれたようでなにより」

「本当にアベルはプロ並みに料理が上手だよね。少し悔しいかも」


 食材が極上なのもあるだろうけど、いくら上質な素材を使っても料理人の腕がなければ、その価値を引き出す事は出来ない。だから、この料理が美味しいのは、アベルが素材の味を引き出せるだけの腕前を持っているから。

 それにしても本当に幸せ。

 ダーク・ドラゴンのローストは言うに及ばず。世界樹の蜜を使ったタルトも至福の味わい。それに世界樹の葉からつくられた茶葉が見事に調和している。

 タルトケーキはワンホール丸々食べてしまった。

 そうすると今度はレアチーズケーキが出てくる。こちらもタルトケーキに勝るとも劣らない極上の美味しさ。


「美味しい。幸せ。それに太る心配をしなくて良いのだから最高」


 修行で消費して分を補給しないといけないから、むしろまだ足りないくらい。

 以前は食べる量が極端に増えてきているのに悩んだりもしたけど、今ではもう割り切っている。美味しい物を好きなだけ食べられて、しかも太らないのだからラッキーと思うしかない。食べる量が乙女にあるまじき量になっているのはもう気にしない。

 確実に今私が食べた料理だけで、人一人が一生遊んで暮らせて行けるくらいの金額になるだろうけど、それももう気にしない。

 私だってアベルと出会ってから、自分でも信じられないほどの金額を得ているし、もうこれまでの金銭感覚ではいられない世界に居ることは理解している。


「太らないというか、シッカリとエネルギー補給しておかないとガリガリになるし、成長にも影響するからシッカリ食べないといけないんだけど、どうも効率が悪すぎる気もする」

「それは確かに、私たちはもう慣れたけど、いきなりこんなに沢山食べるのになれるのも大変そう」


 それ以前に食べられるようになれない人も要るんじゃないだろうか?

 私たちだって元々はそんなに食べる方じゃなかったし、元が小食の人はいきなり沢山食べられるようになるのか疑問。


「まあそれは人それぞれだと思うけどね。楽しみに出来れば何の問題もないし」


 強くなればなるほど、回復の為に食べる量も増えていく。

 同時に、強くなればなるほど、美味しい物も食べられるようになるんだから、その楽しみを覚えてしまえば後は問題ない。

 正直、私もA・Bランクの素材を使った料理とか、アベルと出会うまで雲の上過ぎる料理に一瞬で魅了されてしまったし、それについては確かに身をもって知っている一人。

 ある意味、私たちは完全に食べ物で釣られているといってしまっても良い。最初にアベルに最高の味を教え込まれて、更にそれからもそれをこえる至上の美味も味わっていく。その至福から逃れられなくなっている様な感じ。


「さて、満足した所で、次はどうする? このままのんびりするのも悪くないと思うけど」


 それも魅力的な提案。疲れは取れたといっても気怠さは少し残っているし、静かに過ごすのも良いと思う。


「ううん。デートに行きましょう」


 だけど、今回は二人で出かけたい。

 ショッピングも良いけれども、確かこの国には有名な歌姫が居たはず。劇場で音楽鑑賞も久しぶりにしてみたい。それに美術館を周ってみるのも良いかも知れない。

 絵画や彫刻とか、芸術に興味はあるのだけどこれまでジックリ見た事はなかったし、いい機会だから初体験も良いと思う。


「成程、芸術を楽しむか、良いね。賛成だ。となると、相応の服装もしないとね」


 勿論、私だってせっかくのデートですから、身なりにも気を付ける。アベルが指定したのは前に彼が買ったドレス。パーティー用のドレスで着飾って行くのは少し恥ずかしい気もするけど、アベルもシッカリと清掃をしているのだから、私もそれに見合った服じゃなきゃ釣り合わないと納得させる。

 はてさて、芸術を鑑賞するでとはどんな風になるかな?




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