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「異性の尻尾を触るのが気になるなら、キミが性別を変えればいいでしょう?」


 うん。そう言われると返す言葉もないね。

 無いのだけどそれで良いのかとも思う。

 いくら魔法で性別を変えても、俺が元々は男である事に変わりはない。いや、魔法で性別を変えてしまえば、生殖機能も完全に逆転するし、元が男でも完全に女でしかなくなるのだけどね。

 それはそうなのだけども、また魔法で性別を変換すれば元の男に戻る訳だし、尻尾を触るためだけに性別を変えるとか、それってあれなのだろうか?


「そもそも、キミの場合は性別なんて意味もないでしょ」

「それはどっちの意味でかな?」


 思わず半眼で尋ねるけど、逆におもしろそうに笑われてしまう。

 まあ、言いたい事は判る。レジェンドクラスの超越者となり、数千年の時を生きる事が確定した俺には、既に性別自体があまり意味を持たないといいたいのだろう。

 それは確かにその通りで、上位のSクラスもそうだけども、数百年・数千年も生きればそもそもの性別自体があまり意味をなさなくなるというか、興味や関心もなくなるらしい。

 ミランダなんかは別に性別を変えて男になってみようとかを思わないらしいけれども、数百年を生きたSクラスの中には、そもそも性別そのものをなくしてしまったり、雌雄同体の体になっている人なども実は珍しくないらしい。

 実際、魔法適正さえあれば、自在に性別を変える事も容易いのだから、中には日によって、気分次第でコロコロと性別を変える変わり者もそれなりに居るらしい。

 因みに、魔法によって性別を変えれば、男でも完全に女になり、生殖器官も完全に逆転して妊娠も可能になる。ただし、当然だけど一度妊娠してしまったら、子どもを産むなりしない限りは元の性別には戻れない。

 いや、その辺りは本気でどうでも良いんだけどね。

 俺は間違っても誰かの子供を産むつもりは無いぞ!!!

 出産経験なんてするつもりは全くないし、そもそもそれ以前に、男とその為の好意をするつもりがまったく、欠片も、一切ない。


「それに、確かにいずれは性別なんて意味がなくなるにしても、俺はまだ十三歳なんだけど」


 正直、性別なんてどうでもいいだろというには微妙すぎる年齢だ。

 て言うか、一番敏感な年ごろ?

 いや、精神年齢は三十超えてるんだけどね、それとこれとは別問題、それに、三十代でも性別に無頓着になるには早すぎるだろ。


「異性に興味津々のお年頃で、女の子になるのは気が引ける?」

「それ以前に、色々と誤解されそうな気もするしヤッパリ遠慮しておく」


 ぶっちゃけ、自分の体なら性別を変えて何をしても問題なかったりするのがかなり困る。

 俺自身、そんな誘惑にかられないとも言い切れないし、周りにそんな風に思われる可能性を考えるとリスクが高すぎる。


「それは気にし過ぎ。性別の変換なんて特に珍しい事でもないんだから、一々その程度で変に勘ぐったりなんて誰もしないよ」


 それは確かにその通りだとも思うけどね。

 因みに、この話でも分かるように、この世界では同性愛や性同一性障害などで苦しむ人はいない。気軽に自分に合った性別に変わる事が出来るからだ。

 ある意味、この世界は地球とは比べ物にならないくらい性別、ジェンダーの違いが問題にならなかったりする。


「それに、私としては、キミが女の子になった姿を見てみたいし。今でもそのままで女子だって誰も疑わないくらい可愛いけど、実際に女の子になったらもっと可愛くなるのかとか興味があるから」

「それが紛れもない本気だよね」


 なんだろう? 完全に揶揄われている気がするんだけど、それが解っていてもあのゆらゆらと揺れる尻尾の誘惑が大きすぎる。

 本当に、すぐにでも女の子になって尻尾をもふりたい衝動に駆られて来るのだけど・・・。


「でもキミも興味があるでしょう? 自分の容姿が女の子にしか見えないのは判っているんだし。その上で実際に女の子になったらどうなるのか」


 それについては否定できない。何か、どんどん美少女化して行く自分の姿に、色々と思うところがあるし、実際に女の子になった時、そちらの方が違和感がないんじゃないかとかどうなんだろうと考えてしまう。


「それに、別にずっと女の子のままでいる必要なんてないし。ただ単に尻尾を触る間だけ女の子になればいいだけだよ?」

「いや、尻尾を触るためだけに性別を変えるのもどうかと」

「別に気分次第で性別を変える人も珍しくないんだから。尻尾を触るためも性別を変える理由としては十分だよ」


 まったくもって仰る通りで、俺としてもどうしてこんなに抵抗ているのか判らなくなる。

 前世の常識がストッパーになっているのは間違いないんだけど、今回はそれで良いと思う。なんとなくだけど、このまま流されて女の子になってしまったら取り返しのつかない事になりそうな気がする。

 そこはまだ超えてはならない最後の一線。まさしくそんな感じがする。


「そもそも、キミはどうしてそこまで性別を変えるのを躊躇うのかな?」

「なんとなく、まだその一線は越えてはならない気がするから」

「つまり、直感的にそう感じると」


 俺の答えに呆れるのではなく、非常に興味深そうに考え込むから困る。

 いったい、どうしたというのだ?


「それはまた興味深いね。どうしてキミが直感的に女の子になるべきじゃないと思うのか、凄く知りたい」

「いや、そこに興味を持たれても」


 何故にそこに興味を持つと困惑するしかない。


「それと、キミが女の子になるのが嫌なら、私が男になることも出来るけどどうする? それと、女の子になるのがダメなら両性体になってみれば」


 それはある意味、願ってもない提案。確かに栗栖が男になってくれれば俺も遠慮なく尻尾をもふれる。

 ゴツイ男の尻尾をもふるつもりは無いけど、クリスは元々美人さん。その尻尾なら喜んでモフモフする。

 ただ、もう一つの提案はどうなんだろう。

 両性体って、流石にそれは更に超えてはならない一線じゃないかな。底はせめて無性体の方を勧めようよ。

 無性体。つまり、男でも女でもない。どちらの性別の特性も持たない存在。

 何か、特別な職に就いている者はそれになる義務があるとか、望まない婚姻を避けるためになるとか色々とあるらしいけど、小さい方は何処からどうやって出すんだろうとかどうでも良い疑問もある。

 それも知りたければなってみればいいだけなんだけども、


 それよりも、尻尾は獣人族にとって特別なはずなのに、随分と気軽に触らないか聞いて来るのは、やっぱり揶揄われているのだろうか?


「確かに触りたいし、クリスが男になってくれるのならありがたいけど、揶揄ってるよね?」

「少しね」


 あっさりと認められてしまうと返す言葉もないんだけど、どんな反応すればいいのやら・・・。


「ついでにキミが奇妙なところにこだわりを持っているのも知れたし、私としては大収穫だよ」


 それは良かった。

 俺としても自分が妙なところに拘っているのを知れたのは良かったと思う。

 だけど、そのこだわりは別に気にする事もないだろう。

 ぶっちゃけ、話を振られたからって興味本位でイキナリ女の子になってみたりするのもどうかと思う。


「私は戦いの時にイキナリ調子が悪くなったりしない様に、性別を変えたりしていたから、特にこだわりはないんだけど」


 ああそうか、生理とかの時期に合わせて男になっておけば、体調不良で魔力や闘気が上手く使えないなんて心配も無い。と言うか、以前の魔域の活性化の時に、戦局が長引いてそれでメリアたちが一時離脱したけれども、性別を転換してしまえば問題なかったのでは・・・。

 いや違うか、それはミランダも判っていたハズだ、それなのに提案してこなかったのは、メリアたちの疲労が限界に達していて、月のモノを理由にしてでも一回休ませた方が良いと判断したからだろう。

 彼女たちが、性転換をするのを嫌がった可能性もあるけど、もしそうなら、彼女たちも俺と同じく今の性別に強くこだわっているのだ、一度話を聞いてみたい気もする。


「戦いの時は男の方が有利なのは確かか、だけど、それはそれで大変そうだね」

「戦う事は、王族に生まれた義務だし気にする事もないけどね。他の面倒臭い事に比べたら何でもないし」


 今はワザワザ性転換をしなくても、月のモノの途中も何時も通りに力を使えるようになっているけれども、そう出来るようになる前は性転換ををしてまで戦場に立ち続けて来た訳だ。

 王族の義務とは言え大変だと思うけれども、当人としてはどうと言う事もないらしい。それより、やはりほかの煩わしいもろもろの方が嫌な様子。

 この世界、本気で王族だの鬼族だのは割に合わないと思う。


「それより、触りたいならほら、どうぞ」


 そう言うとクリスはその姿を変える。美しくも可愛らしい美女から、同じく美しくも可愛らしい美人に、どうやら、当然だけど女から男に変わってもそんなに大きな変化はないらしい。

 身長もそのままだし、体重も変わらないろう。胸の膨らみがなくなり、肩幅とかの体格が男のモノに変わっただけ、どこからどう見ても、ほとんど何も変わらないクリスそのものだ。


「ん? どうしたの?」

「いや、キミのその様子だと、俺が女の子に変わってもあまり外見に変化はないなと」


 ただ、確実にそちらの方がシックリくるだけだろう。

 うん。頼むから勘弁してくれ。

 それと、俺はまさかこのままは立ち過ぎても美少女にしか見えない容姿のままなのか?

 前世は平凡だけどそれなりに背も高く、男らしい姿だったので結構嫌なんだけど・・・。


「そんなこと気にしても仕方ないと思うけど」


 クリスは明らかに気落ちした俺にクルリと尻尾を巻きつけてくる。

 ああ、モフモフだ。気持ちいい。

 気が付くと思いっきり尻尾をもふっていた。

 何か我を忘れていた気がするし、クリスもそんな俺に若干呆れ気味な気がする。


「満足した?」

「堪能させていただきました」


 本当に最高だった。まさに至福。ダーク・ドラゴンの肉の最高の料理を食べたかのような幸福感。触れた瞬間に昇天しましたとも。


「それは良かった」


 満足そうにクリスは美女に戻る。

 いずれまた触りたいけど、その時もまたクリスに男になってもらうのはダメだろう。その時は俺が覚悟を決めて女の子にならないといけない。


「そう言えば、キミはこれからどうするつもりなの? しばらくはゆっくりするにしても、その後」


 レジェンドクラスの超越者になったのが知れたし、今回のような異常事態以外では、これまでよりも更にあまり動くべきじゃなくなってきている。

 めんどくさいけれどもこれは仕方がない。そんな訳で俺はこれからどうするかだけども、実は当面は決めてある。


「とりあえず、しばらくはボランティアをするつもりだよ」


 ボランティア活動と言っても、別に奉仕活動でもないけど。


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