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クリス視点、二回目です。

 激戦。死闘。そんな言葉では言い表せない戦いは、一瞬と評して良い僅かな間に終わった。

 レジェンドクラスのアース・ドラゴン系の魔物が六匹。

 ほんのわずかの油断で、ううん、油断もミスも無くても、石化などの致命的な状態異常を受けて死に至る危険な魔物ばかりを相手に、アベルは先制の攻撃と共に真っ向から立ち向かい、全てを撃破して見せた。

 本当に、相変わらず私たちとは次元の違う戦いを平然とこなす。

 それに、今までよりも明らかに戦い方がスムーズに、型にハマっている。ようやく自分の力を使いこなせる様になったという事なのだろうか?

 だとしたら、長かったこの異常事態もようやく終わりが見えて来たという事。

 それは何よりだと、本当に良かったと思う。これで彼も少しは落ち着ける。


 これまで、アベルはレジェンドクラスの魔物に相対するために常に緊張状態を強いられてきた。

 レジェンドクラスの魔物が現れる予兆が発生した国に急行して、魔域の中心部に出現した漆黒の球体に変化が現れるのを待つ。

 二十四時間体制の監視で、食事中でも寝ている途中でも、球体にひびが入り、レジェンドクラスの魔物が現れる前兆がおきたらすぐに知らせが入るようになっているから、その知らせが入り次第、魔域の中心部の外苑、ギリギリ転移で移動できるところに瞬時に急行。中心部に向かいながら、先制の攻撃の準備を進めて、魔物が現れるとともに先制攻撃からの殲滅。

 だけど、どうやっても間に合わない場合もあって、先制攻撃を仕掛けられない時も何度もあった。その場合は本当に正面からのぶつかり合い。出現した魔物の注意を全て自分に向けさせて、一匹ずつ確実に討伐していく。だけど、それは本当に死と隣り合わせのギリギリの戦い。

 今回の様に、万全の準備を整えた状態で戦いを始められるのなんて本当に稀で、これまで本当に命懸けの戦いを続けて来た彼の心身は、既に限界まで疲労しているのは明らかだったから、今回で終わりではないとしても、次回かその次か、いずれにしても終わりが見えて来たのは本当に良かったよ。


 なによりも、アベル自身が自分がもう限界まで疲れ果てているのに気付いていなかったから・・・。


 あの子は正直、見ているこちらが心配になってしまうくらいに自分に無頓着すぎる。

 自分が疲れ果ててもうボロボロになってしまっているのに、それよりも、何時まで経っても終わらない異常事態に、深刻さを増していく周りの状況ばかりを気にして、自分の事を顧みない。

 実際、あの子一人が頑張らなくても、ヒュペリオンを使うなり、今まで封印したままになっている他の発掘品の空中戦艦を使うなりすれば対処できたはずなのに、あの子は全部一人で抱え込んでしまう。

 それは決して悪い事ではないのだけども、時として、人に頼れない弱さは致命的な弱点になってしまう。

 その事をあの子は理解できているのだろうか?

 多分、判っていない。ううん。本当は判っているのだけども上手く人に頼る事が出来ていない・・・。

 その上、全てを超越する圧倒的な力を持っているから始末に悪い。

 人に頼らず、自分で抱え込んでしまってもあの子は何とかしてしまえる。

 だけど、それでも限度がある。

 今回の件でそれが明らかになったといっても良い。あと少しであの子の限界を超えて、全てが決壊てしまう瀬戸際まで陥っていたのは明らか、それでも、あの子自身がまだ気付いていないかも知れないけど、それでも、私たちが、周りにいる私たちがその危うさに気付けたのは大きい。


「本当に、世話の焼ける子ですね」


 年相応に生きれないのはもう仕方がない。

 本人がそう望んでも周りがそれを許さない。

 既に特別な立場にいる以上、その立場に見合った振る舞いと生き方を求められるから。


「まあ、仕方がないけどね。自分でもまさかこんな事になるなんて夢にも思わなかっただろうし」

「十三歳の少年には、本来はレジェンドクラスの重責は重すぎますから」


 シャクティとヒルデも同意見で、二人と顔を見合わせて思わず苦笑してしまう。

 正直、何時の間にか放っておけなくなっている。

 どちらかといえば手のかかる弟の様な感じかも知れない。

 気が付けば、放っておけなくて何か手助けできないかなんて思っている。

 自分たちは何時からこんなに、お節介になったんだろうと呆れてしまうくらいに、気が付けば何時もあの子の事を気にしている。


 異性として気になるとかそんな感情は、今のところ私たちには全くない。本当にただ手のかかる弟の様に何時の間にか目で追ってしまう。そんな感じだろうか・・・。


「何事もなく終わるのは良い事ですけど、結局、自分一人で終わらせてしまいましたか、このままではまだまだ、当分目を離せそうにありませんね」

「誰かに頼るのが苦手とかとは、また違う様なのが厄介だね」

「ほんの少し、視界を広くすれば色々と見えて来るはずなのに、自分を助けてくれる仲間が沢山いる事にも、自分が多くの人に見守られている事も」


 ううん。助けてくれる仲間がいる事も、多くの人に見守られているのも判っていながら、それでも助けを求められないでいる。そんな気がする。

 だとしたら、どうしたらあの子に人に頼る事を教えられるかな?


「なかなかに難問ね」


 あの子ならばそのうち自分で頼れるようになるかも知れないけど、キッカケも無く頼れないままでい続けるかも知れない。

 どうしたものかと、三人の溜息が揃ってしまう。



 結局、アベルは自分の力を完全に使いこなせる様になったみたいで、立て続けに今度はマリージアでレジェンドクラスの魔物が現れたのを最後に、レジェンドクラスの超越者が誕生する度に起こるらしい、余りにもはた迷惑な異常事態は終焉をむかえ、あの子も無事、何時も通りに戻っていった。

 だけど、未だに自分の危うさには気付かないままで、見ているこっちがハラハラさせられるのに変わりはなくて、しかも当人が全く理解していないのが何とも腹立たしいので、少しからからかってやろうかなんて思っていたりする。

 

 ・・・まあ、あの子の危うさについては、ミランダさんが何も言わずにただ見守っているだけだから、そんなに心配する必要もないのかも知れないけど、この件は、本人以外で全員で一度、真剣に話し合った方が良いかも知れない。


 さて、長い戦いも終わって当人が何をしているかといえば、本当にだらんとして、何もしないで一人でくつろいでる。

 むしろ、溜まった疲れが一気に現れて、何かする気力も出ないのが正しいのかも知れない。

 そんなぐったりしているのなら放っておいてあげなよとか言われそうだけど、私にしては少しからかうくらいだけど、多分、確実にこの子は元気になる。

 そう確信しているから、特に声もかけずにアベルが休んでいる部屋に入っていく。

 本当に気が緩んでいるらしくて、ボトムにシャツだけのラフな格好なのだけど、けだるげにな様子にこれ以上なく合っている。


「本当にお疲れね。一人で無理するからですよ」

「俺もそう思うけど、今回は俺が無理しないとどうにもならない状況だったから」


 別に寝てはいないのは判っていたけど、ひとりごとで小さく呟いただけなのに、すぐに返事が来て少し驚いてしまう。


「本当はもう少し、みんなに頼りたいと思っているんだけどね。今回ばかりはそうはいかなかったから」

「私たちの不満、判っていたのですか」


 何か先制でこっちがやられてしまいそうな気がする。

 それにしても、今回ばかりは無理でも何でも一人でどうにかするしかなかったか・・・。

 確かに、今回の一件はこの子が手にしたレジェンドクラスの圧倒的な力を完全にわがものにしない限りは終わらない、まさに試練に等しいものなのだから、実際には私たちが手を素しても意味はなかったかも知れない。


「判っていたなら、何か一言あってしかるべきですよ?」

「それについては本当にゴメン。自分の事で手一杯で」


 周りに気を使っている余裕なんてなかったというのでしょうか?

 それにしては、家族を巻き込んで色々と画策したりしていましたが?


「まあ良いですけどね。キミは今回だけじゃなく、何時も人に頼ろうとしないでしょう? わざわざ頼るまでもないのもあるんでしょうけど、小さな、簡単な事でもむしろ少しは人に頼った方が良い事もあるのですよ」


 わざわざ人に頼るまでもなく、簡単に解決できることなのだから、さっさと済ませてしまいたいと思うのは当然でも、自分の力だけで解決するのでなくて、誰かに頼って解決してもらった方が、同じ結果でも思わぬ違いを生んだりする事がある。

 そして、その小さな違いが後に大きな変化を生む可能性もある。


「自分一人だけでは、何時も同じ価値観や考えでしか物事に取り組めないですからね。人に頼る事で、自分とは違った価値観や考えをもっと知る努力をした方が良いですよ」


 そうしないと、自分が絶対に正しいんだなんて勘違いしたバカになってしまったりしますからね?


 口に出さずに続けた言葉はどうやらしっかり届いた様でホッとする。

 少し自分らしくない気もするけど、全くこの子は放っておけなくて、ついついいらない世話を焼いてしまう。


「下手に力を持っているからこそ、それに自惚れて周りが見えない様になるのだけは気を付けないといけない。判っているつもりなんだけどね・・・」

「まあ私たちもシッカリとキミを見守らせてもらうから、キミ自身も、その事を忘れずにいればとりあえず問題はないよ」


 バツが悪そうに頭をかいてみせるので、少し茶目っ気を出して気軽に言って見せて、ついでに尻尾をゆらゆらと振って見せる。

 すると、ヤッパリ視線が尻尾の方に移っているし、少しソワソワしている。

 本当に判りやすい。尻尾に触りたくてウズウズしているのがまる判り。


「まあ、この話はここまでにして、そんなに私の尻尾が触りたいですか?」

「えっ? いやっ、そんな事は・・・」


 動揺してる動揺してる。

 尻尾は獣人にとって特別。特に異性の尻尾を不用意に触るような事をしたら、最低の人でなしの烙印を押されて獣人族の中ではもう居場所がなくなる。それくらい特別なのは有名で、異性に尻尾を触らせるのは、家族か生涯を共にする事を誓った伴侶以外ではありえない

 だから、尻尾を触らせて欲しいと願うのは、求婚するのと同じ事。

 それが解っているから、この子はこれまで触りたくて仕方がないのに言い出せないできた。

 気持ちは判る。この事しても尻尾に触りたいから生涯の伴侶になろうなんて言えるハズもないし、他のみんなみたいに触りたいのを我慢していたのだろう。


 と言うか、私の尻尾には私自身も困惑するくらいの人気がある。

 子供の頃からシャクティたちはことあるごとに私の尻尾にじゃれていたし、今では一緒に居る仲間全員が、女の子だけだけども私の尻尾に触れては恍惚の表情をしている。

 いくら同姓でも、その表情は不味いんじゃないかと思うんだけども、いくら注意しても、また尻尾に触れるとすぐに同じ表情になってしまう。


「私は、別にキミなら触っても問題ないと思うけど」

「えっっつ? ホント、でも」


 本当に慌ててる慌ててる。

 だけど、この子になら私の尻尾を触らせても問題ないと思っているのは事実。


「異性の尻尾を触るのが気になるのなら、キミが性別を変えればいいだけだし」


 そう言うと、もの凄く困ったような複雑そうな顔をする。

 本当に予想通りの反応をしてくれる。

 だけど、私の言った事は別にからかい半分の戯言じゃなくて純然たる事実。実際、この子には性別なんてあってない様なモノなのを、当の本人はどこまで解っているだろう?

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