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さて、パーティーも無事に終わり、メリル対策緊急家族会議も滞りなく閉幕した。
因みに、家族会議の内容は個人的な事なので控えさせてもらう。
ただ、一言だけ言わせてもらうのなら、あれはヤバい。俺もああは成らないように少し気を付けた方が良いかも知れない・・・。
とりあえず骨休めと言うか、戦いの合間の平和? な一時が終わり、既に次の戦いのカウントダウンが始まっている。
新たに魔域にレジェンドクラスの魔物が現れる前兆が見られたのは何とベルゼリア。
流石に、俺が戻って来たからだとは思いたくない。
今まで出現していなかったのだから、残り少ない選択肢の中から偶然そうなっただけだと信じたい。
「とりあえず、今までの傾向から判断して、現れるのは二・三日後か」
出来れば、それまでに繊細でありながら力任せな程に時として力強く。そんな力の使い方の感覚を掴んでおきたいんだが、勿論、それが正解かどうかは判らない。
だけど、なんとなく漠然とだけどもそれが正しいような不思議な確信がある。
「問題はどんな魔物が現れるかよね。これもこれまでの傾向から、出現する魔域の特性に合った魔物が現れるはずだけど」
どうやら未だにGの衝撃が後を引いている様子。
だけど心配はない。このベルゼリアの魔域も森林地帯だけども、昆虫系の魔物は現れない。植物系の魔物がそれなりに出現するのだけども、そう言えば、植物系の魔物で高位のモノは余り知らないし、今回も植物系のレジェンドクラスの魔物がいきなり現れる可能性はまずないだろう。
「可能性としてはバジリクス系などの上位種系などかな」
俺自身が初めて遭遇したSクラスの魔物であるが、この魔域は石化などの状態異常系の特殊能力を有した上級種の魔物が出現する。
コカトリス系などもそうだし、植物系の即死毒などを持つ魔物も結構多い。
その意味ではこの魔域は相当難易度の高い、危険な戦場であるのは間違いないが、ベルゼリアはキチンと対抗策を確立して魔物の脅威に対抗し続けている。
その意味でも、ベルゼリアの騎士団や竜騎士団の実力はヒューマンの国の中では最上位に位置すると断言していいだろう。
「バジリクス系の上位種となると、アース・ドラゴン系の魔物かしら? また、厄介な事になりそうな予感が」
アース・ドラゴンとはその名の通り、飛空能力を持たない大地を駆ける竜種の事で、バジリクスやドラグニルなどはその下等種と言われている。
因みに何が厄介かといえば、アース・ドラゴン系の魔物は、空を飛ばない代わりに地上戦に特化しただけでなく、石化や即死などの強力な状態異常を繰り出してくる事だ。
記録によると、VXランクのスレイブ・ドラゴンなどは周囲五十キロ近くに及ぶ空間にある全ての物を灰燼に化す力を有しているらしい。
つまり、そのドラゴンのテリトリーに入ってしまったら、何も出来ずに消されてしまって終わりの可能性もある訳だ。
故に、もしも万が一にもそんなのが出てきたら、問答無用で相手に何もする猶予を与える事なく一撃で倒してしまうしかない。
それはもう何時もの事だろと言われそうだが、本気で周囲五十キロに入ってしまったら、俺の防御障壁も何も一切意味をなさずに、一瞬で殺されてしまう可能性もあるのだから、駆け引きがとうとか、戦略がどうとかなんてレベルの相手じゃない。
「まあ、アース・ドラゴン系の魔物が出て来ると決まった訳じゃないけどね」
そうは言って確実に出て来るか、もしくは違っても、より厄介な魔物だろうなと確信しているけど・・・。
「ひょっとしたら、ワーム系の上位種とか」
「ああ、そっちの可能性もあるわね」
ワームは全長二十メートルを超えるミミズとヘビの中間といった姿の魔物で、地中を自由に移動する下等劣竜種の亜種で、これもアース・ドラゴン系の下等種のひとつとされている。
そう言えば、過去にここの魔域でワーム系の上位種であるアース・ドラゴンが出た記録があった気がする。
「確かタイラント・デスだったか」
「記録では五万年前、この国がまだ誕生する前にこの魔域から現れているわね」
何とか魔物の名前を思い出すと、ミランダがすかさず補足説明する。
可能性としてはとうに考えていたようだ。
「ワーム系って、そう言えば今まであたった事がなかったな」
「外見的にちょっとアウトって人も多いけど、食べれば美味しいし。素材も色々活用法が広い当たりの魔物よ」
「ミミズって考えてしまうとちょっとて思いますけど、実際は竜種、地中に巣をつくるヘビみたいなものだと考えれば全然問題ないですよね」
日本人はヘビを食べるのダメって結構いた気もすめけど、その辺りはなかなかタフなのかサナが結構興味津々の様子。
因みに、今までワーム系の魔物を討伐した事がなかったのは、別に避けていたからじゃなくて、地中を活動するワーム系の魔物は見つけ出すのがなかなか困難なのだ。
俺としてはそれほど興味もなかったし、わざわざ時間をかけて苦労してまで見付け出して、討伐する程の事もいと、これまで相手にして来なかった系統の魔物だ。
それだけに何か今回、初対面とあいなりそうな気がひたすらの様にするのは気のせいだろうか?
「まあ、実際に何が出て来るかはまだ分からないけどね」
さっきと全く同じような事を言いながら、これまた同じように、もう出て来るのは確定だろうと思う。
タイラント・デスはアース・ドラゴン系の亜種で、VXランクの魔物。全長は五キロを超え、胴の太さも百メートルを超える。全部で十六の目を持ち、その一つ一つが異なる邪眼だという。
地中を自在に動き回るだけでなく、地上でも悠々とヘビの様にその身をくねらせて自在に駆け抜ける。、
また、ブレスには強力な腐食作用もあって、スレスレで避けても腐食毒にやられてしまう危険性もあったりする。
当然ながら強力な魔法攻撃も絶え間なく繰り広げて来るその戦闘力は常軌を逸しているの一言に尽きる。
そんなのがこれから出て来るのだとしたら、やるべき事は唯ひとつ、出てきた瞬間に何もさせる時間もあたえずに瞬殺するのみ。
これもお決まりのパターンだけども、レジェンドクラスの魔物なんて常軌を逸した怪物、少しでも目を話したらその間にどれだけの破壊と殺戮を振り撒いているか知れたものじゃない。
現れた先の魔域の中心部からでも、防衛都市に直接攻撃可能とか非常識な射程をしているので、迂闊に攻撃を許すと数十万の命が一瞬で消し飛ぶ可能性すらある。
そんな訳で先制の一撃で瞬殺。それが最も被害の出る危険性も少なく確実な方法だ。
そんな事を考えている内にもう、魔域の中心部に現れた漆黒の球体は砕け散ろうとしている。
これが砕けると同時にレジェンドクラスの魔物が現れる。
問題は、いったい何匹が現れるかだ。
これまでは多くても四匹までだった。
先制攻撃の準備を二匹分しておくことで、まず二匹を何もさせずに瞬殺し、そまぁと敵の注意を俺に集中させつつ、一匹ずつ確実に倒していく事で、どうにか周辺に、正確には防衛都市に攻撃を向けさせずに、人的被害を出さずに倒す事が出来て来たけれども、それもそろそろ厳しくなってきている。
問題は、今回何が出て来るかよりも、今回は何匹が現れるかの方だ。
もっとも、それも相手がVXランクまでならの話だけど・・・。
万が一にもXYランクの魔物が出てきたりしたら、それが複数でなくてもそもそも勝てるかどうか判らないし、仮に勝てたとしても、複数を相手にして被害を全く出さないのは不可能だ。
本当にもしもXYランクの魔物が複数引く出てきたりしたら、最終的には倒せたとしてもこの国は壊滅してしまっているだろう。
そこまではいかなくても、VXランクまでの魔物でも五匹以上が出て来たとしたら、倒しきる事は可能だけども、周りに被害を出さずにと言うのは無理だ。
確実に防衛都市の一つや二つ、百万を超える犠牲者を出す事になってしまう。
しかもここは俺の生まれ故郷でもある国だ。修行三昧でほとんど友好関係にある人も居ない子供時代だったけれども、家族を始め今は親しい関係になった人たちもそれなりに居る。
大半が国の重鎮だったりするのもどうかと思うけど・・・。
だから、俺の個人的な願いと言うよりも願望だけども、出来れば絶対に被害は出したくない。
何時魔域の中心部の漆黒の球体が砕け散って、レジェンドクラスの魔物が現れるか判らない状況の中で、先制の攻撃の準備はもう終わっている。
VXランクの魔物ならば確実に倒せる魔法と闘気砲を三匹分。
今までは二匹分、計四発までしか自然にストックしておけなかったのが、今回は三匹分、六発分まで事前に展開出来ている。
これが、繊細なコントロールをしながら時として力任せな程に、むしろ大雑把にとのアドバイスの成果だとしたら、確かに今までよりも力を使いこなせる様になっている気がする。
どちらにしても、今は目前の戦いに集中するだけだ。
これまで幾度となく繰り返してきて、少しは慣れたといっても、ほんの少しの油断やミスが即座に死に繋がる死闘なのは間違いない。
「来たかっ!!」
先制攻撃の準備は整い、魔力の消費も魔晶石で回復済み、万全の体制が整ったところで空間が悲鳴を上げて漆黒の球体が砕け散る。
瞬間、巨大な六つの影が現れる。
ここに来て当然の様に、いきなり六匹。しかも予想通りアース・ドラゴン系の魔物が勢ぞろいと来た。
しかもご丁寧に、出るんじゃないかと名前の出たスレイブ・ドラゴンにタイラント・デスの姿もある。
とりあえず、その二匹には真っ先に消えてもらう。
後に残しておくにはその二匹の特殊能力は厄介すぎる。
いや、スレイブ・ドラゴンは残しておけば、周りにいる残りの五匹もまとめて灰燼に帰してくれる可能性もあるけど、流石に試してみようとは思わない。それに、倒した魔物の死体だけ、貴重な素材だけ消し去ってくれる可能性もあるから、やっぱり、真っ先に死んでもらうに限る。
それはタイラント・デスの邪眼も同様だ。効力を発揮される前に死んでもらうに限る。
確実に攻撃を食らわせ、仕留める為に、百キロ近く離れている距離を一気に縮めながら、三匹の標的に対して必殺の砲火を放つ。
ここで避けられたり外したりしたら、レジェンドクラスの魔物を確実に仕留める為の、絶対的な力の奔流が魔域の中心部で荒れ狂い、周囲千キロは何一つ残らないクレーターに変わるだろう。更にその灰燼で標的はロスト。しかも六匹とも無傷で、最悪、集中砲火を浴びて防御障壁を破られて死ぬかもしれないし、殺戮と破壊を撒き散らす為に防衛都市や王都にでも向かわれたら、全て倒しきるまでにどれだけの被害が出るか判らない。
正直、一々攻撃するだけでも信じられないほどのリスクが付きまとうのはどうかと思う。
ゲームだと、メテオクラスの広域殲滅魔法を、見方も居る場所に落としても、何故か敵にだけしかダメージを与えなかったりとか、色々とありえないご都合主義があったりするのだけど、現゛つではそんなモノ期待するだけ無駄だ。
標的を追尾するホーミング機能を持たせても、確実に当てられる訳ではないのが辛いのだけども、とりあえず、今回は一発も外さずに全て命中、標的の三匹を仕留めた。
これで残り三匹。脅威としては半減したはずだけども、それがなにか救いになるのか甚だ疑問だ。
少なくても、少しでも気を抜いたら次の瞬間には死んでいるのは間違いない。
確かに前回までよりは、上手く力を使えている気はするけれども、だからと言って、俺が完全に力を使いこなせるようになったのかは判らないし、そうだとしても、今回でこの異常事態が終わる保証もない。
俺の命を賭けた戦いはまだまだ続くと思っていた方が良いだろう。




