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「これは一体・・・・・・」


 目の前に広がる光景に、既に魂が抜け落ちた様子のメリルが呆然呟く。

 その気持ちは良く判る。俺自身何でこの程度の事でこんな大事になる金と思わなくもないのだけど、どうしても大事になってしまうのだ。

 むしろ、今回はこれでもなんとか小さくまとめた方だ。本当ならもっと大規模な、それこそこんなレベルじゃない大事になっていてもおかしくはなかった。


 さて、何が大事になっているかといえば、当然、家族に、メリルたちにレジェンドクラスの至上の食材を使った、究極の料理を食べさせる事だ。

 そのために色々と準備を必要とし、更に、多くの人を招かないといけない。

 本当に面倒臭い事この上ないし、メリルたちにしてみたら、まさかこんな大事になるなんて夢にも思わなかっただろう。

 何が大事になっているかといえば、現在、各国の王まで招いたパーティーを開催中。しかも、当然ながら主賓は我がレイベスト家。

 一国の一貴族でしかないにも拘らず。このベルゼリアの王や王女らだけでなく、俺と繋がりの深いマリージアのレイルなど各国から王族や皇族が集まっている。

 それに、宰相や竜騎士団長などなど国の中枢を担う大貴族たちも目白押し。

 今この場で万が一にもテロが起きたなら、一体いくつの国が機能不全に陥って、どれだけの被害が出る事になるか想像も付かない。まさに超絶ビックが終結した状況。

 と言っても、今回はヒューマンの国限定だから、まだ規模は小さい方だ。

 それでも参加者は実に五百人を超えるんだけど・・・。

 その中には、実はエクズシスの皇帝一行と共に、護衛名目でルークたちも来ているし、ザッシュとサナの家族も来ていたりする。

 ついでに、この規模のパーティーをするには現レイベリス邸も手狭なので、王都の最高旧ホテルを貸し切りにしてパーティー会場兼出席者の宿泊場にしている。

 それも合わせて、パーティーを開くだけで実に千億リーゼ以上が飛んで行っているのだけども、まあこれも必要経費だし、払うのは俺だから問題ないのだけども、家族が準備段階で飛んでいく費用に顔面蒼白になっていたのは確か。


「アベル、私はそろそろ気を失いそうなんだが・・・」

「ここで気を失っても何の解決にもならないよ。諦めて気楽に楽しむ事だね」


 まさかの事態に全身真っ青の父に気楽に言ってみせる。

 実際、ここで父が倒れたところで何にもならない。いや、下手をしたらパーティーが一時中止となって、ここに集まっているメンバーの不興を買う恐れすらある。

 その程度は説明されなくても判っている父が更に青く、むしろもう、完全に蒼白になっているけど気にしない。

 まさか、自分たちもレジェンドクラスの魔物を食べたいという単なるワガママを叶える為だけに、こんな層々たるメンバーを、各国の王族まで巻き込む事になるなんて確かに思いもしなかったのだろう。

 だけど、それは認識が甘すぎる。残念だけど、家族だからってそうそう気楽に食べさせたりしたら、どうなるか判ったモノじゃない超絶危険物なのだ。


「まあ、店で食べようとしたら一皿、数億は確実にする至高の美味をこれからは何時でも味わえるんだから、このくらいはガマンしてもらわないと」

「一皿で数億?」


 引き攣った顔でまさか、冗談だろうと返して来るけど、イヤイヤ、本当に甘いぞベルン。レジェンドクラスの魔物。その希少性と価値について全く理解していないな。

 

「そのくらいは当然するさ。その上で食べられるのなら客が殺到するのも確定。本当なら、いくら金を積んでも食べられる物じゃないし」


 これまでに既に百匹以上倒してきているけれども、その肉にしても全てを食料として確保したり流通させたりする訳にもいかない。当然だけどそれは錬金術の貴重な素材であり。魔工学の粋を駆使して造り上げる最高の魔道具などに使われ、今はそれによって、これまではどうしても造れずにいた様々な魔道具の開発が一気に進んでいたりもする。

 そんな訳で、装機竜や装機人、装機竜人の開発に命を賭けているメリルには、素材としてもかなりの量が欲しいとせっつかれているのだけども、自分が要求している量を手に入れようとしたら、本当なら一体どれだけの額が必要になるか判っているのだろうか?

 これは本当に、シャレや冗談じゃなくて国家予算並みの金額が必要なのを多分、本人は気付いていない。

 そんな物をホイホイと簡単に渡したらどうなるか少しは考えて欲しいのだけど・・・。


「そっそうなんだ、ねえアベル・・・。ひょっとしてなんだけど、私がしたお願いて実はムチャだったりする?」

「ムチャどころか、普通にありえないね。もしも俺が気軽に応えてたりしたら、今頃メリルはこの世に居なかったよ」


 家族に手を出すのは、確実に俺への敵対行動ではあるけど、それでもメリルを亡き者にしてレジェンドクラスの素材を手に入れようとする者は後を断たなかっただろう。

 と言うかコッチの方がマッドな研究者とか、研究開発のためなら手段を択ばない連中が多いからかなりめんどくさい。


「素材として要求してきた量がどれくらいの価値があるか考えてなかったろ? ぶっちゃけあれだけの量となると小国の国家予算全部つぎ込む額になるよ」


 連絡してきたと思ったら、イキナリよこせと言われた量を聞いた時には、正気かと耳を疑ったものだ。

 合わせて千トン以上。巨大なレジェンドクラスの魔物丸々三匹分もの素材をよこせなどとほざいて来たのだから本気でありえない。


「ええっと、つまり数兆リーゼ以上とか・・・?」

「場合によっては十兆以上したりも・・・?」


 メリルやベルンが恐る恐る聞いて切るのに無言で頷いておく。むしろそれくらいの値で済むだけましな方だ。

 俺が不甲斐ない所為でもあるんだけども、今回は既に百匹以上討伐されて、今までになく大量の素材が確保できているので、多少なりとも希少性による価値の増大も減ってはいるんだけども、それでもSクラスのとは比較にならない価値があるのは確か。

 ある程度は比較的手に入れやすいはずのSクラスの魔物ですら、一匹あたりの価値は億の単位になるのだから、レジェンドクラスの魔物価値が兆の単位になるのはむしろ当然なんだろうけれども、正直、どうなんだろうなと思うほどの値段なのは間違いない。


「そんな価値のあるものを手に入れる為の窓口になるかも知れないと、これから先はこれまでとは比較にならない数の人が集まって来るから、そちらの方も気を付けて」


 これについては本気で気を付けてもラはないといけない。

 俺がレジェンドクラスになった事も含めて、これから家族を通じて取り入ろうと近付いて来る者が後を断たないだろう。

 その辺りの対策は国の方でも万全を期して、メリルたちの知らない所でガッチリとガードしているのは確実なのだけど。本人たちもシッカリと気を引き締めてもラはないと、何時何処で、どうしようもないバカに絡まれるか判らない。


「それってつまり・・・?」

「俺に取り入ろうって考える連中も増えるだろうし、その意味で、家族は一番手っ取り早い攻略口なんだよ」

「ああ、それはそうだよな・・・」


 ベルンがこれから先の苦労を思い浮かべたかげっそりするけど、多分、想像してる程度じゃすまないから。

 正直、これについては俺の家族として生まれた不運を呪ってくれとしか言いようがない。

 既にヒューマンの国の中では有数の大国であるこのベルゼリアの国家予算を遥かに超える資産を個人で有しているし、ヒュペリオンなどの発掘品の空中戦艦を数多く有しているのも、現在の物とは比較にならないほど強力な装機竜人である、グングニールも未だに相当数を保有している事も、レジェンドクラスの魔物などの希少な素材を山のように確保しているのも少し調べればわかる事。

 しかも、レジェンドクラスの超越者の絶対的な力すらも持っている。

 正直、今回のレジェンドクラスの魔物の出現が起きる前に叩き潰したヒューマン至上主義のバカども。そのそもそもの元凶であり、同じ地球からの転生者でもあるキール。あのバカみたいにヒューマンの大陸を征服しようと思ったのなら、それこそ一瞬で可能だ。

 流石に世界征服とか統一とかは無理だと思うけど・・・。いや、それすらも或いは可能かもしれない。

 絶対にやらないけどな!!!。


 とりあえず言ってしまえば、要するに俺はこの世界においてジョーカーに近い存在なのだ。

 そんな俺に近付こうとする人間は後を断たないし、家族を伝手にしようとする人間はこれから更に増え続けるのも確定。

 その上、両親よりもむしろベルンとメリルが標的にされるのも確実だ。

 何故かと言えば一番手っ取り早い方法が、縁組してしまうのが一番容易いから。


「・・・そう言えばこの頃、婚約の話がまた一気に増えた気が」

「断りきれない相手からもいくつも来て、困ってたんだけどアレって・・・」


 ベルンは特に俺の生家であるレイベスト家の次期当主だ。その第何夫人であれ、妻となればそれだけで俺との繋がりを確実に持てるのは確定。そう考えて婚姻話を持ち込む家が果たしてどれだけある事か・・・。

 下手をするとベルンは数十人の奥さんを娶らないといけなくなる。

 それも目的は完全に俺との接点を寄るための政略結婚。

 しかも、ベルン自身が既にA+ランクの実力を誇る竜騎士団の実力者で、数年後にはSクラスへのランクアップも確実視されるこの国の出世頭で、それだけの数の奥さんを持ってもおかしくなかったりするから始末に悪い。

 実際は俺目当ての政略結婚でも、傍からはベルンが実力でそれだけの女性を虜にしたようにも見える訳だ。

 対して、メリルの方はまだ大丈夫かと言えば、

こちらの方も激しい駆け引きが既に行われいてる事だろう。

 メリルはメリルで、既に独立して新しく当主となる事が確定しているし、つまりは一門として新しい家が出来るのはこれまた、俺との縁を望む者にとっては都合が良い。

 ついでに、メリルが俺から色々と取り寄せて、好き勝手に研究をしているのも周知の事実。

 その取り寄せている研究材料やら素材やらに、いったいどれほどの価値があるか?

 そう考えればメリルとの縁談を望む者が後を断たないのも当然だろう。


「そう言う事。まあ、メリルの方は自業自得でもあるんだけど」

「どういう意味よ!!」

「俺から巻き上げた素材や研究材料の総額。これまでで既にいくらになってるか判ってる?」


 そう尋ねれば脂汗を流して視線を逸らす。

 俺の責任でもあるのだけども、メリルにせがまれるままに送ったアレやコレ、その総額は既に数千億リーゼに達している。

 メリルは俺が魔域の活性化などで様々な素材を大量に手に入れいるのを知ると、それこそ見境なしに寄越せと要求して、国の研究施設でも不能なレベルの予算を必要とする研究・開発を一人でしてきていたのだ。


「俺も悪かったけど、あれだけムチャな研究をやってるのがまさか知られずにいられると思う? それこそ公然の秘密だよ」


 ぶっちゃけ、錬金術師や魔工学師の中でも、特に研究狂と呼ばれる者たちからすれば、一人だけ好きな様に研究を続けるメリルは許されざる存在なのだ。


「むしろ、今までマッドな剣強者たちに抹殺されなかっただけでも奇跡に近いだろ」

「それは・・・・・・」


 ベルンが呆れた様にメリルを見ると、またもや視線を逸らす。

 この様子から見ると、本気で抹殺されそうになったことがあるのかも知れない。

 

「抹殺はされなくても、婚姻などの関係を持った上で、事実上研究環境を乗っ取ろうと画策する研究者なんかも居るだろうし、本当に少しは考えないとどうなるか判らないよ」


 うん。実際にこうして考えてみると、メリルに関しては俺の家族でご愁傷さまとは言えないな。

 俺が家族である利点を最大限活用して、自分の欲望のままに生きているし・・・。

 て言うか、今まで気にも留めずに気楽に送っていた俺もどうかと思うが、レジェンドクラスの魔物を入れないでも既に数千億リーゼ越えっていったい・・・・・・?

 まあ、メリルに個人的に調べてみればと貸し出してるグングニールとか、発掘した量産型の空中戦艦から見つかった資材とかも含めてだからだけども、一度メリルの研究施設に行って確認した方が良いかも知れない。

 一体どんな事になっているのか今更ながらかなり不安になってきた。


「とりあえず、俺が言うのもなんだけども、これからの事を考えるのなら、メリルみたいな後先考えない行動は控えた方が良いな」

「肝に銘じておくよ。父上たちともシッカリと話し合った方が良いな」


 何か、話の方向性が変わってしまった気がするのは気のせいだろうか?

 とりあえず、パーティーが無事に終わった後で、メリルの暴走を止める為の緊急家族会議か開かれる事になった。

 ・・・いや、だからどうして、そんな話になった?



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