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「ようやく帰って来たわね。ちょっとアベル。まず第一に私たちの所に送って来ない何とどういう事よ?!」

  

 予想はしていたが、帰るなり姉のメリルに詰め寄られての詰問と言うよりも、絶叫。魂の叫びを聞く羽目になった。


「落ち着いて、理由があったんだから仕方がないだろ」

「理由ですって、どんな理由があるっていうのよ?!! 美味しい物を手に入れたらまず真っ先に送りなさいって言ったでしょう!!!」


 それについてはその通りだが、モノには限度があるのを理解して欲しい。それよりもメリルの暴走をはやく止めて欲しいのだけども、両親も兄も同じ思いなのか、一向に止めに入る気配がないのはどうしたものか・・・。


「いや、普通に家族だからって真っ先に送ったりしたら、この家のベルゼリア内での立場がかなり危うくなりかねない事くらい気付こうよ」


 本気でこの家族は、そろいもそろって全員なにも気づいていなかったのか?

 何か本気で頭が痛くなって来たんだけど。よもや今まで貴族社会のしきたりやら柵なんかと全く無縁に等しい取るに足らない下級貴族だったからって、その辺りの配慮とか色々と必要な事を一切理解してないとか言い出さないよな?


「立場って何? どういう事よ?」


 どうもこのメリルの反応を見ると正しくその通りらしい。メリルだけじゃない。家族揃ってポカンとしているのは本気でどうしたものか・・・。


「まさかとは思ったけど本当に・・・。ヤバイ、頭が痛くなって来た」

「何1人で訳のわからない事言ってるのよ。ちゃんと説明しなさいよ」


 説明するまでもないだろと言い返しても無駄だと判り切っているので、俺は深い溜息を付いて一から事情を家族に説明する事にした。 

 それは良いのだけども、他のメンバーの憐れむ視線が結構きついんだけど・・・。

 宮中や貴族社会に疎いはずのメリアたちですらキッチリ理解してるし、王族としてはバカを通していたのでその辺りの常識に欠けるはずのザッシュですら、何一つ自分たちの置かれた状況を理解してない俺の家族に呆れている。

 いや本当に、俺の家族ってこんなに空気読めなかったっけ?

 食欲に負けて暴走してしまっただけだと思いたいけど、それはそれで、食欲が絡むと周りが見えなくなるタイプの危険性がある。

 これは本当に、徹底して家族に自分たちの立場とか置かれてる状況とかを説明して、理解してもらう必要がありそうだ。

 何かひたすら根気のいる。気の長い作業になりそうな気がするのは気のせいだろうか?



「そんな訳で、いくら家族だからって気軽に送る訳にはいかなかったんだよ」


 長い。三時間を超える説明を経て、ようやく俺は話を締めくくった。

 それは良いのだけども、家族四人。誰一人反応を示さないのに凄く不安を覚えるのだけど・・・。

 まさかこれだけ説明して理解していないとかないよな?


「黙ってないで何か言ってくれ。まさか説明を聞いてなかったとか、理解できなかったとか言わないよな?」

「いや聞いていたし、理解もしたが、まさかそんな事になっているとは思いもしなかったのでな・・・」


 理解はできても実感がイマイチ湧かないとの事。

 気持ちは判る。判るけれどもそれはチョット認識が甘い。

 レジェンドクラスの魔物の素材ともなれば、例えどんな権力や富があったとしても、決して手に入れられないレベルの代物だ。

 手に入れられるのは数百年に一度、それ以外ではどれだけ求めても実物が無いのが実情。

 そんな中で数百年に一度の手に入れられるチャンスに運良く遭遇したのだ。その争奪戦は実際に目の当たりにした俺たちが本気で引くレベルで壮絶な様相を呈する事になる。

 まあ、今回は何やかんやで、ぶっちゃけ俺の責任なんだけども、これまでになく大量に確保できているとはいえ量に限りがあるのは確か、そんな中で少しでも多く手に入れようと躍起になる各国に高位貴族。それに少しでも利益を得ようと近付いてくる商人たちと、レジェンドクラスの魔物の出現が始まって以降、この非常事態に対抗するために最前線にいる一方で、そんな後を断たない押し寄せる相手との交渉にもひたすら費やされてきたのだ。

 中には当然、あのGの素材の様にバカな事を言ってきたり、要求してくるバカどももいたりして、頼むから勘弁してくれと叫びたくなる程に厄介だった。


「こっちとしてはレジェンドクラスの魔物への対応に集中したいのに、状況を理解しないでジャマして来るのも居て、アレはシャレになってなかったよ」


 世界が亡ぶ危機とまではいかなくても、国の一つや二つ、数億を超える人の命が簡単に消えてしまうかも知れない状況なのに、危機感の薄い連中が押し寄せてきてジャマをするのだから何というか・・・。


「まあ、レジェンドクラスの魔物なんて、魔域の活性化よりもはるかに現実身が薄いと言うか、関わりがないから実感が湧かないのもあるんでしょうけどね」

「それに無限に魔物が湧き続ける魔域の活性化と違って、精々が1・2匹程度しか現れないレジェンドクラスの魔物ならそれ程、脅威にならないだろうと楽観視しているのかも知れません」


 嘆かわしいとばかりにぼやいたミランダに続いて、まさかといった感じでアレッサが口にした可能性に、ありえるかもと思わず納得してしまった。

 

「つまり、現れた瞬間にアベルが瞬殺し続けてきたものだから、被害も全く出てないし脅威にならないとか勝手に勘違いしているバカが居るという事ですね」


 メリアたちがもの凄くありえないのに、ありそうな可能性に慄いている。

 その反応は当然だろ。常識的に考えたらレジェンドクラスの魔物を軽んじるなんてありえない。

 そんな気の緩みが万が一にも社会全体に広がったりしたなら、俺がどれだけ気を引き締めて事に当たっても無駄になってしまう。それこそ、些細なキッカケから数十億の人命が失われる惨事にすらなりかねない。


「いや、それは流石にないだろ。ないよな?」

「普通に考えたらありえないけど、正直、ないとも言い切れないわね・・・」


 何かミランダが深刻そうに考え込む。


「そもそも今回アベルがレジェンドクラスなったの事態、ヒューマンとして何万年ぶりの事なのかしら?」


 そう聞かれると、そもそも、俺の前にヒューマンでレジェンドクラスになった人物がいたのかも含めて何も知らない。


「いや、少なくてもこの二万年は現れた記憶がないのは知ってるけど」


 少なくとも、他種族との国交、交流が断たれてからのこの二万年間、ヒューマンからは一度もレジェンドクラスの至る者は現れず。度重なる危機を関係が断絶したはずの他種族のレジェンドクラスによって救われてきた歴史背景から、そうとう長い間ヒューマンからレジェンドクラスに至った者がいないのは事実だと判るけれども、それが正確に何万年かまでは知らない。


「そんな何万年も前の出来事を、ずっと覚えていられるモノでしょうか? 魔域の開放の様なそれによって実際に数え切れない命が失われた悲劇でもない限り」

「それによって多くの命が失われかねないのは同じでも、実際に惨劇が起きたそうでないかで人々の記憶も変わると?」


 サナとザッシュが何か言い合っているけど、確かに、実際に悲劇が起きたのならば深く記憶に刻まれるだろうけど、長くレジェンドクラスの魔物によって惨劇が起きた事はない。

 この何万年と、ずっとレジェンドクラスの長えちしゃによって現れると同時に討伐され続けてきたからだ。

 俺自身も実感している事だけども、命の危険性では魔域の活性化よりもはるかに高く、死と隣り合わせではあるけれども、数億から数十億をはるかに超える魔物をただひたすら殲滅し続けるよりは、精々多くても数匹のレジェンドクラスの魔物を倒す方が容易いとは言わないまでも、被害は抑えやすい。

 正直、数え切れない程の魔物を残らず全て一人で殲滅しきるのは流石に無理だ。撃ち漏らしは当然出るし、どうしても期間が長期化する魔域の活性化に対抗するために多くの人員を集めて挑む為、どうしても被害、犠牲をなくすことが出来なくなるからこそ、魔域の活性化は人類の最大の脅威として認識され続けている。

 それに対して、レジェンドクラスが一人で相対して、短期間で被害も出さずに解決し続けてきた、レジェンドクラスの魔物の襲撃は、やがて脅威として認識されなくなってきてしまったのではないだろうか?


「なに、また思いもしなかった危機的状況が出て来た気もするけど、それはひとまず置いておこうか・・・」


 多分、この危機意識の欠落も、ヒューマンだけの超絶危険な状況なんだろうけど、だとしても、いきなりレジェンドクラスの魔物の脅威への警戒を持てと言ってもすぐにどうこう出来る訳がない。


「とりあえずは、今回帰ってきた目的を果たそうか。メリル。ちゃんとレジェンドクラスの魔物の素材を使った最高の料理を味合わせるけど、同時に覚悟しておくように」


 本当にご愁傷さまとしか言いようがない。何がって、俺の家族だった事だ。

 これから本当に想像も付かない事態に巻き込まれていくのが確定の俺の家族に、とりあえず心の中で謝っておく。



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